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子は親の鏡です。

書き上がったので投稿します。

============


レクトイの街の冒険者ギルドの一室では、この街のギルドのマスターであるシーアが椅子に座り、その後ろではガロンドが直立不動で待機している。そして、シーアと机を挟んで反対側には一人の男が不満そうな顔で椅子に腰掛けていた。



「……あのね、なんどきても、わたしのこたえはおなじだよ?」

「何故だっ!?何故、俺の娘はSランクじゃないんだ!?今すぐフィテルをSランクにしろっ!!」

「むりだよ。なんでなのかは、フィテルちゃんにはSランクのじつりょくがないから。それだけだもん」



男はフィテルがSランクでは無い事に、冒険者ギルドのマスターであるシーアに抗議する為に、この部屋に来ていた。


……今まさにシーアに声を荒げて抗議をしている者こそ、フィテルの父親であるドルグという名の男である。彼は、このレクトイの街や他の街にも沢山の店を持っている商会の会長であって、ここら一帯の商売を牛耳っていると言っても過言では無い。既に何人もの商売人が彼の傘下に入っているので、勢力は日に日に大きくなっている。……そんな中で悪い噂が幾つもあって絶えないのだが、今は話す時では無いので割愛させてもらう。


ちなみにドルグと同じ商売人の一人であるリンはというと、ドルグの商会の傘下には入ってはおらず、これからも彼の商会の傘下に入るという選択肢は彼女の中に全く無かった。リンは自分が先代の店長から引き継いだ仕入ルートと自ら開拓した仕入れルートで商品を購入し、今も商売を続けている。



「実力が無いだとっ!?何回も言わせるな!フィテルの武器も防具も一流の職人に作らせた一級品だぞっ!それを持っているフィテルにはSランクの実力があるんだっ!!」



話は戻って、ドルグは自分の一人娘であるフィテルを溺愛していて、彼女をとことん甘やかしており、フィテルが欲しいと言った物は有り余る金を使って入手して与えていた。少し前にフィテルがドルグに冒険者になりたいと言ってきた時も同様に、武器や防具を金に物を言わせて一流の職人に作らせて、彼女に与えていた。彼は自分の娘がSランクの冒険者になれば、必然的に自分の商会に沢山の利益が舞い込んでくると見込んで、彼女を冒険者になる事を快く許したのである。


……だが、冒険者ギルドがフィテルの事をSランクの冒険者にしなかった事が分かると、彼は自分がしなければならない仕事を全て放り出して、抗議の為に冒険者ギルドに怒鳴り込んでいった。しかも、ドルグがシーアに対して抗議する事は今回が初めてではない。何度も何度も懲りずに抗議しにギルドに赴いているのだが、シーアの答えは毎回同じで、フィテルはSランクの冒険者には相応しく無いという答えが、彼に対して事務的に返されていた。



「もってるだけだとじつりょくはつかないし、それだったらだれだってSランクになれるよ。……それと、ぼうけんしゃのしごとはあまくはないよ。もし、フィテルちゃんがSランクになったら、とてもきけんなところにいったり、たいへんきけんなまものとたたかったりするんだよ?」

「フィテルに危ない事をさせるつもりかっ!フィテルが少しでも怪我した時は、お前達はどう責任を取るつもりなんだ!?」

「……ぼうけんしゃのしごとには、きけんがつきものなの。けがはにちじょうさはんじ。それをよそくして、とっぱするのがぼうけんしゃだからね。ときにはひとりでがんばらないといけないときもあるの」



彼女の言う通りで冒険者の仕事には危険が伴う物が多く、自分の今の実力を考慮し、それを予測して突破していく必要がある職業だ。実力が全く無いのに自分の力を過信している者は直ぐに魔物や自然の餌食になるのが現実である。


また、いくら強い武器を所持していたとしても、それを使えるだけの技量が無いのであればその強い武器は意味を成さない。ただ持たせるだけでは実力は上がらないのだ。


しかも、冒険者の仕事には少なからず怪我は付き物であるが、フィテルを溺愛しているドルグは彼女が掠り傷一つでも負った場合には、冒険者ギルドに責任を取らせる事にしていた。どのように責任を取るのかをシーアに問いただすが、そこは仕方が無い事だと返答した。


