遭遇確率は不確定です。
この話を投稿する前に設定を一部変更しました。
12月22日 誤字などを修正
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山の中でリンはフェアリーの少女に出会った。リンは何故こんな所に居るのかと少女に聞く前にまずは籠から出してあげる事が先だと思って行動に移した。
「今そこから出してやるから待ってな」
「は、……はいです」
リンは籠を開ける為に錠前を外す作業に取り掛かった。彼女は籠に付いている錠前に手を掛ける。すると彼女はある事に気づく。
「えーと。……あ、これ壊れてるな。これなら鍵が無くてもに外せるぜ」
「本当ですか?」
「あぁ、これをこうして…………、取れた!」
錠前は壊れているが形が歪んでいるのでリンは少し乱暴に揺さぶる。すると錠前は外れたので彼女は籠を開けた。
それを待ってたかのように少女は飛び上がる。背中の羽を羽ばたかせ浮遊する……
「きゃつ!!」
「おっと!?」
……事は無く落下し始めた。すかさずリンが手を差し出して地面に激突する前に受け止める。
「大丈夫か!?」
「はい、…………私、忘れてましたです。今私の羽は傷付いてて飛べないんです」
少女の背中には羽があるのだが、少女は普段はそれを使って飛んでいる。しかし、今は傷付いてしまっているので飛ぶことが出来なかった。
「言わなくても見れば分かるっての、痛くないのか?」
「今は大丈夫です。フェアリーの羽は魔力を集中させれば自然に治るんです。時間は掛かりますけど……」
少女は時間は掛かるが直る事をリンに伝えるがその後は黙ってしまった。
「ん?どうした?言いにくい事なら言わなくてもいいぞ?」
リンは急に黙った少女に対して、自身に言いにくい事があるのだと思い言わなくてもいい事を伝えたが、その直後、
ぐぅぅぅぅぅ!!!
「…………お腹空いてるんです。全然何も食べて無いんです」
「あ、そうか。分かったよ。今食い物出すからそれ食べるか?」
少女の腹の虫が盛大に鳴った。それを聞いたリンは少女を地面に下ろし、背負っていた袋を下ろしてそこから食糧を探し始める。
「……いいんですか?」
「こんな時に何言ってんだよ。腹減ってるんだろ?すぐに食える物くらいしか無いけどな。ほらよ」
リンはそう言って数枚の干し肉を少女に差し出す。魔物などの肉を干して保存が効く様になっていて、火を通せば美味しく食べられるがそのままでも食べる事が出来る。少女にとってそれは自分の背丈の半分くらいの大きさだったが、リンから受け取ると待ってましたとばかりに干し肉に噛み付き食べていった。
「…………です」
「どうした?美味くなかったか?」
食べている途中で動きを止めた少女に何事かと思って顔を覗くと、
「……美味じいでず!涙がどまらないでず!びざじぶりにだべられだです!!」
「なら良かった、まだあるから食いな。パンとか水もあるから遠慮するなよ」
「はいです!!」
少女はしばらく無心に食べ続けた。リンに会うまでにろくに食べていなかったのでそれを埋める様に食べている。そんな少女を見てリンは安堵の表情を浮かべ、見守っていた。
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「ごちそうさまです」
「結構食べたみたいだけど、腹いっぱいになったか?」
「はいです。本当にありがとうです」
「そりゃ良かった」
少女は沢山食べ、満腹になった事をリンに告げる。少女が食べた分だけ軽くなった荷物を一旦持ち、重さを確かめるとその場に置いて、少女の目の前に座り込む。
「あ、そうだ。自己紹介がまだだったな。オレはリン、よろしくな」
