警備員の仕事は四六時中です。
思ったよりも時間が掛かりましたが、書き終わりました。
本当は勇者の話を投稿するつもりでしたが、こちらが先に書き終わったので投稿します。勇者の話は書き終わり次第、この話の前に割り込み投稿します。
追記 2022年7月9日にこの話の前に勇者の話を割り込み投稿しました。
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ある日の朝、太陽が地平線からようやく顔を出し始めた頃にリンは目を覚ました。彼女は目を開けた時、視界一面が真っ赤に染まっていたのである。
「……またか」
リンは自分の視界を塞いでいる存在の正体は分かっていたのでそれに右手を伸ばして掴み、見える所まで持ち上げた。
「……クー……、……ピィ……」
リンの視界を塞いでいた存在というのは、平べったくなって寝息を立てている赤い文鳥のヒータだった。彼は握られていても起きる様子は少しも無かった。
ヒータは首を後ろに回して身体を丸くしたり、平べったく伸ばしたりなどの体勢でリンの顔の何処かに乗って寝る事が時々あるのだ。リンの部屋の机の一角に、ヒータの居場所としての簡易的な鳥小屋を置いているにも関わらずである。理由を問い詰めても彼は首を傾げて全く分からないと言っているようであった。
「……くー……、……すー……」
「……クー……、……ピィ……」
「オレはベッドじゃないって言ってるのに、でもなぁ……」
ヒータだけではなくエルムもリンの身体の上で寝ているのだ。ベッド扱いされるのは嫌だが、自分に身を預けて寝ている一人と一羽の安らかな表情を見て、なんとも複雑な感情を抱くリンは無ければ無いで寂しさを感じているのだ。
「……さてと」
このまま目を閉じて再び寝ても良いと思い始めた。今日は雑貨屋は休みだからである。……しかし、リンにはいつまでも寝ている訳にはいかない理由があり、起きなければならなかった。
右手でヒータを掴んだまま、左手でエルムを掴んで自分から離すと身体を起こし、ベッドから立った。そして彼らをベッドに並べて寝かせると毛布を掛け、朝食の準備の為に寝室から出ていった。
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バーサーカーコングの撃退作戦の後、バウズ商会は清算人が選出されて財産の清算や従業員の解雇などの清算業務が行われたが、会長であったドルグの長年に渡る不健全な経営によって、資産よりも負債の方が圧倒的に多く、資産を売却しても債務超過になるのは分かり切った事であった。清算業務が行われている事を知った債権者達は、バウズ商会に対する債権の回収は不可能だと諦め、全ての債権を放棄した。
……ちなみに、バウズ商会の建物のドルグの部屋にあった豪華な装飾は、バーサーカーコングを街に誘導するように彼が依頼した傭兵達が代金として根こそぎ剥がし取り、持ち去っていたのであった。
また、彼らはバウズ商会の元従業員達には債権などを一切請求しないと確約し、それぞれが誓約書にサインしたのだった。他にも様々な清算業務が行われた後にバウズ商会は正式に解散となり、建物は取り壊されて更地となった。
多くの者から煙たがられていたバウズ商会は、こうして消滅したのだった。それを悲しむ者は皆無で、中には不謹慎ながらも祝杯を上げる者も居た。
商売敵であったリンはというと、バウズ商会が居なくなって商売がし易くなったと喜ぶと同時に、自分はそうならないように注意をしなければと、気を引き締めて仕事に取り組んでいった。バウズ商会が消滅した事で必然的に自分の店の売上が多くなって儲けが多くなると思っていた。
先日の魔力回復薬1500本の代金の金硬貨15枚はというと、冒険者ギルドが冒険者達からクエストの依頼料から天引きで徴収し、リンはそれを受け取った。魔力回復薬1本を銀硬貨1枚という特別価格で販売したので損をした金額は大きいが、これからの商売ですぐに補填は可能だろうと考えていたリン。……しかし、それが甘い考えだったと深く後悔したのは、それから数日経過してからだった。