……シーアは今とても真面目な事を言っているのだが、見た目が見た目だけに真面目さが今一つ伝わってこない。端から見れば、か弱き幼女に向かって、大の男が文句を言っているようにしか見えなくも無い。



「それとね、フィテルちゃんはぼうけんしゃのしごとをしないでおなじことをまいにちのようにさわいでるだけだから、しかくをはくだつされてもおかしくはないんだよ?」

「それはお前達がフィテルに合った仕事を与えていないからだろうが!いい加減にしろ!俺の一言で、お前達との取引を全て止める事だって簡単な事なんだぞ!!それでもいいのか!?」



フィテルはクエストに行かず、毎日のように自分をSランクにしろなどとギルドで騒いでいる為に、一番下のGランクに止まっている。冒険者の仕事をしていない彼女は近々、冒険者の資格を剥奪されてしまう事は明白だろう。……しかしドルグは、フィテルがクエストを行わないのは、ギルドが彼女に合ったクエストをギルドが与えていないからだと文句を言って、自分の要求を聞き入れないのであれば、ギルドと商会との間で行っている取引を打ち切るとまで脅しを掛けてきた。



「……いいよ」

「はっ?」



ドルグは思わず間抜けな声を上げる。それは、シーアから取引を止めても構わないという答えが返ってきたからだ。



「だから、とめてもいいよ。わたしたちはまったくこまらないから」

「ほ、本当にいいのか?取引を止めたら俺の商会じゃなければ仕入れられない商品だってあるんだぞ?」

「いいっていってるでしょ?あなたたちとは、さいきんはとりひきしていないからね。ねだんがたかいわりには、しつがわるいものばかりだもん」



シーアの冒険者ギルドは少し前まではドルグの商会との取引をしていたのだが、商品を仕入れる金額が無駄に高く、その割には商品の質が悪く、使い勝手も悪いのでギルドの従業員から不満の声が上がっており、最近はドルグの商会とは全く取引を行っていない。今後もしないのであれば彼らとの繋がりを近い内に断とうと考えていたシーアであったのだが、ドルグの方から取引を打ち切ると、つい先程彼から申し出があったので彼女にとっては渡りに舟だった。



「……いいんだな?今なら俺に謝罪して、フィテルをSランクにすれば取引は続けてやってもいいんだぞ?」

「わたしはあやまらないし、フィテルちゃんはSランクにはしないし、とりひきはしないよ。はやくかえってね」



ドルグは自分の娘であるフィテルをSランクの冒険者にするようにシーアにしつこく迫るが、彼女は屈する事は無い。娘をSランクにしなければ取引を打ち切ると告げても、シーアの答えは変わらなかった。



「ふんっ!お前がそう言うなら、お前達との取引は全て打ち切るように伝えるからな!後で泣きついても俺は元には戻さないからなっ!」



シーアの答えが何度やっても変わらないと漸く分かると、ドルグは取引を打ち切る事を伝えるとギルドのマスターの部屋から出ていった。



「……ガロンドちゃん。これでなんかいめだっけ?」

「5回目です」



部屋から出ていったドルグを見送っていたシーアは、ドルグが抗議の為にギルドを訪れたのは何回目かをガロンドに尋ねると、今回で5回目だという答えが返ってきた。



「う~ん、……なんどいってもおなじことをくりかえしてるだけだから、じかんのむだになるんだよね。わたしもひまじゃないし」



シーアは、この街のギルドマスターであるが故に彼女でしか行えない業務が幾つも存在する。それらを行いながらも先程のような対応もしなければならないので気が休まる時があまり無いのだ。



「……よし、そろそろあれ(・・)をいうときがきたんだね。ちょっとおそかったきがするけど、ぼうけんしゃのみんなにこれからはっぴょうしにいこう!!」

「……マスター。あれ、とは?」

「ガロンドちゃん。さいきんまではなしていて、おとといきめたあれ(・・)だよ。てつだってね」

「分かりました」



シーアはつい最近までギルド内で協議をしていたあれ(・・)を実行する時が来たと悟ると、ガロンドに手伝うように指示を出す。



「よし、それじゃあ──」

「マスター、失礼します!」



さっそく冒険者達に、最近になって決めたあれ(・・)を伝えに行こうとした時に、ギルドの従業員の一人であるミシズが扉を開けて部屋に入ってきた。



「ミシズちゃん。とびらはノックしてからはいってきてね」

「す、すみません!……マスター、フィテルがまた受付に来てまして、いつもと同じ事を叫んでいるんです。ギルドの業務に支障が出始めていますから、今すぐに決めていたあれ(・・)を言いましょう!」



