表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/45

定休日の入店はお断りです。

明けましておめでとうございます。今年も無理の無い範囲で投稿して行きますので、よろしくお願いします。

============


ある日の朝、太陽が地平線からようやく顔を出し始めた頃にリンは目が覚めた。そして起き上がろうとした時に彼女は、自分の胸の辺りに少しばかりの重さを感じたのでそこに目を向ける。



「……すー、……くー……」

「……ったく、オレの胸の上で寝るなって何回も言ってるのに……」



リンの大きな胸の膨らみの間に挟まるような形で、うつ伏せで寝息を立てているエルムがそこに居た。実はこのような事は初めてではなくて、リンが目が覚めるとエルムが自分の胸の上で寝ているのが何回もあったのだ。その事をエルムに問いただすと、彼女は寝る時はリンの隣で寝ているのだが、いつの間にかリンの胸の上で寝ており、エルム自身もどうやって移動したのか分からないと言っていた。わざとらしく言っているようには見えなかったリンは注意だけに留めているが、気がつくと今の状況が何度も起きているのである。……だが、リンはエルムのこの行動に少しだけ嬉しいと思っている。



「……くー、……すー……」

「……こんだけぐっすり寝てるのに、手を離さないのは一体どうしてなんだか」



リンは寝ているエルムを起こさないように胸の上から動かそうと彼女を持ち上げるのだが、エルムの小さな手は寝ているのにも関わらずリンの服をしっかりと握って離さない。無意識に握っている様子は、まるで片時も離れたくないと言っているかのようであった。



「仕事の準備をしないと…………、あ」



仕事の準備をしようとエルムを起こさないように自分の胸の上からどかす為の方法を考えようとした時に、ある事に気づく。



「……そういえば、今日は定休日にしてたんだっけか?慣れてないから忘れてた」



そう、今日は雑貨屋『ウィンスト』の定休日であった。今まではリンが他の街へ行く以外は毎日営業していたのだが、エルムを働かせ始めてからは、死んでいるので疲れを感じない自分は別として毎日働かせるのは疲れが溜まるだけで抜けず、いずれは過労で倒れてしまうだろうと考えたリンは定休日を設ける事にしたのだ。設ける定休日は5日連続で働いたら、その次の日が定休日として決め、今日がその定休日であった。



(ずっと働いてばかりだったから……、こういうのも悪くは無いな)



自分がこのようなゆっくりとした時間が取れているのもエルムがここで働き始めたからであって、寝ているエルムを起こさないように彼女の頭を撫でる。リンは、今のようなゆったりとした時間を過ごすのも悪くは無いと感じ始めていた。


……しかし、そんな時間は唐突に終わるのは自然の摂理なのだろうか?



「居るんですよねー!?出てきて下さーい!」



ドンドンドンドンドンッ!


店の入り口のドアが手で何度も叩かれる大きな音と共に大きな声で呼び掛けられる。店の中に居るリン達が静かな朝を過ごしたいのにも関わらず、その事を気にする様子は声の主には微塵も無いようだ。



「……誰だよ、こんな朝っぱらから大きな声出しやがって」



リンはその大きな声に苛立ちを露にして文句を言いながら、これ以上騒ぎにならないように対応する為に、握って離さないエルムの手を何とか服から引き剥がすとベッドの上に寝かせて、起こさないように静かに移動しながら入り口に向かう。その入り口に向かっている途中でもドアは何度も叩かれていて、そしてリンはドアの前に立つと、開ける前に今もドアを叩いている者に対して呼び掛ける。



「どちら様?申し訳無いけど、そこに書いてある通り今日は定休日なんで対応出来ないから」

「いいから出てきて下さい!」

「話がしたいだけだから!」



リンは今日は店の定休日であって、入り口のドアにもそのような事が書いてあって対応は出来ない旨を伝えるが、ドアの向こう側にいる彼らはリンと話がしたいだけだと言ってくる。



「話がしたいだけ?……だからって、こんな朝っぱらから大きな声出さないでくれるか?迷惑なんだよ」

「それは分かってるけど、すぐ終わるから!」

「あ~、はいはい」



リンは話はすぐに終わるからと聞いて警戒心を強めながらも、ドアをゆっくりと開ける。リンの視線の先には白いフードで頭を覆っているので顔は見る事が出来ず、身体も白いマントのような布で覆っている、見るからに怪しさだけしかないの三人の人物がそこには居た。



