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状況は待ったなしです。

これからの投稿についてですが、基本的に投稿時間は午前0時に予約投稿していきます。

============


ドルグは愛娘であるフィテルの望みを叶える為に奔走しているのにも関わらず、彼の依頼を受けようとする傭兵は誰も居なかった。そんな中でバウズ商会の傘下にいた商人達が現れて傘下から抜けるとドルグに宣言をした。


ドルグは抜けさせない為に脅しを掛けたのだが、既に彼の側には傭兵のゲンダはおらず、何人もの商人達が傘下から抜けていった。思い通りに事が進まないドルグであるが、彼にとっての不幸は連続して起ころうとしている。



「会長!!大変ですっ!!」

「何だよっ!!俺は今忙しいんだから入ってくるんじゃねえっ!!」

「とにかく、これを見て下さいっ!」



商人達が傘下から抜けていった数日後、従業員の一人が数枚の紙を持ち、血相を変えてドルグの部屋に入って来た。ドルグは今はフィテルの望みを叶える為に忙しいと部屋から従業員を追い出そうとするが、彼は手に持っている紙をドルグの前に突き出した。従業員が持ってきた紙にはドルグが早急に対処せざるを得ない問題が事細かに記されていた。



「……おい、何だこれは?」

「これはバウズ商会に対しての差押予告通知です!これ以上は支払いの期限は延ばせません!期日までに一括で支払わなければ商会の財産を差し押さえると書いてあります!」



それはバウズ商会が抱えている債務に対しての差押予告通知であった。バウズ商会は雇っていた傭兵のゲンダの威を借りて借金や商品の代金の支払いの期限を延ばしに延ばしていたのだが、彼が居なくなった事で債権者達が団結し、差押予告通知を商会に送ったのだ。この通知を見ても期日までに一括で支払いを行わない場合は、裁判所に訴えを起こして商会の財産を差し押さえて支払いに充てるという旨の内容が記載されている。



「会長!今すぐに手を打たなければ商会は終わりです!!私達は路頭に迷う事になるんですよっ!!」



バウズ商会が今まで支払わなかったのツケが、正にこの時になって回って来たのだ。この問題はドルグが一刻も早く対応しなければならない物であり、部下の男は彼を説得する為に従業員達の話し合いの中で名乗り出て、ドルグの元に向かったのであった。



「俺が何でやらなきゃいけないんだよ!?お前らがどうにかしろっ!俺は忙しいって言ってるだろうがっ!!」

「か、会長!?こんな時に何を言っているんですか!!?商会の危機なんですよ!!これは最優先事項です!!」

「そんな事よりもフィテルの願いを叶えるのが最優先に決まってるだろうがっ!!どうでもいい事に俺の金は銅硬貨一枚払わないからな!!」



経営者ならば差し押さえを回避しようと金策に奔走するのが普通なのだが、ドルグはフィテルの望みを叶える事に全てを向けたいが為に、商会の経営者として本来は彼が対応に当たらなければならない事案であるにも関わらず、商会に関係が全く無い事案に商会の金を注ごうとしている。予断を許さない状況になっているのに、彼は見向きもしなかった。全ては愛する娘の為、彼女の望みを叶える為ならば商会の従業員が路頭に迷う事になっても構わなかった。



「会長っ!?」

「出てけって言ってるだろうがっ!!出ていかねえとぶっ飛ばすぞっ!!」

「……わ、分かりました」



今のドルグに何を言っても聞く耳を持たないとと悟った部下は説得を諦め、部屋から出ていった。


============


バウズ商会の一室では、商会の従業員達が集まって何かを話し合っている。そこに、先程までドルグを説得していた男が戻ってきた。



「会長はどうだった?」

「……駄目だ。差し押さえの予告通知が送られてきているって言ったのに、自分の娘の願いを叶える事しか頭の中には無いみたいだ」

「そうか。この商会はもう終わりだ……」



従業員達はドルグに商会の危機的状況に目を向けてもらおうと誰が説得するのかを話し合って決め、先程の男がドルグの元に向かったのだが、先述の通り彼は聞く耳を持っていなかったので説得を諦め、この部屋に戻ってきたのである。



