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心証形成の材料は言動です。

今回は全てではないですが、伏線回収の話です。

============


リンは新たにヒータを従業員として雇い、エルムと共に自分の手の平に乗せて、夕日に包まれているレクトイの街を歩いている。



「騒がしかったですけど、静かになりましたですね」

「ピィ」

「バーサーカーコングが素直に帰ってくれたからだな。下手したら街が無くなっていたかもしれないからな」

「無くならなくて良かったですし、ヒータと一緒に働けるから本当に良かったです」

「ピィ!」



街は非日常から日常に戻りつつある。その喜びを噛み締めている二人と一羽だった。



「……そういえば、あの二人はどうなるんですか?」

「フィテルとドルグの事か。……あいつらなら、今回の騒動を引き起こした首謀者として捕まって、絶対に牢屋に入れられるだろうな。これだけの騒動だったから刑期もかなり長くなる」



エルムはリンに二人はどうなってしまうのかと聞いてみると、彼らは街が無くなっていないとはいえ、多くの人の命を脅かしたのだから牢屋に入れられ、刑を受ける期間も相当長くなるとリンは推測する。



「あの二人が牢屋に入ったら、バウズ商会は無くなっちゃうんですか?」

「会長が捕まるんだから、商会は解散するしか道はないな。もし万が一残ったとしても、悪評ってのは広まるのが想像以上に早いから、どこも相手にはしてくれないだろうな」



バウズ商会の行方も気になったエルムは先程と同じようにリンに尋ねてみたが、商会が解散するのはほぼ確実であり、それが万が一残って商売を続ける事になっても、これから広まるであろう今回の騒動の件でどことも取引は行ってもらえないとも彼女は考えたようだ。



「そうなんですね。……ん?リンさん。あっちの方に人が集まってるです」

「ん?……あれか」



エルムはリンの話を聞いて納得したが、そんな時に人集りを見つけたようだ。リンはエルムとヒータを手の平に乗せたまま、そこに近づいていくと聞き覚えのある二人の声が響いてきたが、その声の主の姿は人集りで見えなかった。



「何かあったのか?」

「ああ、リンか。……実はな、バウズ商会のドルグとフィテルが今回の騒動の首謀者だって事が分かってな、証拠は幾つか上がってるのに、あの二人は自分達の罪を全く認めようとしないんだよ」



リンは近くにいた男性に声を掛け、何が起きているのか尋ねると、今日の騒動の首謀者として捕まったドルグとフィテルの二人が人集りの中心に居て、問いただされているのだが、証拠は上がっているのにも関わらず、一向に罪を認めようとしなかった。



「で、オレがやったんだから自分達は悪くないって二人はずっと言ってるんだろ?」

「そうだけどよ、何で分かったんだ?」

「フィテルが隊長に自分がドルグに頼んでバーサーカーコングを街に誘導するように頼んだ事を話したって聞いたし、全部オレがやった事にすれば良いってのも聞いたからな」

「私もそれを聞いたですし、リンさんは悪い事は何もしてないですよ」

「ピィ!」

「それは分かってるよ。普段の仕事振りを見てるからな」



ドルグとフィテルの二人は罪を認めないどころか、全てリンに罪を擦り付けるようとしているのを叫んでいる事を、ここに来たばかりの彼女が知っている事に疑問を抱いた男性だったが、隊長からそれを聞いたとリンは言い、エルムもそれを聞いたと言って、彼女は何も悪い事はしていないとヒータと共に擁護する。


男性はリンの普段の仕事振りを見ていて、そんな事をする筈が無いと信じていたのだ。



「……ところで、エルムちゃんの隣に居る赤い鳥は?」

「この赤い鳥は、明日からオレ達と一緒に働く事になったヒータだ。エルムの専属警備員だからな」

「ピィ!」



手の平に乗せているエルムの隣に居るヒータの事を尋ねられて、正直に自分が雑貨屋の配達係の専属警備員として雇ったヒータを紹介し、彼も「よろしくね」と言っているかのように鳴く。



「け、警備員だって?……こ、この鳥が、か?」

「そうだよ。エルムは屋根の上を移動して配達するから、ヒータ以外に適任は居ないだろ?」

「今日だって、私の事を守ってくれたです」

「ピィ」



小さな鳥であるヒータを警備員として雇ったリンに、何を言っているんだという表情をする男性だったが、エルムはヒータが守ってくれたと言い、彼もそれを肯定するかのように頷いている。



