損か得かは行動次第です。
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リン達三人は封鎖されている街の東側にやって来た。この一帯の壁の向こうからはバーサーカーコングが迫っているので避難は既に完了しているが、もしかしたら逃げ遅れた人が居るかもしれないので、彼らは危険を承知の上でやって来たのである。
「一通り回ってみたけど、この一帯はもう誰も居ないみたいだな」
「そのようですね。街の東側一帯は真っ先に避難が呼び掛けられましたから、私達が来る前に完了したのでしょう。……お二人にはご足労お掛けしました」
「いや、避難が完了してもどこかに居るかもしれないって考えるのは仕方がないと思うぜ」
「ありがとうございます。では、ここを離れて別の場所に向かいましょう」
封鎖されている街の東側を見回った三人だったが、この一帯は既に避難が完了しているようで、兵士の心配は杞憂に終わる事となった。
「次はどこに行くんだ?」
「ここの次は──」
リンは兵士に街のどの辺りを捜索するのかを質問して、彼が答えようとした時だった。
「リンさん、あっちを見てくださいです」
「え?あっちってどっちだ?」
「えっと、私達からすれば右の方です」
「右か、……ん?」
二人の話を聞いていたエルムが何かを見つけたようである。リンに呼び掛けるが、具体的な場所を伝えてなかった為に聞き返されたので、自分達から見て右側だという事を伝えると彼女は右を向く。
「あいつは……、ドルグか?あいつ一体何やってるんだ?」
リンが見た方向にはドルグが居たのだ。彼は数人の男女に言い寄られているのたが、何やら余裕の表情を浮かべているのが遠目からでも伺える。
「あの、この辺りって冒険者と兵士の人以外は入れないんじゃなかったんですか?」
「その筈ですが……、何故でしょうか?」
「ドルグといいフィテルといい、親子揃ってこの非常事態に何してるんだよ……」
エルムと兵士は何故ドルグが封鎖されている一帯の中に居るのが気になったのだが、リンは先程のフィテルと今のドルグの行動を見て、親子共々理解不能な行動をしている事に呆れていたのだった。
「私は少し気になるので、あちらに行って来ます」
兵士は何故ドルグに言い寄っているのかが気になったので、彼らの元へ向かっていった。
「リンさん。私達も行くですか?」
「オレはあまりドルグの近くには行きたくないんだよなぁ。何やってるのかは気になるけど……」
リンはフィテルの事がある為に彼女の父親のドルグに近づく事はしたくなかったので、その場から動かずにとどまった。
少しの時間が経過して、兵士がリン達が居る場所に戻ってきたのである。
「……あの、重ね重ねあなたにお願いしたい事がありまして、こちらに来ていただけないでしょうか?」
「え?オレ?」
「はい。どうやらあの人達が困ってるようでして、あなたの力ならば助けられると思いまして、こちらに戻って来ました」
兵士はドルグに言い寄っていた者が何やら問題を抱えており、リンならばそれを解決出来るだろうと考えて、彼女の元へ戻って来たのであった。
「……それって、本当にオレの力が必要なのか?」
「はい。むしろ、あなたでなければ解決出来ないようですので、とにかく来てください!」
「おいっ!?ちょっ!?急に引っ張るなって!」
「お、落ちるです!!」
兵士は急を要する事態に陥っている彼らを助ける為にリンの手を掴むと、有無を言わさず彼女の手を引っ張って彼らの元へ戻っていく。エルムはリンの肩から落ちないように耐えるので精一杯だった。
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バーサーカーコングを街に侵入させないように冒険者や兵士達は今も必死に戦っていた。
半数が大砲を使っているが魔法を使って足止めを行う者も居る。地面の土を沼のように柔らかくし、バーサーカーコング自身の重さを利用して沈める、地面から植物の蔦を生やして縛り上げるなど、各々の魔法を駆使してバーサーカーコングの動きを止める為の魔法を行使していたのだったが、あまりにも巨大な力を持つバーサーカーコングに大人数で挑んでも動きを止めるのだけで精一杯であり、追い返す事が出来なかった。
