勇者の初陣
今回は勇者側の話です。
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異世界から勇者を召喚したナイメア帝国は、すぐに準備に取り掛かった。まずは周辺諸国には停滞していた貿易をすぐに再開させようと働きかけ、停滞していた貿易によって帝国が被った損害に対して謝罪の念を込めて賠償金を帝国に支払い、更にこれから行う貿易に帝国は金を一切払わないという要求を纏めた文書を送った。この要求が飲めない国は帝国に対して宣戦布告したと捉え、その国に戦争を仕掛けるとの通達も一緒に送り、その準備にも取り掛かったのである。
勇者達には魔王を倒す為の進軍として名目上は伝えてあるのだが、本当は世界を征服する為の進軍だと知られないように、その情報を慎重に扱った。帝国の住人にも魔王を倒す為の進軍の準備と伝えているが、彼らは分かっていた。勇者達は帝国が世界を征服する為に召喚されたのだと。この進軍も世界を征服する第一歩だと。これが成功すれば、自分達が一生遊んで暮らせる未来がやって来る呼び水になると誰一人として疑っていなかった。
また、彼らから勇者達に漏れないように戒厳令が出され、勇者に話した者には罰が下されるように法が定められた。国王はひとまず安堵する。これで勇者達に漏れる事は無いだろうと。……だが、問題は国内からではなく国外から彼の元に来た。
「国王様!大変です!」
「何事だ!」
「そ、それが…………、文書の内容は全て拒否するとの文書を送った全ての国からの返答の連絡と、勇者召喚の儀についての各国からの抗議の連絡が何度も送られて来ています!」
帝国のあまりにも横暴な要求に対して全て拒否するとの返答と、この世界では最大の禁術とされている『勇者召喚の儀』を何故行ったのかとの抗議の連絡が、文書や通達を送った各国から帝国に寄せられてきたのであった。
それはリンが暮らしているラゼンダ王国も、永世中立国のシーバス国も同様に、ダラマ王国を除いた世界中のほぼ全ての国が拒否と抗議の連絡を帝国に寄越したのだ。彼らは、ずっと交流を絶っている帝国とは極力連絡したくは無かったのだが、事情が事情なので連絡をしたのである。
「ふんっ!あいつらは今更何を言っているのだ!?貿易を止められて損害を被ったのは我ら帝国なのだぞ!?それを弁償しないという事は、帝国に宣戦布告したという事だ!すぐに準備に取り掛かれ!勇者召還の儀の方は干渉するなと返答しろっ!」
「はっ!」
国王は要求を拒否された事に宣戦布告されたと受け止めて準備に取り掛かるように、勇者召還の儀は帝国のした事に口出しをするなと連絡するように、兵士に命令する。
「国王様、本当に良いのですか?」
「構わん!それより勇者達の準備に時間を掛けるな!早く進軍を始めろ!我々に時間は残されていないのだぞっ!」
「は、はっ!!」
大臣から本当にそれで良いのかと尋ねられるが、国王は一蹴する。『勇者召喚の儀』がこの世界では最大の禁術となっている事は国王も周知の事実なのだが、強大な力を持つ勇者を召喚する為ならば禁術でも構わないと、詳しく内容を知ろうとせずに強行された。
そして国王は進軍の準備に時間を掛けないようにして、すぐにでも進軍を開始するように命令を下す。勇者達を召喚した時の祝いの宴に、国中の物資や金を注ぎ込んたので殆んど残っておらず、帝国は物資や金を外国から奪わなけれれば、近い内に財政は破綻してしまうだろう。
また、食糧も同様に殆んど残っていないので、このままでは国民が僅かな食糧を奪い合う暴動を起こしかねない。帝国の財政事情や食糧事情は想像以上に困窮していたのだ。世界を征服する前に自分達が倒れてしまったら元も子も無い。彼らは進軍を少しでも早く始めなければならなかった。
「準備が整い次第、手始めに近隣諸国から攻めいって物資や金品などを奪うように致します。このままで参りますと明日の朝にでも出陣が可能となるでしょう」
「明日の朝だな?それ以上は待てぬぞ!必ず出陣するのだ!!」