ミシズが言うには、フィテルがギルドの受付でいつものように文句を言っているのであった。場所が違うだけでやっている事は同じ。……親が親なら子も子である。親子は似ている所が多いといわれているが、このような所が似ているというのは周りの人からすれば、全くもって迷惑だ。



「うん!これからぼうけんしゃのみんなにはっぴょうするから、ミシズちゃんもてつだってね」

「は、はい!」



ミシズはフィテルの対応をしていたのだが、そろそろ決めていたあれ(・・)を伝えた方が良いと考え、他のギルドの従業員に彼女の対応を任せてシーアの元に向かったのだが、シーアとガロンドの気持ちはミシズと同じだった。



「よ~し、ふたりともいくよ!」

「「はいっ!」」



三人は決意を固め、フィテルが騒いでいる受付に向かっていった。


============


時間は少し遡って、リンとエルムの二人は休日をゆっくり過ごしている最中であった。あの騒ぎの後で漸くエルムは目覚め、朝食を取ると街の中を歩いて散策をしていた。リンはそこで冒険者ギルドの様子を改めてエルムに見せる為に連れてきたのだが、ギルドの建物に入ってから、彼女はそれを後悔する事となる。



「……はぁ」

「何ですか、あれ?」



リンは今ギルドの中で起こっている事が分かると溜め息をつき、エルムは分からずに困惑していた。



「……フィテルの奴、またやってるのか?」

「またって、前にも同じ事をしてるんですか?」

「あぁ、性懲りも無く何度も何度も同じ事してるんだよ、あいつは……」



二人は当初、冒険者ギルドに入ると仕事で初めて来たエルムの姿を見た冒険者達が一斉に集まって来て周りを囲み、物珍しそうに彼女を見て質問などをしたりして来るだろうと思っていたのだが、その雰囲気をぶち壊す事が既に起きている。それは二人だけではなく、この冒険者ギルドの中に居る全員がその動向を伺っていた。



「いい加減にしなさいよっ!!私はこのクエストを受けるって言ってるのに、どうして受けられないのよ!?」

「だからっ!それはあなたのランクでは受けられないの!何度も何度も言わせないでっ!」

「私はSランクよ!!」

「あなたのランクはGでしょうがっ!!」



それは、冒険者の少女であるフィテルがクエストを受けようとしているのだが、彼女のランクでは受けられない物だったので受付をしていたミシズがそれを却下した。……だが、却下された事に全く納得出来ないフィテルが喰ってかかり、二人の言い争いに発展したのだった。



「リンさん。さっきから二人が言ってるランクって何ですか?」

「ランクってのは、冒険者達の実力をギルドがそれだけ認めているっていうの物だな。最初は誰でも最低のランクのGから始まって、基本的にクエストっていう仕事をこなして、ギルドに実力が認められると上のランクに上がる事が出来る。G、F、E、D、C、B、A、Sの順でランクが上がっていくんだ。……ちなみに最後に言ったSランクっていうのは実力が一番高くて、そのランクの冒険者はそれだけギルドに実力が認められてるって事だよ」

「そうなんてすね。……でも、そのランクって必要な物なんですか?」

「必要な物なんだよ。冒険者としての活動を始めたばかりの新人が、直ぐに強い魔物を討伐出来るとは限らないからな。それに街一つ簡単に破壊出来るような凶悪な魔物も少なからずいるし、自分の実力が全然分かってない奴に冒険者は務まらない。何せ、冒険者は常に危険と隣り合わせの職業だからな。……対策としてギルドは、危険度が高いクエストには参加と受注の条件にランクを指定して、そのランクより下の冒険者には受けさせないようにしているんだ。……少し長くなったけど、簡単に纏めると冒険者の命を守る為の物だな」



