無理な事は無理です。
お待たせ致しました。
23時になりましたので投稿します。
書きたかった事に挑戦しました。
3月11日 少し修正しました。
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痺れて動きが鈍っているフレイムドラゴンから逃げ出したリンは山の中を走っていた。先程と同じ様に木と木の間を通りながら逃げていて、追って来ない所まで逃げ切れば彼女の勝ちなのだが、その場所にはまだ到達していなかった。
「リン……、さん。……い、……ま、どうな……、……ってる、……で、……すか?」
「無理に話さなくていい!良くなるまで休んでな!フレイムドラゴンもあの様子だと暫くは動けないだろうよ!」
「……はい、で……、す」
エルムはリンの背中でまだ身体に痺れ残っている中で今の状況確認しようと話し掛けるが、リンに無理はせずに休むように言われる。エルムの体調を心配しての返答だったがそれに納得したエルムは言葉に甘えて休み始めた。
リンは先程のフレイムドラゴンの様子を見て動き出すまでに時間が掛かるだろうと考えていた。麻痺作用の花粉を大量に吸っていたのも見ていたのでそう考えていたのだが、彼女の考えは甘かった。
「グギャアアアアアア!!!!!」
バキバキッ!ベキッ!
ドスンドスンドスンッ!!
「おい、まさかっ!?もう追いかけて来たのかっ!!?」
フレイムドラゴンの咆哮がリンの後ろから聞こえたと思ったら、その直後に木が薙ぎ倒された音とフレイムドラゴンの足音が聞こえて来た。しかも、その音は確実に大きくなっていって、リンとエルムの二人に近づいて来ていたのだった。
リンは自分の目でフレイムドラゴンが大量の麻痺作用の花粉を吸い込んだのを見ていて、あれだけの量の花粉を吸っていたならあの巨体も動きが鈍くなったと思っていて、すぐには追って来れないだろうと考えてはいたのだが、……子の仇を打とうとする母親の強い思いを彼女は考える事が出来なかった。
「グギャアアアアアア!!!!」
「さっきより大きいって事は、……まずい!追いつかれるっ!!」
リンも全力で走って逃げてはいるが、フレイムドラゴンの追いかけるスピードの方が早く、追いつかれるのは時間の問題だった。
「とりあえず一旦広い場所に出て状況を確認しないと!……ん?あっちか!!?」
リンは状況確認の為に木と木の間を通りながら逃げる事を中断して広い場所に出ようとした時に、前方から光が見えたのでそこに向かって走っていった。そのまま光に突っ込むと開けた場所に出る事が出来た。
……しかし、そのまま走り抜けようとした彼女の足はすぐに止まる事となる。
「なっ!?危なっ!!」
リンが出た場所は、なんと崖になっていた。しかも、先程リンが落ちてしまった崖とは違って高さはかなりあって、その下は地面ではなく川となっており、その流れは早くて一度入ってしまったら一気に下流まで流されてしまうだろう。
リンは走り抜けようとした勢いを止めて、何とか崖の淵で踏み止まる。踏み止まった時に蹴り飛ばした小石などが崖の下に落ちていったのを見ると、二人は後少し気づくのが遅かったら崖の下に真っ逆さまに落ちていた事は明白だった。
何とか向こう側に渡れれば逃げ切れそうだったが、不幸な事は重なって起こるようで近くに橋は存在せず、思い切りジャンプをしても決して向こう側には届かない距離だった。
「嘘だろっ!?」
どう見ても追い詰められた様子のリンは、どうにか逃げる方法を考えて周りを見渡すが、彼女の周りには木と崖しか存在せず無駄な時間を消費するだけだった。
「グギャアアアアアア!!!」
その無駄な時間を消費した事によってフレイムドラゴンがリンに追いついてしまったのだった。先程リンが走って来た道から出てきたフレイムドラゴンは自身の中では子の仇であるリンを遠目で見つけると速度を落とし始め、リンの目の前に現れた時には自身にとっては早歩きの速度だったので、フレイムドラゴンの目に崖がある事が分かるとすぐに止まる事が出来た。
……つい先程までは頭に血が上っていたのだが、ここに来る前にパライズプラントを蹴散らした時に一旦冷静になり、自身の用心深い性格によって近づく際には速度を落として近づこうと考え、行動したのだった。