「おい、さっきから何を……って、その鳥はどうしたんだ?」

「おや、可愛い鳥さんだね」

「働く事になったって言ってたけど、雇ったのか?」



ドルグとフィテルがどうなるのかと気になって二人の周囲に集まっている人がリン達に感化されたのか、先程まで緊張感が漂っていた空気が和らいだようで、二人から離れてリン達の周りに集まった。



「警備員として雇ったって言ってたけど、大丈夫なのか?」

「その心配は無い。ヒータはオレ達の言葉が分かるんだよ。な?」

「ピィ!」

「……ほ、本当だ」

「言葉を理解する鳥なんて、初めて見たよ」

「この子は相当賢いんだねぇ」



小さい鳥に警備員という仕事は勤まらないと率直に思う者も居たが、リンの言葉に反応して数回頷く様子を見せられて、言葉を理解する鳥が警備員として雇われた事を信じたようだ。



「……リン!そこに居るのよね!?さっさとこっちに来なさいよっ!!」

「さっさと来いよっ!お前のせいでこうなったんだからなっ!」



そんな和やかな雰囲気をぶち壊すかのように、フィテルとドルグの二人の叫びがリンを呼ぶ。



「……呼ばれたから行くとするか」

「私達も行くです」

「ピィ!」



二人に呼ばれたからには今日の騒動の責任を痛感させる為に、リンはエルムとヒータを引き連れて人集りを掻き分けると彼らの前に立った。ドルグとフィテルの二人は両手を後ろに回されて手錠で拘束されており、両膝を地面に付かされているので身動きが取れない。また、二人が暴れないように周囲を兵士達が囲んでいる。


リンの手の平の上に居たエルムは彼女の右肩に、ヒータは彼女の頭の上にそれぞれ乗る。



「「……」」



ドルグとフィテルはリンが目の前に来たので何か言うと思われていたが、何も言葉を発さずに彼女を睨みつけている。その二人から口汚い言葉で罵倒されると思っていたリンは少々拍子抜けしたが、彼女の方から仕掛けてみる事にしたようだ。



「さっきからオレを睨むだけで、お前達は何がしたいんだよ?……そうかそうか。やっと自分達がした事の重大さに気づいたって事で良いんだな?」

「わ、私達が何をしたって言うのよ!私達は悪くないっ!」

「そうだ!今日の騒動はお前が悪いんだよっ!」

「あんたがバーサーカーコングを呼ぶように、傭兵に依頼してたのを私は知ってるのよ!」

「魔力回復薬を定価の千倍のプラチナ硬貨五枚で冒険者に売りつけようとしたのも、お前だろうがっ!」

「……あのな、それはお前達がやった事だろ?オレに擦りつけるな」



リンが話し出すのを待っていたかのように、二人は自分達がした事を彼女がしたように言い出し始めた。



「お前ら何してるんだよ!?リンを捕まえろ!!今回の騒動はあいつが仕組んだんだ!」

「私達を解放して、早くリンを捕まえなさいよっ!」

「……お前達は何を言っている?お前達が騒動を引き起こしたのは知っているんだぞ?」



ドルグとフィテルは周囲に居る兵士に自分達を解放して、代わりにリンを捕らえるように叫ぶが、兵士達は二人が今回の騒動の首謀者が彼らだという事は既に伝えられており、動く事は無かった。



「わ、私は逃げ遅れた人を助けたりしてたのよ!それを見てなかったの?」

「お、俺は無くなった魔力回復薬を安い値段で沢山売ったんだ!お前達も見てただろ!?」



ドルグとフィテルはリン達がした事を、あたかも自分達がしたように言い出した。彼らは周囲に同調を求める。



「お前達はそれをしてないだろ?オレ達がした事を自分達がしたようにするなよ」

「私達が魔力回復薬を売ったんですよ。1500本なんて持ってなかったですよね?」

「ま、魔法袋を使うなんて反則だろ!」

「商品を運ぶのに魔法袋を使ってはいけないっていう、規則も法律もないだろ?」



リンとエルムは自分達がした事を盗られそうになったので、すかさず待ったを掛ける。ドルグは魔法袋という稀少な物を使うのは反則だと言うが、それを使用してはならない決まり事は無いと返された。