「ありがとうです。私はエルムです。よろしくです」
リンとフェアリーの少女、エルムはそれぞれ自己紹介する。会ってからまだそれをしていなかったからだ。
「エルムか、……こんな事聞くのは悪いけど、どうしてこんな所にいるのか話せる範囲でいいから話してくれないか?辛くなったら途中でやめてもいいからさ」
「えっ?……はい。分かりましたです。まずは……」
エルムはリンに今までの自分の経緯を話し始めた。ある程度の事は分かるが詳しい事が分からないままでは彼女はどうする事も出来ないので、エルムにつらかった事を話してもらうのは酷だったがそれをしてもらう事にした。エルムも話さなければ伝わらない事は分かっていたのでそれを了承した。
エルムは人里離れたフェアリーの集落で生まれ育った。集落は外部との交流を極力せず、自給自足で暮らしていた。フェアリーの集落は各地に点在しているのだが同族でも極力交流はしておらず、各地で静かにそれぞれの暮らしをしていた。
そんなある集落で生まれたエルムは、生まれた時から不運に見舞われていたのだった。何故彼女が不運に見舞われていたのかは集落のある風潮によるものだった。それは、
「フェアリーの集落には、それぞれ魔法の属性が決まっていてその属性しか使えない子どもが生まれるのが普通なんです」
「……つまり、火の属性の集落は火の属性しか使えなくて、水の属性の集落は水の属性しか使えないって事か?」
「そうなんです。私は火の属性の集落に生まれたので火の属性しか使えないと思ってたんです。でも、私は……」
魔法は様々な種類が存在するが、大まかに火、水、風、土、光、闇、無の7種類の属性に分けられる。それぞれ人によって得意不得意が存在するので各々に使いやすい属性を見極める必要がある。
エルムのいた集落は火の属性の集落、つまりそこにいる者は火の属性の魔法しか使う事が出来ない事になっている。それがその集落では当たり前の事だと思われていた。
……だが、エルムは違っていたのだった。
「……私は火の属性だけでなくて他の6つの属性も全部使える事が分かったんです。それが、……わ、分かった時から……」
「あー、もう言わなくてもいいぞ?それ以上は辛いだろ?もういいからな?」
「い、いえ、大丈夫です。……つ、続けるです」
エルムは話している途中で今まで自分が受けてきた事を思い出して身体が震え始める。リンはそんな彼女を見て話すのを止める様に言うが、エルムは止める事はなかった。
「……集落のみんなから酷い事を、……されるようになったのは、その時からです。……家族からも、……です」
「…………」
エルムのいた集落のみならず、フェアリーの集落では同じ属性の魔法が使えない者、またはその集落の属性以外の魔法が使える者は極端に排他的になる傾向があった。
不吉な存在、厄災の前触れなどといった事で集落を追い出されたり、酷い場合は実の子供ですら殺してでも消そうとする者もいる。昔からの言い伝えで災いをもたらす存在などと不確定な事だったが、忌み嫌われる存在として扱われていた。
そんなエルムも例に漏れず家族や友人、集落の者達からも迫害を受けた。信頼している者から虐げられ、孤独になりながらもいつかは収まると信じて集落の中で生きてきた。
……しかし、家族からある言葉を言われた時にそれは脆くも崩れ去った。
─────何故、お前は生まれてきたんだ!?お前なんか生まれてこなければ良かったのに!!────
その言葉を聞いた事でこの集落には味方はいない、ここに居ては殺されるだけだと悟り、彼女は集落を出て各地を放浪していた。自分を受け入れてくれる所がきっとあると淡い希望を心に秘めながらも、なかなか見つからず心が折れそうになっていた。