「どうする?これ以上の説得は難しいと思うが?」

「……でも、これはもう会長に対応して貰わないといけないんだよ。俺達がどうこう出来る問題じゃない」

「会長の娘への溺愛は筋金入りだ。俺らがどんなに声を上げても聞きやしないぞ」

「だけどな……」



従業員達は商会の今後の為にドルグをどうやって説得するのかなどと様々話し合っているのだが、一向に名案は浮かんでこない。ただ無駄に時間だけが過ぎていくのだった。



「お前達、ここに居たのか」

「「「「会長!?」」」」



そんな最中、商会の会長であるドルグが従業員達が集まっている部屋に現れた。彼らはドルグが考えを改めて、差し押さえの対応に当たってくれるのかと淡い期待を抱く。



「ちょうど良かった。お前らに頼みたい事があったんだよ」

「な、……何でしょうか?」



しかし、頼みという単語に期待ではなく恐れを抱く従業員達。彼の頼みというのは遠くの街まで高級品を買ってこい、商会の商品を自腹で購入しろなど、ろくな物が無かったからだ。



「お前らの家族を売って金に換えてこい。若い奴なら高く売れるだろうよ。そして、その金を俺に全部渡せ。お前達の家族を金にすれば、この商会が救えるんだよ。良い案だろ?」



ドルグの頼みというのは従業員の家族を売って換金し、その金を受け取ったら彼に全額渡すという、正気の沙汰とは思えない事であった。どんな事をしてでも早急に金が欲しかったドルグはこの方法を思いつき、自分の頼みなら従業員は文句を言わずに実行してくれるだろうと、従業員達の元に現れたのだった。



「ふざけないでくださいっ!!」

「家族を売れって、会長は正気ですか!?」

「俺は正気だ!早く家族を売って金に換えてこいよ!親兄弟構わず若い奴なら高く売れるだろうから、さっさと売ってこい!」



自分の家族を売れという事に、普段は嫌々ながらも彼の頼みを聞いてきた従業員達も流石に異を唱えるが、ドルグはそれでも家族を売れと強く命令した。



「……会長。それは私達に犯罪をしろと言っているんですよね?人身売買は王国の法律で禁止されているのですよ?」

「金が無いから仕方無いだろ?こうでもしないと金は入ってこないんだ。お前らはこの商会と家族、どっちが大事なんだよ?」



金が無いからといっても、王国の法律で固く禁じられている人身売買を強いる彼の気が知れない従業員達にドルグは、商会と自分の家族のどちらを取るべきかの選択を迫る。



「……それは決まってますよ」



一人の従業員がそう言うと、この部屋に居る全ての従業員が頷く。彼らの答えは言葉に出さずとも一致していた。


その台詞を聞いて、ドルグは一安心する。何やかんや文句を言っても最終的には会長である自分の命令に彼らは逆らわない。これで金の問題は解決すると安堵したのだ。



「そうかそうか。ならさっそく……」

「……こんな商会より、自分の家族の方が何倍も大事に決まってるじゃないですか!」



自分の家族の方が商会よりも大事だというのが従業員達の答えであった。この商会でどんな理不尽な事に見舞われても家族を思って耐えてきた彼らは、自分の大切な家族を売ってまで商会を救いたいとは微塵も思っていなかった。



「……なんだと?」

「商会の為に大事な家族は売れませんし絶対に売りません!」

「私達の家族は売り物じゃないんです!」



ドルグは予想外の答えに顔をひきつらせる。従業員達は商会の為に家族は売れないし売らないと宣言する。



「黙れっ!!金が無いって言ってるだろ!!お前らのせいでこうなったんだから、お前らは責任を取って家族を売って金に換えてこいよっ!!」

「家族を売る事は絶対にしませんよ!!」

「いいから言う事を聞けよっ!!その金で俺はフィテルの願いを叶えなきゃいけないんだよ!!何度も言わせるなっ!」



ドルグは差押予告通知が送られてきたのは従業員達の働きが悪いからと言って、彼らに家族を売って金に換えるように再び迫るが、それは商会の救う為ではなく自分の娘であるフィテルが望んだ事を叶える為だと、つい感情的になって言ってしまったのだ。



