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勇者の召喚

今回は勇者の話です。

============


リンが住んでいる街がある国のラゼンダ王国から遠く離れている所にある国、ナイメア帝国。国土が世界で一番広いこの帝国では、種族が人間の者の中で大多数の者が、この国はいずれ世界全土を支配して頂点に立つ事を疑っていなかった。


そう思っているからか、自分達は至高な存在であって自分達の意見や行う事は全て正しい物だと考えていて、それが代々引き継がれており、帝国の人間は他の国の人間を見下している。歪んだ自己中心的な思考が根付いているので、帝国の人間が外国に観光などで出掛けた時には、少しでも自分の思い通りにならないと怒って喚き散らしたりするのはまだ良い方で、数え切れない程の問題行動を起こしているので、帝国の人間は世界中の人達から悪い印象を持たれ、嫌われている。


帝国には人間だけではなく亜人も住んでいるが、帝国に住む人間を至高の種族と考える『人間至上主義』の思想が根深く浸透しているので、亜人は全て奴隷か物以下として扱われており、それが法律として決まっていて、扱われ方はとても酷い。目の前を横切ったから、動きが遅かったから、物事が上手くいかなかったからなど、そんな些細な理由で暴力を受けて、最悪の場合は殺されてしまう事が多々ある。亜人に対してこれほどまでに酷い扱いをするのは世界に様々な国があるといっても帝国だけである。亜人は帝国では徹底的に搾取され、命の危機を感じて国外へ亡命する者が後を立たず、帝国に住む亜人の数は日に日に減少している。


帝国の人間が外国に出掛けた時、彼らは亜人の事を奴隷か物としか思っておらず、目の前を横切ったからという些細な理由で外国の亜人に帝国にいる亜人と同じような事をしている。……だが、彼らはその時いる場所が帝国の法律が適用されない外国であり、その後は拘束されて罰を受けた後に帝国に強制送還される。彼らは自分達が拘束されたのかが理解出来なかった。目の前を横切った亜人が悪いので自分は悪くない、帝国の法律では亜人は奴隷か物以下と決まっている。罰を受けるのは亜人の方であって、その罰を与えた自分は何故このような仕打ちを受けなければならないんだと思っているからである。


ちなみに数年前、雑貨屋を営んでいるリンの所にも帝国の人間が数人訪れた事があったのだが、その全員が揃いに揃って、彼女が他の客を対応していると、



「自分達を最優先に対応しないとは何事だっ!」



と言い、その後に彼らは品物を買う時になって彼女が帝国の人間に代金を請求すると、



「帝国の人間から金を取るなど恥を知れっ!」



と言って、支払いもせずに商品を持って店から出ていってしまった。その行動を目の前で見ていたリンは一瞬呆気に取られたが、直ぐに近くを通りかかった見回りの兵士に、彼らを『自分の店で代金を払わずに商品を持っていった泥棒』として突き出した。彼女は根は優しいが、目の前で起きた犯罪を見逃す程のお人好しでは無い。それが自分が営んでいる店で起きたなら尚更である。


兵士がその真意を確認しようとした時に帝国の人間達が、



「お前に払う金など無いっ!持っていった事を感謝しろっ!」



と、自分達のやった犯罪行為を擁護するどころか、称賛すべきだと言い放った。これには帝国の人間以外の全員が唖然とし、兵士はリンや周りに居た人達に確認の為に聞き込み、彼らが今現在商品を手に持っているのと、払ってないし持っていったと発言した事を考慮して彼らを拘束し、仲間の兵士に応援に来て貰って連行していった。


その際にも帝国の人間達は、



「気安く触れるなっ!」

「あいつを捕まえろっ!これは国際問題になるんだぞっ!」



などと、連行されながらも喚いていた。兵士達が彼らを尋問すると、他の店などでも同じような事をしており、反省の色が全く無かったので、罰金を王国に納めるように言い、彼らを帝国へ強制送還する事となった。この時になっても彼らは自分の犯した罪を認めずに喚いていたが、連行していった兵士達の隊長が現れ、彼らを一喝して黙らせ、直ぐに彼らを強制送還していった。この隊長を含めて王国の兵士達は皆、帝国の人間の相手を何度もしていたのだが、それが全て同じ事ばかりだったので、心底うんざりしていたのである。