「グルルルルルルルルル!!!」
フレイムドラゴンは、遂にリン達を追い詰めた事に唸り声を上げる。ようやく子の仇を打てる事が分かると興奮が抑えられなくなっていたのだった。普通ならここまで追い詰められてしまっては命が無くなるのは明白で、誰でも死の恐怖を感じて動けなくなってしまう事だろう。
「…………」
そんなフレイムドラゴンとは対照的に、どうにもならない状況に追い詰められた様子のリンは沈黙していた。彼女は死の恐怖に怯えているのではなく、何か手は無いのか?と考える事を止めていなかったのである。
……彼女は既に死んでいるので、死の恐怖は微塵も感じてはいないが。
もしも、ここにリンが一人だけだったなら、もっと大胆な行動をとって、フレイムドラゴンから逃げ切れていただろう。……だが、今の彼女の背中には痺れて動けないエルムが居るので大胆な行動をする事は出来なかった。
「……リンさん。……今はどんな、状況ですか?」
「とても不味い事に追い詰められてるんだよ。……って、喋って大丈夫なのか?」
「はい。……少し身体が楽になってきましたです」
「分かった。今はどうすれば切り抜けられるか考えてるんだよ。とはいっても、……何も浮かばないのが現状だがな」
リンはエルムから体調が回復したと聞いて安心したが、それだけでこの状況を打破する事は出来ず、別の方法で切り抜けようとしても全く浮かばずに苦笑いを浮かべるだけだった。
「リンさん。……私から提案があるのです」
「ん?何か浮かんだのか?手短に頼むぜ」
エルムがこの場を切り抜ける提案があると言ったのでリンは耳を傾ける。
「…………私を、ここに置いて、リンさんは逃げて下さいです。私が囮になれば、逃げ切れるのです」
「何言ってんだよ!お前を置いて逃げるなんで無理に決まってるだろっ!?」
エルムが自分をここに置いて逃げるように伝えるが、リンはそれは出来ないと返答する。エルムの命を犠牲にしてまで逃げたいとは思わなかったので二人で逃げようと決めていたリンだったので、エルムのその提案は受け入れる事は出来なかったし、それをしたくはなかった。
「……で、でも、リンさんは私を助けたからこんな目にあってしまったのです。その……、この提案はリンさんへの恩返しです。……だから、リンさんは絶対に死なないでくださいです!!」
エルムは目に涙を浮かべながらリンに叫んだ。自分を助けてくれたリンには絶対に死んで欲しくない。そう願った彼女は、リンが逃げる時間を稼ぐ為には自分が犠牲になるしかないと決めて、先程の提案をリンに言ったのだった。
「エルム。………………そう言ってくれるのはとてもありがたいんだけどよ。………死なないでください、だけは絶対に無理だ」
「な、何を言ってるんですか!?リンさんは死ぬのが怖くないんですか!?」
「いや、怖いとか怖くないとかの問題じゃなくてだな。それ以前にオレは…………」
エルムに死なないでくださいと言われたリンは、とても困惑していた。何故ならば、それは先程エルムがリンに言った提案よりも遥かに難しく、…………否、彼女がどんな手を使っても絶対に不可能な事だった。
エルムを横目で申し訳無さそうに見つめながら、ただ黙っているのも申し訳無いと思ったリンは、自分の中で気まずいと感じながら、背中に居るエルムに顔を向け、ある重大な事実を告げようと決めたのだった。……その事実を告げなければ先に進めないと彼女は考えたからであった。
「もう死んでるから」
「……えっ?」
もう死んでるから。リンが言ったその言葉を、全く受け止められなかったエルムは思考が停止してしまった。
「……だから、オレはもう死んでるんだよ。死んでる奴に死なないでくださいって言われてもな、どうやっても無理なんだよ」
「えっ?死んでる?……でも、動いて?え?あれっ??……死ぬのは無理?ん?えっ???」
自分が命を犠牲にしてまでも助けたい人物は既に死んでいる。しかし、死体は動かない筈なのに動いている。矛盾している事がエルムの目の前で今現在起こっている事、他にも様々な矛盾や疑問が彼女の頭の中に次々と沸き上がっているようで混乱し、その為に思考が停止してしまったのだった。
そんなエルムだったが何とか持ち直して、彼女が思った事をリンにぶつけたのだった。