「……誰?とりあえず名前を名乗ってくれるか?」

「え~と、僕達は行商をしている者でして……」

「は?行商人なの?……怪しさ満点のその格好は良いとして、朝早くから失礼だと思わないのか?」

「そ、それは重々承知しているんですが、……僕達は少し急いでますので、あまり長居は出来ないんです」

「……分かったよ、話は少しだけなら聞いてやるからさっさとしてくれ」



この三人は怪しい格好をしているのだが、真ん中の男性と思わしき人物が自分達は行商人だと告げる。それを聞いたリンは、朝早く来た彼らに内心苛つきながらも、急いでいる理由は事情があると思い、少しだけなら話を聞いてみようと決めて、店の入り口から少し離れて話を聞く事にした。



「……あの、良かったらこれをどうぞ」



真ん中の男性の、リンから見て左側に居る女性と思わしき人物が何かをリンに差し出した。



「何これ?」

「そ、それは新しく買った商品です」



リンは左手で受け取るとそれを見定める。彼女が今手に持っているのは透明な液体が入っている丸い何かであり、一目見ただけでは全く分からない物をリンは渡されたようだ。



「それを強く握ってみて下さい」

「ん?こうか?」



リンは言われた通りにその透明な液体が入っている丸い何かを強く握り締める。すると次の瞬間、



パァン!!


「?」



破裂音と共に手に持っている丸い何かが割れて、中から透明の液体が溢れ出し、それがリンの左手に掛かると彼女の左手を溶かしていく。



「……手が溶けてる?何だこれ?」

「よしっ!作戦通りに行くぞっ!」



自分の手が溶けているのを見ているリンをよそに、三人は行動を開始する。三人は何処からか武器の剣を取り出すと、リンに向ける。



「……ん?」

魔物(・・)は僕達が倒してやるっ!」

「これでも喰らえっ!」

「はあっ!!」



三人は各々に武器を用いてリンに攻撃を仕掛ける。彼女は左手が溶けている事態が飲み込めずにいたので三人が攻撃してくる事に気づくのが遅れてしまい、リンと最初に話した真ん中の男性は彼女の心臓の辺りに剣を刺し、リンに商品を渡した女性は顔を切りつけ、これまで何も行動を起こしていなかった男性と思わしき人物はリンの右腕を切り落とすと三人は一旦後ろに下がる。



「二人共、この中に入ろう!次はあの子を保護するんだっ!」

「分かってるって!」



三人はリンに攻撃を喰らわせたので次の行動に移ろうとしていた。彼らの言葉から察するに、三人の狙いは今も部屋で夢の中に居るエルムのようだ。……彼らは保護という名目で行動しているのだが、この状況を第三者が見ればリンを殺害してエルムを誘拐しようとしていると思われるだろう。


そして、三人は店の中に乗り込もうと進み始め、先に行こうとした女性と思わしき人物がリンの左側を通り抜けようとした瞬間だった。



「あぐっ!!」



女性の詰まったような悲鳴が上がると同時に女性の動きが止まると、彼女の後に続こうとした二人もつられるように止まる。何が起きたと思ってよく見てみると、リンの溶けて無くなった筈の左手が元に戻っており、それが女性の頭をがっちりと掴んでいる。更に切られた顔や切り落とされた右腕なども何事も無かったかのように元の状態に戻っていた。



「……おい、オレは話を聞くだけだって言ったよな?それなのに、お前らは手を溶かすわ顔とか切るわ、何してくれてんだ?あ?」

「痛い痛い痛いっ!!頭がぁっ、頭が割れるぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」



リンは力を強めながら三人に対して何故こんな事をしたのかを問い掛けるのだが、頭を掴まれている女性はそれに答えられる余裕は無い。リンの怒りによって力が相当込められているようで逃れようともがいているが、全く抜け出せずに頭に走る激痛によって悲鳴を上げ続けている。



「何でっ!?あの聖水はアンデッドにかけたら身体は再生しない筈なのに!?」

「おいっ!あれ買ったのはお前だろ!?ちゃんとしたやつ買ったんだよな!?」

「ちゃんとした物だよ!」



二人の男性は、溶けた筈のリンの左手が元に戻っている事に驚いている。彼らは今回の為にアンデッドの身体が再生しない効果を持っている聖水を、とあるルートから大金を出して仕入れていた。そして先程の現象が起きたのでリンに攻撃したのだが、再生しない聖水をかけた筈なのに左手が再生しているリンを見て、あの聖水は本物なのか疑問が生じて混乱し始めている。