「差し押さえを回避する為じゃないんですか!?」

「ならば尚更、そんな事の為に家族は売れませんし売りませんよ!」



商会の危機を救う為ではなく、自分の娘の望みの為に家族を売れというドルグに従業員達は更に憤慨する。



「……そうかよ!なら全員出ていけっ!!お前らはクビだっ!!」



自分の思惑通りの答えが従業員から返ってこなかったので彼らに対し、ドルグは解雇を通告する。



「そうですか……、今までお世話になりました!」

「「「「お世話になりました!!」」」」



解雇を通告された従業員達は全員、喜んでドルグにお礼を言うと足早に部屋から出て、商会の建物からも出ていった。自分達から辞めたいと言えば辞めさせないようにドルグに色々と手を回されていた彼らは、ハッキリと彼の口から解雇を通告されたのは初めてであり、辞めるなら今しかないと彼に反論の隙を与えずに全員が同調して出ていった。



「え?……お、おい待てよっ!!」



ドルグは慌てて呼び止めるも既に手遅れであった。解雇を通告すれば彼らは考え直すだろうと踏んでいたドルグは全く予想外の出来事に、ただ呆然とするだけだった。


============


バウズ商会の危機的状況はレクトイの街に瞬く間に広まり、それはリンの耳にも入った。



「差し押さえね、……やれやれ、遂にそうなったか」

「そうらしいよ。バウズ商会の従業員も全員辞めたって言ってたし。……あ、差し押さえって言ったけど差押予告通知が届いたって事だからね」

「それが届いてもドルグは払わないと思うけどな。差し押さえと言っても変わらないだろ」



バウズ商会の現状を、そこの元従業員達から聞いた一人の女性からリンは聞かされているのだが、彼女は遠からず商会がこうなるだろうと予測していたのだ。



「……しかし、債権者達も差し押さえなんて思い切った事したもんだな。あそこには腕利きの傭兵が居た筈で、バウズ商会に何かすれば報復されるって聞いてたけど?」

「それなんだけどね、バウズ商会が雇っていた傭兵も辞めたって言ってたよ。恐らくそれで差し押さえをするって決断したんじゃないのかな?」

「傭兵も辞めたって、……ドルグの奴は毎月の契約料すら支払わなかったのか」



リンは傭兵を雇った事は無いのだが、傭兵を雇う際には毎月決まった契約料を支払わなければならない事を知っており、ドルグはそれを雇っていた傭兵にきちんと支払わなかったので彼は商会なら離れたのだろうと考えた。



「リンちゃんも気をつけな?商売って難しいから油断すると、バウズ商会みたくなるよ?」

「そこはご心配無く。上手くやりくりしてるんで問題無いから」

「それなら安心したよ。じゃあ、私は仕事があるからこれで」



借金まみれで倒産の可能性が濃厚なバウズ商会に対し、リンは先代の店長から引き継いだ借金や自分で作った借金も計画的に返済している。きちんと金銭管理をしている事を聞いた女性は自分の仕事に戻っていった。



「リンさん、戻りましたです」



その女性と入れ換わる形でエルムが店に入ってきた。配達から戻ってきたのである。



「エルム、お疲れさん」

「どういたしましてです。……あの、リンさん」

「どうした?」

「配達の時に街の人達がバウズ商会の資産が差し押さえられるとか言ってたんですけど、差し押さえられるってどういう意味ですか?」



エルムが配達を行っている時に、街の住人が口々にバウズ商会の差し押さえについて話していたのを聞いた彼女は、話の内容や言葉の意味が分からず、店に戻ってきてリンに尋ねたのである。



「情報が広まるのが早いな。差し押さえっていうのは、借金とか税金とかを滞納している……、つまり払わなければいけない物を払わずにいると債権者……金を貸してもらっている奴とかから、この期日までに一括で払えっていう通達が送られてくるんだ。その時に払えば問題ないんだが、その通達が送られてきても払わないでいると債権者が裁判所に申し出て、それを受け取った裁判所は滞納している奴に支払督促を送るんだよ。それでも支払わないと滞納している奴の持っている現金や資産を強制的に徴収するんだ。それが差し押さえだ」



リンはバウズ商会の情報の周りが早いのを驚きつつも、エルムに差し押さえの意味を教え始めた。



「えっと、……初めて聞いた言葉ばかりでさっぱり分からないです」



リンはエルムに分かりやすいように教えたのだが、彼女には聞いた事が無い言葉だらけで理解が出来なかったようだ。



「あ~、つまりだな。自分が支払わないといけない物をそのまま払わないでいると、金を借りてる奴らから通達を送られてきて、それで払わないと裁判所から支払督促っていう書類が送られてきて、それでも支払わないと差し押さえが執行されて持っている金とかが、ほぼ全部没収されるんだ」