エルムがランクについてリンに質問する。彼女は冒険者の事は最近知ったのだが、そのランクについては知らなかった。そんな彼女の為にリンは分かりやすいように説明したのだった。


リンがエルムに教えた通り、冒険者というのは常に危険と隣り合わせの職業であって、魔物を討伐しに出発した冒険者が魔物に返り討ちにあい、遺体となって別の冒険者に発見される事があるのだ。その魔物が強大な力を持つ魔物ならば、その数は必然的に多くなってしまう。そのような事を少しでも減らす為にギルドは、難しいクエストの参加と受注の条件にランクを指定し、実力が伴っていない冒険者は受けさせないように気を配っているのである。



「命を守る為の物なんですね、分かりましたです。…………でも、リンさんが言うと説得力が全く無い気がするのです」

「それを言うなよ。……でも、フィテルはクエストを一つもしてないのに、どうしてギルドに冒険者として登録し続けている理由が全く分からないんだよな。訳分からん事に時間と労力を使うより自分のランクに適したクエストをやればいいのに……」



エルムは納得したようだったが、説得力が全く無いと言われたリンは落胆してしまう。頼まれて説明したというのにお返しがこれなのか、と思ったリンであった。……彼女は死んでいるので命を守る為の物と言っても説得力が感じられないと思ったのは、エルムだけではなかったが。


また、リンはフィテルのこの奇妙な行動に、ずっと疑問を抱いていたのであった。フィテルが冒険者の登録をしたのは今から数ヶ月前の事であって、初めは誰でもGランクなので、彼女も例に漏れずGランクのクエストを受けなければならないのだが、今まで一つもそのクエストを受けようとせず、Sランクのクエストを受けようとして、ギルドの従業員達と毎日のように衝突を繰り返している。フィテルが何故冒険者として登録し続けているのかを、リンは考えても答えが見つからなかったのであった。


その一方で、ミシズとフィテルの言い争いは更に熱を帯びて激しくなっている。



「だから何でよっ!?あれだけ沢山お金を払ったのにどうして私はSランクじゃないのよっ!?」

「冒険者のランクは払ったお金で決まるんじゃなくて、実力で決まるの!それに、あなたが払ったお金っていうのは罰金よ!本来なら、あなたは冒険者の資格を剥奪されても文句は言えないのよ!」

「剥奪って何でよっ!?それと罰金なら今まで払った分を全部返しなさい!私は何一つ悪くないんだからねっ!」

「はぁ!?ギルドに迷惑掛けておいて私は悪くないって何でそう言えるの!?」

「私は悪くない!悪くないったら悪くないっ!悪いのはあんた達よっ!」



フィテルは自分は悪くない、悪いのは自分をSランクの冒険者にしない冒険者ギルドが悪いと言い切った。この場合は自分に非があるのに認めようとせず、思い通りにならないと喚く事を繰り返している彼女に対して、冷ややかな視線を送る者や呆れる者も居るのが現実である。



「……あぁもう、マスター呼んでくるから少しの間だけ任せたわ!」

「ちょっとミシズさん!?」

「こんな状況で置いていかないで下さいっ!?」



自分が悪い事を一向に認めないフィテルにしびれを切らしたミシズは周りの受付の仲間にフィテルの対応を任せると、周りの制止も聞かずに足早にシーアの元に向かっていった。



「いいから早く私にこのクエストを受けさせなさい!」

「ですからっ!そのクエストはあなたのランクでは受注条件を満たしていないので、あなたは受けられないんです!」

「何でよっ!?私はSランクよっ!」

「あなたのランクはGランクですっ!」



ミシズがこの場を一旦離れていったとしても、飽きもせずに同じ事を同じように何度も繰り返しているフィテル。……そんなやり取りを続き、いつ終わるのか考え始める者が出始めた時だった。



「は~い!みんな~、わたしにちゅうも~~く!!」



殺伐とした空気の中で、シーアの気の抜けた声が響くと、あれだけ大きかったギルドの喧騒が嘘のように静まり、全員がシーアが居る方向へ視線を向ける。先程まで喧騒の中心人物だったフィテルでさえも静かになっていた。