「はっ!」
こうして、勇者達の進軍は明日の朝に決定した。それは帝国中に伝わり、帝国の住人は期待に胸を踊らせ、前祝いとしての宴会が帝国各地で行われた。
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進軍は明日の朝に決定した事は当然、勇者達にも伝えられた。彼らは明日、初めての実戦を経験する事となる。
「……以上が、国王様からの伝令です。では、失礼致します」
勇者達が集まっている部屋に一人の兵士が伝令の為に訪れていて、それが完了したので部屋から出ていった。
「……いよいよ明日か」
「そうだね。明日になったら私達は、この世界を救う為に戦うんだ」
元居た世界で通っていた学校で生徒会の会長を務めていた少女の篠崎和美と、同じ生徒会の副会長を務めていた少年の天野佑樹の二人は、明日に迫る自分達の初陣に期待と不安で胸がいっぱいだった。
「でも、僕達に出来るかな?」
「出来るよ。なんたって、私達は選ばれた勇者なんだから」
召喚された後に調べられて判明した事なのだが、和美は火と水と風と土の4つの属性魔法が使える魔法に長けた勇者であり、佑樹はあらゆる剣の技を使える剣術に優れた勇者である。
「おいおい二人とも、俺も居るんだぜ?」
「……私もだよ」
「ごめんごめん。二人の事も忘れてないよ」
「そうだよ。私達は仲間だもん」
和美と佑樹の放しに割り込む二人の男女が居た。割り込んできた男子は福永拓也、女子は阿坂麻衣。拓也は己の肉体を駆使する武術に優れた勇者であり、麻衣はどんな深い傷も完治する治癒魔法に優れた勇者である。
この二人は生徒会には所属していないのだが、和美と佑樹とは特に仲が良い。所謂幼なじみであり、彼らの絆は固い。
他の生徒も彼らと同じように魔法が使えたり、剣の技をつかえるのだが、この四人は突出している。元居た世界では、この四人を中心にクラスが動いていたと言っても過言ではない。それは、この世界に召喚されてからも変わっていなかった。
「よし、みんな!!明日は絶対に勝つよ!……いや、私達なら勝つ事が決まってるんだよ!だから、私達はもう勝ったも当然だよ!」
「そうだ!俺達は勝ってるんだ!誰にも負けない強さが俺達の中にあるんだ!」
「……私達は、この世界では一番強い」
「僕達で、この世界を救おう!!」
「「「「お、おぉーーーっ!!!」」」」
勇者達は四人の掛け声を聞いて、団結をより強固な物にする。彼らは帝国から、自分達は最強の力を持つ選ばれた勇者であると聞かされている。彼らの能力を調べた者達から褒め称えられ、自分達がこの世界を救う勇者だと微塵も疑ってはいなかった。
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翌日の朝、勇者達を中心に軍は編成された。彼らの服装は召喚された時に着ていた学校の制服ではなく、帝国が少ない材料をかき集めて作成した武器や防具を身に付けている。各々が現時点で帝国が作成可能な最高の装備をしているが、勇者達は物足りなさを感じていた。
何故なら元居た世界では、空想の存在としてしかなかった魔法やスキルなどが自分達に与えられたのに、特別な力を持った自分専用の武器や防具を与えられなかった事に不満を覚えたのだった。
自分達は世界を救う為に召喚された勇者なのに、何故こんな貧相でありきたりな装備で戦わなければならないのか?本当ならオリハルコンやアダマンタイトといった、こちらも空想の存在としてしかなかった物体を、惜しげもなく使用して作られた自分達だけしか使用不可能な武器や防具を身に付けている筈だと。
だが、我が儘を言っても仕方がない。いずれは、それらを身に付けるのが当たり前になる日が来るだろう。それまでは我慢するしかないと、勇者達は自分に言い聞かせた。
そして、勇者達と帝国の兵士達は城の前の広場に集合していた。進軍を国民に知らせる為の大々的なパレードをおこなった後に、勇者達からすれば世界を救う為の、帝国からすれば世界を征服する為の進軍が、今まさに始まろうとしている。
