救世主は意外な存在です。
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エルムの姿が落ちてきた土塊によって見えなくなったリンは、自分がしてきた選択が間違っていたのかと思わされたのだった。
「そ、そんな……」
危機が迫っている街に自分が最大限出来る事は無いかと考えを巡らせ、行き着いた答えが逃げ遅れた人が居ないか見廻り班の兵士と一緒に行動する事だった。その途中で魔力回復薬が尽きてしまった前線に、自分のミスで抱えてしまった大量の在庫の処分を兼ねて売り切ったのである。
バーサーカーコングを追い返すまではいかないものの、崩れかけた前線が持ち直したのは事実だ。しかし、それがあったからかもしれないが自分は浮かれいたのでは、とリンは考えてしまう。
「嘘だ……」
自分に落ちてくる土塊にエルムが巻き込まれないように彼女を遠くへ投げたのは良かったが、落ちてきた土塊は複数存在していた事をリンは予想出来ていなかったし、それによってエルムが押し潰された事を信じられなかった。
「と、とにかく、これからあなたの脚を切ります!」
ここで兵士が、先程リンから頼まれていた彼女の右脚を切る事を決断する。リンの脚を切る事に抵抗があったものの、彼女を動けなくさせている土塊は大きく、とても一人では動かせないと判断したからだ。兵士は支給されている剣でリンの右脚を膝の所で切断した。
「……エルムっ!」
兵士によって切られた右脚が完全に再生するのを待たずにリンは、エルムが下敷きになっている土塊へと駆け寄る。右脚が再生していないのでおぼつかない足どりになってしまうが、リンはそれでも進んでいく。
「……どうしてだよ、なんで……」
土塊に辿り着いたリンは悔しさを滲ませながら、自分の無力さを嘆いていた。エルムを街に連れてきたその日に彼女の事を守ると誓っていながら、危険な目に会わせたのは自分の判断が起因していたと思い知らされた。
「……私があなた達に声を掛けなければ、こんな事には」
「いや、……あんたのせいじゃない」
兵士がリンを慰めようと責任は二人に助けを求めた自分にあると言うが、リンは彼を責めなかった。
大切な人を目の前で失うというのは、リンにとっては記憶がある中では二回目である。しかし、そんな状況になってもリンは涙を流す事は出来ない。
この場が重くて悲しい雰囲気に包まれ始めた時だった。
「私は死んでないです!勝手に殺さないで下さいですっ!」
そんな場の雰囲気を壊すようにエルムの声が響き渡る。彼女は自分は死んでおらず、生きている事を二人に知らせる為に叫んだようだ。
「ど、どこだ!?」
「う、上を見て下さい!」
リンは兵士に促されて上を見ると、そこには土塊に押し潰さたと思っていたエルムが居たのだった。彼女は死んでしまったと思ったが、無事であった事に安堵する。
ただ、エルムは空中に居るにも関わらず、彼女の背中の羽根は動いていない。それでもエルムが空中で浮いているのには、彼女の右腕を掴んでいる一つの存在があったからだ。
「鳥さんが私を助けてくれたです!」
「ピィ!」
エルムの右腕を掴んでいるのは、彼女より身体が少し小さくて赤い羽毛が生えた一羽の鳥だった。
エルムが土塊に押し潰される寸前に赤い鳥がどこからともなく現れ、彼女の右腕を掴んで助けたのだ。その鳥がエルムの腕を掴みながら羽ばたいている事によって、彼女は背中の羽根を動かさなくても空中で浮いているのである。
赤い鳥によって命を救われたエルムはリンの側に行き、それに寄り添う形で赤い鳥は彼女の側で羽ばたきながら滞空している。
「エルム!無事で良かった!」
「私はこの通り大丈夫ですよ。勝手に殺さないで下さいです」
「それは悪かったって……」
エルムはリンに自分の無事を報告するが、死んだ事にされたのは不満があったようだ。
「エルム。この赤い鳥は、……一人で初めて配達に行った時に助けてくれたって言ってたあの鳥か?」
「そうです。あの時私を助けてくれた鳥さんです」
「ピィ」
リンは配達の業務を初めてエルム一人で任せた時に、人攫いから赤い鳥が自分を助けてくれたと話していた事を思い出し、その時の鳥なのかと彼女に尋ねると、エルムと赤い鳥はそうだと返答する。
「……もしかして、本当にオレの言葉が分かるのか?」