「魔法が出せなくなった者は下がれ!魔力回復薬を飲んだら戻って来るんだっ!」
魔法を使えば使うほど魔力は減り、いずれは尽きてしまう。魔力が無くなった者にはその場から下がるように呼び掛けられ、魔力回復薬を飲んで無くなった魔力を戻して来るように指示を出すのを繰り返していたのだが、ここで一つの問題が発生したのだった。
「魔力回復薬がもう無いだと!?」
「はい、先程渡した物で最後です!」
バーサーカーコングの撃退に当たる者達の魔力を回復してきた魔力回復薬が底を尽き、魔力を回復する事が出来なくなってしまったのである。大砲と魔法の二つでバーサーカーコングを足止めしていたのだが、魔法で攻撃出来なくなると大砲だけではバーサーカーコングを止める事は不可能だろう。
「このままじゃまずい!バーサーカーコングの力なら、街の壁なんか簡単に破壊されちまう!」
「魔力回復薬が無いと、魔法が使えなくなるよ!」
「言われなくても分かってるけどよ、一体どうすればいいんだっ!?今のこの状況で、店なんかどこも開いてないぞ!?」
このまま魔法が使えない状況に陥れば戦線は維持出来ず、バーサーカーコングに街を覆う壁は破壊されてしまうだろうし、最悪の場合には街は壊滅する。
誰もがそうならないように奔走するも、街中に避難が呼び掛けられているので魔力回復薬を扱っている店は全て閉まっており、そこに勤めている店員は全員避難しているので買えないし売ってもらえないだろう。
この最悪な状況を打破する方法は見つからずに街は壊滅すると、誰もが諦め始めた時だった。
「魔力回復薬なら、ここにあるぞ」
「あ、あんたはっ!?」
このまま街が壊滅するのを受け入れるしかないと思い始めた状況で一人の人物が現れた。魔力回復薬があるという一途の希望の言葉に、この場に居た全員がその方を向く。
「……バウズ商会の会長かよ」
「バウズ商会ってさ、質が悪い商品を高値で売るあのバウズ商会だよな?」
「何でここに居るんだ?」
現れたのはバウズ商会の会長であるドルグだった。冒険者でも兵士でもない彼が、封鎖されているこの場に現れた事に疑問を抱くが、魔力回復薬を持っていると聞いたので、そこを気にする余裕は無かった。
「魔力回復薬がどうしても必要なんだろ?今の俺の手元には10本だけある。金を払うならやるぞ?」
「こんな時に金取るのかよ!?」
「緊急事態に何考えてんだ!」
ドルグは冒険者や兵士達が必要としている魔力回復薬が入った瓶を持っており、それを彼らに売ろうとしているのだ。こんな緊急事態に商売をするのは肝が座っていると言っても良いかもしれないが、彼らはドルグの行動に警戒し、抗議の声を上げる者も出た。
「……今は頼るしかないな、買わせてもらおう。今は手持ちが無いから後で払うが、いくらになる?」
ただ、背に腹は変えられぬとドルグから魔力回復薬を買おうと決めた者が出た。確かに今から開いている店を探しても絶対に無いので、少ない本数だけど彼から買う事に決めたようである。今は持ち合わせが無いので後で支払う旨を伝え、ドルグに値段を尋ねる。
「魔力回復薬の代金は1本の値段はプラチナ硬貨5枚、合計でプラチナ硬貨50枚になるな。それと、後じゃなくて今払ってもらおうか?」
「「「「「はあぁぁっ!!?!?」」」」」
薄利多売が基本になっている魔力回復薬の1本の平均販売価格は銀硬貨5枚なのだが、なんとドルグはその千倍の金額を呈示してきた。しかも、手持ちが無いと伝えた筈なのに、彼はこの場で全額支払うように言ったのである。
「ふざけんなっ!」
「いくら何でも高過ぎるんだよっ!」
「今は緊急事態だから仕方ないだろ?他に買える所が無いから、俺から買うしかないと思うけどな」
「それに、お金なんて今は持ってないってば!」
「今払わないと俺は売らないぞ?さぁ、これが全部欲しかったらプラチナ硬貨50枚を今すぐ払えよ」