「逃げ遅れた人を助けたりしてたのは、私とこの人達です!あなたではありません!」

「魔力回復薬を信じられない高値で売ろうとしてたのはお前だろ!俺は見てたぞっ!」

「私もだ!」

「お前は10本しか持って無かったじゃないか!」

「そうだそうだ!」



リンと共に行動していた見回り班の兵士が二人の発言を否定した事を皮切りに、周囲の冒険者達が次々に援護する。ここに居る者達は全員、各々の目で今日の騒動での彼らの行動を見ていたからである。今ここに、二人の味方は誰一人居なかった。



「……魔力回復薬についてですが、何故大量にあった在庫が尽きてしまったのか調査に向かわせています」



ここで今まで口を閉ざしていた隊長が、作戦の途中で魔力回復薬の在庫が尽きた原因を部下に調査させている事を伝える。有事に備えて魔力回復薬を大量に備蓄していたにも関わらず、それが無くなった事に疑問が生じたからだ。



「それに関しては時間が…」

「隊長!魔力回復薬の在庫が尽きた理由が判明いたしました!!」



原因の究明に関しては時間を要してしまうと隊長が言おうとした時に、調査に向かわせていた一人の兵士が彼に駆け寄ってくる。



「ご苦労だった。……それで、何が原因だったのだ?」

「それは、……こちらの二人が備蓄していた魔力回復薬の一部を隠していたからです」

「しっかり歩けっ!」

「うぃ~……、ひっく」

「うるせぇな~、……迷惑じゃないからいいだろ~?」



彼が見つけた原因というのは、両脇を他の兵士に抱えられて連れてこられた二人の兵士であった。この二人が魔力回復薬の一部を隠していたのだが、彼らは足元がおぼつかないようであり、何故か顔が赤くなっている。



「せ、先輩達!今までどこに?……って、この臭いはっ!?」



二人は見回り班の兵士にとっては先輩にあたり、隊長に呼ばれて向かった筈なのに、彼の元には居なかった。どこに行ってしまったのか気になったし、今は何故両脇を他の兵士に抱えられているのか気になって近づくが、その時に彼らからある臭いがする事に気づいた。



「もしかして……、この臭いは酒ですか!?」

「そうだ。この二人は業務を放棄し、酒盛りをしていたんだ」

「……という事は、先輩達が隊長の所に向かったというのは嘘だったんですね?」

「そういう事になるな」



この二人はリン達と行動を共にした兵士と同じ見回り班に配置されていたが、後輩である彼には隊長に呼ばれたからそこに向かうと嘘をついて業務を放棄し、皆に隠れて酒盛りをしていたのだ。足元がおぼつかないのも顔が赤くなっているのも、かなり酒に酔っているからである。



「それで、二人と魔力回復薬とはどのような関係が?」

「この二人に酒を提供した者というのが、そこに捕まっているドルグだ。酒を提供する代わりに、魔力回復薬を隠してもらうように取引を持ち掛けたらしい。その隠した魔力回復薬が入った袋が二人の近くで見つかった」

「あんたから貰った酒、旨かったぜ~!」

「また飲ませてくれよ~!」



ドルグはバーサーカーコングをただ追い払うだけでは魔力回復薬は無くならず、自分が儲ける事は出来ないだろうと考え、この二人に酒を提供する見返りに倉庫にある魔力回復薬を隠してもらうように取引を持ち掛けたのだ。実は二人は大の酒好きだという事が街の住人には広く知られており、ドルグもその一人である。彼は高級の酒を二人に賄賂として渡し、それを受け取った二人は備品の確認という名目で倉庫に入ると、魔力回復薬を袋に入れて持ち去ったのだった。


そして、彼らは撃退作戦の際に先述の通りに足元がおぼつかなくなるまで酒盛りをしていたのだ。酔いが深くなるほど大声になり、作戦が終了しても酒盛りは続けていて、それを魔力回復薬が尽きた原因を探る為に街を駆け回っていた兵士が聞いて、彼らを発見した。


その二人の近くに大きな袋が複数あったので中を見てみると、そこには倉庫に保管されていた筈の魔力回復薬が大量にあったので彼らを問い詰めると、酒の影響で自制が出来なくなっている為に、ドルグから酒を賄賂として渡された見返りにやったと全部話したのだ。