「朝から騒がしいね!いったい何なんだい!?」

「静かにしてくれっ!俺は疲れてんだよっ!」



リンと三人の騒ぎが大きくなっていたようで、街の住人達が何事かと様子を確認する為に各々の家から出てくる。



「リン、この騒ぎはいったい何だ?」

「ああ、これは───」



この騒ぎの事について住人の男性がリンに近づいて聞こうとし、掴んでいる女性の頭を離さずにそれに答えようとした時に、三人組の内の一人で最初にリンに声を掛けた男性が、リンを指差して叫んだ。



「皆さん手を貸して下さい!僕達はこの魔物(・・)を追い払って一人の女の子を救う為にこの街に来たんです!協力して一緒に戦いましょう!!」



その男性は自分達がこの街に来た理由を大声で話し始めた。自分達は目の前に居る魔物(・・)であるリンからエルムを救うという名目でこの街を訪れ、今まさにそれを行おうとしたのだが予想外の事が起こり、騒ぎを聞きつけて集まって来た街の住人達に協力を願い出たのである。彼らは魔物が街の中に居ると分かれば、この街の住人は自分達に喜んで力を貸してくれるだろうと考えていた。



魔物(・・)、……だと?」

「そうです!だから皆さん、協力をお願いします!」

「全員で掛かればすぐに終わるんだ!この魔物(・・)を追い出すぞ!」



リンに頭を掴まれている女性は何とか今の状況から解放される為に必死で喋る事は出来ないが、二人は街の住人達に対して協力を願い出る。この街の住人の力があれば自分達の目的の達成が簡単になると二人は思っていたのである。



「…………リンが魔物だと?お前ら、ふざけてるのか?」

「「えっ?」」



だが、二人に対して返ってきた答えは彼らの希望とは真逆の答えだった。この街の住人達は彼らに喜んで味方になるどころか、二人を白い目で見ている。



「ちょ、ちょっと待って下さい!皆さん、魔物(・・)が街の中に居るんですよ!?どうして放っているんですか!?」

「一刻も早くこいつを追い出さないと取り返しのつかない事になるんだよ!力を貸してくれ!」



街の住人達の反応が自分達の思った通りでは無かった二人てあったが、何とか街の住人の協力を得なければと説得を続けているが事態が好転する事は無かった。



「あんたらな、リンは魔物じゃないんだよ。最初は俺達も今のあんたらと同じでそう見えてたけど、人を見境無しに襲ってくる魔物とは全然違うんだ」

「そうだよ。あんなに酷い事した俺に対しても色々と助けてくれたんだ、……そんな奴が人を見境無しに襲う魔物な訳無いだろ」

「人を見た目だけで判断したらいけないって教えてくれたのもそこに居るリンちゃんなんだよ。あんた達もそんな事言うのを止めな」



だが、街の住人達は口々に彼らを諭すかの如くリンに対して抱いている思いを言う。そんな事を言っている住人達も、リンがこの街に暮らし始めた最初の頃はこの二人と同じような事を言っており、中には街から追い出そうとした者まで居たのだが、ある出来事があってから、考えを改めて彼女を受け入れたのである。



「……あのな、そう思ってくれてるのは嬉しいんだけど、それをオレが居る目の前で言わないでくれよ。照れるじゃねぇか」



リンは自分の事を褒められるのを言われ慣れていないようで、右手で頭を掻いて照れているが、それとは真逆で左手の力は全く緩めていない。頭を掴まれている女性は抜け出そうと身体を動かしていると彼女を覆っているマントから、何かが見え隠れしているのをリンは見逃さなかった。



「……ん?これって?」



リンはそれを手に持って確認してみた。手に持ってみた物はネックレスのような物であり、人が両手を広げており、その周りから光が溢れ出ているような紋章らしき物が描かれている。



「これに触らないでよ!これは私達が偉大な『清らかな世界』に所属している証しなむぎゅっ!!」

「おい馬鹿っ!それ言うなっ!!」

「言ったら不味いって!!」



女性がリンの拘束から何とか抜け出すと紋章が描かれているネックレスのような物を庇うように離れる。そして、何かの名のような言葉を口にしたその瞬間、彼らの回りを囲っている全員が三人を凝視する。二人の男性は慌てて女性の口を塞ぐが既に手遅れだった。