その道中で運悪く闇商売人に捕まってしまい、奴隷として売られそうになってしまった。奴隷の首輪を付けられ彼女の買い取り先が決まり引き渡される直前になって、ある事が起きて木材に埋まってしまった所をリンに助けられて今現在に至る。
「…………」
「……あの、ごめんなさいです」
「何でお前が謝るんだよ?謝るのはオレの方だよ。ごめんな」
リンはエルムの頭に手を置いて謝る。
「……でも、聞いてもらえて嬉しかったです。……ずっと、この事を話せる人がいなかったのです」
「そうか、少しは楽になったみたいで良かったよ」
エルムは生まれてからこの事は話せる人がおらず、ずっと自分の中で納めていたのだが、リンに話した事で少しは自分の中にあったわだかまりがなくなったようだ。
「でもよ、7つの属性全部が使えるなんて凄いと思うぜ。普通だと一つだけで、多くても三つって聞いたし。何より、オレなんて魔法は一切使えないからな」
「……えっ?魔法が一切使えない?どういう事です?」
「言ったまんまの事だよ。魔法が使えれば便利だと思った事はあるけど使えないんだよ。……でもな、オレはそれを不幸だと思った事は一度もないな。不便と不幸は同じって決めつけるのは嫌だし、決めつけられるのも嫌だなんだよな、オレは」
「……なんか、あなたが羨ましいです。そんなにも強いなんて……」
「そっか。……あ、悪いけどこの話題はもうやめようぜ。なんか照れくさくなるからよ」
「……分かりましたです」
リンはこれ以上話が長くなりそうなので終わりにしたのだが、エルムにとっては魔法が一切使えないと言っていたリンに衝撃を受けた。使えない事が分かっても気にする事なく強く生きている事にエルムは憧れを抱き始める。
……彼女の気持ちに水を差す事になるかもしれないが、彼女の目の前に居る人物は死んでいる事をエルムはまだ知る由もなかった。
「で、その首輪はどうするんだ?」
「……これは外れないのです。私が死ぬまで外れる事はないって言われたのです」
エルムはリンに首輪は外れない事を告げる。奴隷の首輪は鍵穴などは存在せず、特殊な魔法の術式が組まれており、余程の事が無い限り外れる事は無い。
余程の事とは二つあり、まず一つ目は術式を解除する事。但し、先程も述べたように術式が特殊な為、解除には相当の労力が必要となる。だが、術式を解除すればその首輪は使い物にならなくなり、再び着けられたとしても奴隷になることは決して無い。
そして二つ目は首輪を着けられた者が死亡する事。奴隷となった者が死亡すると首から外れ、また新たに生きている者を奴隷として使役する事が可能になる。
一つ目の方法が使われる事は滅多に無い。奴隷を扱う者達は奴隷となった者が逃げたり逆らおうとしたら痛め付けて殺す事があり、その後は別の誰かを奴隷にするのを繰り返している。すなわち多くの場合、奴隷から解放される為には死ぬしかないと思われていて、エルムもそう思っていたのだった。
リンは暫くの間考え込んで、口を開く。
「……よし。なら、オレがお前の事を殺してやるよ」
「えっ?どういう意みゅ!!?ぎゅっ!!」
リンはエルムの返答を待たずして、彼女の身体を左手で掴むと動けない様に力を込めて地面に押さえつける。リンの右手には槍が握られていて、その先端がエルムに向けられていた。
「何するつもりです!?離して下さいです!!?」
「いやだからさ、お前の事を殺してやるって言ったんだよ。まぁ心配すんなよ、すぐに終わると思うから」
「い、いい、嫌です!!?死にたくなんてないです!!?すぐに終わるって私の命がですか!!!?」
エルムは死にたくないと逃れようとするが、リンは力を緩めずに離さない。じわじわと槍がエルムに近づいていく。
「じたばたするなって!ほらいくぞっ!」
ガンッ!!
