冒険者ギルドのマスターは個性的です。
久しぶりの更新出来ました。私は少しずつ書いているので結構時間が掛かります。御了承下さい。
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無事にレクトイの街に戻ってこれたリンは、背中に荷物とエルムを背負ったまま、ある場所に向かって歩いていた。
「……やれやれ、やっと戻ってこれたか」
「ここがリンさんが住んでる街なんですね。……私、街に入ったのは初めてですし、こんな賑やかな所も初めてです」
「そうか?この時間はいつも通りだけどな」
ようやくレクトイの街に戻って来たリンと初めて街に入ったエルム。それぞれ無事に戻ってこれた事への安堵と、初めて街に入った喜びを口々に語る。数日間、山道を歩いていたリンは街道に出た所で走っていた馬車を見つけて、運転手に事情を話して乗せてもらい、この街に戻ってこれたのだった。
「ところで、向かってるのはリンさんのお店ですか?」
「それは後でだ。さっきの検問の時にエルムは身分を証明出来る物が無かっただろ?それをこれから作りに冒険者ギルドに行くんだよ。それを作らないとこの街では暮らせないし、他の街に入る時にも金が掛かるからな」
この街だけではないが、街に入る際は必ず検問がある。そこで身分を証明出来ない場合は、幾らかお金を支払わなければ通してはもらえない。エルムは身分を証明出来る物を持っておらず、支払わないといけなかったが、今回はリンが支払った。
また、お金を支払ってもその街には一時的な滞在しか認められず、街に住む場合は身分を証明出来る物を作成しなければならない。それを作りさえすればどの街にも自由に住む事が出来るようになる。
それを作成する場合、この街では冒険者ギルドに行って作成するようにしなければならない。この街の冒険者ギルドではそのような作成業務も行っている事を知っていたリンは、そこに向かって歩いていたのだった。
「分かりましたです。街で暮らしたりするにはお金が掛かるんですね?……私、それを初めて知りましたですし、実物を見たのも初めてです」
「えっ?エルムが居た集落には金とか無かったのか?必要な物が欲しい時はどうしてたんだよ?」
「その時は物々交換です。でも、私が行った時は何も交換してくれなかったですけど……」
「……あー、嫌な事思い出させてごめんな」
「大丈夫です。今の私には関係が無い事です」
エルムが居た集落では貨幣の概念が存在せず、欲しい物がある場合は物々交換でやり取りしていたが、エルムの場合は誰にも相手にしてもらえなかった。彼女の生まれ持ってしまった物が原因ではあったが、今の自分には関係が無いと思っており、謝って来たリンにそれを伝えたのだった。
「リンさん。……先程のお金はリンさんのお店で働いて必ず返しますです」
「いや、それは返さなくていい。自分が働いて稼いだ金は必要な物とか欲しい物とかに使えよな。……あの金は、エルムから返して欲しくて支払った金じゃないからな」
「え?で、でも……」
「返されてもオレが困るだけだからいいんだよ。……それとだ。さっきオレの店で働いて、って言ったよな?」
「あ、ごめんなさいです。……私が働くと迷惑ですよね?」
「いや、迷惑じゃない。むしろオレから言おうとしてたから好都合だ。……でも、まず先に冒険者ギルドに行って作らないと働けないからな」
「分かりましたです」
リンはエルムに「自分の店で働いてみないか?」と言おうと決めていたのだが、エルムがそれより先にリンの店で働いて先程自分の為に支払ってもらった分を返済する事を告げたのだった。……だが、リンは返さなくてよいと伝える。彼女自身、それは返してもらっても困るお金なので、エルムにそう伝えたのだった。
だが、リンの店で働く前にエルムはステータスカードなどの身分を証明出来る物を作成しなければならない。その為には冒険者ギルドに行かなければならなかったので、彼女は自分の店に戻る事はせずに冒険者ギルドに向かって歩いていたのだった。
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リンはしばらく街の中を歩いて冒険者ギルドの建物の扉の前に到着した。歩いていた際に、街の住人から声を掛けられた時にリンは「急ぎの用があるからまた後で」と言って歩みを止めずにそのまま進んでいったのだった。
「冒険者ギルドってここですか?でも、看板とかが見当たらないですよ?」
「ここは裏口だよ。……表から入るとあれこれ面倒な事が多々起こりそうな気がしたからな」
