(グランデール社・異世界帰還者保護事業部創設者)ルシエル・グランデールの祝福
スプリットポイント〜少女の選択。何にも出来なかった私だったけど、実は、真・聖女だった?〜
短編第3弾です。
暇つぶし程度で、相変わらずの稚拙なモノですが、宜しければお付き合い下さい。
そのうち第4弾アップします。
第1弾〜第3弾を読んで貰えた方が楽しめる内容を予定していますので、是非とも他の短編も宜しくお願いします。
宜しければ、評価・感想・ブクマも宜しくお願いします。
とある高校の屋上。
そこには二つの人影があった。
一つはスラッとして背の高い、整った顔立ちの男子生徒である。
もう一つは長い黒髪を風に靡かせながら、男子生徒を見ている女性徒。
その美しい顔立ちは、見る者を魅了してしまう程の美少女であった。
屋上には、二人以外の姿は見えない。
「宇宙さん。僕と付き合って下さい。」
男子生徒が目の前の美少女に告白し、右手を差し出し返事を待っている。
「えっ?えーと・・・。」
宇宙と呼ばれた女性徒は、浮かない顔をしながらモジモジしていた。
どうやら返事に困っているようだ。
すると突然、屋上の入り口のドアが開き、そこから叫び声が響いた。
「「「ちょっと待ったぁー。」」」
開いたドアから数人の男子生徒が飛び出してきた。
「「「宇宙さん。好きです。付き合って下さい。」」」
いきなりの大量告白に驚く宇宙。
オロオロと狼狽えており、何と答えて良いのか分からない様だ。
だが、暫くすると・・・
「ご、ご免なさい。」
宇宙は一度丁寧に頭を下げ、再度男子生徒達に向き直った。
その時、男子生徒達の視線が、宇宙の胸元に集中した。
宇宙の動きに合わせて激しく揺れた彼女の大きな双丘が、彼等の視線を釘付けにしたのだった。
「皆さんの事が嫌い、という事では無いんです。正直に言うと、嬉しいかな?ただ私は今、恋愛に余り興味が無くて。本当にご免なさい。」
宇宙は皆を気遣い、優しく返事をした。
そして、ペコリとお辞儀をして、たゆんと揺れる巨大な双丘と共に屋上から去って行った・・・
立ち去る宇宙の後ろ姿を見つめていた男子生徒の一人が呟いた。
「やっぱ、神原 宇宙ってマジ天使だよなぁ。」
皆、同意見だったらしく、ウンウンと頷いていた・・・
神原 宇宙は、顔良し、スタイル良し、性格良しの三拍子揃った十八歳の超美少女だったのだ。
帰宅中、甘味処にて・・・
「いいなー宇宙はー。あの一流企業のグランデール社から内定を貰って将来安泰だもんねー。私みたいな進学組は、夏休みを返上して勉強だよー。はぁ、憂鬱だわ。あっ、これ美味しい。」
「美月が自分で選択したんだよねー。だったら頑張ろうね。応援してるよー。私の就職先なんて、ボランティアで孤児院の子供達の世話をしていた所がたまたまグランデール社が運営していた施設だっただけだよー。」
宇宙は、向かいでパフェを夢中で食べている幼馴染みの親友、美月にエールを送った。
「有り難うね。私も頑張ってみるよ。でも、宇宙って凄いよねー。さっきも男子達に告白されてたし、美人でナイスバディだし、優しいしさー。おまけに超一流企業に内定決定してるんだよー。私からみても非の打ち所が無いんだから。」
美月は肩を竦めてオドケながら、宇宙に返事をした。
そんな美月に宇宙が話し出した。
「そんなに誉めたって奢らないからねー。美月は可愛いし、男子に人気だし、自分で選択した道で一生懸命努力する頑張り屋さんなんだから、良い結果が待っている筈よ。だから私は美月が羨ましいよー。」
宇宙は話を続ける。
「私はたまたま恵まれていただけだったと思ってるの・・・容姿は両親からだし、就職先だって自分で選択した訳じゃ無いからねー。不満は無いけど、ただ流されるままで良いのかな?って最近思ってたんだー。だから、さっき告白された時に何かが変わればって、真剣に考えたんだけど・・・全然ピンと来なかったんだよー。」
宇宙は残念そうに話した。
「本当に宇宙は見た目と違って、真面目っていうか、堅物よねー。私なんて、結果良ければ全て良し、って思ってるよー。でも、私が頑張れるのは、産まれた時点で既に命が無かった双子の妹の為かなー。宇宙も知っている事だから今更だけどねー。」
幼なじみの宇宙も知っている、美月が頑張る理由・・・
美月は双子の妹の分と合わせて二人分頑張ると決めていたのだ。
パフェを食べ終え、紅茶を飲みながら、美月は話を続ける。
「でもさー、宇宙に告白していた男子生達って、結構人気が有ったと思うんだけど、全然ピンと来なかったかー。恋愛に関しては前途多難そうだねー。もしかしたら、運命の人が宇宙には居たりしてね。未だ出逢っていないとかねー。」
「私の運命の人かー。何かロマンチックね。もし居たとしたら、どんな人か楽しみねー。あっ、もうこんな時間だわ。そろそろ帰りましょ。」
話に夢中で気が付かなかったが、辺りがすっかり暗くなっていた。
急いで店を出る宇宙と美月。
「あっ、私、今日予備校だったの忘れてたわー。宇宙、私このまま行くわねー。また明日ねー。」
「じゃあ、隣だから直接予備校に行ったって伝えておくねー。美月、また明日ー。」
互いに挨拶をして、美月は予備校へ小走りに向かい、宇宙は家へと向かった。
(困ったなぁー。どうしようかなぁー。)
近道をしようとして、公園を通っていた宇宙だったが、目の前で喧嘩をしている集団が、行く手を塞いでいた。
男が三人、女が三人の六人のグループが二つ。
合計十二人の集団だった。
制服から判断すると、宇宙とは違うが、二つのグループは同じ学校のようだ。
(あの制服は確か・・・さっさと後ろを抜けないと不味そうね。)
