5.薬屋
「肉食ってかねーかー、油がのってて美味いぞ~」
「こっちのパンもおススメですよ!」
「この新鮮な魚、是非とも買ってってくださいよ奥さん」
「採れたての野菜、シャキシャキで美味しいっすよ~」
オレは今、現実世界の商店街に来ている。
今の服装は地味でシンプルなもので、誰が何処から見ても平民に見える事だろう。
オレが商店街に来ているのは、ポーションや魔道具を買うためだ。
昨日の練習でポーションを使い切ってしまったので、その調達に来た。
オレは『薬草商店アンドレア』と書かれた薬屋に入る。
オレはこの店の常連と呼ばれてもおかしくない程には来ている。
この店のポーションは他店と比べると少し値は張るが、その分質もかなりの物だ。
その腕前は冒険者ギルドや騎士団からも評価されていると聞く。
扉を押して店に入る。
カランカラン。
「いらっしゃい、ウィル」
重そうな箱を持ち、笑顔で声をかけてきた炎のような赤い髪をした少女。
彼女はマリア。この店の看板娘である。
祖母のアンドレアさんと二人で経営しており、愛嬌の良さからか冒険者の客も多い。
オレと同年代で、学院に入学するためにここに越してきたらしい。
因みに、マリアが入学する学院はオレも入学する学院だ。
「久しぶりだなマリア。早速だが注文を頼む」
「何を注文するの?」
「治癒のポーションの小、中、大をそれぞれ二十個ずつ頼む」
「ちょっと待ってて、奥からとってくるから」
マリアが店の奥に入っていく。
オレはその間、棚にある薬を見ていく。
べへモスの肝臓、クラントの実、ゴルム茸、その他色々。
この店はお世辞にも大きな店とは言えないが、マイナーな素材なども置いているので隠れた名店とされている。
冒険者に常連がいるのはこんな必要性の感じられない素材も置いているからなのかもしれない。
「お待たせ、一応確認したけどウィルも確認しといてよね」
マリアは大きな箱を持ってきて、ドンッ!と机の上に置く。
オレは「お疲れ」とだけ言って確認を始めた。
箱の中には、緑色の液体の入った瓶が大・中・小と並べられている。
緑色だがとても透き通っていて、質の良さがうかがえる。
オレが確認をしていると、緑色のポーションの中に一つだけ黄色いポーションが混じっていた。
「これは......麻痺耐性ポーションか?」
オレは麻痺耐性ポーションを箱から取り出し、机に置く。
「マリア、違うポーションが入ってたぞ」
「ああ、麻痺耐性ポーションでしょ?サービスであげるよ。【調合】が上達して昨日やッと麻痺耐性ポーションが作れるようになったんだけど、店に置くクオリティーでもないけど捨てるのももったいないから」
「それなら売ればいいだろ。そもそも麻痺耐性ポーションを作れる自体多いわけではないんだ。このクオリティーなら子供のお小遣い程度の額にはなるだろう?」
「まぁそうなんだけどさ、初めて作ったポーションだから感想も欲しくて......」
「職人の性という奴か?」
マリアが少し笑って「たぶんね」と答える。
自分の作ったものが活躍している所を見たいという気持ちは分からなくもない。
麻痺耐性ポーションは丁度買おうか考えていたところだ。
少し値が張るのでやめようと思っていたがタダならありがたく貰おう。
「ならお言葉に甘えて貰うぞ」
「うん、いいよ」
オレは持っていた麻痺耐性ポーションを【インベントリ】に収納する。
この世界には【アイテムボックス】という【インベントリ】に似たスキルがあるので、人前で発動させても特に問題ない。
「合計銀貨五枚ね」
オレはマリアに懐から取り出した銀貨五枚を渡す。
マイアは「まいどあり」と言って、懐に銀貨をしまう。
「そうだウィル」
「なんだ?」
「明日って暇?」
「......特に急ぎの用事はないな」
「なら明日、私に魔法教えてくれない?」
「何故?」
マリアが両手を合わせて少し丁寧に頼み込んでくる。
オレは、マリアの練習に何度か付き合ったことがある。
マリアは筋が良いとは言えず、少しだけ中級魔法を使える程度だ。
あの学院の成績と比較するとマリアは下の中くらい。
一般的にみると平均くらいなのだが、そこはあの学院だから仕方のない事だ。
「魔法の種類を増やしておきたいんだよ......」
マリアが追加で理由を述べる。
魔法を教えるくらい誰でもできそうな気もするが、麻痺耐性ポーションの恩もある。
あまり違う属性の人に指導をお願いするのはオススメしないのだが、そんなこと言って諦めてくれるような性格ではないだろう。
「......はぁ、わかったよ」
オレはため息を吐きながら了承する。
「ありがとう!それじゃあ、明日の十一時に商店街近くの噴水前で」
「わかった」
オレは頷き店を出る。
ついでに、店の向かい側にある店長おススメのパンを何個か買ってから帰路についた。
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