いくら緊急事態だからといっても、こんな馬鹿高い金額を呈示してきたドルグに対して、当たり前の事だが抗議の声が上がる。しかし、彼の言った通りであって、他に魔力回復薬を売っている所は今の状況ではどこにも無い。
「……どうした?お前達が魔力回復薬を俺から買わなかったら街は壊滅するんだぞ?街の奴らから批難を浴びるのはお前達になるが、それでもいいんだな?」
「お前っ!」
ドルグは冒険者や兵士達の弱味に付け込み、彼らから大金を巻き上げようとしているのであった。彼らの中にはドルグが自分達にしようとしている事を理解した者が居たが、この状況ではどうする事も出来なかった。
「取り込み中に申し訳ありません、どうされました!?」
そんな時に一人の兵士が現れ、この場で何が起こっているのかを説明するように求めた。
「良かった!実は───」
現れた兵士に、彼の近くに居た冒険者が現在の状況を説明する。魔力回復薬が尽きてしまった事と、ドルグが魔力回復薬を信じられない値段で自分達に売り付けようとしている事を兵士に伝えたのだ。
「そうですか。…………それならば、ここで少々お待ち下さい!」
「お、おい!?ちょっと待て!?」
話を聞いた兵士は何かを思い出したようであり、踵を返すと周囲の制止を聞かずに離れていった。
「どうしたんだよ?さっさと金を出して買えよ?」
「だから!今は金は無いって言ってるだろ!?後で払うから!」
「後じゃなくて今払えよ!そうじゃなきゃ俺は売らないって何度も言わせるな!」
ドルグは再び購入するように迫るが、彼らは同じような答えを返す。今は手元に金は無いと伝えている筈なのに、ドルグは今払わなければ売らないと繰り返している。
「すみません!お待たせしました!この人なら大丈夫だと思います!」
「あ、あんたは……」
先程この場から離れた兵士がこの場に戻って来た。このどうにもならない状況を打破する事が出来る人物を連れてきたようである。
「……とりあえずさ、今のこの状況をオレに説明してくれるか?出来るだけ手短に頼むよ」
「皆さん、どうしたんですか?」
兵士が連れてきた人物というのは、今の状況が全く分からずに困惑しているリンと、彼女の肩に乗りながら同じように困惑しているエルムの二人であった。
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リンとエルムの二人は周囲から説明を受け、魔力回復薬を使い切ってしまった事と、ドルグが手持ちの魔力回復薬を馬鹿高い金額で売り付けようとしているという状況を理解した。
「成る程ね。……ドルグ、お前は何でいつもそういう商売しかしないんだよ?」
「うるさいっ!俺の商売の邪魔をするんじゃねぇ!!お前は引っ込んでろっ!」
「絶対に嫌だね」
同じ街の同じ商売人であるリンとドルグだが、二人には決定的な違いがある。利益を考えながらも利用客の事も考えているリンと、利益の事しか考えていないドルグとでは考え方が全く合わないので、二人が協力するという事は絶対に無い。
「大体、何でお前がここに居るんだ?ここは立ち入り禁止の筈だぞ?冒険者でも兵士でもないお前が入ってはいけない場所なんだよ!」
「オレ達はこの人の手伝いをしてるから大丈夫なんだよ。……で、何でお前はここに居るんだよ?」
「質問を質問で返すんじゃねぇ!!」
「いや、オレは答えたからな?人の話はきちんと聞けよ。……お前と話していると時間の無駄になるな」
リンはドルグと話していては時間を浪費すると考え、彼との話を切り上げると、魔力回復薬を求めている者達の元へと向かう。
「待たせて悪いな。欲しいのは魔力回復薬だよな?どれだけ必要なんだ?」
「出来るだけ多くの数が欲しい。可能ならば有るだけ全部欲しいんだ」
「有るだけ全部か」
リンは必要な魔力回復薬の数を尋ねると、有るだけ全部欲しいと答えが返ってきたので、彼女は少し考えを巡らせる。
「……言っとくけど、金はきちんと払ってもらうからな?」
「あんたもかよ!」
「緊急事態で金なんて持ってないんだよ!」
金の話が出てくると冒険者達は一斉にリンを非難する。この街ではバウズ商会よりも有名で、良心的な値段で商品を売っている人気の雑貨屋、『ウィンスト』の店長であるリンならばと希望を抱いた彼らだが結局の所、彼女もドルグと同じで金を巻き上げようと行動しているのだと落胆したからであった。
