道のりは長くて険しいです。
書きました。
12月17日 行間などを修正
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レクトイの街から二日ほど馬車で走り、山を越えて更に一日馬車で走った所にカツイバという街がある。そこにリンは来ていた。
「おぉ、このジャイアントボアの毛皮はしっかりとした質感で特に上質な物だね、これを使えば良い物が作れそうだ。……銀硬貨8枚でどうだい?」
「8枚?いや、さっきも言ったけど2枚でいいよ別に……」
「とんでもない!確かにジャイアントボアの毛皮は銀硬貨4枚が相場だかこれは希少価値がある上質な物なんだ!2枚じゃ安過ぎる!8枚で買わせてくれ!」
「あー分かった。そこまで言うならその額でいいよ」
「本当か?よし!これが代金だ、受け取ってくれ!」
リンはこの街に来るまでに仕留めたジャイアントボアから採れた素材を売っていた。そのなかで毛皮は希少価値がある上質な物だったので値が高くても買いたいと言ってくる男が居た。彼女はその気迫に気持ちが折れて、その男に売ることにした。
「そんなに貴重な物だったのか。毛皮が欲しかったら冒険者ギルドにでも依頼すればいいと思うんだけどなオレは。だってこの街にも冒険者ギルドはあるんだし」
「……確かに君の言う事も一理あるが、ギルドに依頼を出すと余計に経費がかかってしまうんだ。出費は抑えたいのは分かるだろう?」
「あー、確かに」
冒険者ギルドに依頼を出せばギルドが冒険者にクエストを出してくれるのだが、その分だけ手数料といった様々な経費がかかる。更に冒険者の手元に上質な物が残ってそれ以外のが送られてくる事があるので、なかなか手に入らない物になってしまうのだ。
「また手に入れたら、是非とも買わせて欲しいんだが……」
「そりゃ無理な注文だ。オレも偶々街道に出てきたジャイアントボアを偶々上手く倒せたから手に入られたんだ。次は無いと思うぜ?」
「そうか。……でも、売ってくれてありがとう」
「どういたしまして」
リンは買ってくれた男にそう言うとその場から離れていった。
「まさか高く買ってくれるとは思わなかったな。まあ、オレも色々買ったから結果オーライか」
彼女は今日この街で買った物を思い出しながら帰路に着こうとしていた。
項目が新たに追加された魔物や植物の図鑑。主に冒険者が使う武具の手入れ用品。釘や紐などの小物などを彼女はこの街で買っていた。
「……でも、オレの過去についての情報は無し、か。そう簡単に見つかる訳ないよな……」
もう一つの目的である彼女の過去については皆無だった。大変な事だと彼女自身も百も承知だが、全く無いと思うと気が滅入ってしまうものだ。
「……とにかく、今回は無かったって事にするか」
リンは気持ちを切り替えてこの街の出入り口に向かって歩いていった。
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「………崖崩れ?」
「そうだ。レクトイの街との間にある山道で崖崩れが起きて、道が塞がってしまってるんだ。しばらくはその山道は通行止めになるとの情報だ」
「通れるまでにどれくらいかかりそうなんだ?」
「どんなに速くても15日後、遅くても20日後は見込まれている。とにかくそれまでは山道を通らないようにと通達が出ている」
「……参ったな。これじゃ帰れねぇな」
リンはレクトイの街へと帰る為に馬車の乗り場に来たが、山道で崖崩れが発生して通行止めになってしまっている。その為にレクトイの街に帰る馬車が止まったままなので帰るに帰れない状況だった。
困った様子のリンを見て会話していた兵士があることを思い出した。
「……遠回りではあるがレクトイの街に続く山道が他にもある。急ぎならその山道を使って行くといい」
「えっ?それって本当か!?」
「本当だ。……だが、その道は整備されていないから馬車では通る事は出来ないので歩く事になる。更に魔物も多く出ると聞いているから正直言って通るべきではない、……っておい!?聞いてるのか!?」
それを聞いたリンは話の途中でその兵士から離れていく。兵士が驚いて止めようするが、彼女は気にせずにそのまま進んでいく。
「道があるならそっち通って帰るわ。早く帰らないと店が心配だし。……ありがとな!」
「と、途中で死ぬ事だってあるんだぞ!?分かっているのか!?」
「オレなら大丈夫!気遣いご苦労様でーす!!」