「ピィ!」
赤い鳥が先程の自分の言葉に反応を示した事に、人語を理解する程の知能を持っているのではと思い、リンは赤い鳥に問うと、彼は「そうだよ」と言っているかのように頷く。
「……人の言葉を理解する鳥なんて、オレは初めて見たぞ」
「リンさん。あの時私言ったじゃないですか」
エルムは以前助けてくれた鳥が言葉を理解すると言っていたのだが、それを信じられなかったリンだった。しかし、実際にエルムの隣で羽ばたきながら自分の言葉に頷いている鳥を見て、信じざるを得なかった。
「あの、……お取り込み中申し訳ありませんが、そろそろバウズ商会へ行きませんか?」
「あ、そうだったな」
「あの、鳥さん。私達に力を貸して下さいです」
「ピィ!」
兵士は言葉を理解する鳥に驚きながらも、バウズ商会へと急いで向かうように二人を促した時に、エルムは赤い鳥に協力を求める。彼は「その為に来た」と言わんばかりに返事をした。
「手を貸してくれるって事か?この状況だと人手が足りないから助かるよな?」
「そうですね、私としては助かります」
「あの、……鳥さんに手は無いですし、そもそも人じゃないですよ?」
「ピィ」
「この場合はそういう意味じゃなくてだな……」
手を貸すとか人手が足りないとかは、今の状況では数が足りないという意味なのだが、エルムは言葉をそのまま受け取ったようで、赤い鳥に手は無いし人ではないと言ったのだった。救援に来た本人──この場合は人ではなく鳥の方が正しいか?──も、それはそうだと頷いている。
「と、とにかくバウズ商会へ行きましょうっ!時間がありませんからっ!」
「わ、分かったよ!」
「分かりましたです!」
「ピ、ピィ!」
これ以上時間を浪費すれば、バーサーカーコングが街へ侵入してしまうだろうと考えて始めた兵士は、二人と一羽を大声で制し、バウズ商会に向かって行った。
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バウズ商会の入り口に辿り着いた三人と一羽は、そこにある惨状を目の当たりにする。
「これは……」
「さっきオレ達の上に落ちてきた土塊と同じ物が、ここに落ちたんだろうな」
「大きい門がぺちゃんこです」
「ピィ」
バウズ商会は塀で囲まれている四階建ての豪勢な建物であり、会長のドルグが金に物を言わせて建てたのである。レクトイの街で一番大きな建物であり、街の至る所でその姿を見る事が出来る。
その敷地の入り口にある大きな門は今、大きな土塊によって押し潰されており、豪華な装飾が施された門が見るも無惨な状態になっている。
「これは好都合ですね。これなら簡単に通れます」
「確かにな。……それと、この状況は因果応報としか言えないな。こうなるとはあの二人も思っても無いだろう」
普段この門は固く閉ざされており、商会の会長のドルグと娘のフィテルが通る時だけ開かれるのだが、先述の通り今は土塊によって押し潰されているので、開く事は無い。
その壊れている門の隙間を縫うように通って、三人と一羽はバウズ商会の敷地へと入った。
「どこを探すんですか?」
「……ここを虱潰しに探していたら遅くなる。商会の従業員からバーサーカーコングの子供の居場所とかを聞き出すしかないな」
「それが一番早いでしょう。……おや、噂をすれば……」
バウズ商会の敷地は広く、当てもなく探していては時間が無くなってしまうと考えたリンは、状況を知っているであろう商会の従業員を捕まえて問いただす事にしたようだ。
その話をしていた時に兵士はバウズ商会の従業員の一人をを見つけると彼に詰め寄った。
「少々よろしいでしょうか?」
「は、はい!?」
「落ち着いて下さい。……ここにバーサーカーコングの子供が居るとの情報が寄せられました。どこに居るか知っている事を教えて下さい」
兵士は商会の従業員にバーサーカーコングの子供の居場所を聞き出す。すると従業員は、なにやら諦めた表情で口を開いた。
「情報が寄せられたって事は嘘をついても意味が無いか。……はい、ここの中庭にバーサーカーコングの子供が居て、檻に入れられています」
「商会の中庭に居るのですね?分かりました」
従業員は今回の騒動を引き起こしたのはバウズ商会だと既に知られたのだと悟り、正直にバーサーカーコングの子供の居場所を教えた。