酔っている二人の兵士はこの場に連れてこられたが、隊長や他の兵士達がいるのにも関わらず、酔いが覚める様子は無い。



「……皆さん、この度は部下の不適切な行動によって不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした!この二人には厳しい処分を下し、再発防止に努めます!」

「「「「本当に申し訳ありませんでした!!」」」」



隊長は二人の行動で街の住人に不安を感じさせた事に対して頭を下げて謝罪し、酔っぱらっている二人以外の他の兵士も頭を下げる。



「隊長ぉ~、なんで謝ってるんすか~?」

「悪い事は何もしてないっすよぉ~?」



隊長も他の兵士達も誠心誠意謝罪しているのに、渦中の人物達は酔っているので悪びれる様子は全く無いようだ。



「……お前達には、酔いが覚めるまで処分は下さないでおくとしよう。それまでは、楽しい時間を過ごしておくんだな」



隊長は二人には今ここで処分を下さない事にしたようだ。泥酔している彼らに何を言っても意味は無いと悟ったからである。


そして隊長は、ドルグとフィテルの方に身体を向ける。



「……さて、何か言いたい事はあるか?」

「わ、私達は悪くないっ!リンが全部悪いのよっ!」

「そうだっ!俺達にこんな事をさせたリンが悪いんだよっ!」



酔っている二人の兵士の証言から、ドルグが魔力回復薬を隠すように賄賂を渡して依頼し、街を危機的状況に陥れた事は明らかだが、それでも二人は自分達は悪くなくて、自分達にそうさせたリンが全て悪いと言い張っている。



「どう考えれば彼女が悪いんだ?全員が納得出来る内容を言ってもらおうか?」

「それはね、リンが私が欲しいと思った物を渡さないからよ!《状態異常無効》のスキルと体型を渡さないから私達はこんな事をしたの!だから、リンが全部悪いのよっ!」

「そうだっ!お前がフィテルにそれらを渡さないからだよ!だから、リンが悪いんだっ!」



隊長は先程から二人が街を守る為に行動したリンが悪いと言い張るので、ここに居る全ての人が納得出来る内容を話すように促すと、フィテルは自分が欲しいと思っていたのに手に入れられなかった《状態異常無効》のスキルと彼女が望んでいる体型の二つを渡さないからだと言い、ドルグもそれに同調する。



「そんな事で彼女が悪いというのか?」

「そうよ!だから、リンを捕まえなさいよっ!」

「話を聞いて納得しただろ?さっさとリンを捕まえろっ!」



フィテルとドルグの話を聞いた隊長は確認の為に尋ねるが、二人は話の通りであり、自分達ではなくリンを捕まえるように叫ぶ。この時の二人は隊長は納得してくれたのだろうと思ったようである。



「……そんな内容で納得出来る訳が無いだろう!!」

「「なっ!?」」



しかし、隊長は二人が話した内容を一蹴する。至極真っ当な者ならば、二人の話を聞いて納得出来る訳が無く、彼もその一人だ。その思考を持っていなければ隊長という立場は務められない。



「先程から聞いていれば、そんな事の為に多くの者を危険な目に会わせたのか!」

「そ、そんな事って何よっ!?私が欲しい物を渡してくれないからでしょ!悪いのはリンよ!私は悪くない!」

「何でフィテルが悪いと思うんだよ!俺達の話を聞いたら、どう考えてもリンが悪いだろうがっ!!」



子供の我が儘を叶えてあげたいという親心は分からないでもないが、それで街を滅ぼされては迷惑極まりない。自分達がした事の重大さに、この状況になっても気づいていない二人だった。



「……お前達には、これ以上何を言っても無駄なようだな」



隊長は二人とこれ以上話していても、同じ発言を繰り返すだけで時間の無駄になると判断し、強制的に終わらせる事にしたようだ。



「言いたい事があるなら、この後に行う取り調べの時にでも言うがいい。……そこで酔っている二人を含めた犯罪者四人を連行しろ!!」

「「「「はっ!!」」」」



隊長は兵士達に街を危機的状況に陥らせたフィテルとドルグ、街を守るべき立場でありながらそれに加担した二人の兵士を連行する決断を下す。反省する様子が全く見受けられない事が隊長の心証を悪くしたようであり、彼らに同情の余地は無かった。