リンはその件が数回あってから、問題が起こらないように帝国の人間は店を出禁にした方が良いのではないか?と考えてしまう程に彼らの態度と行動に衝撃を受けていたのだった。……余談になるかもしれないが、この時の彼女は自分が亜人であることを帝国の人間達には話しておらず、彼らもリンの事を人間だと思っていた。もし、彼女が自分が亜人である事を話していたら、この問題が拗れに拗れていただろう。



話は変わって、帝国は他の国との協議などでは、自分の意見を言うだけ言って、それに対して他の国が質問などを行う前に、



「これは決定事項だっ!」



と言って、毎回協議を強制的に終わらせようとする。何故こんな事をするのかというと、彼らは自分達の意見は全て正しくて言っただけで決まる物であり、これに何かを言う事は愚かで間違っている、と考えているからである。帝国が言った意見に他の国が納得出来る物なら問題は無いのだが、帝国が言ってくる意見というのが、



「前に決めた条約は、帝国に利益が無いから直ちに撤回して賠償金を払えっ!」

「お前達の国にいる全ての亜人は、帝国の奴隷なのだから今すぐに引き渡せっ!」



などと、他の国が決して納得出来る物では無かった。


また、根深い『人間至上主義』の思想によって、たとえ国同士の重要な条約を決める協議であったとしても、帝国の人間の大多数の者は亜人を奴隷か物以下として扱っているので、帝国の代表として協議の場に送られるのは人間のみとなっている。各国も問題が起こらないように帝国との協議では種族が人間の者を代表として送っていた。


………もし、帝国との協議に参加する国の代表の中に亜人が一人でも入っていると帝国の代表はどのような反応をするのかと疑問が出るだろう。


その答えはこうだった。……以前、ある国が帝国を含めた数ヶ国の協議に参加する事となり、その代表の一団の中で急に一人の人間が出席する事が不可能になってしまい、代わりに亜人の一人を代表の一員として、永世中立国であるシーバス国で行われる協議の場となる部屋に入って席に着き、最後に来る帝国を待っていた。今まで各国は問題が起こらないように帝国との協議では種族が人間の者を代表として送っていたが、今回は最重要な事を決める協議の場なので、亜人が代表の一人でも帝国は問題は起こさないだろうと帝国以外の各国はこの時までは思っていた。


…………だがその後、帝国の代表の一団が部屋に入ってその亜人を見るや否や、



「亜人ごときが何故この部屋に居るんだっ!」



などと罵詈雑言を喚き散らした後に、



「亜人が代表にいる国とは話をしないし、その国が参加しているのならば帝国は協議に参加しないっ!!」



と、亜人が代表の一員となっている国のみならず、その場に出席していた各国の代表全員に堂々と宣言して、協議を始める前にその部屋を出ていってしまった。


それを聞いた帝国以外の各国の代表の全員が、



「国と国との最重要な条約だというのに……」



と、怒りを通り越して呆れてしまい、この事が世界中の国に伝わり、その出来事があってから各国の代表には人間と亜人の両方を入れられるようになった。それは各国が帝国を協議に参加させない為に行った処置であって、国同士の最重要な条約の協議を、亜人が部屋の中に居るというだけで参加を拒絶するような国とは協議をしたくないという、ナイメア帝国と以前から協議に参加していないダラマ王国を除いた全ての国の判断である。これによって帝国は事実上世界から置いていかれるようになった。


帝国は後になって協議に参加しようと各国に働きかけたのだが、その時の帝国の代表が、



「これまでの数々の帝国への無礼をお前達全員が誠心誠意謝罪して、我らが提示する賠償金を支払えば帝国は協議に参加しても良い」



と、帝国は被害者であって自分達は全く悪くない、謝罪するのはお前達だと上から目線で言い切ってしまったので、ただでさえ悪い印象を悪化させてしまい、それがあってからの各国は帝国からの協議への参加の連絡を全て拒絶するようになってしまった。