「ひっ!!…………えっ?」
エルムは当たったど同時に目をつぶる。……だが、痛みが来ない事を不思議に思って目を開けると、
「……これ、って?」
エルムには槍が当たっている。当たってはいるのだが、正確には彼女の首についている首輪に当たっているのでエルムは無傷だった。
そして、その数秒後に、
……カシャン。カラン。
何かが外れる音がした。その後に押さえつけられていたエルムが持ち上げられると、彼女の首に掛けられていた首輪は外れて重力に従って地面に落ちた。
「よしっ!上手くいったぜ!」
「えっ?外れ?えっ?なん、っ!?!!?」
外れないと思っていた首輪が外れた事にエルムは驚きを隠せなかった。自分は一生奴隷として生きていかなければならないとリンに出会う前までは思っていたが、首輪が外れた事によってその必要はなくなったのだ。
ただ、あまりにも突然の事なので、エルムはそれを受け入れる事が出来ずにいた。そんな彼女を押さえ込んでいたリンは手を離して、彼女を起こして付着した土を払い落としていく。
「怖がらせて悪かったな。……ても、これでもう、お前は奴隷じゃないから安心しな」
「ど、奴隷、……じゃ、ない?」
「そういう事。死ぬまで外れないなら死んだ事にすればいい。……それで、この槍を使って首輪に死んだ事を認識させてみようとして、それが見事に成功したって訳だ」
リンは先程の死ぬまで外れないという言葉を聞いて、もしかしたら、自分の持っている槍の能力なら外す事が出来るのではないのか?と思ったのでやり方が乱暴になってしまったのだが、彼女の思った通りの事が起きたのだった。
「でもまぁ、……正直言って成功するとは思わなかったし、失敗した時の事は何も考えてなかったけどな」
「そんな確証も無い事を私にしたんですか!?もし私が死んだらどうするつもりだったんです!!?」
……ただ、リンは成功するとは思ってはいなかった様子だったので下手をすればエルムが死んでしまう事もあり得る事を考えていなかったようだ。
「文句言うなよ!外れないと思ってた首輪が外れたんだからさ!死ぬよりはマシだろ!?」
「それは分かってますけど!!死ぬよりはマシとか、あなたにだけは言われたく無いです!!!!」
エルムがそう言いたくなるのも無理は無い。死ぬかもしれない事を他人に対して確証も無い中で行う事は、一般的には絶対にしてはならない。死んでしまっては取り返しがつかなくなるからだ。
更にエルムの事をなだめる為にリンが言った事だが、彼女には全くと言って良い程に……否、全く説得力が無かった。エルムの言葉は自身が知らない所で的を得ていたのだった。
「……でも、首輪が外れて良かったです。ありがとうございましたです」
「どういたしまして、っと。……それとだ。この外れた首輪だけどオレが預かるけどいいか?」
リンは地面に転がっている首輪を拾い上げる。
「構わないですけど、何するつもりですか?」
「街に帰ったら冒険者ギルドに渡しておくんだよ。摘発の手掛かりになるかもしれないからな」
「街に、ですか?」
「そういう事。……あ、エルムも一緒に来るか?」
「はいです。お願いします」
リンはエルムに自分と一緒に来る様に提案し、エルムはそれに躊躇い無く返事をする。
エルムは特に行く宛もなく旅をしていたのだが、今の自分の状態では移動は出来ずにただ野垂れ死ぬだけだと思ったので、リンの提案に乗る事にしたのだった。
「分かった。……とりあえず、この袋の中に入って貰えると助かる。顔は出せる様に開けるからいいか?」
「それは構わないです」
「ちょっと待っててくれよ」
リンはそう言うと袋の口を広げて中身を少し整理すると、エルムを抱き抱えて袋の中に入れる。エルムが荷物に当たらない様に荷物の上に布を敷いて、その上にエルムを乗せて彼女の顔が出る様に袋の口を締める。
「苦しくないか?」
「大丈夫です」
「よし!なら行くか!」
「はいです。お願いしますです」
リンはエルムを落とさない様に荷物を背負うと立ち上がって歩き始めた。エルムを背負っているので落とさない様に、ここに来た時よりは遅い足取りではあるが前に進んでいく。