「では、勇者様。我々が先導致しますので後ろを着いてきて下さい」
「国民に手を振って声援に応えて下さい。勇者様は帝国の、……いや、世界の希望なのですから」
先導役の兵士達が歩き出し、その後ろを勇者達が二列に並んで着いて歩く。勇者の列の先頭は和美と勇輝の二人が並び、その次は拓也と麻衣の二人が並んでいる。
「勇者様!頑張って!!」
「勇者様!必ず魔王を倒してくれよな!!」
「勇者様!世界を救ってくれよ!!」
老若男女問わず集められた国民は、口々に勇者達を称える言葉を言っている。魔王を倒してくれ、世界を救ってくれなど、勇者はこの為に召喚されたのだと、自分達こそ世界を救う勇者であると、より強く実感した。
「絶対に救ってみせるよ!!」
「僕達に任せて!!」
国民の言葉に、勇者達は応える。自分達を信頼している国民の為に魔王を倒して世界を救わなければならない。彼らの使命は生半可な気持ちでは務まらない。それだけ重大なのだ。
「……それで、僕達は最初はどこに向かえば良いんですか?」
佑樹はこれから自分達はどこへ向かうのかを一人の兵士に尋ねる。
「……最初は帝国に隣接するアグリカ国に向かいます。その国は魔王の属国になって日は浅いですが、放っておけば魔王の軍の本隊が帝国本土に攻めて来るのは時間の問題だと。国王様もまずはその国を攻め落として、敵の進軍の勢いを止めよと仰っていました」
アグリカ国とは帝国に隣接している国の一つで、農業を国の主な産業としており、豊かな土壌と優れた農業技術で、高品質の農作物を大量に生み出している国である。アグリカ国は以前は帝国にも農作物を輸出していたのだが、ずっと続いていた帝国の自分勝手で横暴な振る舞いに嫌気が差して輸出を全て止め、帝国との全ての取引を打ち切った。それからはというと、アグリカ国と帝国との間で農作物の取引はおろか、人の行き来も全く行われていない。
帝国はアグリカ国の農作物に目をつけ、困窮している食糧事情を解決する為に、最初はアグリカ国に対しても文書を送ったのだが、当然の事ながら一蹴された。それにより帝国はアグリカ国から宣戦布告されたと受け止め、攻め入る事にしたのだ。有り余る金銀財宝を持ち帰っても、それでは腹は膨れない。早急に食糧を確保して次の戦いに備えなければ、世界を征服する前に力尽きてしまうだろう。今回の出陣に召喚した勇者をいち早く投入する様子を見ると、帝国の必死さが感じられる。
勇者達にはアグリカ国は魔王の属国になったと伝えられたのだが、そんな事実は一切無い。進軍の口実の為に作られた真っ赤な嘘である。
「よしっ!みんな行こう!」
「私達なら勝てるよっ!!」
「「「「「おおぉぉーーーーっ!!!」」」」」
勇者達は隣接している国から魔王が攻めて来るのであれば、その前に自分達が向かってアグリカ国を攻め落とし、魔王の出鼻を挫く事が出来る。そして、自分達にはそれだけの力が備わっていると、信じて疑っていなかった。
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帝国に攻め込まれようとしているアグリカ国は、意外にも帝国の勇者達が自国に向かって来ている事を諜報部隊を用いて素早く察知していた。隣接している国であり、農作物をどの国よりも欲しがっていた帝国に攻められる可能性が高いと読んでいたアグリカ国は、常に帝国の動向を監視し、細心の注意を払っていた。勇者召喚の儀を行った時も抗議の連絡を帝国に送ると同時に、諜報部隊からもたらされた情報を元に自衛の為の準備を抜かりなく進めていたのであった。
アグリカ国の住人は普段から農業に従事している者が多く、国民の誰もが一度は土を触り、思い思いの作物を育てている。国の代表ですら農業に勤しんでいるので、比較的穏やかな国民性が伺える。外国の人にも友好的で、農業技術を学ぶ為に多くの人がアグリカ国を訪れていて、彼らに技術を惜しげもなく教えている。その為、その国に行けば世界中の作物を育てられるとまで言われているが、そんなアグリカ国でもナイメア帝国の住人だけは誰一人として受け入れていない。
