変革の時は極まれりです。
今年最後の投稿で、今回は短めです。
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太陽が地平線に沈んだ後にレクトイの街へと戻って来たリン達は、冒険者ギルドの一角でささやかな祝勝会を開催した。形はどうであれ、魔法学院の首席だったセレーネに勝ったリンを祝う為にミシズとガロンドが急遽用意したのだ。祝勝会の場に居合わせた冒険者達が参加して大いに騒がしくなると思われていたが、当事者の四人と一羽で静かに祝って欲しいとギルドマスターのシーアが配慮して冒険者に呼び掛けたので、誰も参加しなかったのである。
その翌日、レクトイの街だけではなくラゼンダ王国全体に衝撃が走る話題が広まった。それは、ディオネス魔法学院の一部の生徒や教師による常習的な不正と、軍の総司令であるドレイクの引責辞任の二つである。その記事に書かれた内容には、その場に居合わせたリン達を除いて誰もが驚愕したのだった。
今まで知らされていたディオネス魔法学院の評価は不正によって成り立っていたのと、それとは別にドレイクの娘であるセレーネが生徒や教師達に彼の名を使って脅迫して思うがままに振る舞っていた。ドレイクはその責任を取る形で総司令の職を下りるのである。
「配達してきたですけど、話の話題は全部それだったです」
「ピィ」
「関わったオレが言うのもあれだけど、大事だからな」
エルムとヒータは配達の業務中に聞いた話の殆どが二つの話題で持ちきりだったと報告すると、それの切っ掛けとなったリンは複雑な心情だった。リンが投じた一石が徐々に大きなうねりとなって最終的にそれらを白日の下にさらしたが、それによって総司令が辞任するまで発展した。しかし、その一石がなかったら今この時も不正などが続いていただろう。
「何か知ってるのか聞かれたですけど、あれしか言ってないです」
「正式な発表があるまでは口外しないように言われてるから、それはしっかり守ってくれ。言ったらオレ達は罰を受けなきゃならなくなる」
「わ、分かってるです」
「ピィ!」
実はリン達は特別直行便に乗り込む際に、正式な発表があるまでは今日の詳しい内容を決して口外しないようにとドレイクの近衛兵から強く言われていたのだ。リンはエルムと共に街の住人から何が起きたのか尋ねられても「口外しないようにと言われているので言えないし、言ったら店を畳むしかなくなる」と言うと決め、ヒータにはその話題を尋ねられても答えないようにと彼女が言い聞かせていたのだった。
また、ミシズとガロンドの二人も同様に近衛兵から言われていたので、彼らもそれに関しては口外しないようにしているのである。
「休憩が終わったらまた配達してくるです」
「ピィ」
「分かった。気をつけてな」
エルムとヒータは休憩した後に配達の業務へと戻るようだ。雑貨屋は時短営業から通常の営業時間に戻し、いつも通りの日常が流れていたのだった。
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それから数日後、ディオネス魔法学院の処遇についての発表がラゼンダ王国の全体に伝えられた。
最初は教師達の処遇である。学院長については常習的な不正を長い間黙認しており、是正などの改善を一切していなかったと判断されて辞任の処分が下された。不正に手を染めていた教師達は不正の量や質によって解雇や減給の厳しい処分が下されたが、その中には処分が下される前に自ら退職を申し出る者や処分に不満を抱いて暴れる者などがいたが、それぞれに適した対応が行われた結果、二度と不正を行わなずに改心すると認められた者を除いて学院を去り、その抜けた穴には臨時に雇われた教師が入った。不正に手を染めていない教師達には処分は下されず、そのまま教育の場に携われるように取り計らわれたのだった。
次にセレーネを除いた生徒達の処遇である。不正に手を染めていた生徒達には教師達と同じように不正の量や質によって落第や留年などの処分が下された。その生徒の多くは受け入れずに自ら退学を申し出る者などが現れたが、こちらも教師達と同じようにそれぞれに適した対応が行われた。その中には反省してやり直すという改心する者も少なからずいた。不正に手を染めていない生徒達には、その教師達と同様に処分は下されず、再び学びを受けられるように取り計らわれたのだった。
また、教育体制の改革も同時に行われた。常態化していた生徒の親から学院への寄付の有無による成績の評価は当然ながら廃止され、魔法の実力に応じた成績が評価されるように体制が整えられた。それによって寄付金は激減したが、厳重な管理体制によって横領などはされずに共用施設の整備費などに使用されるようになった。
成績の評価がやり直された事によってクラス分けが行われたが、上位のクラスに所属となったからといって下位のクラスを見下したりしないようにする規則なども設けられた。それによって今まで成績が低く評価されていた生徒達はやる気が上がり、成績が高く評価されていた生徒達は自身の本当の成績を知って努力をするなど、互いに切磋琢磨するようになっていった。
セレーネに対する処遇だが、両親の働きかけによって彼女は退学処分が下されて学院を去り、更生として王国では色々と有名な修道院に入れられた。その修道院がどのような理由で有名なのかというと、筋骨隆々の院生達が毎日礼拝という名の筋トレをしている、入った時は不健康だった身体が数ヶ月後には健康的な肉体美を持つ身体へと変貌している、食事のメニューが全て筋肉をつける内容になっているなど、もはや修道院ではなく筋トレの施設と言っても過言ではない。しかし、素行が悪い者が入院して数ヶ月後には改心しているなどの実績があるので、セレーネの曲がってしまった精神を叩き直して貰おうと入院させたのだった。
ちなみに、その修道院の院長とリンは知り合いであり、彼女が商売をしている中で院長との繋かったのである。高齢でありながらも筋骨隆々の肉体を持つ院長は常日頃から、
「健全なる精神は、健全なる肉体に宿るのです」
と口にしているが、それを聞いたリンは言葉の意味の捉え方は人それぞれだと、改めて考えさせられたのであった。
そして最後に、ラゼンダ王国の軍の総司令だったドレイクはというと、後任の総司令に引き継ぎをした後に妻のミレーユと共にディオネス魔法学院の様々な改革の監査役としての立場に就いた。ミレーユはリハビリを兼ねてではあるが、無理のない範囲でドレイクの仕事を共に行い、娘が犯した過ちを償っていったのである。
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ある日、リンは一通の手紙を持っていた。
「何を読んでるんですか?」
「ピ?」
「オレ宛の手紙だよ」
手紙の差出人はディオネス魔法学院の生徒達であり、セレーネとの決闘の前にリンを止めようとした生徒達だ。リンはエルムとヒータと共に手紙に目を通していく。
「……学院の環境が良くなったみたいで安心だ」
その手紙には良い環境に変わったディオネス魔法学院についての近況が、生徒達の近況と共に書かれていた。彼らを見下していた生徒達の元に学院に残った者だけが謝罪に訪れ、それを受け入れて和解したのだった。彼らは今、その生徒達と共に学び合って切磋琢磨しているとも書かれている。
そして、手紙の最後にはリンがセレーネに立ち向かう姿を見て勇気が出たなど、決闘の時のリンの行動に心動かされた生徒達から感謝の言葉が書かれている。それを見たリンは、生徒達はこれから起こるであろう困難に直面しても立ち向かっていけるだろうと安心したのだった。
「オレ達も頑張るか」
「はいです!」
「ピィ!」
リン達はそんな彼らに負けないように、雑貨屋の各々の業務を遂行するのであった。
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次は勇者の話を投稿する予定です。あくまでも予定ですので変わるかもしれません。