宇宙は気が付いた。
彼等の制服は、素行に問題が有り、高校へ進学出来なかった生徒のみを集めた高校の制服であった。
近所でよく問題を起こしては、騒ぎになっている。
宇宙は、巻き込まれない様に大きく迂回して、彼等の後ろを通り過ぎようとしていた。
その時だった。
「な、何だ?テメーら、何しやがった、」
「オメーらの仕業だろ。フザケんなよ。」
宇宙が声のする方を見ると、喧嘩している彼等の足下に幾何学模様の様なモノが現れ、彼等がソコから溢れ出している光に包み込まれていた。
(えっ?何か不味そうな気がする・・・離れないと。)
宇宙が危険を感じ、この場から離れようとしたその時だった。
「えっ?ウソ?何で?」
宇宙の足下にも同じ幾何学模様の様なモノが現れ、宇宙も光に包み込まれた。
(ここは何処かしら?確か、公園で光に包み込まれて・・・)
宇宙は公園ではなく、白い壁の大きな建物の中にいる様だ。
石造りで、高級そうな調度品が置かれており、地元では見た事の無い所であった。
先程公園に居た十二人の男女も居たが、宇宙と彼等以外の人は見当たらなかった。
「おい、テメー、どういう事か説明しやがれ。」
「あーん?知る訳ねーだろ。ぶっ飛ばすぞ。ゴルァー。」
互いのグループのリーダーらしき男同士が、取っ組み合いを始めた。
他のメンバーも各々加勢に入り、大騒ぎになってきた。
(ど、どうしよう・・・取り敢えず離れていよう。)
宇宙は目立たない様に部屋の隅に移動し、息を潜めたのであった。
暫くすると、騒ぎに気が付いたのか、ドアから誰かが入ってきてこちらに向かって叫んだ。
「ここで何をしている。立ち入り禁止だと知らんのか。」
叫んだのは、まるで中世の騎士の様な甲冑を身に纏い、剣を構えている男性であった。
「あー?聞きてぇのはこっちの方だよなー?」
「オメーか?訳の分かんねー事して、こんなトコに連れてきた奴は。」
先程まで喧嘩していたリーダー格の二人が、手を止めて騎士風の男性に絡み出した。
「まさか・・・召喚された?・・・勇者様で?はっ、大変申し訳御座いません。少々お待ち下さい。」
そう言うと、甲冑の男性は慌てて部屋の外へ出ていったのだった。
「勇者様?アイツはバカか?ワケわかんないぜ。」
「バカはオメーだろ?俺でも分かるぜ。俺達は召喚されたんだよ。」
リーダー格の片割れが状況を理解した様だが、もう片方のリーダーは良く分かっていない様だ。
他のメンバーは納得した様な顔をしながら頷いている。
(やっぱり私、召喚されたんだ。これからどうしよー。)
宇宙も状況を理解し、混乱していた。
唯一、理解出来ていなかったリーダーは、仲間に説明され、驚いた顔をしていたのであった。
すると、再びドアが開き、豪華なドレスを着た綺麗な女性を先頭に、ゾロゾロと騎士風の者達が入ってきた。
「初めまして、勇者様。私、この国の第一王女のミリア・フォン・ミレニアムと申します。」
王女はドレスの端を両手で摘まみながら、優雅な動作で皆に挨拶をした。
「挨拶なんかどうでもいい。勇者だの、召喚だのどういう事か説明しやがれ。ワケが分かんねーぜ。」
「そうですか・・・ならば、簡潔に御説明致します。」
王女は、説明を始めた。
何処かで聞いた様な、ありふれた内容ではあった。
魔王が復活し、世界が危機に陥った時、この召喚の間に勇者が召喚され世界を救うという伝説が有り、今回も魔王が復活したタイミングに合わせたかの様に召喚された者達に魔王を倒して世界を救って欲しい。といった感じの内容であったが、召喚された者達が、もとの世界に帰る術が無いという事実も説明されたのであった。
「勝手に召喚して、俺達に魔王を倒せってか?んで、元の世界に帰れねーだと?随分と身勝手な世界じゃねえか?」
リーダー格の一人が王女に反論する。
「身勝手は承知の上です。魔王は私達よりも強く、私達では歯が立ちません。しかし、召喚された勇者様は魔王と戦える程の力を持っていると伝え聞いております。だから、この世界の為にはなんと言われようと勇者様に頼るしか無いんです。」
王女は苦しそうな顔をしながら答え、続ける。
「先ずはこの魔導具で能力を調べてみては如何でしょうか?それで私の言っていた事が本当かどうか分かる筈です。」
「俺達の能力か・・・テメーと俺のどっちが上かハッキリするじゃねーか。テメーもそう思うだろ?」
「ああ、俺がオメーより強いって思い知らせてやるよ。なら、始めようぜ。」
リーダー格の二人が能力を調べ始めると、他のメンバーも二人に続いたのだった・・・
宇宙は物陰から、様子を覗いているだけであった・・・
「皆さん凄いですよ。勇者様、聖騎士、魔物使い、召喚士、賢者、聖女、どれも伝説級ですよ。それも二人ずつなんて・・・皆で力を合わせれば魔王も倒す事も出来ますよ。王国も全面的にバックアップさせて頂きます。」
王女が嬉しそうに話していたが、彼等は不満そうにしていた。
互いのグループにそれぞれ一人ずつ同じ能力が割り振られていたのだった。
「皆で力を合わせればだとー?フザケんなよ。俺達より弱い奴らと組めるかよ。だったら勝手にさせてもらうぜ。」
「オメーらこそ何言ってやがるんだ?未だ分かってねーな。俺達のチームの方が上なんだよ。バカには説明するだけ無駄だな。」
「あーん?テメーら、ぶっ飛ばされたいんか?いつでも相手してやるぜ。」
「上等だ、ゴルァー。掛かって来いよ。」
またしても喧嘩を始めるリーダー二人・・・
王女はそんな彼等を困った様子で見ていた。
(酷い・・・恵まれた才能を持っているのに、何かしようという気も無いのかしら。あれじゃ何の役にも立たない只の凄い人達だわ。)