「リンさん。今日はお店は休みですけど、何するんですか?」
エルムとヒータが起きた後に朝食を済ませた二人と一羽。傍らで嘴を使って羽繕いをしているヒータを横目に今日は定休日なので何をするのか尋ねたエルムだが、リンは浮かない顔をしていたのだ。
「……それなんだけどな、オレは今日やらなきゃならない事があるから、エルムとヒータで自由に過ごしてくれ」
「え?」
「ピ?」
せっかくの休日にも関わらず、リンは訳あって仕事をしなければならなかった。ヒータは羽繕いを止め、リンに顔を向ける。
「……それって、この前に話してた事ですか?」
「そうだ。予算とか販売とかの計画をあれこれ見直さなきゃならなくてな。……被害はある程度予想して、注文の受付は一旦止めたのは良かったけど、流石にこれはオレも想定外だったな」
リンが休日を返上してでもやらなければならない事とは、予算などの経営計画の見直しである。彼女がそれをしなければならないのは、ドルグとフィテルの親子が引き起こした先日のバーサーカーコングの騒動が起因していたのだった。
「……メディス製薬が扱う人気の化粧水、『潤いの雫』という売れ筋の商品が仕入れられなくなったのは痛手だな」
「そうですね。配達の時に大丈夫なのかって聞かれたです」
「ピィ」
「そう言われても、大丈夫じゃないとしか答えられない……」
レクトイの街に二体のバーサーカーコングが迫ってきたのは記憶に新しいが、彼らはその道中にあった建物などを完膚なきまでに破壊し尽くしたのだ。しかし、山と見違える程の巨体と移動の際の地響きのような足音で、バーサーカーコングの接近に気づいた人々は逃げたので死傷者は出なかったが、その破壊された建物などの一つにメディス製薬の工場が含まれていた。
そこは『潤いの雫』という名の化粧水を製造している唯一の工場であった。原料となる植物の実から絞り出した液体を元に製造されたそれは人気が高い商品で、リンも仕入れて扱っている商品である。メディス製薬と取引している彼女は少し前に『潤いの雫』を多めに仕入れる計画を立てていて資金の準備などを行っていたが、つい先日になって担当者から、それを卸せないという連絡を受けたのだ。
リンはバーサーカーコングの騒動による影響を予想して、輸送路などの状況の確認が取れるまで注文の受付を一時的に止めていたのである。確認が取れた取引先から順次再開していたが、メディス製薬に確認を取った時に先述の連絡を受けたのであった。
「製造の再開は目処が立たないって言われたしな……」
「……でも、工場ならすぐに建て直せられるから大丈夫じゃないんですか?」
「オレもそう思ったんだが、原料の植物を育てている畑とか生産に関わる物がバーサーカーコングに破壊されて全滅だって聞いたんだ。そうなると、販売再開までの期間は一年とか二年じゃ済まないな」
工場は破壊されても建て直せば良いだけだが、原料となるとそう簡単にはいかない。原料の植物を育てる畑も工場と同様に破壊されたのだ。また、畑に植える前の苗や収穫した植物の実を保管する倉庫などの施設も破壊され、植物を育てる全ての畑の土は丸ごとひっくり返されて生育途中の植物は全滅した。それによりメディス製薬は大きな被害を受けたのである。それを聞いていたリンは『潤いの雫』の販売が再開されるにはかなり時間を要すると推測した。
当然の事ながら、メディス製薬はドルグとフィテルに損害賠償を請求した。工場の再建に要する費用や得られる筈だった売上の補填などの様々な賠償を二人に求める訴えを起こし、彼らには途方も無い金額をメディス製薬に支払う判決が下されたのだった。
「……ったく。あいつら、本当に余計な置き土産しやがって」