「『清らかな世界』だって?確かそれって……」

「……あれだよ、言ってる事が正しいならあいつらは……」

「ちょっと私、呼んでくる!」



周りを囲っている住人達からは先程の『清らかな世界』という言葉に関しての情報が飛び交う。その中には誰かを呼ぶ為に、この場から離れる者もいた。



「……これって不味い状況だよな?」

「と、とにかく逃げないと!?」

「……いや、逃げたら駄目だっ!!」



不穏な空気を察したのか逃げようとする二人に対して、男性は逃げてはいけないと否定する。



「この魔物(・・)が街の皆を洗脳しているんだ!だから、僕達が戦って倒して皆を解放するんだ!」



男性は街の住人達が自分達の説得を全く聞こうとしない事を、リンが彼らを洗脳しているから聞かない、という結論に辿り着いて再び剣を抜くと同時に二人を鼓舞するが、その二人は逃げるという選択肢しか頭の中には無かった。



「……そういえば、その『清らかな世界』って、綺麗な名前とは裏腹にやってる事が物凄く汚くて、そこに所属しているだけで指名手配犯になる極悪非道な奴らだっけか?確か、一年前にマスターが捕まえたけど何人か逃げられたって言ってたけど、それがお前らなんだな?」



リンはその『清らかな世界』についての情報を話し出した。この三人が所属している『清らかな世界』というのは、その名の通り世界を清らかにするという大義名分で、主にラゼンダ王国で様々な活動を行っているのだが、その実態は、名前と凄まじくかけ離れた事をしている二百人規模の犯罪者集団として王国の人達に認知されている団体である。その例を幾つか上げてみよう。



稀少な生物や植物の保護を国の許可を得て自然を壊さない程度に行っている者に対しては、それらを違法に乱獲して売り捌いていると言いがかりをつけると、根こそぎ奪い取って自分達が闇商売人に高値で売り付けて利益を貪っていた。


複数の孤児院を経営しており、そこの子供達からとても慕われている者に対しては、子供を暴力で支配をしているとして、孤児達を全員連れ去った後に孤児院に火を放って建物を全焼させ、連れ去った子供は奴隷として売り飛ばしたり、ストレスの捌け口として自分達が暴力を振るっていた。


二つのとある部族同士が長い間争っていたのだが、その争いを終わらせて二つの部族の間を取り持って平和的に解決に導いた者に対しては、争いを再び起こそうとしていると決めつけ、彼を話がしたいと周りに誰も居ない所に呼び出して彼を殺すと、それぞれの部族に対して、殺したのは相手の部族の方だとそれぞれの部族に伝えて、再び争いを起こすように自分達が煽っていた。



上記した内容など、他にも様々な事を世界を清らかにするという大義名分の元に行っているが、それら全てが名前とは凄まじくかけ離れている活動であって枚挙に暇が無い。逆に本当に清らかな活動を探す方が困難なのが現状である。


しかも、タチが悪い事に、彼らは世界を清らかにする名目で活動しているので、自分達が悪い事をしているという認識が微塵も無い。自分達は正義だから行い全てが正しい、という思考が末端の構成員にまで浸透しているので、平気で物を強奪したり、子供を誘拐したり、何の罪も無い人を殺す事に躊躇いは無く、彼らは自分達が正しくて周りが間違っていると思い込んで、その歪みに歪んだ思考のまま活動を続けていた。


……だが、そんな暴挙を続けている彼らを王国は許す筈は無く、複数の冒険者ギルドに協力を要請すると、今から一年ほど前に王国と冒険者ギルドの共同作戦で彼らを一網打尽にする作戦で身柄を拘束した。大多数の構成員を捕まえる事が出来たのだが、ほんの僅かな隙を突かれて数人の構成員の脱走を許してしまったのである。その数人を一刻も早く捕まえるべく、彼らの事を国中に指名手配犯としての御触れを出して、今でも捕らえる為にやっけになっているのであった。


ちなみに、今ここに居る三人はその時に逃げた数人の中に入っていて、逃げた後は各地を転々とし、エルムの噂を聞きつけて昨晩のうちにレクトイの街に来たのである。その目的は先述の通りで、不本意ながら自分達の名前を伏せて静かに行動しようとしていたが、取り返しのつかない所まで騒ぎは大きくなっていた。


そしてリンは、『清らかな世界』の数人が逃げた事をシーアから逃がしてしまったと愚痴を聞かされていたので、その情報を自分なりに入手しており、三人に対して言ったのである。