彼等の言動に対して宇宙が抱いた率直な感想であったが、ふと、ある事に気が付いた。
(恵まれているのに、何もしない・・・只の凄い人って、私?美月には凄いと言われてはいたけど、別に何かした訳でも無いし、只流されていただけだったわ・・・今だって何もしないで見ているだけだし。このままじゃ駄目だよね。)
宇宙が動いた。
「あ、あの、魔王が居たら世界が壊滅しちゃうんですよね?だったら今喧嘩しても意味が無いかと・・・」
宇宙が皆の前に現れて、リーダー二人に話し掛けた。
リーダー二人は手を止めて、宇宙を睨み付けた。
二人とも凄んではいるが、男の性だろう、視線が宇宙の胸元を凝視していた。
「あーん?何だテメーは。邪魔すんじゃねー。」
「俺達とアイツらのどっちが強いか決めてんだ。無駄じゃねーんだよ。すっこんでろ。」
二人に怒鳴られた宇宙だったが、彼女は退かなかった。
「で、でも、よく考えてみて下さい。皆さんは魔王と戦えるだけの力を持っているのですよね。魔法とか剣技とか使えたら、今なんかよりずっと強くなるんじゃないかしら。だから、どちらが強いかなんて今決めるのは、小物がする事なんだと思いますけど?小さい男ね、と皆に思われたいのなら話は別ですけど・・・」
宇宙を睨み付けていた二人のリーダーの表情が変化した。
他のメンバーも同様で、皆の表情に変化がみられた。
彼女の言葉に思うところが有ったのだろう。
「フン、魔法なんかにゃ興味はねーけど、大物の俺達の格の違いってやつを小物のテメーらに見せつけるには丁度良いかも知れねーな。王女さんよー、アイツらと別々というのが条件だ。少しは協力してやらー。皆、構わねーな?」
「ハッ、格の違いだー?俺達の方こそ見せてやらー。小物のオメーらに大物の実力を教えてやらー。その条件なら考えてやるぜ。お前らも良いな?」
リーダー二人の提案に、皆従った。
「そうですか、では早速ご案内致します。皆さんのご協力に感謝致します。」
王女はニッコリと微笑み、騎士達にそれぞれのグループを別室に案内させたのだった・・・
「先程は有り難う御座いました。あの、お名前を伺っても?」
王女が宇宙に問い掛けた。
「あっ、ご免なさい。王女様。私は、神原 宇宙と申します。ソラとお呼びください。」
ソラが答える。
「ソラ様も彼等と一緒に此方に来られた御方ですよね。それなら、魔導具で能力を調べてみませんか?」
王女の問い掛けによって、ソラも能力を調べる事になったのだった。
「こんなに凄い魔力を持っている人が存在するなんて・・・驚きです。でも、何という事でしょう。ソラ様には魔法の能力が殆んど無いなんて・・・」
王女が何とも言えない顔をしていた・・・
「大丈夫ですよ。私のいた世界では、魔法とか元々無かったので、使えなくても全然問題有りませんよ。ただ、元の世界には帰る事が出来ないと説明は聞きましたが、今後、何の能力の無い私が、このまま此方の世界で生きていけるのかどうかが心配なのですが・・・」
ソラが王女に胸の内を明かした。
「ご心配をお掛けして申し訳ありません。そういえば、魔物に襲われ住む所を失った人々や、両親を無くした孤児達を集めて作られた施設が王都に存在しています。訪ねてみるのも良いかもしれませんね。ただ、ソラ様も召喚された方ですので、当面は王宮にて保護させて頂こうかと思っております。ご安心下さい。」
王女の言葉に安堵するソラ。
どうやら、いきなり路頭に迷う様な事は無さそうだった。
(でも、何時までもお世話になってる訳にはいかないわよね。今までがたまたまうまくいってただけなんだから・・・)
ソラは今まで流されるままだった自分を変えようとしていた。
「有り難う御座います。ですが、私もなるべく早く自立出来る様な方法を探してみようかと思います。早速、明日にでもその施設へ行ってみようかと思うのですが、可能でしょうか?」
ソラの問い掛けに王女が答える。
「それなら、私も御一緒しようかしら。ここだけのお話ですが、王宮は退屈ですから、時折、お城をこっそり抜け出したりしているんですよ、私。」
王女がソラに悪戯っぽい笑顔を浮かべて答えた。
以外とお転婆王女なのかもしれないと思ってしまうソラであった。
「ただし、私達二人で出歩けるほど街は安全では無いのが現実なので、信頼できる人物に護衛を依頼しておきますね。何か明日が楽しみですわ。うふふ・・・」
先程から王女の口調が砕けた感じになってきていた。
歳が近そうなソラに親近感を持っているのかもしれない。
「王女様にそこまでして貰えるなんて、本当に有り難う御座います。明日は宜しくお願い致します。」
「こちらこそ宜しくお願いしますわ。では、私は明日の準備をしますわね。ソラ様は侍女が部屋にご案内致しますので、何か御座いましたら侍女へ申し付け下さい。」
そう言うと、王女は部屋を出ていったのであった。
一方、ソラの方は侍女に連れられて、王宮内の豪華な客間へと案内されたのであった。
部屋にはまるでフルコースの様な豪勢な夜食がテーブルの上に用意されていた。
ソラはその豪華さに驚きながらも、自分が空腹である事に気付いたらしく、テーブルに座り料理を堪能した。
部屋には大人が数人入れる程の大きな浴室も在り、ソラはゆっくりと湯に浸かり、今日の疲れを癒したのであった。
そして、ソラ一人では大き過ぎる豪華な装飾が施されたベッドに寝転び、真っ白な天井を眺めながら、今日一日を振り返るのであった。
(何か実感が無いけど、ここ、異世界なんだよねー。どうしてこうなったんだろう?本当だったら今頃は家にいた筈よねー。まさか、帰る事が出来ないなんて思ってもみなかった・・・これからどうしたら良いの?)