リンは頭を抱えながら、これからしなければならない事と払わなければならない費用などを考える。二人が起こした騒動がこれ程までに自分に悪影響を及ぼすとは思ってもいなかった彼女だが、そのまま何もしない訳ではなかった。
「今日が休みで良かった。仕事しながら予算の見直しなんて、どっちつかずになる。今日中に終わらせてやる」
「あの、私達も何か手伝いたいです」
「ピィ」
「その気持ちは受け取っておくよ。これはオレの仕事だから、今日はゆっくり過ごしてくれ」
雑貨屋の業務と並行して予算の見直しを行うとそのどちらも思うように進まなくなると思ったリンは、今日が定休日で良かったと安心する。エルムとヒータは手伝いを申し出るが、リンは彼らの気持ちだけを受け取ると、休日を過ごすように促したのだった。
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エルムとヒータは街の図書館で一緒に本を読んだり、喫茶店で注文した料理を分け合って食べたりなど、ゆっくりと休日を過ごすと雑貨屋へと戻ってきた。
リンの経営計画の見直しの作業はというと、ある程度の形になるまでは終わったようであり、残りは細かい修正を加えれば完了する所まで進んだ。
エルムとヒータは休日を返上して仕事をするリンに何か力になれないかと考えて、焼き菓子のチーズタルトを差し入れとして買ってきた。二人と一羽は少しの時間だが、楽しい時間を過ごしたのだった。
ちなみに、ヒータはその見た目からは信じられない雑食性であり、普段は鳥用に作られた餌を食しているが、その食性から宴会の時のステーキなども見ている方が気持ち良いと感じる程の食べっぷりである。
その後、リンは予算の見直しの詰め作業の為に部屋に戻り、エルムとヒータはというと二階の部屋の出窓の近くに座っていた。
「日差しが温かいです~」
「ピィ~」
一人と一羽は太陽の光を顔を向けて浴びてくつろいでいる。心地良い陽気に彼らは癒しを得ていた。
「ふぁ~……」
太陽の光を浴びるエルムは眠気に誘われてあくびをする。それにつられてヒータもあくびをする。
「……眠く、なってきた、……です」
「ピ?」
眠気が強くなってきたエルムの目が閉じようとし、彼女の身体が左右に揺れ始める。それを見たヒータは立ち上がった。
「ピィ」
「……ヒータ、温かく……て、気持ち……、……くー……」
眠気によって左に倒れるエルムを、ヒータは彼女の左側に跳ねて移動して自分の身体で受け止める。日差しの温もりとヒータの羽毛の柔らかさに心地良さを感じたエルムは、意識を手放して眠りについた。
「……クー……、……ピィ……」
自分に身を預けてくるエルムから聞こえる寝息に安心したヒータは、彼女と同じように眠りについたのだった。
しばらくして、リンがエルムとヒータの様子が気になったのか、その部屋にやってきた。
「おーい、何やって……なんだあれ?」
一人と一羽が居る部屋に来た筈のリン。エルムは出窓の近くで寝ているのがすぐに分かったが、寝ている彼女が寄り掛かっている赤い何かが気になった。
「……って、ヒータか」
赤い何かが気になったリンだが、そこから伸びる同じ色の尾羽を見て、それが身体を丸くしたヒータであると分かったのだ。彼はクッションのように丸くなってエルムを受け止め、彼女に寄り添って寝ている。
「さて、もうひと踏ん張りだな」
なんとも微笑ましい一人と一羽の様子に、彼らを起こさないように静かに扉を閉め、作業に戻っていった。
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エルムとヒータが寄り添って寝ている和やかな雰囲気に包まれた部屋に、どうやら不穏な存在が侵入していたようだ。
「……クー……、……ピ?」
その不穏な存在を察知したヒータは目を覚ました。自分でもなく、寄り掛かっているエルムでもなく、別の部屋で作業をしているリンでもない何者かが、この部屋にいつの間にか侵入していた事を察知したのである。