ただ、彼女達が到着した場所は冒険者ギルドの裏口であった。表から入ってしまうと冒険者達と出くわして長々と話してしまったり、エルムの事で騒がれたりなど、他にも様々な事が起こって面倒な事になると判断した彼女は裏口から入る事にしたのだった。
「でも、大丈夫なんですか?」
「だから、いちいち心配するなっての。……オレは店をやる前は、ここで働いていたから知り合いも多いからな」
「そうなんですか?」
リンは心配するエルムを諭すと冒険者ギルドの扉を三回叩く。彼女もいきなり入るのではなく、誰が居るのかを確認してからと、失礼が無いようにする事をわきまえている。
それと、先程彼女が言った事は本当であって、雑貨屋を営む前はこのギルドで働いていたのだが、それは別の機会に話す事としよう。
「すいませーん!誰か居ますかー!?用があるので出てきてくださーい!」
リンの呼び掛けにすぐには反応が無かったが、しばらくするとその扉の取っ手が動き、扉が開くと一人の大男が身を屈めながら姿を現した。
「……リンか。最近見かけなかったがどこに行っていた?」
「ガロンド、それは後で話すからさ。マスターは中に居るか?居るなら話があるから、少しの時間だけで構わないから都合つけてくれるように話してくれないか?」
「……マスターなら居る。少しそこで待っていろ」
一人の大男、ガロンドはリンを見て、しばらくギルドに顔を出していなかった事を聞こうとしたのだが、リンには今その事を彼に話している時間は惜しかったので後で話す事にした。マスターに話があると言ったのを聞いたガロンドは、マスターに時間があるのかどうかを聞いてくる為に扉を閉めて中に戻り、マスターの元へ向かっていった。
「……り、リンさん。さ、さっきの人って?頭に角がありましたですけど……」
「ガロンドはオーガっていう種族の亜人だよ。見るのは初めてなのか?口数は少ないけど優しい奴だから安心しろよ」
「そうなんですね。集落を出てから人間は何人か見た事はありますけど、他の種族は見たことは無いです」
「……本当に、エルムの居た集落って外とは交流持ってなかったんだな」
エルムが居た集落は外部との交流を極力していなかったので、他の亜人の存在を聞いた事はあるが実際に見た事は全くなかった。だからこそ、初めて他の亜人を見た彼女が戸惑うのは無理はなかった。……エルムを背負っているリンも、暫定的だが亜人であるのだが。
そんな話をしていると二人の目の前の扉が開いて、ガロンドがそこから出て来た。
「……リン。マスターが少しの時間なら問題は無いと言っていた。案内する」
「本当か?ありがとな!」
ガロンドはマスターからの伝言を知らせると案内する為に中に戻る。それを聞いたリンは彼の後ろを着いていく。
「忙しいのに無理言って悪いな」
「……気にするな。マスターもリンの話に興味があると言っていた」
「そうか。……マスターの興味って絶対に変わってると思うぜ。こんなオレでも受け入れてくれたからな」
「……否定はしない。だが、だからこそこうやって俺は案内が出来ている」
「あー、確かにそうだな」
二人の話を聞いていたエルムは、一体どんな人なのだろうか?と俄然興味が湧いてきたのだった。果たして、自分を受け入れてくれるのだろうか?と不安もあったが、興味の方が強かった。
「……着いたぞ」
二人が話している中で、ある部屋の扉の前に辿り着く。ギルドマスターが居る部屋の扉の前に着いたのだった。ガロンドは扉を三回叩く。
「……マスター。リンをお連れしました」
「ありがとね~、ガロンドちゃん。はいっていいよ~♪」
扉の向こうから気の抜けた可愛い声が返ってくる。それを聞いたガロンドは扉を開けてリンを部屋の中に通す。その部屋の真ん中には大量の紙の資料が置いてある机と椅子にあり、その椅子には一人の幼女が座っていた。その幼女は一言で表すと可愛らしいと言える。服装はフリルが沢山着いたドレスで髪はピンクブロンドのゆるふわのウェーブがかかっていて、一見すると人形と見間違える程に可愛らしさがある。
その姿からは冒険者ギルドを纏め上げているマスターにはとても見えないが、ここに居る幼女こそ正真正銘この街のギルドマスターの女性のシーアであった。シーアは今は訳あって幼女の姿をしているが、れっきとした大人の女性である。
「おかえりなさ~い、リンちゃん♪」
「マスター、ただいま」
シーアはリンの姿を見ると小さい手を振っておかえりなさいと声を掛ける。リンはシーアの姿を見慣れているので、普通にただいまと返す。
「…………り、リンさん。こ、ここ、この、人が、ぎ、ギルドマスター、な、なんで、すか?」
「え?……あ。初めてだからそんな反応なのか?オレはそんな事なかったけどな。それとマスターは見た目は子供だけど、子供じゃないぞ?」