そんな事を考えていたが、後ろ向きになりつつある自分に気が付いたのか、ソラは首を左右に降り、両手で頬をピシャリと叩いて気合いを入れた。
(これは、今まで流されるままだった自分を変える良い機会じゃない。これからの道は自分で選んで頑張らないと美月に笑われちゃうわよねー。)
異世界での独りぼっちの夜は、ソラの心をを孤独と寂しさの海の中に引きずり込もうとしていたが、自らの心を奮い立たせる事で、孤独と寂しさに堪え忍ぼうとしたソラであった。
(明日から自分の目で色々な事を見て、判断してこれからの事を考えながら頑張らないと・・・あとは・・・)
余程疲れていたのだろう。いつの間にかソラは深い眠りに就いたのだった・・・
【翌日の朝】
(あっ、私、いつの間にか眠っちゃったんだ。)
ソラが目を覚ました時には朝食の準備が整っていた。
慌てて顔を洗い、身仕度を整え、朝食を済ませたソラは、王女を探しに部屋を出ようとしたが、王女の方が先にソラの部屋にやって来たのであった。
(うわぁ、可愛いわねー。これで王女様だなんて凄すぎるわー。)
王女の腰まで伸びた金色の髪に朝日が反射してキラキラと美しく輝いていた。
大きな藍色の瞳も輝いており、透き通るような白い肌がそれらを更に引き立てている。
同性のソラから見てもドキドキしてしまうほどの可憐さであった。
そんな王女がまるで向日葵の様に、明るく元気な笑顔をソラに向けていた。
男性であったなら魅了されていたに違いない。
挨拶を済ませ、早速王宮からの脱出を試みる王女とソラ。
何とか城の庭園までは辿り着くことが出来たので、休憩がてら、身を潜め二人は様子を伺っていた。
「とても綺麗な金髪ですねー。可愛い顔をしているし、更には王女様だなんて凄いですねー。羨ましいわー。」
「ソラ様こそ、とても美人だし、その胸とか・・・あと、黒髪とか憧れますわ。私なんて、王女という事で皆に大事にしてもらってますが、自由は全く無いのですよ。何でもしてもらえますが、自分からは何も出来ない人形みたいなものですわ。ですから、ソラ様の様な自分の道を探そうと頑張ってる方が羨ましいのです。」
王女が悲しそうな表情でソラに話した。
(王女様って私と同じ?いや、違うわね。王女である以上勝手に何かをする事は許されない彼女と違って、私は何でも出来たのに、何もしなかったんだわ。王女様の言う人形よりも酷いんじゃないかしら?あー、もう最低ね。私・・・)
ソラが今までの自分を振り返り、目標も持たず、ただ生きていただけに等しい空っぽな自分に嫌悪したのだった。
と、同時に、そんな自分を変える転機が正に今なのではないかと感じ、これから行く街を思い浮かべ、高揚するソラなのであった。
「王女様、いつか王女様の力になれるように、私頑張りますね。」
「期待してるわ。ソラ。これから私の事は王女ではなく、ミリアって呼んで欲しいわ。私達、もうお友達よね。宜しくて。」
「うん。じゃあミリア、今日は宜しくねー。」
「こちらこそ宜しくね。じゃあ出発するわよ。」
ソラが早速口調を変えた事が嬉しいのだろう。
ミリア王女が向日葵の様な笑顔でニパッと笑い、ソラに返事を返したのだった。
そして、二人は庭園の外れに在る王族専用の抜け道を利用して、城から脱出したのであった・・・
ソラもミリア王女も同世代という事らしく、互いに打ち解けるまでに時間は掛からなかったようだ。
街の入口近くに差し掛かった頃には、二人はすっかり仲良くなっていた。
街の入口に辿り着いた二人の先に、一人の女性が立っていた。
「あら?もう来ていたようですわ。ソラ、彼女が護衛よ。私達と同じ歳のとても可愛い娘ですわよ。ちょっと口数が少な目かしら。」
ミリア王女がニコリと笑い、ソラにウィンクしてみせた。
ソラが、護衛の方へと目を向けると彼女の後ろ姿が見えた。
肩まで伸びた銀髪で黒っぽい服を着ていたが、その後ろ姿には見覚えが有った。
(何だろう?髪の色が違うのに、美月とダブって見えるわ。私、寂しいのかな?)