「……なあ、あんた達はドルグとフィテルに協力するように脅されたんだろ?」
「はい。会長達に協力はしないと言うと家族がどうなってもいいのかと言われまして……」
リンは従業員達がドルグとフィテルの二人に進んで協力したのではなく、脅されて協力しなければならなかったのではと考えて目の前に居る従業員に尋ねると、彼は家族を守る為に仕方無く協力したのだと返答する。
「……分かりました。ありがとうございます」
「ありがとな」
「ありがとうです」
「ピィ」
三人と一羽は従業員に礼を言うと中庭に向かおうとした時に、リンは気になった事が出てきたので従業員に尋ねる。
「……そうだ。バーサーカーコングの子供は檻の中に入れられているって言ったよな?その檻の鍵はどこにある?」
「檻の鍵ですか?それは今は会長が持っていまして、会長は自分の部屋に居ます」
「ドルグが持ってるんだな?分かったよ」
バーサーカーコングを閉じ込めている檻の鍵はドルグが持っているのが分かると、三人と一羽の行き先を分けなければならなくなった。
「ドルグには言いたい事が山程ある。あいつの所にはオレ達が行く」
「分かりました。そちらはお任せします。バーサーカーコングの子供の所には私が行きます」
彼らは二手に分かれるようにしたようで、リンとエルムと赤い鳥はドルグの元へ向かい、兵士はバーサーカーコングの子供が居る中庭に向かう事になった。
リン達二人と一羽は向かって行ったが、兵士は情報を聞き出した従業員に話があるようだ。
「……急で申し訳ありませんが、運ぶには私だけの力では恐らく無理でしょう。ここに居る人達を可能な限り中庭に集めて頂けませんか?」
「え?それはどういう……」
「街が壊滅しかねない騒動を首謀した会長とその娘は罪に問われるのは確実ですが、あなた達も罪に問われるかもしれません。もし、私に協力するのであれば、罪を軽くしてもらうように働きかけましょう」
バーサーカーコングの子供を街に連れてきて、その親を街に呼び寄せる事をしたのはバウズ商会であり、会長のドルグと娘のフィテルが首謀したので、二人は確実に罪に問われるが、従業員達も罪に問われる可能性があると兵士は告げる。
しかし、バーサーカーコングの子供を親の元に返す為に運ぶ事に力を貸すのであれば、罪を軽くするように働きかけるとも告げ、協力を扇いだ。
「……この騒動が起きたのは、私達が会長達を止められなかった事も一因です。少しでも償いが出来るように協力させて下さい」
「分かりました」
ドルグとフィテルの側に居ながらも、止められなかった自分達には少なからず責任があると感じた従業員は、その罪滅ぼしの為に仲間を呼びに行った。
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リン達二人と一羽は先程とは別の従業員からドルグの居場所を聞き出し、そこに走って向かっている。正確にはリンだけが走っており、エルムは彼女の右肩に乗って、赤い鳥は二人の後ろを飛びながら着いていっている。
「リンさん、あの部屋ですよ」
「分かってる」
エルムがドルグが居る部屋を見つけて指を差し、リンはそれを自分の目で確認する。
「……ここか」
リン達はドルグが居る部屋の扉の前に辿り着いた。今まで通ってきた商会の通路や他の部屋の扉には無い豪華な装飾が施されている。
「なんか、……凄い派手です」
「こんな所に金使ってるくらいなら、きちんと払えるだろ」
その扉を見たエルムは見たままの派手さを、リンはこの装飾に資金を費やすのなら滞っている物を払った方が良いだろうと、それぞれ感想を述べる。
「よし、入る……ん?」
「どうしたんですか?」
「……ドルグの他に誰かがこの中に居る」
リンは部屋に突入しようと扉に手を掛けた時に、部屋からドルグと彼以外の声が聞こえてきたので、その手を止める。
リンはすぐに突入するのではなく部屋の中の様子を伺う事にして、扉を少しだけ開けて覗きこむ。
「……俺達はしっかり仕事をしたんだからよ、あんたはさっさと金を払ってくれ」
「持ち合わせがないから後で払うって何度も言ってるだろ!俺は今忙しいんだよ!」
「忙しいだと?さっきから座ってるだけで何もしてないだろ?」
「確かにな」
部屋を覗くリンの目に入ったのは、数人の屈強な男がドルグを囲みながら支払いを催促している場面だった。