「………」
今のヒータはエルムが寄り掛かっているため、方向転換が出来ない。頭を動かせる範囲で部屋を見渡しても何者かの姿は見えなかった。……しかし、はっきりと誰かがこの部屋に居る事をヒータは察知したのだ。
─────間違いない、エルムを狙ってる。
何者かの狙いはエルムだという事もヒータは察知する。その者は姿は隠せても、悪意は隠せていないようで、彼はエルムに迫る悪意を感じ取ったようだ。
─────こんな時は、リンに教えて貰ったあれをやろう。
実はヒータはリンからある事を教わっていた。それは今のように自分が動けない状況でエルムに危機が迫っている時に、それを周囲に知らせる手段だった。安らかに眠っているエルムを起こしてしまうのは申し訳無いとヒータは思ったが、今迫っている悪意から彼女を守るには、この方法しか無かったのだ。
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「ひゃっ!?」
ヒータは甲高い声を上げ、叫ぶように鳴き始めた。小さい文鳥が出しているとは思えない程の大音量であり、周囲に響いている。彼のすぐ近くに居たエルムは、その音量に驚いて飛び起きた。
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「えっ!?え、えっ!!?ど、どうしたんですか!?」
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「ヒータ、落ち着いてくださいです!」
エルムはヒータが大音量で鳴き続けている事に驚いている。何かに驚いてそうなったと思ったエルムは落ち着かせようと宥めているが、ヒータは鳴き止む気配は無い。
「ピーッ!!ピーッ!!ピーッ!!」
「エルム!無事かっ!?」
「リンさん!?ヒータが!」
階段を駆け上がる足音が聞こえた後に、リンが部屋の扉を勢いよく開けて入ってくる。その勢いのまま、エルムに近寄ると彼女を守るように抱き寄せた。
「ピーッ!!ピッ!?」
「ヒータ、もう大丈夫だ」
「あ、あの、ヒータのこれって……」
「少し前にオレがヒータに教えた手段だよ。……まさか、こんなに早く使う事になるとはな」
リンはヒータの頭に右手を乗せると、彼は途端に大人しくなった。大音量でエルムに迫る危機を知らせるヒータを静かにさせるには、彼の頭の上に手を置くだけだ。
エルムはそれを見て、彼女に危険が迫っている事をヒータが周囲に知らせる手段を、リンが彼に教えていたのを思い出した。リンはというと、万が一の為に教えていた手段を数日の間に使う時が来るとは思ってもいなかったが、教えておいて良かったと安堵する。
「……って、誰も居ないぞ?」
「ピィ!ピィ!ピィ!」
リンは周囲を見渡すが、彼女が怪しいと思う人物の姿は見受けられない。しかし、ヒータは何かを伝えようと鳴き声を上げて訴え続けている。
「……もしかして、そいつは姿を隠してるのか?」
「ピィ!」
自分達以外に誰も居ないのに何かを訴え続けているヒータの様子を見て、リンは怪しい人物は姿を隠しているのかと尋ねると、彼は頷いた。姿が見えないとなると、相手の動きなどが読めない為に、リンは警戒心を最大まで高める。
「リン!何かあったのか!?」
「エルムちゃんは無事なのか!?」
「今はその確認中だけど、エルムは無事だ!」
ヒータの大音量の鳴き声を聞いた街の住人達が店の外から声を掛けてくる。リンは彼らにエルムの無事を知らせる。リンは街の住人達にヒータが大音量で鳴いた時にはエルムに危険が迫っている時だと事前に知らせていたからだ。
「姿が見えないとなると、どうするかだな……」
「ピィ!」
「ヒータ、どうした?」
姿が見えない相手にどう対処すれば良いかとリンが頭を悩ませていると、ヒータは鳴き声を上げると翼を広げて飛び上がる。