ミリア王女の声に気が付いたのか、少女が振り向き二人を見つめた。
「えっ?美月?髪と瞳の色が違うけど美月よね?」
ソラが思わず叫んだ。
髪と瞳の色を除いた全てが美月と瓜二つなのだ。
鼻筋の通った顔立ちも大きな瞳も薄い唇も、どこから見てもあの可愛い美月なのだった。
「えっ?どうしてソラはミヅキを知っているの?初めてのはずではなくて。」
ミリア王女も驚きを隠せないようだ。
「ん・・・ソラ・・・同じ・・・こっちのソラ・・・もう居ない・・・」
「ん・・・私・・・ミヅキ・・・向こう・・・違うミヅキ・・・」
ミヅキが話す。
ソラには通じたようだった。
何故なら、ソラの知ってる美月の母親と、そっくりな話し方をミヅキがしていたからであった。
「私の知っている美月では無いのは分かったけど、本当にそっくりだわ。それにしても、私とそっくりなソラさんも昔に居たなんて・・・でも、一体どうして?」
驚きを隠せないソラとミリア王女だったが、ソラは一度大きく深呼吸をしてから、ミヅキに質問した。
「ん・・・待つ・・・いつか・・・分かる・・・」
「そう、分かったわ。それまで待つ事にするよ。」
「ん・・・」
ソラにはミヅキの言いたい事が伝わった。
別人とはいえ、何かしらの繋がりが互いに有りそうだった。
ミヅキとは今後も上手くやっていけそうな気がしたソラだった。
「二人共凄いわね。とても初対面とは思えないですわね。」
ミリア王女は二人の会話が成立した事に驚いたのだった。
「ん・・・街行く・・・私・・・守る・・・」
「「宜しくね。ミヅキ。」」
「ん・・・」
こうして三人の美少女達は街の中へと歩き出したのだった。
「うわぁ、凄ーい。」
この世界で初めて見る街にソラは感激していた。
まるで中世の欧州にタイムスリップしたのでは?と勘違いしてしまいそうな石造りの街並みが、ファンタジー物語に登場するようなエルフやドワーフ、様々な獣人族みたいな人達で賑わっていた。
これから街の外へ行くのだろうか?冒険者や騎士と思える格好をしている者達も沢山居り、この世界が地球とは違うとハッキリと分かった。
街ではこの世界ならではの、武器や防具の店や魔導具の店、ポーションや宝石類を使ったアクセサリー等の店が沢山並んでいた。
無論、ソラの世界でも見掛ける食堂や酒場、雑貨屋や服屋等も沢山見かけた。
賑やかで平和そうな街に見えなくはないが、注意深く見ていると、四肢の一部を失っている者達や身体中に包帯を巻いている者達、建物の隙間でゴミをアサるボロボロの者達がアチラコチラで見受けられた。
怒鳴り声や喧嘩の騒動、スリ等の犯罪も頻繁に起こっているようで、警備隊が走り回っていて、この街が、決して安全では無いことを物語っていたのであった・・・
そして、街の外には危険な魔物の存在が・・・
魔王の存在が、この世界に大きな闇をもたらし、世界を蝕んでいた。
本来ならこの街も活気に満ち溢れ、平和であっただろう。
たが、この世界はそれほど甘いモノでは無かったのだった・・・
この世界には光と闇が混在し、街中でさえも弱い者は淘汰されるという無情で残酷な弱肉強食の世界だったのだ・・・
一方、ソラ達三人は、ミヅキの活躍により大きな問題は起こってはいないが、数え切れないほどの人数がミヅキによって弾き飛ばされていた。
皆が見とれてしまう程のスタイルと美貌のソラ、向日葵の様な笑顔が皆の心を癒す程の可憐なミリア王女、表情は少ないが、皆が振り向く程の可愛い人形のような整った顔立ちのミヅキの三人組が注目されない訳が無く、ニジリ寄るゴロツキ達の全てにミヅキが応対していたのであった。
どれ程のゴロツキがミヅキの手によって弾き飛ばされたであろうか、ミヅキがソラ達に話し掛けた。
「ん・・・施設・・・もう着く・・・」
ミヅキが指差す先には門が見えた。
ようやく、目的の施設に辿り着く事が出来たようた。
そして、ミヅキが邪魔くさい多数のゴロツキ達の前で立ち止まり、話し出した。
「ん・・・まだやるの?・・・次は本気・・・」
ミヅキがどこから取り出したのか?身の丈よりも大きな漆黒の大鎌を両手で持ち、構える。
「漆黒の大鎌って、シーズンのミヅキじゃねーか。ヤバイぞ。」
ゴロツキの一人が大声で叫んだ。
「「「「「逃げろー。」」」」」
慌てて散り散りになって逃げていくゴロツキ達。
残ったのはソラとミリア王女とミヅキの三人だけだった。
唖然とするソラ。
ミヅキとミリア王女にとってはいつもの光景なのだろう。
二人共なに食わぬ顔をしていたのだった。
「ん・・・暇つぶし・・・出来なかった・・・」
あれだけのゴロツキ達を相手にしても暇つぶしにすらならないと、残念そうに嘆くミヅキであった。
「ん・・・中・・・入る・・・」
先程の騒動もどこ吹く風のミヅキに案内され、門の中に入るソラとミリア王女であった・・・
門の中では沢山の子供達が元気に走り回っている姿が見えた。
環境が良いのだろうか、皆、笑顔であり、健康そうに見える。
「今日も助かりましたわ。ミヅキ、いつも有り難う。」
ミリアがミヅキの手を握りながら御礼を言った。
「ミヅキさん、本当に有り難う御座いました。私一人だったら施設迄辿り着くことが出来ませんでした。」
ソラもミヅキに御礼を言った。
「ん・・・問題無い・・・ソラ・・・ミヅキでいい・・・」
ミヅキは照れているようだ。
嬉しそうに身体を左右に揺さぶっていた。
「ありがとねー。ミヅキ。」