一時期はナイメア帝国の住人を受け入れていた時もあったのだが重労働になりやすい農業は彼らには好かれず、また、高品質の野菜や穀物を全てタダで寄越せなどと、何度もしつこく命令していた。それが断られて受け入れられないと分かると、アグリカ国の住人を暴力で言う事を聞かせようと襲いかかったのだ。……ただ、全員が全員返り討ちにあい、二度と彼らはアグリカ国に出向かなかったのだが。
そんな帝国の振る舞いに比較的友好な彼らも流石に怒り心頭で、帝国の住人は一人もアグリカ国に入れるなという声が多数上がり、国の方針でナイメア帝国の住人は子供であっても要人であっても国には入れないと決まったのである。
そして、ナイメア帝国に攻められると決まった事は国中に一人残らず知らされ、それを聞いた国民全員が一致団結し、帝国を迎え撃つ準備に、より熱が入った。収穫した農作物は自分達にしか分からないように隠し、帝国を迎撃する為の砦が国のあちらこちらに急ごしらえで建造された。
アグリカ国の軍は普段は農作業に汗を流しているが、戦争などの有事の際には農具から武具に持ち替えて戦っている。自分達の国と民を、そして丹精込めて育てた農作物を守る為に彼らは戦うのである。
「者共良く聞けっ!ナイメア帝国は異世界から勇者を召喚し、魔王討伐という名の世界征服を開始した!奴らは手始めに我が国に攻め入ろうとしている!狙いは我々が丹精込めて育てた作物だ!その愚行を断じて許してはならない!地の利はこちらにある!決して恐れず戦えっ!!」
「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉーーーー!!!!!」」」」
アグリカ国の王は軍隊に語り掛け、彼らを鼓舞する。以前からの帝国の横暴な振る舞いに彼らは心底怒りを抱いており、今回の帝国の侵攻は断じて許せず、徹底抗戦の構えを取っていた。ナイメア帝国のアグリカ国との戦争は、激しくなると予想される。
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勇者達がナイメア帝国で大々的なパレードを行ってから数日後、勇者を中心に編成された帝国軍は国境を越えてアグリカ国に入り、そのまま進軍を続けていた。
この時は帝国軍の誰もが圧倒的な勝利を確信していた。……そしてそれは、現実になった。
「はあぁぁぁ!!!」
「「「「うわあぁぁぁぁ!!!!!」」」」
「す、すごい!本当に吹き飛んだ!」
佑樹の剣の技によってアグリカ国の兵士達は吹き飛んだ。彼の剣の一振りで兵士達は木の葉が舞い上がるように吹き飛ぶ。それは一回や二回だけではない。彼が剣を振れば同じように吹き飛んでいく。
「くらえ!《フレイムボール》!」
「なら私も!《フレイムボール》!」
「お、俺の炎が飲み込まれ、ぎゃあぁぁぁ!!」
和美の炎の魔法が相手と同じ炎の魔法を飲み込んで、アグリカ国の魔法の使い手を燃やす。同じ魔法でも和美の方が何倍も威力や込められた魔力が多く、何人ものアグリカ国の魔法使いが束になっても和美には到底及ばなかった。
「どけどけどけどけぇぇぇぇ!!!」
「け、剣が弾かれた!」
「矢も効かねえ!!何だこいつの拳は!?」
拓也の拳はアグリカ国の兵士の鎧や楯を粉砕し、矢も剣も弾いていく。彼に対して陣形を組んで守りを固めるアグリカ国の兵士達であったが、その陣形すらも己の肉体だけで突破し、戦線を押し込んで行く。
「《ワイドヒール》!」
「おぉ!!傷が一瞬で治った!!」
「全快だ!俺はまだ戦えるぞ!!」
負傷して戦線から離脱した数十人の帝国軍の兵士達は、麻衣の治癒魔法によって傷が完治し、戦線に次々と復帰する。アグリカ国の兵士達にとっては傷付き撤退した相手が、少しの時間を置いて全快で戻って来た事に戸惑いを隠せない。