国際会議などに呼ばれなくなってしまった帝国だったが、近隣諸国との貿易は暫くは続けていた。……が、帝国はその際、無理難題を押し付ける事が殆どであった。約束とは異なる物を持ってきて取引しようとする、帝国が本来支払うべき代金を逆に相手に請求するなど、普通に考えてみれば到底ありえない事を帝国は、さぞ当たり前の事のように相手に要求し、それが受け入れられないと分かると宣戦布告されたと受け止めて戦争を仕掛けている。そんな帝国の自分勝手で横暴な振る舞いは、何十年も前から続いている。


……しかし、近隣諸国も押し付けられた無理難題を黙って受け入れている訳ではない。その無理難題を断固拒否し、戦争を仕掛けてくるのならば武力をもって対抗している。この事により、ナイメア帝国と近隣諸国との間には常に緊張状態が続いており、それが高まってくると帝国と近隣諸国との間での貿易や人の移動などは行われなくなった。帝国と近隣諸国との戦争は、一進一退の攻防が続き、膠着状態となっている。


数々の愚行を続けていった帝国の現状は因果応報としか言えないが、世界中の国々から見限られていて孤立している。他の国から移住してくる人はおらず、亜人の数は日に日に減っているので、帝国の総人口は減少の一途をたどっている。帝国の人間が他の国に移住しようとしても、彼らを快く受け入れてくれる国は世界中を探したとしても一つも存在せず、帝国の人間というだけで入国審査で止められて拒否されてしまう。そこで大人しく引き下がれば良かったのだが、帝国の人間はそんな時でも喚き散らして暴れ、拘束されて強制送還される事が毎日のように起こっている。逆に帝国に住んでいた亜人が他の国に移住する時は事情を考慮されて、様々な検査を行い、帝国から亡命してきた民として受け入れられている。


また、国土が世界で一番広い帝国であるとしても自国で生産出来る物と量には限りがある。総人口が減少している事によって生産力が低下しており、近年の帝国は各地で天候不順があって農作物や畜産が被害を被っており、食糧難に陥っている所がある。その問題を解決しようとしても貿易が行われていない状態が長く続き、他の国から食糧が手に入れられないので解決の糸口が全く見つかっていない。近隣諸国からの品物が入ってこなくなった帝国は経済が刺激されずに減速し、人口減少も相まって物価や税金が上がり、帝国の人間の生活は徐々に困窮していき、日に日に彼らの帝国への不満が高まっていった。


更に、帝国から離れた国の魔王が治めるダラマ王国で軍力が強化されたという噂が流れ、魔王が軍を率いて攻めてくるのではないか?という噂も流れ出し、帝国の人間達の不安も高まっていった。


自分の思い通りに物事が進まず、業を煮やしたナイメア帝国の王は、事態を打破する為に国中に御触れを出し、魔術師や冒険者の中で魔法に自信がある者達を自らの城の広間に集め、『最大の禁術』と言われている儀式を行わせていた。この部屋の床には大きくて複雑な魔方陣が描かれており、集められた彼らはその周囲を囲むように立っている。その数は百人程で、老若男女関係無く集められ、彼らは同じ呪文を詠唱している。彼らは、今している儀式が成功したとすれば報酬が貰える事に期待し、逆に失敗したとすれば自分達の立場や命が危ない事に恐怖し、全力で魔法を唱えているのだった。



「国王様。もう間もなく儀式が完了致します」

「うむ。最後まで抜かりなく進めよ」



王の周りに居る大臣の男の言葉に王は笑みを浮かべる。これが成功したとすれば、この後の事は、全て自らの思惑通りに進むと考えているからだった。


……そして、その会話の直後に、魔方陣から眩い光が溢れ出した。



「うおぉぉっ!!」

「な、何だっ!!?」

「まだだっ!気を緩めるなっ!失敗は許されんぞっ!!」



光が溢れ出したので、魔法を唱えている者達から驚きの声が上がるが、王は絶対に失敗してはならない為に彼らに喝を入れる。



「成功だっ!!」

「お、おぉっ!国王様っ!!」



眩い光が消えると、魔方陣の中心には似たような服装の三十人程の少年少女達がそこには居た。彼らの姿を見た王と王国関係者は歓喜の叫びを上げる。彼らはこれで悲願が達成されると、この時は確信していたのだった。