「……まったく、命知らずな……」
命知らずの行動を簡単に取れるリンを止めようとした兵士は驚きながらも呆れてしまう。……まぁ、彼女にとって命は有るようで無い物に等しいのだが。
歩いて山を越える事にしたリンは一旦街の中に戻り、日持ちする食料の確保などの準備を始めた。それが終わると崖崩れがあった山道の近くまで行く馬車を探しに出入り口まで戻ってきた。そして、今は馬車の運転席に座っているドワーフの老人に話しかけている。目的の場所まで行ってくれるのかを交渉していた。
「…………お嬢さん、本当にそこでいいんかい?」
「いいぜ、その先は歩いて行くからな」
「あい分かった!準備が出来てる様だし早く乗りんさい!」
「ありがとな、じいさん!」
リンと交渉したドワーフの老人はそれを快く受け、乗る事を促す。彼女が乗ると、
「ほんじゃ、出ぱーーつ!」
「ヒヒーンッ!!」
老人の威勢のいい声に馬は答え、馬車は走り始めた。
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「……お嬢さん、着いたぞ」
「助かったよじいさん。ありがとな」
目的の場所に到着し、ドワーフの老人がリンに声をかける。彼女は礼を言いながら馬車から降りていく。
リンがカツイバの街に行く時に通ってきた山道で、その途中から道が分かれている。一つはリンが馬車に乗って通ってきた整備された山道。もう一つが彼女がこれから歩いて通る整備されていない山道になる。
「ここから歩いていくなら気をつけて行くんじゃよ。焦りは禁物じゃ」
「分かってるよ!そっちも気をつけてな!」
「気遣いは無用じゃよ。……ところで一つ聞いていいかの?」
「何だよ急に?」
リンが山道を歩き始めようとするとドワーフの老人が呼び止める。
「こんな危ない道を通ろうとするとは、……もしかしてお嬢さんは闇商売でもやってるんかい?」
老人はリンが闇商売に手を出しているのではないかと思って聞いてみた。
闇商売とは、法で取引が許されていない物の売買を行う事をそう呼んでいる。普通では禁止されている物でも闇では重宝されており、高値で取引される。奴隷もそこでは取引されていて、人気のある種族の奴隷は考えられないような値が付くことだってある。
冒険者ギルドや国は闇商売を行う事を厳しく禁じており、もしそれが分かると拘束され厳しい処罰が待っている。だが、冒険者ギルドや国の警戒網の隙間を通るように闇商売は行われているので、ある場所で行われる事を阻止しても別の場所で闇商売が行われている、などのいたちごっこが続いているのが現状だ。
闇商売をしているのかと聞かれたリンは、少しして口を開いた。
「……闇商売なんかやってねーよ。オレの店はレクトイの冒険者ギルドに商品を卸してるから信頼と実績はある。…それに、もし闇商売やってたら今頃オレはここには居なくて牢屋にぶち込まれてる筈だろ?」
「言われてみればそうじゃの。……疑ってすまんかった。最近、この辺りで闇商売が行われているとの噂を聞いてのう。もしかしたらと思ったんじゃ」
「本当かそれ?」
老人はリンの意見に納得し、疑ってしまった事を頭を下げて謝る。老人はこの辺りで闇商売が行われる事の噂を耳にし、もしかしたらリンにがその闇商売人だと思ったのでリンにやっているかの質問をしたのだ。
「あくまでも噂の範囲だから本当とは言い切れん。……おお、そういえば急いでおったんじゃな?さっきの質問のお詫びとして、ここまでの代金は無しで良いかの?」
「オレは別に構わないけど、じいさんは大丈夫なのか?これで稼いでるんだろ?」
「心配は無用じゃ、これくらいの事で困窮するほど金には困っとらんからの。……では、道中気をつけて」
「ありがとさん。そっちも気をつけてな」
老人はリンから代金を受け取らずに来た道を戻っていった。そしてリンも山道を歩き始めた。そしてすぐに彼女は整備されていない山道に入ってそこを進んでいく。
通ってきた山道とは違い、彼女が今歩いている山道は全く人の手が加わっていない自然のままの道になっている。平坦ではなく石や岩が転がっており、深い茂みや密集した木々もあるので道幅は狭く人一人通るのがやっとなので馬車で通る事は出来ない。また明るいともいえずに薄暗く、見通しはよくない。
更にこの様な場所には魔物の住みかになっている事が多く、冒険者でもない限りはこの道を通ろうとは思わない。常に命の危険にさらされるからである。
ガサッ!