「い、いやいやいやいやいや!死んでるって冗談ですよね!?現にリンさんは動いてるんですよ!?動いてるって事は生きてるって事ですよ!!?……もう、冗談は程々にしてくださいですよ!」
「いや、冗談じゃなくて。生きてるけど死んでるんだよ。……ん?死んでるけど生きてるの方が正しいか?」
「一体どっちなんですか!?生きてるのか死んでるのか、この場ではっきりしてくださいです!」
「そんな事オレに言われてもな……」
「何でですか!あなたの事ですよ!」
「いや、オレは別にどっちでもいいけど……」
「だから、あなたの事ですよ!どっちでもいいとか、そんな無責任な事は言わないでくださいです!」
「うるさいなぁもう!オレだってな!好きでこんな身体になったんじゃないんだよ!」
「答えになってないです!さっきの私の涙を返してくださいですっ!!これじゃ泣き損ですっ!!」
エルムはリンに冗談を言っているのだろうと思ったが、目の前に居るリンが生きてるのか死んでるのか全く分からなくなってしまって彼女に聞いたのだが、彼女自身も答えが分からず、返答出来なかった。
どちらなのかはっきりしてくれないと気が済まなくなったエルムは問いただすが、リンはどっちでもいいと言ったので苛立って強い口調で返し、負けじとリンも言い返して、挙げ句の果てに二人は言い争いを始めた。
「グ、グルゥ……?」
二人は目の前にいるフレイムドラゴンが全く気にならなる程に、言い争いに集中する。…………リンの「もう死んでるから」いう発言が、この場にあった緊張感や折角の感動的な雰囲気などを、物の見事に全てをぶち壊したのであった。
その一方で、置いてきぼりを喰らったフレイムドラゴンは呆然としていた。目の前に居る奴らは何をしているんだ?そう思っているかどうかは定かではないが、そんな様子で呆然としていたのだった。
「何で自分の事なのに分からないんですかっ!?」
「あのな!オレにも分からない事の一つや二つはあるんだよ!その中の一つがオレ自身の事なんだよ!!」
「生きてるか死んでるか、の二択ですよ!?どっちもは駄目です!どっちかにしてくださいです!!」
「あぁもう分かったよ!オレは死んでる!死んでるけど動いてるんだよ!もうこれでいいだろっ!!」
「分かりましたです!それでいいです!リンさんは死んでいるんですね!?」
「そうだよ!オレは死んでるんだよ!」
……かなり強引な流れだが、言い争いをした二人の中で答えが出た様子であった。リンは生きているのではなくて死んでいる。死んでいるが動いている。その結論に至ったのだった。
「ふぅ。……あれ?オレ達、何か大事な事忘れてないか?」
「えっと、……さっきまで、私達何していたんですか?」
結論を出した二人は冷静になったのは良いが、あまりにも言い争いが白熱し過ぎてしまい、その前まで自分達が一体何をしていたのかを分からなくなってしまったのだった。
「……グルゥ?」
「「……あ、忘れてた(です)」」
フレイムドラゴンは「……終わった?」とでも言っているのかもしれないが、このフレイムドラゴンの言葉は二人には分からない。だが、そんな様子で唸り声を上げる。その声を聞いた二人は、自分達はフレイムドラゴンに追いかけ回されて、今居る崖の淵に追い詰められていた事を思い出したのだった。
「グギャアアアアアア!!!!!」
…………気を取り直して、フレイムドラゴンは咆哮を上げる。ようやく子の仇を打てる事に改めて歓喜する。
「そういえば、……こんな状況だったな」
「ど、どうするんですか!?」
「どうするって言われてもよ……」
二人は二人で今の場所に追い詰められていた事を思い出し、リンは改めて切り抜ける方法を考える。彼女の前にはフレイムドラゴンが居て、後ろには崖があり、その崖の下には流れが激しい川がある。誰がどう見ても二人は絶望的な状況に陥っている。
「ん?…………あっ、リンさん。私達が居るこの場所だけ何でか分からないですけど、飛び出してるです」
「飛び出してる、ってどういう意味だ?」
「それはですね、えっと……、下から見ると返しになっているって言った方が良いですね」
「返しになってる?…………ん?そうだ!」