「………本当に子供じゃないんですよね?」
「わたし、こどもじゃないもん!」
一方でエルムは非常に驚いていた。先程の声を聞いた時は物腰柔らかな女性だと思っていたのだが、まさか幼女だったとは思いもしなかったので驚いていたのだった。
彼女が疑いの目を向けてしまったのも無理はない。シーアは誰がどう見ても幼女にしか見えず、話し方も子供のように無邪気な笑顔を浮かべながら話していたのだからであった。……リンはギルドマスターを初めて見た時は特に驚く様子は無く、平然と対応していたのだった。
「そういえばリンちゃん、はなしってな~に?うしろにいるそのこのこと?」
「そうだった。……忘れるところだった」
話が脱線し始めていたので本来ここに来た理由を忘れかけていたリンだったが、シーアに指摘されて何とかそれを思い出して背負っていた荷物を自分の前に下ろし、その荷物の中に居たエルムを自分の手に乗せて前に出す。すると、エルムは飛び上がって浮遊した。背中の羽根が元通りになり、再び飛べるようになったのだ。
「話ってのは、エルムの事なんだ」
「そのせなかのはねってことはフェアリーだね。そのこはどうしたの~?」
「えっと、まずは……」
リンはギルドマスターに、カツイバの街から帰ろうとしたが山道が崖崩れで塞がってしまって帰れなくなった事、その復旧が長く掛かりそうだったので山道を歩いて帰る選択をした事、途中で盗賊に襲われた事、そのあとに奴隷として捕まっていたエルムを見つけて助けた事、山の中をフレイムドラゴンに追い掛け回されていたが何とか撃退して逃げ切った事を簡単に説明したのだった。
「……と、オレが話せるのはこの位だな」
「……崖崩れの話ならギルドにも入っている。その山道はまだ復旧してはいないとも聞いている」
「やっぱりか。山道を歩いて正解だったって事か」
山道が崖崩れで塞がり、その復旧が今現在も終わっていない事をガロンドから聞いたリンは、自分の選択と行動が正しかった事を認識する。もし、その選択をしていなければ何日もカツイバの街にとどまる事となって、エルムとは絶対に出会う事は無かっただろう。
「あ、渡す物があったんだ。確かこの中に…………、あった!」
リンは渡す物があった事を思い出して袋からある物を取り出すと、シーアとガロンドに見えるように前に出した。
「マスターにこれを渡そうとしてたんだ。エルムに付けられてた奴隷の首輪だ」
「そうなんだ~。……あれ?リンちゃんはこれをどうやってはずしたの?このくびわは、むずかしいまほうがつかえないとはずせないよ?どうやったの?」
「オレが持ってる槍を首輪に当てたら外れたんだ」
「そっか~。じゃあそのくびわは、こっちでしらべるからあずかるね!ガロンドちゃん、よろしく♪」
「……御意」
「任せたぜ」
リンは目の前に来たガロンドに奴隷の首輪を受け取る。それをギルドに渡す事で闇商売の摘発の手助けになるかもしれないので渡す事にしていたのだった。
「う~ん、それにしても……。フレイムドラゴンがやまみちにでたんだね。……あれ?でも、わたしのギルドはとうばついらいをだしてないよね?そうだよね~?」
「……出してはいません。他のギルドが討伐依頼を出していると情報がありますが、どうされますか?」
「それならわたしのギルドは、とうばついらいはださなくていいし、うけなくていいよ~」
「……御意」
「ちょっと待てっ!ギルドマスターがそんな簡単に決めていいのかっ?」
「いらいをだすかださないかのさいしゅうけっていけんは、わたしがもってるからいいの!」
冒険者ギルドに依頼を出したとしても、それらを必ずしも冒険者が受けてくれる訳ではない。ギルドの職員が内容を精査し、その依頼が正当な物で問題が無いと判断され、最終的にギルドマスターの認可が下りる事によって正式に冒険者に依頼が出されるのである。……つまりこのギルドでは、マスターであるシーアが許可を出さなければ、どんな依頼も冒険者には受けさせられないのであった。
フレイムドラゴンについては、ガロンドから他のギルドが討伐の依頼を出していると聞いたシーアは、冒険者に依頼を出さない事に決定した。マスターがそんな簡単に決めていいものなのか?と尋ねたが、最終的な決定権はマスターのシーアにあるので彼女は胸を張って元気よく答える。
「それは構わないとして、だ。……マスター、エルムのステータスカードを作ってください。オレの店で働かせたいんです。どうかお願いします!」
リンがここに来た理由を話して、表情と姿勢を正し、シーアに頭を下げる。身分を証明出来る物が無ければ街で働く事が出来ないのを一番に分かっている彼女だからこそ、真剣になって頭を下げたのだった。