「わたしたちがはなしあってきめたあたらしいせいどを、これからはっぴょうするから、みんなよ~くきいてね~!」



小さい身体を全員に見せる為に椅子の上に立って高らかに宣言するシーアの後ろには、ミシズとガロンドの二人が待機していた。この街の冒険者ギルドが定めた新しい制度。シーアのその言葉に冒険者達は興味を示す。



「それはね、……ぼうけんしゃのランクのとびきゅうせいどだよ!」



ランクの飛び級制度とは一体何なんだ?と冒険者達は初めて聞いたであろう単語に頭をかしげる。



「あれ?なんかいまいちもりあがってない……えっと、くわしくは……、ミシズちゃんよろしくね!」

「分かりました」



冒険者達の反応が想像していた物より少なかった事に、出鼻を挫かれたシーアだったが、詳しい説明をミシズに任せる事にし、ミシズは新しい制度を作る経緯などをここに居る全員に聞こえるように話し始めた。



「私から説明させていただきます。……本来、冒険者が自身のランクを上げるには、今のランクの一つ上のランクの昇格試験しか受ける事が出来ません。これはランクの急激な上昇によって冒険者が自分の力を過信し、命を落とす可能性が高くなるのを防ぐ為で冒険者の命を守る制度であり、被害を最小限に抑える為の措置である物です……しかし、冒険者の中には自分の力に絶対の自信があり、勇敢と言えば良いかもしれませんが、自分のランクより上のランクのクエストを受けようとする人も僅かながら居るのが現状です」



この街だけではなく、他の街の冒険者ギルドはランクを設けて冒険者達の命を守っているのだが、冒険者の中には危険を省みずに突っ込んで行く者も少なからず居る。彼らは冒険者ギルドの話を聞かない事が多いので、ギルドの悩みの種になっていた。……主にフィテルの事なのだが。



「そこで、私達はその冒険者の思いに配慮して、ギルドの内部で協議を重ね、ランクの飛び級という新たな制度を設ける事に致しました。例を上げると、Cランクの冒険者は一つ上はBランクであり、昇格試験は本来ならBランク用のクエストを受けなければなりません。しかし、この飛び級制度を利用すれば、Cランクの冒険者がBランクより上のAランクの昇格試験を受けられます。そのAランクの昇格試験を見事達成した暁には、受けた冒険者はAランクの冒険者となれるのです」

「マジで一発で高ランクになれるの!?」

「なら受けようぜ!」



一気に高ランクになれる事を聞いた多くの冒険者達は歓喜の声を上げる。冒険者は自分のランクを他の誰よりも早く上げたいと思っている者が多く、高ランクになれば、高い分だけ富を得られるのだ。



「ですがっ!皆さん、私がここから話す事はとても重要なのでしっかりと聞いて下さい。……本来であれば、今のランクでは決して受けられないクエストを特例で受けさせているので、内容は本来の昇格試験よりも多少は厳しい物とします。達成条件も本来の試験とは全く異なるので、簡単には達成出来ないように設定させていただきます」

「「「え~!!?」」」



しかし、話はそんなに甘くは無い。ただでさえ昇格試験は厳しいのに、それより厳しい物を受けなければならない事に、冒険者達からは不満の声が上がる。



「まだ話は続きます。……もしも、飛び級制度で受けたクエストを失敗した場合、クエストの遂行時の内容が悪くないと判断出来た場合には、ランクはそのままですが、度合いによっては相応のペナルティが冒険者に課せられますのでご注意下さい。そのペナルティは四段階に分かれてい……って、あれ?纏めた物はどこ?」



この話をするために纏めていた資料を作成していて、ミシズの手元にあった筈なのだが彼女の手元には無く、置いてきてしまったのかと探していると、ガロンドがミシズに近づいていく。彼の手にはミシズが作成したであろう資料が握られていた。



「……ミシズ。俺が持っている。話を続けてくれ」

「ありがとう、助かったわ。……では、四段階に定めたペナルティの内容を話します。この中で一番軽いのが、今のランクはそのままですが、次回の昇格試験では異なる内容の試験を二回受けてもらいます。その次が今のランクの一つ下に降格です。その次が、今のランクが高ランクであったとしても一番下のGランクに降格となります。……そして一番重いペナルティは、冒険者の資格を剥奪してギルドから除籍処分と致します!」