リンは立ち止まって身構える。前の茂みが揺れたので魔物がそこに潜んでいてすぐに飛び出してくるかもしれない、と彼女は思ったからだ。
「んっ?」
だが、飛び出してこない事におかしいと思った彼女は先程揺れた茂みを覗きこむ。そこには魔物はおろか何もいない空間だけがあった。
……どうやら先程揺れたのは魔物かどうかは分からないかリンが近くを通ったので逃げた時に触れたので揺れたものだった。その事に気づいたリンは再び歩き出した。
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そこからは様々な事があった。
「……こいつは、自然になってるのは初めて見たな」
市場でよく買っている果物が木に実っているのを目の当たりにしたり、
「ここは行き止まりか……」
別れ道で選んだ方の道の先が行き止まりになっていて、引き返せざるをえなかったり、
ブーン!ブーン!!
「やべっ!近づき過ぎた!!」
針がトライデントの様になっている蜂の魔物、トライデントホーネットの巣の近くを通ってしまった為、その群れに追いかけられたりなど順調とは言えないが確実に進んでいた。
そして日も傾き辺りも暗くなり始める今はというと、
「いやー、助かった~」
偶々見つけた山小屋の中にいた。その山小屋は屋根や壁に穴が空いているのでけっして良いものとは言えないが、ある程度は雨風をしのげるので彼女は今日はここで朝まで過ごす事にした。
「……寝る前に色々とやっておかねぇとな」
リンは床に置いていた袋の中から紐と釘を取り出す。長い紐を結んで結び目をいくつか作り、その結び目の穴に釘を二本、または三本程度通しておく。出来上がった物を手に持って揺らすと釘同士がぶつかって金属音を鳴らす。その事を確認すると山小屋の出入り口や窓、屋根や壁にある穴にも網目のように張り巡らす。
紐に触れたら釘同士がぶつかって金属音を鳴らし、何かが通った事を知らせる物を作っていた。これをしていれば何かが山小屋の中に入ろうとすると紐に触れて釘同士がぶつかって金属音を鳴らし、中に居るリンに何かが入ってきた事を知らせる様になっている。
本来なら鈴などの揺れるだけで音が出る物を使って作成しようとしたが、荷物の中には無かったのでカツイバの街で買った釘で代用した。
「よし、こんなもんか。……よっと」
作成が終わると彼女は置いていた袋の近くで寝転がった。
「……明日に備えて、寝るか~……」
そう呟くと彼女は眠った。寝息をたてる事はなく、それはまるで死んだように眠ったと言ってもいい程だった。…………リンは寝ても永眠はしないのでご心配なく。
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出てきた魔物の説明
トライデントホーネット
腹の針がトライデントの様になっている蜂の魔物。針には刺されると短時間で死に至る猛毒がある。巣に近づいたり攻撃しなければ襲ってはこない。