エルムがふと後ろを振り返って崖を覗くと、二人が立っている場所は他の場所と比べて飛び出してる事に気が付く。彼女の言葉通りに二人が立っている場所は下から見ると返しになっていて、今の二人の重さなら問題は無いが、とても重い物をそこに勢いよくぶつけたりでもしたら、たちまち崩れてしまって崖の下に落ちてしまうだろう。
エルムが言った事を頭の中で纏めたリンは、この状況を切り抜けられるかもしれない、たった一つの方法を思いついて行動に移す。
「どうしたんですか?……も、もしかして戦うとか、ですか?」
「戦わねぇよ。……あ、間違った。少しだけ戦う、だ」
「えっ!!?か、勝てる訳無いじゃないですか!?」
「そんな事、オレだって分かってるよ。……でも今はそれしか無いと思うぜ」
リンはなんと、少しだけなら戦うという選択をしたのだった。それを聞いたエルムは勝てる訳無いと言うが、リンは足下に転がっている三個の小石を拾う。
「その前にだ。……エルム。今は魔法は使えるか?」
「えっ?……あ、はい!身体の調子が戻ってるので使えるです!……でも、どうして今その事を私に聞くのですか?」
「急で悪いけど、オレが思いついた方法はエルムが魔法が使えるかどうかで決まるんだ。あいつが口から炎を出してきても、それを防げる魔法って使えるか?」
「それは任せてくださいです!」
リンはエルムに魔法は使えるかどうかを聞くと、体調は戻ったので使えると答えが返って来た。彼女が考えた方法にはエルムの魔法が必要不可欠だったからだ。
「じゃあいくぞ!おらよっ!」
リンは先程拾った小石の一つをフレイムドラゴンに向かって投げた。彼女が投げた小石はフレイムドラゴンの顔にコツン、と小さな音を立てて当たる。ただの小石ではフレイムドラゴンにはかすり傷一つすらも負わす事が出来ないのはリンも分かってはいるが、狙いは別にあった。
「グ?グギャアアアアアアア!!」
小石を当てられたフレイムドラゴンはそれだけで怒りが沸き上がり、雄叫びを上げる。……このフレイムドラゴンは用心深い性格でありながら、自分に少しでも危害が加えられた事が分かるとすぐに怒ってしまうという、とても短気な性格でもあった。
怒ったフレイムドラゴンは口から炎のブレスを吐いた。……それこそがリンの狙いであった。
「エルム!頼んだぜっ!」
「分かりましたです!《ウォーターウォール》!」
二人に炎が迫っていく中で、リンの背中に居るエルムは身を乗り出して右手を前に向けて、魔法を唱える。彼女が唱えたのは、魔法によって出てきた水で壁を造り、敵からの攻撃を防ぐ魔法だった。二人に迫っていた炎はその水の壁によってかき消され、届く事は無かった。
……本来なら魔法を唱える際には、手に杖や指輪などのマジックアイテムが無ければ唱える事が出来ないが、フェアリーはそれを使わずに唱える事が出来る。ここに居るエルムも例外ではなかった。
「エルム!お前の魔法ってすげぇな!」
「え?……えっと、お、お役に立てて何よりです!」
エルムは初めて純粋に自分の魔法を褒められた事に喜ぶ。全ての属性の魔法を使える彼女は、今までは何で自分はこんな物を持ってしまったのだろうと思って憂いていたのだが、リンの純粋な誉め言葉に喜びを隠せなかった。
「これくらいの炎だったら、この魔法で防げるです!」
「そうか、ありがとな!」
リンは炎を防いだエルムに礼を言った。エルムの魔法がリンと彼女自身を守ったのは紛れもない事実だった。
「グル?…………グルゥ!!グギャアアアア!!」
その一方で、自身の炎を防がれたフレイムドラゴンは苛立って地団駄を踏む。思い通りにならない事に癇癪を起こしていたのだった。炎のブレスが防がれた事が何とか分かると、近づいて攻撃しようとして、足を踏み鳴らしながら二人に迫って行った。
「き!来てるです!?」
「焦るなって。……よしっ!」
リンはなんと、迫って来るフレイムドラゴンに向かって走り出したのだった。フレイムドラゴンは自身に向かって来るリンに噛みつこうとして大きな口を開けて彼女に向かって行く。
「……今だっ!」
フレイムドラゴンに向かって行ったリンはある程度距離を詰めて右側に、フレイムドラゴンに対して左側に跳んだ。迫って来ているフレイムドラゴンを避ける為に跳んだのだった。…………だが、
ブチッ!!!