「うん!いいよ~!」
「軽っ!?ちょっ!?結構真面目に言ったんだから、頼むからマスターも真面目に返してくれよっ!!?」
「え~?やだ~!」
「やだってなんだよ!?オレが強く言えないけどさ、出所が分からないのに簡単に決めていいのか!?少しは警戒するとか怪しむとかしないのかよ!?」
「リンちゃんがつれてきたならもんだいないよ!リンちゃんはやさしいからね!」
「そ、そう言われると照れるな。…………じゃなくて!!あぁもう!調子狂う!!」
そんな彼女に対して、シーアの返答はとんでもなく軽かった。その軽さに思わず文句を言ってしまったリンだった。出所が分からない者を連れて帰って来たなら、警戒したり怪しんだりするのが普通だが、シーアはリンが連れて来たなら問題は無いと簡単に決めてしまったので戸惑うリンだった。
ちなみにリンが強く言えない理由とは、この街に初めて来た自分も出所が分からない者の一人だったので、当初は街の住人から警戒されたり怪しまれたりした事があった。……だが、シーアはそれを全く気にせず彼女を街の住人として受け入れたのだった。それから紆余曲折あってリンは、一部を除いて街の住人にも受け入れられたのであった。
「あ、エルムちゃん。いまからつくるからこっちにきて!」
「は、はいです!」
シーアに促されたエルムはリンの手から飛び上がり、少し飛行するとシーアの机に着地する。それを確認したシーアは一つの水晶玉と一枚の紙をエルムの前に出す。
「このすいしょうにてをあててね。そうするとこっちのかみにね、じぶんのスキルとかがうつるの。それがあなたのみぶんをしょうめいするステータスカードになります!」
「こ、これがですか?……分かりましたです」
エルムはシーアが言った通りに自分の手を水晶に当てる。すると水晶が光って、近くに置いてある紙は特殊な材料で作られており、エルムのスキルなどがそれに書き込まれていく。今書き込まれている紙がステータスカードと呼ばれる物だった。
身分を証明出来る物は一般的にはステータスカードなのだが、この街ではそれは、ギルドの職員なら誰でも作成出来る訳ではなくて、偽造防止の為にギルドマスターなどの重要な職を勤めている者のみがそれを作成する事が許されている。これには、カードに表示される項目が何より正確な物でなければならないという意図が汲まれているからであった。それはこの街だけではなく他の街や他の国でも同様だった。
……しかし、エルムが居た集落などの外部とは交流していない閉鎖的な場所ではステータスカードは存在せず、エルムは実物は見た事は全く無かった。だが、今作っている物が無ければこの街では働く事が出来ない事を知らされていたし、何より彼女はリンの店で働きたかったので作成する事に迷いは無かった。
エルムのステータスカードにスキルなどが書き込みが終わると、シーアは一本のペンと共にエルムに差し出す。
「なまえとかはね、じぶんでここにかいてね。えっと、ペンはこれをつかって……。あ、おおきいけどだいじょうぶ?」
「や、やってみるです」
エルムはシーアからペンを受け取る。シーアなら片手でペンを持てるサイズなのだが、エルムは身体が小さいので全身で抱えなければ持てない。しかし、彼女は器用に全身でペンを抱えながら、身体を上手く使ってステータスカードに自分の名前や年齢を書いていく。
「……ふぅ。お、終わりましたです」
「ありがとう!で、さいごにこのかみにね、からだのいちぶをいれればかんせいだよ。ちをたらしたらおわりだからね」
「えっ?ち、血ですか!?」
「うん。……あ、えっとね。いたいのがきらいなら、かみのけとかつめとかでもだいじょうぶだよ!」
「分かりましたです。……それじゃ、髪の毛を入れるです」
「リンちゃん、かみのけをきってあげてくれる?はいこれ、はさみだよ」
「分かった。……エルム、切っても大丈夫な所はどの辺りだ?」
「えっと、……首の後ろの辺りをお願いしますです」
「首の後ろだな?すぐに終わらせるから動くなよ」
ステータスカードは名前を書いた者の身体の一部を最後に入れる事で完成する。多くの場合は血を一滴垂らして完成させているのだが、一本の髪の毛や切った爪の欠片でも作成は可能である。
リンはシーアから鋏を受け取ると、エルムに髪の毛を切っても問題ない所を尋ねる。エルムは首の後ろ辺りなら問題ないと伝えると、彼女はエルムに言われた通り首の場所の髪の毛を一本摘まむと鋏で切り取った。
「切り終わったぜ」
「ありがとうです」
「どういたしましてっと。……マスター、これでいいか?」
「いいよ~!これでかんせいするからね!」