ソラが呼ぶと、ミヅキが満面の笑みを浮かべたのであった。
その笑顔はソラの知っている美月の様であった。
「ん・・・説明苦手・・・ミリア・・・説明・・・」
そう言うとミヅキは施設の建物の方へ向かって行った。
「では、逃げたミヅキに変わって私が施設の説明をしますわ。宜しくて。」
ソラが頷くとミリア王女が施設について説明してくれたのだった・・・
この施設は王国が管理している訳ではなく、シーズン村という何処の国にも属していない村の有志によって管理されており、有志達は世界中を旅していて、魔物に襲われ、身寄りの無くなった子供達や住む所と子供達を失った人々を中心に集めては、この施設で保護している。
目的は、この厳しく残酷な世界で生き残る為に、子供達の自立の支援と精神的なケアを行い支援する事である。
その為に、子供達を失った人々には住居と仕事を与え、代わりに親の居ない子供達を育てて貰い、子供達には読み書きと簡単な計算が出来る迄教育し、その後は本人の希望によって冒険者や騎士、農耕関連や技術系、商人等を目指せるように訓練していくシステムを取り入れている。
ミヅキも有志の一人であり、世界中を飛び回ったり、施設周辺の魔物の生息する森を開拓したりと、施設に貢献しているのだった。
ミリア王女も管理には参加して居ないが、時折お忍びで施設を訪れて、金銭的なサポートや施設を卒業した若者達のフォローをしているのだった。
ミリア王女の話を聞いて、ソラは衝撃を受けたのだった。
自分を何も出来ない人形のようなものと言っていたミリア王女でさえ、子供達の為の支援をしていたのだ。
ソラの居た世界と違って、生き残る為には、強い意思とたゆまぬ努力が無ければならないのであった。
皆必死に努力をしていたのだ。
命の重さを知っている者と、そうではない者との、覚悟の度合いの相違というのが正しいのかも知れない。
力や能力以前の段階でさえ、ソラの覚悟は足りていなかったのだった・・・
「私・・・考えが甘過ぎた・・・子供達でさえ、必死に日々を生きているというのに・・・自分を変えるチャンス?頑張る?自分が情けないわ・・・」
ガックリと項垂れ膝から崩れ落ちるソラ。
瞳からは大粒の涙が流れ落ち、地面を濡らして行く・・・
肩を震わせながら泣いているソラを見ていたミリア王女が声を掛けた。
「ソラ・・・この世界が嫌になったかしら?」
ミリア王女の問い掛けにウウンと首を左右に降り答えるソラ。
「この厳しく残酷な世界の現実は分かったのかしら?」
今度はウンと首を縦に降り答えるソラ。
「現実を知った今、ソラはどうしたいのかしら?これから必死に努力して生き残りたい?それとも、このまま私と王宮に戻りますか?決めるのはソラよ。」
先程まで震えていたソラの肩がピタリと止まる・・・
暫しの沈黙の後、ソラの唇が微かに動き始めた・・・
「・・・たいです。生き残る為に努力したいです。」
顔をミリア王女に向け、真剣な眼差しでミリア王女を見つめるソラだが、その瞳には今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙が浮かんでいた。
「ソラは私に、いつか力になれるように頑張ると言ってくれたわよね?今はどうかしら?」
ソラの決意の眼差しを真正面から受け止め、ソラを見つめるミリア王女の瞳にも涙が浮かんでいた。
「なる。必ずミリアの力になるわ。絶対・・・なるんだ・・・から・・・」
ソラの瞳から再び涙がこぼれ落ちた・・・
「有り難う。ソラ・・・でも、折角の美人が台無しよ。うふふ」
ミリア王女も涙がこぼれ落ちていた・・・
「ミリアだって・・・可愛い顔が台無し・・・えへへ」
気が付いたら二人は抱き合い、しばらくの間、声を上げて泣いていたのだった・・・
ミヅキが戻って来た時には、二人共スッキリとした顔になっていた。
「ん・・・何かあったの?・・・違う感じ・・・」
「少しだけ・・・だよね、ミリア。えへへ。」
「うふふ。そうね、ソラ。」
「ん・・・なら・・・問題無い・・・」
先程より仲良く見えるソラとミリア王女。
そんな二人を嬉しく思うミヅキ。
三人の関係は良好そうであった・・・
「ん・・・子供達・・・薬草採る・・・」
「ん・・・ソラ・・・ミリア・・・一緒に・・・」
ミヅキの提案で、子供達と街の外へ行くことになった三人は、早速子供達との待ち合わせ場所へと向かった。
待ち合わせ場所には5人組の女の子達が待っていた。
皆10歳前後で今回初めて挑戦するグループなので、ミヅキが付いて行く事になったのだ。
「ん・・・みんな・・・頑張る・・・」
「皆さん私はミリア。宜しくお願いしますわ。」
「私はソラです。宜しくね。」
「「「「「宜しくお願いします。」」」」」
5人組の息はピッタリのようだった。
「ん・・・出発・・・」
「「「「「はーい。」」」」」
ソラにとっても初めての街の外であった。
今回は施設の裏に広がっている森が目的地であるので、施設の防御壁から外へ向かう。
道中は賑やかだったようだ。
ソラ達三人が皆美少女であった為、5人組の女の子からは質問が絶えなかったのだ。
美貌の秘訣は?彼氏は?どうしたらそんなに大きな胸になるの?等の質問責めにあっていた。
残念ながら、5人組の女の子達にとって、満足な答えは出なかったようだった。
そして、遂に壁に設置された扉から出ると、目の前に森が広がっていた。
「あれ?何か変な感じ・・・」
ソラが何か感じ取っているようだったが、何かは判らないみたいであった。