「リンさん!!腕がっ!!」
「心配すんな!腕なら後で戻る!」
彼女の判断がほんの僅か遅れた為に、リンの左腕の肘から下がフレイムドラゴンに噛み切られてしまった。それを見たエルムは悲鳴を上げるが、リンにはそんな事は関係無かった。……このくらいの損傷なら少しすれば元通りになるからだ。
リンの腕を噛み切ったフレイムドラゴンは崖から落ちない様に速度を落として、なんとか崖の淵で踏み止まる。そこはリンとエルムの二人が先程まで居た場所だった。
…………追いかけて来たフレイムドラゴンを先程まで二人が居た場所に誘導する事こそが、彼女の真の狙いであった。
「グ!?」
フレイムドラゴンは振り返ってリンに追撃しようとしたのだが、突如として浮遊感に襲われ、間髪入れずに身体が下に落ちていく感覚に襲われる。その原因は自身の体重によって足場が崩れてしまったからだ。
フレイムドラゴンが今居る場所は、エルムが先程言っていた通りに下から見ると返しになっていて、他の場所より脆く重さが掛かると崩れ易くなっていた。リンとエルムの二人の重さなら耐えられたのだが、フレイムドラゴンの重さには耐える事が出来なかったので崩れてしまったのだった。
「グギャアアアアアア!!!??!?」
ザッパァーーーーーン!!!
フレイムドラゴンは叫び声を上げながら崖から落ちていき、派手な水飛沫や音と共に川に落ちて、激流によってそのまま流されていった。
「…………ふぅ、何とかなったな」
「……そ、そうですね」
フレイムドラゴンを何とか崖下に落とす事に成功したリンは緊張の糸が解けたのか、その場に座り込む。その顔は安堵の表情が浮かんでいた。彼女の背中に居るエルムも同じだった。
「……でも、まさか、フレイムドラゴンをこんな方法で追い払うなんて思ってもなかったです」
「まぁ、とっさの判断だったけど上手く行ったから良かったぜ。…………結果が出るまで生きた心地がしなかったけどな」
「……生きた心地がしなかったとか、死んでる人がそんな事を言わないでくださいです」
「別に言うくらいはいいだろ。…………お、腕が元に戻ったか」
フレイムドラゴンを撃退した二人は、恐怖から解放された事によって和やかな雰囲気に包まれる。その雰囲気から二人は生きているのだと実感したのだった。……リンは死んでいるので、エルムの言葉はごもっともだったが。
そんな中で、フレイムドラゴンに噛み切られたリンの左腕が元に戻ったのだった。左手を数回開いたり閉じたりして問題が無い事を確認すると、リンは立ち上がる。
「よし!それじゃあ、行くか!」
「はいです!お願いしますです!」
リンは自分の街に向けて再び歩き出した。その足取りは先程のフレイムドラゴンから解放された事でとても軽い物だった。
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数日後
リンは未だに山道を歩いていた。背中に居るエルムを気遣って休息を取りながらも確実に前に進んでいた。
「……そろそろ、何かが見えてきてもいいと思うんだけどな」
リンは歩いている中で何も見えない事に愚痴をこぼす。
「何かって何ですか?」
「それはだな……、あっ!」
エルムが何かを尋ねた時に、リンは何かを発見して走り出す。木や草が茂る山道を歩いていた彼女だが、少し走ると整備された平坦な土の道の場所に出たのだった。
「よしっ!街道に出れた!」