「……そういえば、何であちこち燃えてたのかが気になったんだけどよ、何か知ってるか?」
「燃えてたのはですね、確か…………、私がここに運ばれて来た時は何とも無かったですが、しばらくしたら悲鳴と何かの叫び声が聞こえたのです。でも、その後すぐに私が乗ってた荷車が壊されて埋まってしまったのです。だからその、…………何が来たのかとか、何が起こったのかはよく分からなかったです」
「そうか。……ん?」
リンはここに来た時に辺りが燃えていた理由をエルムなら何かを知っているだろうと思い、エルムに聞いてみたのだが彼女自信もあまり分かっておらず、答えられなかった。
情報が得られなかったリンはあまり気にしない様にしよう、と思ってそのまま進もうとしたが、足元に何かがあるのに気づく。それは乳白色の欠片状の物で数は幾つかあり、リンの足元に落ちている。彼女はそれを指で摘まんで拾い上げると観察し始める。
「何だこれ?…………何かの卵の、殻?」
「卵の殻ですか?…………あ、思い出したのです!そういえば捕まってた時に卵の話を聞いたのです。手に入れたのはいいけど、見た事が無いからこれは珍しい卵で、高く売れそうだって話を聞きましたのです」
「見た事が無いからって珍しいと決めつけるのはどうかと思うけどな。……でも、魔物の卵だとしても色々と種類があるし、…………う~ん、全然分からん!」
リンは色、材質、厚さなどを何かの卵の殻ではないかと推測していると、エルムは自分が捕まっていた時に卵の話を聞いた事を思い出してリンに話した。
話を聞いたリンは魔物の卵だと推測するが、様々な種類が存在するのでどんな魔物の卵かは判断出来なかった。
──────バキッ!!!バキバキッ!!!ズシーン!!
そんな時であった。木々が薙ぎ倒されて大きな音が聞こえてきたのは。
「何ですか今の音!!?」
「木が倒された音だ!……しかも一本だけじゃない!これは何本も倒された音だ!」
「えっ!!?何本も!!?!?」
「……だとすればそいつはでかい奴だぞ!隠れないとヤバい!!」
リンは近くの茂みに身を隠してやり過ごす事にした。リンの背中にいるエルムも見つからない様にできるだけ頭を低くする。
「静かにしないとバレるぞ」
「分かってるです」
二人が見つからない様に茂みに身を潜め声を静かにしていると、木を薙ぎ倒す音がどんどん大きくなっていて二人に近づいていることが分かる。リンが茂みの隙間から音のする方向を見ているとその視界に先程の木を薙ぎ倒す音を立てた存在が現れた。
「グルルルッ!!」
その存在の特徴は、まずは遠目でも分かる様に大きな岩と見間違える程の巨体。その巨体には身体には燃える様に煌めく赤い鱗があって、口には鋭い牙が何本も生えており噛みつかれたりしたら人間の腕などは簡単に噛み千切られるだろう。また、その口からは時折火の粉が漏れ、火を吐く事が出来ると分かる。更にその巨体を支える四本の脚は太く、難なく身体を動かしている為にその筋力は計り知れない。
「…………おいおい、嘘だろ……何でここにフレイムドラゴンが居るんだよ」
「えっ、フレイムドラゴンって何ですか?」
「見た事無いのか?オレも初めて見るけど、魔物の中でも特に強い奴で、少し前に冒険者から聞いた特徴が全部合致してるんだよ。…………でも確か、フレイムドラゴンは暑い気候を好んでいるって聞いていたから、ここに居るのは多分餌でも求めてきたんだろうな。……ん?待てよ?さっき拾った卵の殻ってのは、もしかしてあいつのか?」
フレイムドラゴンとは、リンが言った通り砂漠などの暑い気候を好み火を吐く竜の魔物で、翼は無いので飛べないがその巨体と獰猛な性格から、冒険者達からは強敵として恐れられている。リンは冒険者ではないので戦いを挑むのではなく身を潜める選択をしていた。
リンは冒険者に対しても商売をしているが、その時の雑談でたまに魔物の情報を冒険者から聞いていたので、フレイムドラゴンの情報を以前聞いた事があったのだが、彼女はその時に聞いた情報の中でフレイムドラゴンの卵についてある一つの懸念事項を思い出して頭を抱える。