「ソラって魔力が物凄く高かったわね。もしかしたら森の魔素を感じ取っているのかしら?だとすると、魔物が居れば判るんじゃないかしら?」
と、ミリア王女が推測をした。
ソラは耳を澄まして音を聞き取る様なイメージで、身体から感じる奇妙な感覚に神経を集中させてみた。すると、遥か先で何かが動いている感じがしたのだった。
「あの、アチラの方向へ200歩程の進んだ所で何か動いているみたいです。」
そう言って感じた方向を指差したのだった。
「ん・・・行ってくる・・・」
ミヅキが飛び出して行く・・・
暫くしてミヅキが戻って来た。
「ん・・・ゴブリン・・・ソラ・・・正しい・・・」
ソラの感じた気配は正しかったのだ。
「ソラ。その能力は素晴らしくてよ。今日の薬草採りなら子供達が安心して行動出来るのではないかしら。」
ミリア王女が嬉しそうにソラに話し掛けた。
「そうだよねー。今日は私頑張るねー。」
ソラは生き生きとした表情をしていた。
魔物に出会えば命の危機に直結してしまうこの世界では、ソラのような能力は、生き残る為に非常に有効であるのだ。
そんな力がソラには眠っていたのだ。
嬉しく無い訳が無いだろう。
だから、ソラは張り切って探索を続けたのであった。
「「「「「有り難う御座いましたー。」」」」」
薬草採取を終えた5人組の女の子達が、ソラ達三人に御礼を言っていた。
今回は、ソラの活躍によって、魔物と出会う事も無く、安全に採取出来たのが大きい。
実際、5人組の女の子達に薬草の種類や採取のやり方を、ミリア王女やミヅキがレクチャーしながら採取を行っていたのだが、採取した薬草の数は何時もの倍以上だったのだ。
「ソラ、今日は大活躍でしたわね。流石ですわ。」
ミリア王女が向日葵の様な笑顔でソラに話し掛けた。
「有り難う。私も初めて役に立つ事が出来て嬉しいよ。これからも頑張るわよー。」
ソラも、自分に出来る事が見つかり、張り切っていた。
「ん・・・なら・・・私と・・・暮らす・・・それが良い・・・」
そんなソラを見ていたミヅキが、ソラに提案したのだった。
「確かに、今のソラには丁度良いかもしれないかしら。ミヅキ、宜しくて?」
「ん・・・問題無い・・・」
どうやら、ミリア王女も賛成のようだった。
「ミヅキが良いなら私からお願いしたいわー。これからも宜しくねー。ミヅキ。」
「ん・・・これから一緒・・・」
「これでひと安心かしら?私も応援するわよ。頑張りなさいな。」
ミヅキとミリア王女の協力も有り、ソラの今後が決まったのだった。
「ん・・・ミリア・・・城の人・・・迎え来た・・・」
施設の入口に豪華な馬車が見え、王宮からの遣いが数人、 ミリア王女を見ていた。
ミヅキの言う通り、ミリア王女を迎えに来たのだろう。
「抜け出した事に気付かれたようですわね。残念ですが城に戻らなくてはなりませんわ。ソラ、何かあれば、何時でも私の所に相談してくれても構いませんわ。ミヅキ、ソラの事頼みましたわよ。」
「ん・・・任せて・・・心配無い・・・」
「有り難う。ミリア。私、頑張ってみるよー。今度会う時を期待しててねー。」
ソラとミヅキが王宮に戻るミリア王女に別れの挨拶をしていた。
ミリア王女は二人に手を振りながらニッコリと微笑み、施設を後にしたのだった・・・
ソラが施設で暮らすようになってから、約一週間が経過した頃の事だった・・・
いつもの様にミヅキと子供達と街の外の森へ向かい、薬草採取や魔物退治を終えて、皆でおやつを食べながら和気藹々と話をしていた時だった。
施設の周辺の見張りをしている衛兵見習いの青年の一人が、息を切らせながらソラ達の元へとやって来た。
「ミヅキさん、ソラさん、力を貸して下さい。俺達の仲間が森で魔物の集団を発見したのですが、魔物達に見つかってしまい、自分は何とか逃げ切れたのですが、森の奥で取り残されてしまった仲間が魔物に追われ、森の更に奥に行ったまま戻って来ないんです。」
青年を見ると、身体のアチラコチラに傷が有り痛々しかった。
その様子から、仲間の命が魔物達に奪われていてもおかしくない状況だと判断できる。
「場所はどこですか?急がないと手遅れになってしまうわ。」
ソラが青年に問い掛けた。
「ここです。ミヅキさんが現在領地を拡大しているエリアです。」
青年は地図を広げて、施設の北側に広がる森の奥深くを指し示した。
「ん・・・遠い・・・急ぐ・・・」
ミヅキの言う通り、青年の指し示した場所は、森のかなり奥であった。
二人は、一緒に行こうとする青年に、手当てをするように促し、青年を置いて森へ向かって行ったのだった・・・
「ん・・・ソラ・・・どう?・・・」
青年の指し示した場所近くに辿り着いた二人は、ソラの能力で周辺を探索し始めていた。
「沢山の反応が2ヶ所に有るわ。1つは動いていないけど50体以上、もう1つは合流しようとしているみたいな感じね。10体位だと思うわ。もしかすると、逃げ遅れた人達を魔物の仲間の所に追い立てているのかも。」
ソラは感じたままをミヅキに伝えたが、ソラが認識している魔物の数が、尋常ではなかった。
「ミヅキ、魔物の数が多過ぎるわ。応援を呼んだ方が・・・」
ソラはミヅキに警告した。
ミヅキの強さは知ってはいるが、逃げ遅れた人達を助けつつ、魔物達と戦うとすれば、万が一という事もあり得るのだ。
「ん・・・呼んだ・・・問題無い・・・急ぐ・・・」
(いつの間に呼んだの?一体誰を?)