「……あいつらはもしかして、ドルグに新しく雇われた傭兵か?でも、こんな騒動になる依頼は普通なら受けない筈だ」
「あの、リンさんはさっきから何を言ってるんですか?」
「傭兵には一線を越える依頼は如何なる状況であっても受けてはならないっていう、鉄の掟があるって聞いた事があってな。それを破る者は傭兵を名乗る資格は無いとも聞いたんだ」
リンは今までの状況などから、彼らはドルグにバーサーカーコングを街に呼び寄せる為に依頼した傭兵だと推測する。しかし、傭兵には越えてはならない一線があり、今レクトイの街で起きている騒動などの引き起こす依頼は絶対に受けてはならないという厳しい掟が存在するのだ。
「そんな人達がいるんですね。……じゃあ、この部屋に居る人達は傭兵じゃないんですか?」
「いや、あいつらは傭兵だけど正規の傭兵じゃない。大金を出せば殺人や誘拐なんかを平気でやる奴らなんだ」
傭兵の世界は金が物を言う世界だが、正規の傭兵はどんなに大金を積まれても一線を越える依頼だけは絶対に受けないのだ。しかし、正規ではない傭兵は大金を出せば殺人や誘拐を平気で行う者達だ。彼らの話から部屋に居る男達は正規の傭兵ではないとリンは推測する。
「……あの、どうするんですか?」
「どうするって言われてもな、急がないといけないけど……」
「ピィ」
「……おい、なんでオレの頭の上に乗ってるんだよ?」
「ピ?」
どのように部屋に入れば良いかと二人が頭を悩ませていると、二人の後ろに居た筈の赤い鳥がいつの間にかリンの頭の上に乗っており、彼女の頭の上が自分の定位置であるかのように鎮座している。リンは頭の上に乗せたままで何故乗っているのかと問い掛けると、彼女からは見えないが赤い鳥は「何か問題でもある?」と言わんばかりに首を傾げた。
「……ここで悩んでても仕方が無いな。入ったら鍵を持ってさっさと出る、それしかない」
「分かりましたです」
「ピィ」
赤い鳥のどうにも気の抜ける行動に肩の力が抜けたリン。意を決して部屋に入る事にしたが、その前に彼女はエルムに話し掛ける。
「エルム、この部屋にはオレ一人で入るからここで待っていてくれ」
「え?でも……」
「オレと一緒に部屋に入ったら、あいつらは目の色を変えてエルムを狙ってくるかもしれないんだ。そうなったらオレは鍵を持てなくなる」
部屋の中に居る男達は大金を貰えば何でもする正規ではない傭兵であり、闇商売で途方もない金額で取引されるフェアリーであるエルムを彼らの前に連れていく事は、彼女を傭兵に渡しに行くのと同じなのだ。だからこそ、リンは一人で行く事を決意したのてある。
「……分かりましたです」
「ピィ」
「鳥さんが一緒に居てくれるから、私の方は心配しないで下さいです」
「分かった。エルムの事はお前に任せるぜ」
「ピィ!」
エルムを赤い鳥に任せると彼はリンから離れる。そしてリンは部屋の扉を勢いよく開けて突入した。
「ドルグ!」
「リン!?何でお前がここに居る!?ここは俺の店の敷地だぞ!勝手に入ってくるんじゃねえ!」
「いいからさっさと檻の鍵をオレに渡せ!そうすれば出てってやるよ!」
「誰がお前なんかに渡すかっ!」
部屋に入るや否やドルグと言い争いになるリンだが、それに時間を費やしている余裕は彼女には無い。一刻も早く鍵を渡してもらわなければならないが、商売敵のドルグが相手だと一筋縄では行かないだろう。
「バーサーカーコングの子供を親に返さないと街が壊滅するんだよ。いいからそれを渡せ」
「渡さねえよ!バーサーカーコングの親ならフィテルが倒すから問題は無いだろうが!」
「……ドルグ、お前本当にフィテルが倒せると思ってるのか?」
「当たり前だっ!フィテルにはSランクの冒険者より高い実力を持っているからな!」
「随分とおめでたい頭をしてるんだな……」
バーサーカーコングの子供を親に返す為に行動しているリンに対し、フィテルはSランクの冒険者以上の力を持っていると信じているドルグは檻の鍵を渡す素振りを見せない。バーサーカーコングはフィテルが倒すと信じて疑わないドルグに、親馬鹿もここまで来たら救いようがないと呆れ果てるリンだった。
「……しかし遅いな。そろそろフィテルが倒したという連絡が来てもいい筈だ。何故来ない?」