リンは街道に出れた事に喜びの声を上げる。先程までは山道を歩いていたので、自分が今どの辺りに居るのか検討がつけられなかったが、街道ならばある程度自分の今居る場所が何処なのかが分かる事が出来る。
更に、街に帰る為に必要な時間などを簡単に計算する事も出来るので、彼女は探していたのだった。
……この行動には、運が悪いと山道で迷ってしまって途中で力尽きてしまう可能性があったのだが、街道に出る事が出来た彼女はとても運が良かったと言えるだろう。
「リンさんが探していた何かって、街道だったんですか?……それなら言ってくださいですよ」
「ごめんな。……いやぁ、言おうとした時に見つかったから言えなかったんだよ」
「分かりましたです。それなら構わないです」
「それならって、……ん?……あ!おーい!」
リンは更に何かを見つけた様子で声を上げ、何かに自分の居場所を知らせる為に手を振る。
「どうしたんですか?」
「馬車が来てたから手を振ったんだよ。もしかしたら乗せてくれるかもしれないからな」
リンは、街道なら馬車の一つくらいは通るだろうと思っていたのだが、タイミングが良かったようでこちらに向かって来る馬車を見つけたのだった。馬車の運転手は彼女に気づいて減速し、近づいて彼女の目の前で馬車を停める。
「こんな所に珍しいね。一体どうしたんだい?」
「さっきまで山道を歩いてたんだ」
「山道をかい?これはまた御苦労な事。……そうだ、良かったら乗ってくかい?まずは、レクトイの街を通ってその後は別の街に行く順番になるけれど……」
「本当か!?レクトイの街に行くならそれで構わない。オレ、その街に住んでるからさ」
「おぉ、その街に住んでるなら尚更良かったね。さあ、二人共。早く乗って」
「ありがとな!助かった!」
「ありがとうです!」
リンに気づいた運転手の男性は、優しい口調で彼女達に声を掛ける。リンが山道を歩いていた事を話すと、運転手の男性は少し驚きながらも労いの言葉をリンに言って、自分の馬車に乗らないかと彼女に提案する。男性が通ろうとしている最初の街がレクトイの街だという事を聞いたリンは運転手の提案に乗る事にした。
「……あれ?この馬車、人が居なくて荷物しか無いけど何でだ?」
「僕は街から街への荷物の運搬の仕事をしているんだ。今は荷物が多くて少し狭く感じると思うけど我慢してくれるかな?運賃は取らないからさ」
「分かった。それくらいの我慢ならなんて事無いぜ」
「私も構わないです」
運転手にお礼を言いながら馬車に乗り込んだ二人だったが、人が誰もおらず荷物しか無い事に疑問が浮かんだが、運転手が荷物の運搬を専門にしている事を言うと二人は納得して、リンは荷物の隙間に座り込んだ。
「それじゃあ、行くよ。しっかり捕まっててね」
馬車は二人を乗せるとレクトイの街に向けて走り出した。
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シリアスな空気をぶち壊してみました。これが書きたかった事です。
この小説では、このような事が何度も起こりますのでご了承ください。
例として
「ここから生きて帰れると思うなよ!」
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「ここに来る前からオレは死んでるけど?」
「命を懸けてやってみるか?」
↓
「命が無いオレは一体何をしろと言うんだよ?」
「あの場所から生きて帰って来た者はいないが、それでも行くのか?」
↓
「それなら大丈夫だ。オレの場合は死んで帰って来るから問題無い」