「ん?どうした?」
「リンさん、お金は持ってないって皆さん言ってたですよ?」
「……あ、言葉が足らなかったな。悪い悪い。金は後で払ってくれればいい。その約束をしっかり守れるなら、今持ってる魔力回復薬は有るだけ全部渡すから」
リンは何で批難を浴びせられているのか分からなかったが、エルムから指摘を受けた事で彼らからの批難の理由が、代金を後で徴収する事を自分が伝え忘れたからだと分かり、謝罪した後にその事を伝えたのだった。
「ほ、本当か?」
「この状況で嘘は言わない。オレ達に出来るのはこれくらいの事だけだからな」
「頑張って下さいです」
「ありがとう!本当に助かる!」
「よっしゃあ!」
「恩に着る。代金は後で必ず払おう」
「口約束でも約束だから、絶対に払ってくれよな」
有るだけ全部の魔力回復薬を渡してくれるだけではなく代金は後で徴収すると聞いて、冒険者達は希望が繋がったと歓喜する。これで魔法の攻撃を続ける事が可能になったからだ。
「おいっ!お前嘘ついてんじゃねぇよ!魔力回復薬なんてどこにも持って無いじゃないか!?」
しかし、ドルグがここで物言いをつける。彼の言う事は尤もであり、リンの手などには魔力回復薬が入っているであろう瓶のような物は一つも持っている様子は無い。
「言われてみれば……」
「どこにあるんだ?」
ドルグの言葉を聞いて、喜んでいた冒険者達がリンに懐疑の目を向けるが、その視線を気づいた彼女は自分の言葉が嘘ではない事を証明する為に動く。
「嘘をついてないって証拠を見せれば良いんだな?……エルム、地面に下りて袋から魔力回復薬を有るだけ全部出してくれ」
「分かりましたです」
リンの指示を受けたエルムは彼女の肩から離れて地面に下り立つと、腰に着けていた一つの袋を地面に置く。
「リンさん、出すのは魔力回復薬でいいんですよね?」
「そうだ。有るだけ全部だ」
「有るだけ全部ですね!」
エルムはリンに袋から出す物が魔力回復薬である事を再度確認すると、袋の口から光が漏れ始める。
「うわっ!?」
「いっぱい出てきたぞっ!!?」
袋の口から光が漏れ出したと思ったら、そこから魔力回復薬が入っている瓶が大量に出てきたので冒険者達は非常に驚いている。
「あの子が持ってる袋って、魔法袋だよな?」
「それしか考えられない」
「噂は本当だったんだな……」
瓶一個すら入れられない大きさの袋から、激流の如く大量に瓶が出た事に驚きを隠せないようだ。それが稀少価値が高い魔法袋だと分かると、更に驚いている。
「よいしょ、です」
魔力回復薬がある程度の量が出てくると、エルムは袋を持ち上げる。すると、袋の口は下を向くので魔力回復薬の瓶の出る勢いが増した。
「……リンさん、全部出たみたいです」
「おう、ありがとな」
しばらくすると魔力回復薬は袋から全部出たようであり、エルムはリンに終了を報告すると彼女の肩へと戻っていった。
「オレが……じゃなくて、オレ達が持っている魔力回復薬はこれで全部だ。数は確か……1500本だったな。全部持っていくんだろう?早く持っていってくれ」
「ど、どうしてこんな大量にあるんだ?」
「いやぁな、オレとしたことが、発注の数の桁を一つ間違えている事を注文した物が届いた昨日になって気づいたんだよ。大量に在庫を抱える事になってどうすればいいか困ってたんだけど、持っていってくれるならオレが助かるし、あんた達も助かると思うけどな」
「いや、これだけの量ならバーサーカーコングを追い払えるかもしれない!本当に助かる!」
リンはここ最近の忙しさが相まって150本を発注したつもりが、桁を一つ間違えていて1500本を発注していたのだ。
その間違いに気づいたのは発注した品物が届いた昨日の午後であり、魔力回復薬の一本の仕入値が銀硬貨4枚であっても、1500本の魔力回復薬の代金は金硬貨60枚という大きな出費になるが、金硬貨20枚はその場で払い、残りの金硬貨40枚は日を改めて支払いをする約束を取り付けたのである。