「そんな事オレが知るかよ」
フィテルの実力ならば、バーサーカーコングを倒したという一報がそろそろ自分の元へ来ていても不思議ではないとドルグは思い始めている。そんな彼に質問を振られても答える気は毛頭ないリン。
フィテルが少し前に父親のドルグに頼んでバーサーカーコングを街に呼び寄せる騒動を引き起こした事などを洗いざらい吐いたので、兵士達に拘束されているという事実をリンは知っていたが、ドルグはその事を聞いた様子は無さそうであり、彼に話している時間は無い。それを話したところで余計な手間が増えるだけだとリンは判断したからだ。
「……嬢ちゃんよ、俺達はこいつから金を払ってもらうように話をしてるんだよ。邪魔しないでくれるか?」
「悪いがそういう訳にはいかないんだ。ドルグが持ってる檻の鍵が必要なんだよ」
ドルグに雇われた傭兵の一人が、リンに自分達の邪魔をしないように忠告する。しかし彼女は邪魔をしているのは分かってはいるが、ドルグから檻の鍵を渡してもらわない限り動く気はないと返す。
「檻の鍵、か。……おい」
「「あいよ」」
「お、おいっ!?お前ら何しやがる!放せよっ!」
リンと話をしている男は他の男達に手振りで何らかの指示を出した。その様子から彼はどうやら男達のリーダー格であると伺える。指示を受けた男達はドルグを羽交い締めにして、彼の身動きを取れなくする。
「鍵は……ここか?」
「やめろ!勝手に触るなっ!」
「ん?これだな」
リーダー格の男はドルグが着ている服の鍵が入っているであろう場所に手を入れる。彼はそこにある鍵を掴み、それを取り出した。
「これが鍵か、……ほらよ」
「おっ、と」
リーダー格の男は鍵をリンへと投げ渡す。彼女は投げ渡されるとは思ってもいなかったが、何とか鍵を受け取ったのであった。
「おい、どういうつもりだよ?」
「どうもこうも、嬢ちゃんはそれが必要なんだろ?渡したんだから、さっさと出ていってくれ」
リーダー格の男はドルグに自分達が受けた依頼の代金を払ってもらうように話をしていたのだが、部外者のリンが入って来た事により話が進められなくなると思い、彼女には早急にここから出ていってもらう事を決め、リンに鍵を渡したのだった。
「……ちっ、ドルグに言いたい事は山程あるけど今は時間が無いし、鍵が貰えただけ良しとするか」
「そうか。なら、さっさとここから出てってくれ」
「分かったよ」
ドルグに言いたい事を言ってから鍵を渡して貰おうとしていたリンだったが、結果は消化不良に終わったので思わず舌打ちが出る。しかし、鍵を渡して貰えた事には変わりは無い。街に迫る危機を打開する為の、まさしく鍵を手に入れた彼女は部屋から出ていった。
その際に部屋に入る為に自分が開けた扉はしっかりと閉め、待っていたエルムと赤い鳥と合流して中庭に向かったのである。
「おい!誰かあいつを捕まえろ!そうすれば金を払ってやるよ!」
ドルグはリンから檻の鍵を取り返そうと、正規ではない傭兵である彼らを動かそうとした。
「……それじゃあ、今金を払ってくれよ。それなら鍵を取り返してくるぜ」
「か、金なら後で必ず払う!だから……」
「今払えよ!あんたの後で払うは信じられないんだ!」
「俺達を動かしたかったら、払う物を払ってからだ!」
正規の傭兵ではない男達を動かすにも金は必要であり、その額は正規の傭兵より多い。ドルグはバーサーカーコングの親を街に呼び寄せる為に、その子供を街に連れてくるように彼らに依頼した。
仕事の代金についてはバーサーカーコングの子供を連れてきたら払うとドルグは約束をしていたが、一向に払われる様子が無かったので、彼を問いただす為にこの部屋にやって来たのだった。
鍵を取り返せば代金は払うと言っているドルグだが、それを信じられない男達は今払わなければ動かないと告げる。金を払わないドルグに彼らを動かす権利は無いのだ。
「後で払うから鍵を取り返してこいよっ!」
「後じゃなくて今払えよ!」
男達に羽交い締めにされながらもドルグは仕事を依頼するが、彼らは今払わなければ受けないと先程と同じように返されたのだった。
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今年中には、この騒動の話を終わらせられるように書いていきたいと思います。