四人の勇者のみならず他の勇者達も戦線で活躍し、次々と戦果を上げていく。その予想以上の勇者達の働きによって、アグリカ国はせっかくの地の利を活かせず終始劣勢に立たされ、追い込まれていった。急ごしらえで造られた砦も勇者達の前では、役に立たずに壊されてしまった。
「みんな!!このまま押し込むよ!!」
「もう少しで私達の勝ちだよ!!」
「「「「おおぉぉーーーーー!!!!」」」」
佑樹と和美の掛け声に帝国軍の指揮は更に上がる。帝国軍の勝利は目前に迫っている。
その一方で、アグリカ国の敗戦が決定的になろうとしている報告は国王にも届いていた。地の利を活かす為に国境を開け、帝国軍を引き入れたのに、勇者達の圧倒的な力になす術無く敗れようとしていた。
「国王様!これ以上は戦線が持ちません!!」
「一刻も早くご決断をっ!!」
勝利に向かって突き進んでいる帝国軍に対して、アグリカ国は窮地に立たされており、国王は決断を迫られていた。
「……仕方あるまい。作物を今ある分だけ全てを帝国に明け渡せ」
「よ、よろしいのですか?」
「彼らの狙いは我らが育てた作物だ。渡せば納得して軍を退くだろう。国民が丹精込めて育てた作物を彼らに奪われたくないのは重々承知の上だが、国民に被害が及ぶのは避けなければならん」
アグリカ国の王は、今現在の国に蓄えられている作物を全て帝国に引き渡す事を決断する。彼らは帝国に負けを認めたのだ。作物は種や土地などが残っていれば再び育てられるが、国民に被害が及べば作物を育てられなくなる。これだけは避けなければならない。
「……国王様」
「そう悲しい顔をするでない。人と土地と種があれば作物はまた育てられる。……それに、吉報も入ったのだ」
苦渋の決断を国王にさせてしまった事に後悔の念に苛まれる兵士達。彼らは自分達が帝国軍に負けなければ、このような事は起こらなかったと悔やむが、国王は前を向いていた。
……何故ならナイメア帝国は、アグリカ国の思惑通りに動いてくれたのだから。
「彼らからの連絡は今しがた受け、完成したと報告があった。我が国はこの戦いでは負けたが、今回の敗北は近い将来、我々に本当の勝利をもたらす物となるだろう。さあ、ナイメア帝国に一刻も早く作物を渡すのだ!」
「「「り、了解しました!!」」」
「……帝国め、我らを敵に回した事を後悔させてやるぞ!」
ナイメア帝国の横暴に怒りを抱いているのはアグリカ国だけではない。帝国が一番最初にアグリカ国に侵攻してきた事は、むしろ好都合であった。帝国の目をアグリカ国だけに向けさせると同時に、他の国は水面下で動いていたのだ。
そして、他の国が帝国に絶対に知られないように造っていた物が完成したと報告を受けたアグリカ国の王は、今の敗北よりも遠くにある本当の勝利を掴む為に動き出したのである。
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こうして、勇者達の働きにより勝利を納めたナイメア帝国は勝利の余韻に浸っていた。アグリカ国から戦利品として受け取り、持ち帰った大量の農作物を国中に送り届け、ほぼ全ての国民が腹を満たした。今回の持ち帰った作物はすぐに無くなってしまったが、アグリカ国に持ってこさせるように条約を結べば良いだけで、これで帝国の食糧問題は解決すると安堵した。
帝国の人間達の間では次はどこの国を攻めるのかが話題になり、賭けまで行われていた。勇者達の力で帝国が世界を征服するのも時間の問題だと誰もが思っており、勇者達も同様に自分達の力は簡単に世界を救えると、この時までは思っていたのだ。
……しかし、帝国と勇者達は隣接するアグリカ国にばかり気を取られてしまい、他の国の動向には気づけなかったのであった。それが後に自分達の首を強く締める事になる。
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勇者側の話は、今回名前が出た四人を中心に話を進めます。