「ピィ!ピィ!」
ヒータは部屋の一つの場所に移動すると、滞空しながら頭を上下に振っている。
「……ん?そこかっ!」
身振りで自分の下に何かある事をリンに伝えているヒータ。そんな彼の思いを読み取ったリンは、その場所に右手を伸ばす。
「変な所で止まったです!」
「ここに居たかっ!動くなよっ!」
普通ならば右手は床に当たるのだが、床には当たらずにあり得ない場所で止まる。その不思議な現象に姿を隠している怪しい人物の居場所を突き止めたのだ。居場所がばれて逃げようとする怪しい人物をリンは押さえ込む。
「失礼します!不審者の通報を受けて参りました!」
ヒータの大音量の鳴き声を聞いた街の住人の通報を受けた数人の兵士が部屋になだれ込んできた。
「……で、その不審者はどちらに?」
「ここだ!オレが右手で捕まえてる!」
「姿が見えないんですけど、ここです!」
兵士に怪しい人物の居場所を問われた二人は、姿を隠している事を交えつつ、その者の居場所を彼らに伝える。
「分かりました!」
「観念しろ!」
兵士は二人が示した場所に近づくと何かを掴む。そして、それを思いっ切り引っ張った。
「きゃあっ!」
女性の悲鳴が聞こえたと思ったら、一人の女性がそこから姿を現した。そして、何かを掴んだ兵士の手には一枚の灰色の薄い布が姿を現した。
「お前っ!何故このような事をしている!?」
「……ん、これは?」
兵士が女性に尋問しようとしていると、灰色の薄い布を持っている兵士がそれの正体に気づいた。
「これはステルスフィルムだな!何故これをお前が持っている!?」
「何だと!?それは本当か!?」
灰色の薄い布がステルスフィルムという魔道具だという事が分かると、兵士達は騒がしくなる。
「ステルスフィルム?それって何ですか?」
「それは確か、魔力を流して覆った物を透明にする薄い布の魔道具だな。……でも、所持するのに許可が必要で、使用するのにも魔道具評議会に逐一申請を出さないといけない物だし、販売する方にも厳しい制度があるから、オレは扱わないって決めてる物だ」
聞き慣れない物の名前を聞いたエルムに、リンは自分が知っている情報を伝える。
ステルスフィルムとは、使用者の魔力を用いてそれに包まれた物を透明にする魔道具である。その作成者は誘拐などの犯罪に悪用されるのではと考え、魔道具評議会と呼ばれる機関に対して所持には許可が必要とし、使用する度に申請しなければならないなどと厳しい制度を設けるように進言し、評議会もその考えを汲み取って所持と使用などにかなり厳しい制度を設けたのだった。
雑貨屋を営んでいるリンはステルスフィルムの事は知っていたが、販売する側にも厳しい制度があるのも同時に知っていたので、自分の店ではそれを扱わない事にしているのだ。
「何故これを持っているか聞いているんだ!」
「使用の許可の申請は当然していないだろうな」
「わ、わわ、わっ!?」
兵士達は女性に尋問をしているが、彼女は慌てふためている。
「ピィ!ピィ!」
「ヒータ、こいつか?」
「ピィ!」
ヒータが女性に対して威嚇を続けている事に、リンは彼女がエルムを狙っていたのだと気づいた。
「わ、私は何もしてませんっ!」
「ステルスフィルムを現在進行形で持っている奴が何を言っているんだ?」
「そうだ。それの無許可の所持の現行犯でお前を拘束する!」
女性は自分は何もしていないと否定したが、ステルスフィルムという所持に許可が必要な物を無許可で持っているという動かぬ証拠があるので、彼女は現行犯で拘束された。
「私の話を聞いて下さいっ!私はエルムちゃんを守りたかっただけなんです!」
「エルムを……、ん?」
「どうかしましたか?」
エルムを守りたかったと聞いたリンは、その女性に見覚えがあるようだ。
「確かあの時に居たな……、この前の宴会でヒータを紹介した時に、警備員に名乗り出てた冒険者の一人だ」