「うむっ!……大臣よ、褒美を彼らに渡しておけ。我は勇者達と話がある」

「はっ!……皆の衆、ご苦労であった。今から褒美を出す。あちらに褒美があるぞ」

「よっしゃあ!金だ金だ!」

「一足お先に~!」



魔法を唱えていた者達は疲れて座り込んでいたが、褒美が貰えると聞いて喜び、立ち上がると我先に褒美がある場所に向かっていく。


王は従者を引き連れで召喚された勇者の側まで進んでいき、そこまで行くと従者の一人の女性が膝をついて頭を下げて、勇者に懇願した。



「ようこそ、勇者様方。この世界をお救い下さい」



============



彼らにとって、それは本当に突然の出来事だった。


異世界から召喚された勇者達は、召喚される前はどこにでもいる普通の高校に通う生徒であった。彼らは様々な事を抱えながらも青春を謳歌していた。


その時はいつも通りに朝のHRが始まる直前だった。眩い光と共にその部屋の床に複雑な模様──これは魔方陣であってこの時の彼らは知らなかった──が現れ、その光に包まれると彼らの視界が一瞬で真っ白になり、少しして見えるようになった時には、彼らの視界には先程の見慣れた教室ではなく、物語でしか見た事が無いような造りの壁や床に、これまた物語でしか見た事が無い服装を身につけた人々が映っていた。



「な、なにここっ!?」

「教室はっ!?」

「一体なんなのもう!?!?」



あまりにも現実離れした光景や出来事の連続に彼らは驚きを隠せなかった。普段通りの日常を過ごしていたのに、ある日突然光に包まれ、気がついたら右も左も分からない異世界に転移したので驚くのも無理はなかった。



「みんな!落ち着いてっ!」

「先ずは全員居るっ!?具合が悪くなった人はっ!?」



皆が皆、驚いて騒いでいる中でこの場を何とか収めようと声を上げる少年と少女が合わせて二人いた。その少年と少女は、通っている高校で生徒会に所属しており、少女が生徒会の会長で少年が生徒会の副会長を務めていた。二人は学校の中心にいる人物で、そんな彼女の言葉によって少しだけ落ち着きを取り戻しつつあった。


そして彼女らが落ち着きを取り戻すと同時に、先程の女性から懇願されたのだった。



「勇者?私達が?」

「その通りである。……だがその前に、我はこのナイメア帝国を治める王である。勇者殿には申し訳無いが、先程も聞いたであろう。この国を否!この世界を救って欲しい!この通りだっ!!」

「「「「お願い致します!勇者様!!」」」」



国王が彼らに頭を下げると、つられて王の周りにいる従者達も頭を下げる。ここで断られてしまったら帝国は消え去ってしまうからであって、国王が勇者に直々に頭を下げなければならない程に事態は困窮していたのだった。……それが自らの行いによる物から来ているだとは分からずに。



「そ、そんな事急に言われても………」

「いくらなんでも無理だっ!」

「お願いだから元に戻してよっ!」



懇願された生徒達は口々に否定する。先程までは自分達はどこにでもいる普通の高校生であって、世界を救える程の力などは持っていない。何故彼らは自分達がこの場に呼ばれたのかは全く分からなかった。



「……えっと、王様でしたっけ?どうして僕達を呼んだんですか?」

「貴様っ!国王様に向かって口の聞き方は何だっ!!?」

「別に構わぬ。剣を納めよ」

「……失礼しました」



他の生徒を落ち着かせる為に声を上げていた少年が王に呼んだ理由を尋ねるが、従者の一人の男が一歩前に出て剣を抜く。王に対しての口の聞き方について彼は怒ったのだが、王は男を窘め。男は渋々納得して剣を納めると後ろに下がる。



「それで、呼んだ理由というのはだな……、うむ」

「国王様。私が代わりに説明致します。…………今、この帝国はおろか、世界全土が魔王によって未曾有の危機に瀕しています。魔王の力は日々強くなっており、魔王を倒さなければ世界に平和が訪れないというのに、他の国は我らに協力や援助をしようとしないし、中には魔王に屈した国もあるのです。私達は世界を救う為に苦肉の策で異世界から勇者様を召喚しました。……勇者様が元の世界に戻る為の魔法の書物は少し前に魔王に奪われてしまったのですが、勇者様なら魔王を必ず倒せるでしょう。何故なら異世界から召喚された者は利き手の甲に勇者の紋章が存在し、魔王を倒せる程のとても強い力が宿ると言い伝えられているのです。……どうか、私達の世界をお救い下さい、勇者様!」