「指名手配犯だとっ!!」

「僕達を凶悪犯扱いするなっ!!」

「そうよそうよっ!」



リンが口にした指名手配犯という言葉に、三人はそれぞれの反応を示している。



「……いや、お前らは全員、この国から指名手配されてんだよ。あちこちに手配書が配られてるし貼ってもある。結構な金額がお前らの首に掛かってるから、それを狙ってる奴らもわんさか居る」



この三人もそうなのだが、逃げ出した『清らかな世界』の構成員には一人一人に対して、人相などが書かれた手配書が国中に出回っていて懸賞金が掛けられており、その額は一攫千金とまではいかないが贅沢が可能な程の金額である。それを狙っている賞金稼ぎも少なからず存在しているのを彼女は知っていたのだ。



「それとお前ら、……おとなしく捕まっとけよ。もう逃げられないみたいだし、観念しな」



そう言うリンの視線の先には見回りをしている兵士の集団が、こちらに向かって来ている。この状況では三人が兵士達に捕まるのは誰が見ても明らかだろう。



「そ、そんな…………、僕達はただ、世界を清らかにする為に……」

「こんなの嘘よっ!!」

「どうしてなんだっ!?」



三人はそれを見て、もう逃げられないと悟った様子で先程までの威勢が嘘のように消えて無くなり、口々に嘆いている。その三人は、直後に現場に駆け付けた兵士達によって身柄を拘束された。



============



身柄を拘束された三人は兵士達に囲まれて、そのまま連行されていき、集まっていた街の住人達はそれぞれの自分の家や仕事場に戻っていった。



「「「ご協力感謝します!!」」」

「どういたしまして」



聴取の為に残った兵士達から感謝を込めた敬礼を受けたリンは、普段通りに返事を送る。そこに三人の荷物を調べていた兵士の一人がリンに近づいてくる。



「少しよろしいでしょうか?三人の荷物を調べたのですが、……その中からアシッドスライムの酸が入っている容器が見つかりました。しかも、少しでも強く握ってしまうと割れてしまう容器に入っていました」

「アシッドスライムの酸って確か、許可無く所持してると罰せられる代物だよな?」

「そうです。よくご存じで」

「オレは商売やってるから、法に反する物を仕入れたら駄目だからな。それを全然知らなかったじゃ済まない職業柄だから、……ん?オレの手に掛けられたのも、そのアシッドスライムの酸って事か?」

「はい」

「……ならいいや。酸を浴びたのがオレで良かったよ」



アシッドスライムとは、強酸性の性質の体液を持つ液体状のスライムであり、その体液を採取する事は誰にでも可能なのだが、少量であっても人の肉体を簡単に溶かしてしまう程の強酸性の故に、その所持や扱いには法で制限が掛けられているので、許可無く所持している者は罰せられる。


三人はそれをアンデッドの再生能力を封じる聖水として信じ込まされ、大金を出して購入していた。つまり彼らは、購入していた商人らしき者に騙された被害者であるのだが、彼らに同情する者は存在せず、アシッドスライムの酸を使ってリンの身体の一部を溶かした事により、三人は加害者になったのであった。痛みを全く感じないリンだから良かったものの、他の人に使われていたら大変な事になっていたのは明白だろう。



「ほ、他にも同じように許可無く所持していると罰を受ける品が幾つもありましたので、恐らく三人には重い罰が下されるでしょう。……では、私はこれで失礼します」


三人が持っていたのはアシッドスライムの酸だけではなく、他にも色々と許可無く所持しているだけで罰せられる物を持っていたようだ。このアシッドスライムの酸のように所持や扱いには法で制限が掛かっている素材が幾つも存在している。三人が重い罰を受けるのは確実だろうと言った兵士は、ここでの仕事が終わったようで、この場から離れていった。それを見たリンは自分の店の中に戻ると、エルムがまだ寝ているであろう寝室に向かう。



「……ったく、騒がしい朝になったな」



寝室に向かっている途中で、まさかこんな休日の朝になるとは思ってもいなかったリンは愚痴を漏らす。そうしている間に寝室に到着したリンは、扉を開けて部屋の中に入る。



「すー……、くー……」

「……あれだけうるさかったのに、まだ寝てるのか」



寝室のベッドの上には、対応する為に服から引き剥がして寝かせた状態のままで、エルムが寝息を立てている。先程まで自分が狙われていたとは露知らず、今もまだ夢の中に居る彼女に呆れながらも、無事が確認出来て一安心したリンであった。


============

この休日の話は、あと一、二話程度続ける予定です。次の投稿がいつになるか分かりませんが……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