「嫌よっ!放してっ!」

「触るんじゃねえよ!!」



フィテルとドルグは周囲に居る兵士達によって立たされるが、連行されないように抵抗しようとする。しかし、彼らは身をよじる程度しか出来なかった。



「おい!俺達を連行するなら、商会の従業員とその家族も連れていけ!あいつらも同罪だ!」



ドルグはバウズ商会の従業員達も自分達に協力したので、彼らとその家族も連行するようにと隊長に向かって叫ぶ。ドルグは従業員達を家族諸共道連れにしようとしているのだ。



「彼らについてだが、お前に脅されたので従うしか無かった事と近くに居たのに騒動を止められなかった事を、先程私達の所に来て謝罪してくれた。素直に自分達の罪を償うとも誓ってくれたよ」

「当然だろ!従業員にはな、俺達の罪を償う義務があるんだからな!!」

「私達の罪は無くなったんだから、早く私達を解放しなさいよっ!!」

「そうだ!あいつらが償うんだから、俺達に罪は無い!早くしろよっ!!」



バウズ商会の従業員達はフィテルとドルグがこの場に連れてこられる前に隊長の前に現れ、ドルグに脅されて協力せざるを得なかった事と、近くに居たのに二人を止められなかった事を懺悔した。そして、自分達にも責任があるので罪を償わせてほしいと懇願したのである。


それを聞いた二人は彼らが罪を償うのなら、自分達の罪は無くなったので解放するようにと言い始めた。



「……だが、お前達二人の罪はお前達自身で償う事だ。彼らは彼ら自身の罪を償うのだからな」

「ふざけるな!あいつらが償うんだら俺達に罪は無いって言っただろうが!」

「いや、お前達には罪がある。彼らからこれを受け取ってな」



しかし、隊長は二人の罪は二人が償わなければならないと告げ、二人の罪の確固たる証拠を受け取っていたからである。彼は一枚の紙を取り出した。



「……これは今回の騒動を引き起こす為に傭兵に依頼した際の契約書だ。ここにお前のサインがあるから、これはお前が傭兵と契約した動かぬ証拠となる」

「お、俺はそんな物は書いてない!」

「他にも様々な証拠を彼らから受け取った。お前達が数々の犯罪を起こしている証拠をな」

「あいつら、裏切りやがったな!恩を仇で返しやがって!」



その紙には今回ドルグがフィテルの為にバーサーカーコングの子供を街に連れてくるように傭兵に依頼した際の契約が事細かに記載されており、その紙の下部にはドルグの直筆のサインがある。他にも様々な証拠を受け取っていて、これにより隊長は今回の一連の騒動は彼によって引き起こされたと断定した。



「さっさと歩け!」

「嫌よ!」

「大人しくしろ!」

「離せよ!」



ドルグとフィテル、それに酔っている二人の兵士を含めた四人は連行されていく。ドルグとフィテルはいまだに抵抗しているが、引きずられるように連行されていく。反対に酔っている二人は特に抵抗する様子は無く、されるがままに連行されていく。



「ちょっとリン!そこで見てないで私達を助けなさいよ!」

「さっさと助けに来いよ!」



最後の最後で二人は、あろうことかリンに助けを求めた。彼らはリンが度々街の住人を助けている事を思い出したので、自分達が助けを求めれば文句を言いながらも助けてくれるだろうと一途の望みを賭けたのだ。



「……」

「何突っ立ってるのよ!?早くしなさいよっ!」

「俺達が困ってるんだぞ!?こっちに来て助けろよ!」



自分達が困っているから助けろと、どこまでも上から目線で二人はリンに助けを求めるが、彼女は動こうとはしない。



「……オレがお前達を助けると思ってるのか?オレはそこまでお人好しじゃないぞ?」

「いいから助けなさいよっ!!」

「そもそも、お前のせいで俺達はこうなったんだから、お前が罪を償えよっ!!」

「お断りだ」



リンが動かないのは二人を助ける気は一切無いからである。自分に罪を擦りつけようとする者を助けようとは普通は思わないだろう。口は悪いが根は優しい彼女でも、今二人を助けるのは彼らの為にならないと思ったからである。



