出会いは突然です。
纏まってるようで纏まってないかもしれませんが書きました。
12月17日 行間や誤字などを修正
12月22日 行間や誤字などを再修正
2019年8月1日 一部修正
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まだ辺りが薄暗い明け方にリンは目を覚ました。自分の周りを見て荷物を確認し、昨晩は何も入って来なかった事が分かると仕掛けていた物を外す。それらをしまうとすぐに山小屋を出て歩き出した。
山小屋を出た彼女は近くの川辺に来ていた。目的は二つあって、一つは飲み水の確保。どんな時でも水は貴重品となるのでそれは生命線と言っても等しい。……死んでいるリンに生命線は無いが。
そしてもう一つは、
「……沢山歩いたからあちこち汚れてるな」
身体に着いた汚れを水で洗い落としていた。山道を歩いてきたので所々が汚れていたので何処かで洗おうと考えていた最中で川を見つけ、ちょうどよく水が流れ込んで溜まっている場所を見つけたので今は下半身を水に浸かりながら洗い落としている。
……水に浸かりながら身体を洗うのでリンは当然裸になる。リンの身体は出る所は出ていて引っ込む所は引っ込んでいるという豊満な体つきで、他の女性からすれば羨ましがられる事が多いだろう。身体の至る所に傷がある事を考慮しても、それはそれで魅力的に感じる者もいると思われる。
ただ、今彼女がしている行動は辺りに人の目は無いが、かなり無用心な行動なので普通なら気が引けるので入ろうとはしない。しかし、彼女はあまり気にしておらず、服を全部脱いで入っている。
「あーもう、髪の毛切りてぇよ。……切ったら切ったで元に戻るだけなんだよな、まったく……」
リンは髪を洗いながら呟く。リンの髪は肩甲骨辺りまで伸びているので普段は首の後ろで一つに纏めているが、彼女は短くしたいと思っている。だが以前短くするために自分で切ってみたが、切ったそばから再生し元の長さに戻ってしまった。また、誰かに切ってもらったりもしたがその時も同様の事が起こったので、それ以来髪は切っていない。放って置いてもそれ以上に伸びる事は無いのでそのままにしている。
その原因は彼女が持っているスキルにあるのだが、彼女自身はそれを理解しているのでどうしようもないと分かってはいた。
洗い終わると濡れた身体を拭いて、着ていた服に着替え直す。荷物の方はというと、洗いながらも見ていたので心配は無い。
「ふぅ、さっぱりした」
そして荷物を背負うと再び歩き出した。
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山道を歩いている途中でリンはふと立ち止まる。少し前から誰かの視線を感じていたのだ。それも複数だったので出方を伺う為に、あえて気付かない振りをしていた。
「……おーい、いつまでそうやってるつもりだよ?こっちはとっくに分かってるんだよ」
「……ちっ、バレてたのか」
リンが周りに聞こえる様に言うと五人の男が取り囲む様に現れた。彼らは各々に武器を持ち、汚い笑みを浮かべながらリンが逃げられないように取り囲んでいく。
「おいおい嬢ちゃん、一人でこんな所を歩いていたら危ないぜ。俺達と一緒に来いよ」
「そうそう、あと出来ればその荷物持たせてくれよ。重そうだしな」
「いい身体してんなー、俺達といいことしようぜ!」
「ギャハハ!気が早ぇよお前!!」
男達は口々に言葉を発していく。リンは男達の身なりと行動、それに言動から彼らが盗賊である事を察した。
リンは盗賊に会う事は初めてでは無いので、この手口の盗賊も過去に何度か会っている。……ただ、気分がいい物ではないし、ましてやこの様な類いは彼女を人として見ていないので嫌いだった。
リンは男達の言っている事を適当に聞き流しながら、手に槍を持つ。あくまでも追い払う為であって殺すつもりはない。男達に向けているのも槍の切っ先ではなくその反対側を向けている。
「やるってのか?こっちは五人だぜ?」
「少し痛い目見ないと分からねぇようだな!やるぞ!!」
男達はリンがおとなしく言うことを聞かない事が分かると捕まえる為に一斉に向かっていった。
「おらっ!!」
「ぐぶぅ!」
……だが、その動きは読みやすい物で連携も取れておらず各々が我先にリンに向かっているので隙だらけだった。真っ先に一人が柄の部分で顔を殴られて動けなくなる。
「何やってんだよ女一人に!?」
「おとなしくしやがれ!!」
一人が隙を見て切り掛かるが難なく槍の柄で受け止められる。二人は鍔迫り合いになっていて、リンが押されている状況だが、
「よっと」
「え?ぐはっ!!」
リンが右に避けるとその男は体勢を崩し倒れそうになる。倒れない様に踏ん張ろうとしたが、その隙に背中を殴打されて地面に倒れ伏す。
「このやろっ!!」
ザンッ!!