「「「は、剥奪ぅ!?」」」



冒険者の資格を剥奪、それは名の通りで冒険者として活動が出来なくなる事を意味する。たとえ高ランクであったとしても例外ではない。誰であろうとも、飛び級制度で受けたクエストの遂行時の内容が悪すぎれば一番重いペナルティが課せられるのである。



「最後になりますが、飛び級制度でクエストを受ける場合は、クエストを遂行している時に何が起ころうとも全て自己責任(・・・・)とさせていただきます。……以上で、私の話は終わります」

「ミシズちゃんありがとね~。ぼうけんしゃのみんな!うでにじしんがあるなら、ぜひちょうせんしてみてね?」



ミシズは自己責任の部分をやけに強調して話し終えると、シーアは彼女には労いの言葉を掛けて、冒険者達にはあくまでも挑戦を促すように言葉を掛ける。



「俺、飛び級で昇格試験を受けてみようかな?」

「やめとけ。ランクを一個ずつ上げていったほうが良いぞ?」

「ねぇ、受けてみようよ!」

「う~ん、あんまり内容が酷いと資格が剥奪されるから、受けるかどうかは慎重に考えよう」



冒険者達は戸惑いながらも、飛び級制度で昇格試験を受けようとする者やそれを止める者など反応は様々だ。



「私はそれ受けるわ!」



そんな誰もが慎重に模索している中で、早速飛び級制度を利用する者が現れた。大方の予想通りにフィテルが名乗りをあげたのだ。彼女は受付に真っ直ぐに向かっていく。



「……失礼ですが、飛び級制度の利用ですね?どのランクをご希望ですか?」

「Sランクに決まってるでしょ!」



そして、こちらも大方の予想通りに飛び級制度でSランクの試験を受けるようだ。フィテルの対応をしている受付の女性のみならず、飛び級制度の事はギルドの従業員達には事前に知らされている。冒険者達に自分が発表する時が来るまで決して口外しないようにシーアから通達を受けていたが、つい先程になって解禁されたのだ。



「え、Sランクですか?本当によろしいんですね?」

「受けるって言ってるでしょ!早くしなさいっ!!」

「……か、かしこまりました。ではこちらに来てください」



受付の女性は、フィテルに飛び級制度で受けるクエストの内容をなどを詳しく説明する為に個室に案内していく。



「なんか、すごい時に来た気がするです」

「……何となくだけど、ギルドが何を考えてるのかが分かった」



冒険者ではないエルムが驚いている一方で、リンは冒険者ギルドがこの制度を導入した意図を理解したようだ。



「どういう事ですか?」

「これはオレの推測だけどな、……冒険者の仕事は簡単じゃない。言っても全く分からない奴には直接身体に叩き込んで教えるって事だよ。マスターも思いきった決断をしたもんだ」



自分の力を過信する者に対して、言って聞かないのなら身体に教え込む。一種の荒療治を用いて、ギルドは冒険者達に仕事の厳しさを教えようとしているのをリンは、自分の推測から察したようだ。



「……そろそろ、ここ出るか」

「はいです」



それから少しの間、二人は冒険者達の様子を眺めていたが、次に行こうとしていた場所の所を思い出して、冒険者ギルドから立ち去ろうとした時だった。



「見つけたわよ!」



そんな二人を、……正確にはリンを呼び止める声が上がると二人に足早に近づいて、彼女達の目の前で立ち止まったのはフィテルだった。



「……オレは別にお前には用はないぞ?」

「私があんたに用があるの。……はい」

「ん?なんだよこの手は?」



リンに用があると言って、自身の右の手をリンに向けて差し出すフィテル。リンはそれを見て彼女が一体何をしたいのか分からずにいた。



「私は、これからSランクのクエストに行くのよ!だから、私が前から何度も言ってるように、あんたの【状態異常無効】のスキルをさっさと私に寄越しなさいっ!!」



フィテルはなんと、リンが持っている【状態異常無効】のスキルを貰おうとして呼び止めたのであった。



============

シーアの幼さを出す為に喋っている言葉を平仮名だけにしたので、読みづらいかもしれませんが御理解下さい。

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