「オレが言えるのは、しっかり自分の罪に向き合って償ってこい。……ただこれだけだ。そうじゃないと、お前達はいつまで経っても変わらないぞ?」

「……なによ、私達を助けないあんたなんか、お人好しじゃなくて人でなしよ!!」

「そうだ!お前なんか人でなしだ!!」

「人でなし、か。……お前達を助けるくらいなら、人でなしの方がまだマシだよ」



リンは二人を助けるのではなく、彼らが犯した罪を彼ら自身で償わなければならないと促すと共に、それに向き合わなければ変わらないと言うが、フィテルとドルグの二人は自分達の思い通りに動かないリンを人でなしだと罵り始める。しかし、彼女は彼女で二人を助けるくらいなら、人でなしと呼ばれる方が遥かに良いと思う程であった。



「何故止まっている!?さっさと歩け!」

「これ以上抵抗するのならば、罪は重くなるぞ!」



フィテルとドルグを連行している兵士達は二人が立ち止まって動く様子が無かったので、先程より力を強めて二人を連行していく。



「リン!私を助けなかった事を絶対に後悔させてやるんだからっ!」

「覚えてやがれっ!」

「はいはい。お前達の事は忘れるまでは覚えておくから、長いお務め頑張れよ」



フィテルとドルグの二人は連行されながらも捨て台詞を残していく。リンは長い刑に服する事になりそうな二人に対して、左手を振って彼女なりに声援を送ったようだ。


レクトイの街を騒がせ続けていた二人は、このようにして街を離れる事となった。彼らが再び街に戻る可能性は限りなく低いだろう。もしも街に戻れる事が決まっても、それがいつになるのかは誰も分からない。


ドルグとフィテルが自分達が犯した罪の重さを実感して反省すればそれは早くなると思うが、二人の言動などを考えれば戻る事は無いと言う者が多数を占めるだろう。



「……やれやれ、ようやく行ったな」

「うるさい奴らが居なくなって、良かったよ」

「さて、家に戻ろうか」



街の住人達はフィテルとドルグの二人が居なくなった事に安堵したようで、この場を離れていく。



「……我々には、まだやらなければならない事が山のようにある。それらが終わるまでは気を抜くな!」

「「「「了解しました!!」」」」



隊長は部下の兵士達に沢山存在する後処理を終えるまでは気を抜いてはならないと檄を飛ばすと、彼らはそこへ向かっていった。



「……オレ達も帰るか」

「はいです」

「ピィ」

「リンさん、ここに居ましたか!」

「ん?」



リンも店に戻ろうとしてエルムとヒータに呼び掛けた時に、彼女の名を呼ぶ声が聞こえたのでその方向に顔を向けると一人の女性が近づいて来た。



「アステナか、どうしたんだ?」

「はい。実は、……マスターから今回の作戦の成功を祝って冒険者ギルドで宴会を開く事になりまして、リンさん達を声を掛けて誘うようにと言伝を受けました。参加するのはリンさん達の判断に任せるとも言ってましたが、どうしますか?」



リン達の元に来たのはアステナであり、彼女の話からバーサーカーコングという強大な魔物を撃退した事を祝う宴会を行う事が決まったのだが、ギルドマスターのシーアが冒険者達からリン達の今回の騒動での行動を聞いて、リン達も誘うようにとアステナに伝言をお願いしたのだ。



「マスターが今回の費用を全額負担してくれるそうで、食事も豪勢とは言いませんが沢山用意してますよ」

「リンさん、私参加したいです!」

「ピィ!ピィ!」

「……そうだな、オレ達も参加させてもらうよ」



食事を沢山用意していると聞いたエルムは参加したいと言い、ヒータも鳴き声と動きで参加したいと伝えるようである。その宴会に参加したくてしょうがない様子を感じたリンは、シーアの好意に甘えて参加する事を決めたようだ。



「ありがとうございます!では、私に着いてきて下さい!」

「はいです!」

「ピィ!」

「それじゃ、二人と一羽で参加って事でよろしくな」

「え?あ、あの、……二人は分かるんですが、一羽って何の事ですか?」

「オレの頭の上に鳥が居るだろ?名前はヒータだ。詳しい事はギルドに着いてから話すよ」

「ピィ!」

「……あ、はい。分かりました」



二人と一羽で参加すると言われて、一瞬何の事だか分からなかったアステナだが、リンの頭の上に赤い鳥のヒータが鎮座している事に気づく。何故鳥を頭の上に乗せているのかが気になったが、彼女から冒険者ギルドに着いたら説明すると渋々納得したようだ。


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