別の男が振った剣がリンの顔を切り、大きな傷を付ける。その事に他の男が慌てて叫ぶ。
「おい馬鹿っ!顔に傷付けてどうする!?売る時に価値が下がるだろっ!?」
「別にいいだろうがよ!この際、傷の一つや二つくらいは!!」
「……おい。な、何か変だぞ?」
彼らはリンの事を見つけた時に弄んだ後で売り飛ばそうと話し合っており、それを実行するために現れたのだが、顔に傷が付いてしまっては売る時に価値が下がってしまうし、下手をすれば売れなくなる事に焦っていた。
だが、顔を切られたのに全く痛がらない彼女を見て一人の男が疑問を抱く。更に顔を切った筈なのに何故剣に血が付いていないと思った時にリンが男達に顔を見せる。
「……オレにはこんな傷はどうって事はねぇけど?」
「「「ひっ!」」」
リンが喋り出した事に驚くが、更に驚いたのはその顔の傷がみるみるうちに塞がっていき、あっという間に先程の剣で出来た傷が無い顔になった事だった。その顔を見た男達はある事を察して恐怖に震え上がる。
「……あ、アンデッドだ!ま、魔物だ!!逃げるぞ!」
「ひぇぇぇ!!!??逃げろーー!!??」
「おい待てよっ!こいつら置いて行くなっ!!」
リンがアンデッドである事が分かると彼女を魔物だと言って、男達は一目散に逃げ出した。彼らは魔物に対しては戦った事はあまり無く、勝てたとしてもそれはとても弱い魔物ばかりだったので実力がつかなかった。勝てないと分かるとすぐに逃げ出す事が多かったのだ。
ただ、逃げる際には倒れていた仲間を担ぎ上げていった。逃げたと分かったリンは槍をしまう。普通ならこの後は安堵の表情を浮かべるだろう。
……だが、彼女は複雑な表情を浮かべている。それは先程の男の発言に対してだった。
「……ったく、オレは魔物じゃねぇっての」
リンは吐き捨てるように言った。彼女は亜人で種族はアンデッドだが、それは暫定的な措置であって正式な物ではない。
レクトイの冒険者ギルドによって保護された彼女は、その街では今でこそ亜人として受け入れられているが、最初はやはり魔物だと思われていたので、露骨に嫌がられたり心無い言葉を掛けられたりもした。
中には冒険者ギルドに討伐依頼を出してその依頼に莫大な報酬を出す、などの度が過ぎる事をする者もいた。……ただ、その者にはすぐに冒険者ギルドから厳しい処分が下されたが。
他の街では彼女の事を知る者はあまりいない。アンデッドは魔物だと思われる事が多いので先程の男達の反応は間違いではない。だがそれは彼女に対しては正解ではない。男達があの様な反応をしたことは彼女自身分かってはいるのだが、どうにも気分が晴れなかった。
「……あーあ、もう!!やめだやめ!!考えても無駄!!さっさと行く!!」
リンは投げやりになりながらも考える事をやめて、山道を再び歩き始めた。……先程の事でイライラしている様でその解消の為だと思われるが足を大きく踏み鳴らしながら歩いていった。
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「…………なんだこれ?」
そこは山の中の開けた場所、リンはそこにいた。山道を歩いていた彼女は遠くから見えたので、そこで休憩しようと思い歩いていたのだった。遠くから見た時には煙が上がっていたがこの時までは誰かが火を焚いていると思っていた。
……しかし、いざこの場所に来てみると異様な光景が広がっていた。木々は薙ぎ倒されていて、草花は焼け焦げ、地面がえぐられたように削り取られていた。更には木材の破片や布の断片も所々に散らばっていて、大小様々な人工物もあったのでリンは訳が分からずにそう呟く事しか出来なかった。
また、それらは比較的時間が経っていない事が伺える。何故ならばまだあちらこちらに火の手があり、燃えている途中だったからだ。
「……どうなってるんだよこれは?」
自然の中で魔物との戦いがあると周りにその爪痕が残る時はある。だが、ここまで大きく真新しい戦いの爪痕が残っているとすると原因を作り出した元凶はまだ近くに存在する可能性がある。嫌な事が起きる前に離れようかと思っていた時だった。
──────!!
「ん?」
リンは何かの物音が聞こえたので振り返る。だが、声の主の姿は見当たらない。
「誰かいるのか?」
─────す!!──てくだ─!
先程よりは微かではあるが誰かの声が聞こえた。だがやはり声の主の姿は見当たらない。ふと見渡すとバラバラになった木材などが山積みになっている所を見つけた。
「……そこに埋もれてるのか?ちょっと待ってろ!」
リンはそこに向かい、目の前に立つと木材などを崩さない様に少しずつどかしていった。幸いにも一つ一つが大きかったので隙間が出来ており、そこの下に声の主が埋もれていると分かった。
それが終わると、そこには布に覆われている何かがあった。布は上に乗っているだけなのでそれを取れば先程の声の主が分かる。
「大丈夫か?取るぞ?」
彼女は中に居るであろう声の主に声を掛けた。しかし、返事は無い。気になったので布を取るとそこには、
「……ひっ!だ、誰ですか!?」
リンの腕の半分程度の背丈しかない少女がいた。大きな鳥籠に入れられた状態だったので怪我はないが、食事をあまり取っていないのか少しやつれた様子が伺える。
そして、少女の首には首輪が付いている。独特な模様があるこれは少女がある事を示していた。更に背中には蝶の様な羽があった。
「その羽って、……お前フェアリーか?それと、こんな事聞くのは悪いが、……その首輪って奴隷の首輪だろ?」
「は、はい。……そうです」
少女は力なく答える。少女はフェアリーと呼ばれる亜人の種族だった。
フェアリーとは、大人の人間の腕の半分程度の背丈しかなく羽があるので飛ぶ事が出来る種族で、目撃されている情報は殆どなく、魔法を使う事が得意な種族であると、リンはそう思っていた。
……そして少女は、その首輪が示す通りに奴隷として捕まっていたのだった。
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出来れば感想待ってます。