大量に在庫を抱える事になったリン達はどうやって捌いていこうか悩んだものの良案がそう簡単に浮かぶ訳もなく、休みが明けたらゆっくり考えようと結論を出したが、その休みの日に緊急事態が発生して有るだけ全部欲しいと求められたので、この機会を利用して在庫を全て捌こうと決めたのだった。
「とりあえず先に値段を伝えておくからな。魔力回復薬の平均販売価格は銀硬貨5枚で、オレの店も同じ値段で扱ってるけど……、よし!こんな状況だから今回だけの特別価格で、一本の値段は銀硬貨1枚だ!これよりは下げないからなっ!」
「「「ぎ、銀硬貨1枚ぃっ!?」」」
リンは冒険者達に後で徴収する金額を伝えたのだが、彼女は今の状況を考えて採算は度外視し、普段の金額の五分の一である銀硬貨1枚という破格の金額を呈示したのだ。
「それで良いのか?そんな安い値段だと、あんたが損するだけじゃないのか?」
「損?この街が壊滅する事がオレにとっては大損なんだよ。街を守ってくれる為に動いてくれてるあんた達に、オレ達が出来るのは本当にこれくらいだから、今回の損は必要経費みたいな物だよ」
仕入が銀硬貨4枚に対して売上が銀硬貨1枚だとリンが損をするのは誰が考えても明らかなのだが、彼女は損をあえて自分が受ける事で街が救えるのなら、それでも構わないとリンは思っているのだ。
「……でもな、商売は義理人情だけで出来る事じゃない。緊急事態でも最低限の金は、今回は後で構わないけど絶対に払ってもらうからな」
しかし、商品を無料で渡しては雑貨屋の経営は成り立たなくなる。リンは今回だけの特別価格であり、事態が落ち着いたら必ず徴収する旨を冒険者達に伝えたのだった。
「分かった!約束する!」
「言ったな?約束を破ったら、どこまでも追い掛けるから」
「逃げるなんて絶対にしないから!」
「俺もだ!助かったぜ」
「私も!本当にありがとう!」
「分かった分かった、早く持っていってくれ」
「沢山あるですから、焦らないで下さいです」
平均販売価格の千倍で10本という少ない数だけしかなくて、代金は今ここで払わなければ渡さないと言ったドルグ。平均販売価格の五分の一で1500本という膨大な数があって、代金は事態が落ち着いたら徴収すると言ったリン。
冒険者達は選んだのは紛れもなく後者であった。彼らはリンとエルムの二人の元へ殺到し、次々と魔力回復薬を手に取ると彼女達に礼を言って、現場へと戻っていった。
「そうだエルム。給料については心配しなくていいからな」
「大丈夫なんですか?確か昨日はお金を沢山払ってたですよね?」
「そこは上手くやりくりしてるからな。……ちなみに、昨日の支払いは貯めてあった資金で全部払える範囲だったけど、そうしたら他の支払いが滞るかもしれないと思ったから、三分の一を昨日払って残りは後で払うって約束したんだ。こういう事が出来るのは、それだけオレが信頼されてるんだよ」
「へぇ~、すごいですね」
リンはエルムが気になっているであろう給料の事を心配しないように伝える。実は金硬貨60枚を一括で支払える資金は持っていた彼女であったが、他にも様々な支払いが存在しているので先述の通りに支払ったのだった。
その事が可能な理由は、リンがそれだけ商売相手から信頼を得ているからである。それには努力をしなければならないが、彼女は地道に努力を重ねて信頼を得たのであった。
「今回の損は他の売上で充分埋められる物だし、今回の特別価格は出血大サービスって言うんだ」
「あの、リンさんは血が無いのに出血って言葉を使っていいんですか?」
「……別に使うのは構わないだろ」
商品を赤字覚悟の低価格で販売する際の売り文句として出血大サービスという言葉があるのだが、物理的に血も涙も無いリンが使うのは違和感を覚えたエルムであった。
「おいっ!そいつが出した魔力回復薬は全部偽物だっ!飲んでも魔力は戻らねぇぞ!!」
リン達の行動によって冒険者達の顔に希望の色が戻ったが、それに水を差すようにドルグがリンの魔力回復薬は偽物だとを言い放ったのである。
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