「…………ヤバいな?」
「どうしてですか?」
「フレイムドラゴンは卵を産む時期が決まってるって聞いたんだよ。その卵には栄養が沢山あって、市場にあまり出回らないから高値で取引されるんだけど、その卵を守る為に産む時期は只でさえ獰猛な性格が度を増して荒くなるって聞いたんだよ。……今が産む時期でさっきの卵の殻があいつが産んだ卵のだとしたらますますヤバい」
「……それってもしかして、私が話した卵の事ですか?」
「そうだよ。聞いた範囲で話を纏めると、だ……」
リンはエルムから聞いた話と視界に入れているフレイムドラゴン、それに先程拾った卵の殻の状況を思い出し一つの結論に至った。
「……エルムを奴隷として売ろうとしてた闇商売の奴らがフレイムドラゴンの卵に手を出したのはいいが、卵が割れた後にその親が取り返す為にここに現れて暴れて燃やして、その後にオレが来たって所か?」
「……かもしれないです。この場合は早く逃げた方がいいです」
「だな。ならさっさと──」
離れるぞ、と言おうとしたリンだったがそれと同時にフレイムドラゴンの顔が二人がいる方向を向く。
二人は見つかったと思ったが茂みに身を潜めていたのが幸いしたのか、フレイムドラゴンの目には二人は見えていなかった様子で、再び周りを見回し始めた。
「よ、良かったです。私達の事が見えてなかったみたいです」
「全くだよ、寿命が縮むかと思ったぜ。……って、オレにはその寿命が無かったか」
「えっと、何の事ですか?」
「何でもねぇよ」
二人は見つからなかった事に安堵し、いち早くその場を離れようとした時だった。
「グルゥ、グギャァァァァ!!!!!」
フレイムドラゴンが口を開けて炎を吐き、辺り一帯を燃やし始めた。このフレイムドラゴンには鬱憤が溜まっていたらしく、少しでもそれを晴らす為に沸き上がる怒りに身を任せて周囲を焼き払い始めたのだった。
「ちょっ!!炎が来てますです!!?」
「分かってるっての!!!」
炎の勢いが強く、隠れていた二人の場所にも炎が迫っていたのでリンは茂みから飛び出す。その直後に二人がいた所は炎に包まれて、茂みが燃えてしまった。
「……ふぅ、危なかったな。もう少しで火葬されるところだったぜ」
「こんな時に何呑気な事言ってるんですか!!?こっちに来てますよ!!!」
リンが安堵していると、エルムが言っている通りにフレイムドラゴンが二人に迫っていた。そのフレイムドラゴンにはリンが卵を奪った犯人だと思ったようで彼女に狙いを定めたのだった。
「グルルル!!!」
フレイムドラゴンはリンに狙いを定めると、出方を伺う為にある程度の距離を保って立ち止まる。
「あ、ああ、あわわわわわ!!!!!?!?お、怒ってます!!怒ってますよ!!私達の事を見て怒ってますよ!!?」
「オレ達の事を見て盗んだ犯人かその仲間のどちらかだと思ってるんだろうな。……全く、人違いも甚だしいんだよ!!」
リンは冤罪で犯人にされた事に憤りを覚えるが、仮に自分が戦っても死んだりはしないが、エルムに被害が及ぶと分かっていたのでその場から走り出した。
「グギャァァァァァァ!!!」
フレイムドラゴンは逃げたリンを見て自分の卵を奪った報いを受けさせる為に彼女を追いかけ始めた。
「えっ!?逃げるんですか!?武器持ってるのに戦わないんですか!?」
「オレは冒険者でも兵士でもないから逃げるの一択だよ!あんなの相手にしてたら、オレはともかくお前が怪我するだろ!?怪我するのは嫌だろ!?」
「は、はいです!」
「分かったらならいい!落ちないように踏ん張れよ!」
リンは追いつかれない様に走っていった。追いつかれた時には死が待っているので二人は逃げきらなければならなかった。
……既に一人、死んではいるが。
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新しく出したエルムとフレイムドラゴンは纏めて後で設定を載せます。
感想お待ちしています。