王が言葉に詰まっていると、先程生徒達に懇願した女性が一歩前に出て、召喚された生徒達に対して何故彼らを召喚したのかを今の世界の情勢を合わせて語りかける。彼女は王から信頼を寄せられていて、大臣の男と共に王を支えている人物である。……しかしこの時、彼女が生徒達に語りかけた事は多くの嘘と僅かな真実だった。


この女性が言った通り、この世界には魔王が存在するのだが、この世界に存在する魔王は世界を支配する気は皆無であって、魔王に屈した国は一つも存在せず、魔王が治めるダラマ王国は他の国との交流をしていないだけであって、魔王は帝国に一度たりとも来てはいない。勇者達が元の世界に戻る為の魔法は実際に存在するのだが奪われてはなかった。……これらの事を生徒達が何も知らないのを良い事に、自分の都合の良いようにこの世界の事を生徒達に語ったのだった。



「僕達に、世界を救える程の力が?」

「何があるのかは調べてみないと分かりませんが、伝承では異世界から召喚された勇者には強大な力が宿ると言い伝えられているのです。その手の甲にある紋章が何よりの証です」

「あっ!私の手にある!」

「俺にもあるぞっ!」



生徒達は自分の各々の利き手の甲に赤色の六芒星のような紋章がある事に気づいて声を上げる。彼らはつい先程まで元の世界に戻りたいと訴えていたのだが、その気持ちはこの時点で消え失せてしまったようだ。



「その手にある紋章こそ、この世界を救える勇者の証なのです。貴方達に秘められた能力はこれから調べますのでこちらにいらしてください」



女性が手て生徒達を促すと、彼らは自分達に秘められた能力を調べる為に移動していった。



============



この時の帝国は異世界から召喚した勇者を手に入れた事により、戦争を仕掛ける準備がほぼ整い、ただでさえ強い勇者を訓練して戦闘経験を積ませれば、帝国が世界を支配できるのは時間の問題だと思っていた。『勇者召喚の儀』が行われた事は帝国はおろか世界中に伝わり、それからの数日間は帝国の城の内部だけではなく帝国全土で宴が行われた。嗜好を凝らした料理や華やかな出し物が催され、それは生産力が低下している帝国中の物資を使い切ってしまう程の勢いで行われた物だった。


……だが、彼らはそんな事を気にする様子は微塵も無かった。自分達には召喚された強力な勇者達がいる。使い切った物資はそれ以上の量が、直ぐに自分達の手元に来ると考えているからであった。


また、この時の生徒達は自分達は何が起ころうとも負ける筈が無いと思っていた。戸惑いもあったが、生徒達の中の数人がこの状況を把握して、その事を状況が全く分からない他の者達に今この場に自分達が居るという事は自分達が世界を救う勇者であって物語の主役であるという事を意味していると伝えたのであった。彼らは城で行われた宴に参加し、嗜好を凝らした料理や華やかな出し物に酔いしれ、自分達は異世界に召喚されたと改めて認識したのであった。宴が終わった後は彼らは、この世界を救うという目標に向かって訓練を始め、自分達に与えられた力を知り、勇者としての日々を過ごしていった。


しかし、これらの出来事がナイメア帝国が崩壊に向かって進んでいく序章に過ぎなかった事だと知る者は、この時はまだ誰一人として存在していなかった。帝国が行った『勇者召還の儀』が何故、『最大の禁術』と呼ばれているのかの理由を、強大な力を持つ勇者を召還が可能であれば最早どんな方法でも構わないと、国王が判断し、知ろうともせずに進められたのだった。


…………そして、この世界に勇者として召喚された生徒達は、ずっと隠してきた一つの重大な事が異世界で明るみに出るとは、この時は全く予想していなかったのであった。


============

この小説のサブタイトルは


主人公であるリンやその周りの人物などを中心とした話

○○○は△△△です。


勇者やその周りの人物などを中心とした話

勇者の○○○


とします。○○○や△△△に文字数の制限は無いです。



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