リンは切り取ったエルムの髪の毛をシーアに丁寧に渡す。受け取ったシーアはそれを作成中のカードに乗せると、カードと水晶玉が光って乗せた髪の毛が消える。そして、光が消えるとエルムのステータスカードが完成した。
「できたよ~!これがエルムちゃんのカードだよ!」
「こ、これが私のですか?」
「うん!これでエルムちゃんはこのまちではたらけるからね♪」
「あ、ありがとうございますです!」
シーアは完成したカードをエルムに渡す。それを受け取った彼女にとって、そのカードは自分の顔より大きいのだが特に気にしておらず嬉しさが勝っていた。
「リンさん!私のカードを作って貰えたです!」
「良かったな!」
エルムはカードをリンに見せるように頭の上に持ち上げて近づくと、二人は喜びを分かち合う。このカードをギルドに作って貰えたという事は、この街の住人として認められた事だった。
「マスター。……その、ありがとうございました」
「リンちゃん、そんなにあらたまらなくてもいいよ~。これはわたしのしごとだからね~」
「……マスター。話の途中ですが、そろそろ次の仕事の時間が迫っています」
「え?もうそんなじかんなの?わかった~♪」
リンから改まって礼を言われたシーアだが、彼女はそれが自分の仕事の一部なので改まらなくてよいと伝える。その途中でガロンドから次の仕事の時間が迫っている事を告げられる。
「あ、少しの時間だけの約束だからそろそろ出ないと駄目か」
「ごめんね~。でも、わたしもいそがしいの」
「いやいや、無理言ったのはこっちだから。……ありがとうございました」
「あ、ありがとうございましたです!」
「またきてね~!」
二人はシーアに礼を言うと、リンは荷物を背負い、エルムは自分のステータスカードを左脇に抱えながら部屋から出ていった。
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「……またにぎやかになるねー」
「御意」
リンとエルムの二人が出ていった部屋では、シーアとガロンドが住人が増えた事によって賑やかになることを、シーアは喜び、ガロンドはそれに同意する。
「えっへん!わたしのモットーは、あるていどのじゆうだからね!わたしは、いろんなしゅぞくがたがいにたすけあいながら、じゆうにくらしていけるまちにしたいの!」
「……俺も協力します」
「うん!……あ、じゆうにくらしていけるまちをつくりたいっていっても、かげきなこととかさべつとかはダメだからね。ぜんぶがじゆうだとむじゅんだらけでなりたたなくなるし、じゆうにはせきにんがともなうものだからね」
「……過激な事、差別。……マスター、その件で気になる事が……」
「なーに?」
「実は……」
ガロンドはシーアの先程の言葉に、ある事を思い出して彼女に耳打ちをする。彼自身もまだ確証が得られずにシーアに言うべきかどうか迷っていたのだが、大事になってしまっては遅いと判断して、外部に漏れることが無いように耳打ちてシーアに話したのだった。
「ねぇ、それってほんとうなの?」
「……確証は得られませんでしたが、ギルドには幾つか情報が入っています。奴らがこの街で活動する可能性があります」
「わたしもつかまえたかったけど、にげあしだけは、だれよりもはやいんだよね~。……うん。いまはけいかいをつよめるくらいだけしかできないけど、それをみんなにつたえておいてね?」
「……御意」
シーアはガロンドから聞いた話で、とある集団の事を思い出して頭を悩ませる。彼女はかつて、その集団をギルドの職員や兵士を率いて構成員を全員捕まえようとしたのだが、逃げ足が速い僅かの人数だけは捕まえられずに取り逃がしてしまったのだった。
その事を悔やんでいた彼女だが、ギルドの職員に警戒を強めておくように伝言をガロンドに指示を出すと、気持ちを切り替えて次の仕事の為に椅子から降りる。
「あ、そうだ~。……つぎのおしごとってなんだっけ?」
「……俺はそれを今日は何回も言いましたので、もう言いません」
「えーーーーーーっ!!?それじゃおしごとできないよ!」
「……いい加減にしてくれませんか?自分の仕事のスケジュールは覚えて下さい。置いていきますよ?」
「じょうだんだってば~!!まってよ~!」
シーアはガロンドに次の仕事の内容について尋ねたのだが、彼は今日はこのやり取りを何回もしていたのでうんざりして歩いていき、シーアは慌てて追いかけていった。
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書きたい事が色々と頭の中に湧くのに、それを書こうとすると、難しいですね。