「あ、そう言われてみれば居た気がするです」
「ピィ」
先日のバーサーカーコングの撃退作戦の後にリン達は冒険者ギルドが主催した宴会に招かれ、その際にヒータをエルムの専属警備員として雇った事を話した時に数人の冒険者が警備員に名乗り出ていたが、目の前で拘束された女性がその内の一人だった事を思い出したのだ。エルムもヒータもそれを思い出した。
「リンさん!どうしてそんな鳥をエルムちゃんの警備員にしたんですか!?私の方がエルムちゃんを守れるのに……」
「そんな鳥じゃなくてヒータだ。それに、オレの店だから誰を雇おうが文句を言われる筋合いは無いな。エルムを守りたいという気持ちはありがたいが、それで法を犯す奴を雇いたいとは微塵も思わないね」
女性はリンがヒータをエルムの警備員として雇った事に不満があってリンに対してぶつけるが、この店の様々な事柄の最終決定権は店長である自分にあり、誰を雇うかは自分に決める権利があるので彼女は言い返す。
そして、エルムを守りたいという女性の気持ちは嬉しいと思うリンだが、犯罪に手を染めてまで守って貰いたいとは思っておらず、そのような人物を雇うつもりは無いと言ったのだった。
「……で、なんでこんな事したんだよ?」
「それは……」
リンは何故このような事をしたのか問い詰めると、女性は観念したようで話し始めた。
女性は雑貨屋の窓にエルムが居るのを目撃すると、秘密裏に購入したステルスフィルムを使って雑貨屋の入り口から侵入してエルムを連れ去り、それをヒータの失態にしてリンに彼を解雇させ、代わりに自分がそこに入ろうと目論んだ。実際に侵入までは出来たのだが、ヒータが女性の悪意を感じ取って周囲にいち早く知らせた為に、それは脆くも崩れ去ったのだった。
「それを聞かされて、尚更雇いたいとは思わないな」
「ヒータは私の大切な仲間です!そんな事を言う人は、大嫌いですっ!」
「ピーッ!!ピーッ!!」
「そ、そんな……」
リンは女性の思惑を聞いて表情には出ていないが、声には怒りを滲ませていた。エルムはヒータを自分から引き離そうとし、排除しようとした女性に対して怒りを露わにする。ヒータも同様にエルムを連れ去ろうとした女性に対して、全身の羽毛を逆立てながら甲高い鳴き声を上げて怒りを露わにする。自分が守りたい存在のエルムから怒りをぶつけられた女性はショックを受けて呆然とした。
「これ以上は何も話す事は無いから、連れてってくれ」
「分かりました。誘拐の未遂の現行犯も追加して、あなたを連行します!」
女性はエルムを守りたい一心でこのような事をしたのだが、結果的に罪を重ねてしまっただけだった。ステルスフィルムの無許可の所持と誘拐未遂の現行犯で彼女は連行されていった。
「ヒータ、オレが教えた方法でエルムを守ってくれてありがとな」
「ありがとうございますです」
「ピィ!」
彼らが去った後にリンはヒータを手に乗せると、彼の頭を撫でながら礼を言う。エルムもヒータの側に寄って礼を言う。
「ははっ。ヒータ、すごくボサボサになったな」
「これだと本当に毛玉です」
「ピィ、ピィ」
今のヒータは全身の羽毛が逆立った状態であり、見る方向によっては大きな毛玉に見えなくもない。ヒータは元に戻そうと足で顔を掻いたり、嘴を使って羽繕いをしている。
「ヒータ、お礼に羽繕いしてあげるです」
「ピィ!」
「そうだな、それはエルムに任せる。オレは片付けの途中だったからな」
「私はブラシ取ってくるです」
「戻ってくるまでまで、オレは待ってるから」
エルムはヒータに羽繕いをする為にブラシを取りに行く。エルムが戻ってくるまでリンの手の上でヒータは待ち、彼女が戻ってくるとヒータは少し前まで昼寝をしていた場所へと移動して、羽繕いを受けたのだった。
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