「……えっと、お金を支払わないでいると最後はその差し押さえで自分の物が持っていかれちゃうって事でいいですか?」

「凄く簡単に言うとそうだ。……ってか、最初っからそう言えば良かったのか」



リンは頭を悩ますエルムに分かりやすいように、更に要点を抜き取って話す。エルムは払うべき物を払わないでいると差し押さえが行われる事を理解したようだ。



「でもリンさん。前に荷車が魔物に襲われて商品が全部駄目になって、それで借金が大変な事になった人が居るって言ってましたよね?支払いが難しくて借金が全然減らないってのも言ってましたよね?その人も差し押さえになるんですか?」



エルムは以前、リンの知り合いの商人が自身の荷車が魔物に襲われて商品が売り物にならなくなり、多額の借金を背負ってしまって、支払いが困難になってしまった話を覚えており、その人も差し押さえの対象になるのではないかと不安を抱く。



「いや、債権者や裁判所とかはそこまで冷血な奴らじゃない。支払いが困難な場合はきちんと申請を出して、それが認められれば返済や支払いか猶予されるんだよ。まあ、猶予だからいずれは支払わないといけないけど待ってもらえるから、ある程度の余裕が作れるんだよ。実際にそいつも猶予の申請をして、それが認められて支払いを待ってもらってるって聞いたし」



不安を抱くエルムに、リンは事情があれば申請をして理由が正当と判断されれば支払いなどの猶予が受けられる事を話す。以前話していた知り合いの商人は被害を受けたと分かってすぐに申請をして、借金の返済の猶予が受けられた事も一緒にエルムに話す。



「支払いとかを待ってもらえるんですね。……じゃあ、バウズ商会も、その猶予とかの申請はしたんですか?」



それならバウズ商会も猶予の申請をしたのかとエルムは尋ねるが、リンは首を横に振って否定する。



「申請をしたって聞いたけどな、猶予の申請をしても全てが通る訳じゃないんだ。あくまで災害とか事故とかに巻き込まれた場合の申請は通りやすいけどな、そういう事実は一つも無かった。バウズ商会は金を払いたくないからっていう理由で猶予の申請をしたんだが、そんな身勝手な物は絶対に通る訳がないんだよ」

「そうなんですね」



支払の猶予の申請は、災害や事故に巻き込まれた場合など正当な理由が無ければ受けられない。実際にバウズ商会は金を払いたくないからという理由で猶予の申請をしたのだが、そんな理由で猶予を受けられる筈も無く、申請は却下されていた事をリンは知っていた。



「……なんか、お金の事って色々と難しいんですね」

「生活とか商売とかは、次に何が起こるか分からないからな。金を沢山持ってるからといって考えも無しに使うのは、持ってないのと同じだとオレは思ってるから」

「それってどういう事ですか?」

「お金は無限には存在しないから大切に考えて使えって事だよ」



幾ら売り上げが好調でお金が沢山あったとしても、無計画に使用してはすぐに全部無くなってしまう。それでは不測の事態が起こった場合には全く対応出来ずに店は潰れてしまうだろう。そんな事にならないように常に考えて行動しなければならない。小さい雑貨屋の経営者であるリンは、それを考慮しながらも様々な業務を行わなければならないのだ。



「エルム。この話はこれくらいで終わりにして、休憩が終わったら次の配達に行ってくれ」

「はい、分かりましたです!」



リンは思いの外、話が長くなったので切り上げると、エルムに休憩を取ってもらい、次の配達に向かうように指示を出す。彼女が商品の配達の業務を行うようになってから配達での注文が増加しており、リンは膨大な量の荷物が入る魔法袋があるとはいえ一回で全てを回るのは、身体が小さいエルムには負担が大きすぎると考えた。そこでリンは、荷物の量が多い場合は休憩を挟みながら数回に分けて配達に行くように指示を出すようになったのだ。



「それじゃあリンさん、二回目の配達に行ってくるです!」

「ああ、気をつけてな」



暫しの休憩の後にエルムは準備を終え、配達に向かっていった。そんな彼女をリンは心配しながらも優しく見送る。



「……とりあえず、今日の仕事が終わったら返済計画を見直しとくかな」



明日は我が身という言葉があるように、バウズ商会の差し押さえが決して他人事ではないと感じたリンは、雑貨屋の今日の業務が終了した後に現行の返済計画を見直す事に決め、仕事に戻っていった。


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