ソラは疑問に思いながらも、ミヅキと共に森の更に奥へと向かったのであった。
ソラの予想通り、施設の青年3人がゴブリンに追い立てられていた・・・
「皆、こっちよー。」
ソラが叫んだ。
青年達とゴブリン達がこちらに気が付いたようで、両グループとも進路をソラ達に変えた。
「ん・・・ゴブリン・・・倒す・・・ソラ・・・彼等を・・・」
ミヅキがゴブリン達に向かって飛び出した。
ソラは3人の青年達の所へ行くと、護身用の魔導具を使用して、周りに防御シールドを発生させた。
青年達はシールド内で仰向けに倒れ、ゼーゼーと息を切らしており、かなり体力を消耗しているようだった。
(良かったわー。ギリギリだったけど間に合って・・・)
ソラは青年達の様子を見ながら、安堵した時だった。
「大変だわ。ミヅキ、もう1つの魔物達がこっちに向かって来ているわ。」
ソラが叫んだが、ミヅキは10体のゴブリン達と戦闘を始めたところであり、今は余裕は無さそうだった。
しかし、ソラの言葉は聞こえていたようで、コクリと頷いていたのだった。
「「「グギャギャギャー。」」」
ゴブリン達が叫びながらミヅキを取り囲もうとしている。
その手にはこん棒が握られており、ミヅキを牽制していた。
一方、ミヅキは、漆黒の大鎌を両手で握り、構えていた。
その姿はサマになっており、隙がまるで無く、とても美しかった。
「「「グギャギャギャー。」」」
再度ゴブリン達が叫び、3体のゴブリンがミヅキ突進して、持っていたこん棒を振り降ろした。
数度、鈍い音が森の中で響いたが、それはこん棒が地面を叩いた音であり、ソコに居た筈のミヅキの姿は無かったのだった。
「「「ギャッ。」」」
ミヅキを狙った3体のゴブリン以外の叫びが聞こえた。
ソラが叫び声が聞こえた方へ目を向けると、ソコには首から上が無くなっている別の3体のゴブリンと、大鎌を華麗にクルクルと回しているミヅキが居たのであった・・・
ミヅキはゴブリンの攻撃を素早く回避しながら、別のゴブリン3体を一瞬で葬ったのだった。
(す、凄い・・・)
ソラが驚いている間にも、ミヅキの動きは止まる事は無かったのだった。
ソラが再びミヅキの姿を見失ったかと思えば、先程こん棒を振り降ろしミヅキを狙った3体のゴブリンが叫び声を上げ、同じ様に首から上を失いドサリと倒れた。
しかし、ソコにはもうミヅキの姿は無かった・・・
あまりの出来事にソラは唖然としていたが、その間にも、ミヅキの攻撃が止む事は無かったのだった。
ミヅキの強さに、逃げ出すゴブリンだったが、時既に遅く、1体、また1体とゴブリンが倒れていったのだった・・・
ミヅキが逃げ出したゴブリンの最後の1体を葬った時だった。
ミヅキの戦いに目を奪われ、索敵が疎かになってしまったソラに危険が迫っていた。
「えっ?嘘でしょ?」
背後に何かの気配を感じ、振り返ったソラの目の前には、巨大なこん棒を振り上げている魔物が不敵な笑みを浮かべ、ソラを見下ろしていた。
ハイオークだった。
遥か先には先程ソラが感じ取っていた約50体のオークの集団がソラ達の所へ向かって来ている。
オークはゴブリンよりも大きく力も強く、豚の様な顔が特徴の魔物で、集団で行動する危険な魔物である。
ハイオークは同じ種族のオークよりも巨大な身体と高い知性を持っているだけではなく、その身体能力は非常に高い上位種である。
その為、他のオーク達よりも先にソラの所へ辿り着いたのだった。
恐らく青年達を追い立てていたゴブリンはオーク達の下僕で、その集団を支配しているのがハイオークであろう。
そのハイオークがソラを標的に定めているのだ。
今のソラでは、どうにもならない危険な状況に陥ってしまったのだ。
ソラはハイオークの姿に全身の血の気が引き、背筋が寒くなっていくと同時に、生まれて初めて死の恐怖を感じた。
膝はガクガクと震え、全身から汗が吹き出し、立っているのが精一杯の状況であった。
(私ここで死んじゃうの?何も出来ないままこんな魔物に殺されてしまうの?そんなの嫌だよー。)
絶望的な状況で、何も出来ない自分が腹立たしいのだろうか?それとも、理不尽に命を奪う魔物に対しての怒りの感情なのだろうか?
ソラは唇を噛み締め、目に涙を浮かべながらもハイオークを睨み付けていたのだった。
「グフフフ・・・ブオォォォー。」
そんなソラの様子を見て興奮したハイオークが雄叫びを上げ、巨大なこん棒を振り上げた手に力を込めた・・・
(お父さん・・・お母さん・・・美月・・・)
死を目前にして、両目を閉じて、もとの世界の両親と親友を想う宇宙・・・
しかし、そんな事はお構い無しに、巨大なこん棒は無情にも振り降ろされたのだった・・・
『ドゴォォォーン。』
轟音が森の中に響き渡る・・・
(・・・・・・?)
「って、あれっ?」
ソラが目を開けると、目の前にはハイオークではなく、ミヅキとは違う、どこか懐かしい感じの雰囲気が漂う人の後ろ姿が見えた・・・
ソラを襲ったハイオークの姿は見当たらない。
(何でだろう?何処かで会った事・・・無いわよね。ハッ、それより、私どうして生きてるの?)
ソラは怪我1つ無く無事であったのだ。
周りに居た3人の青年達も同様に無事であった。
ソラは何が起こったのか?と疑問に思ったが、それよりも、目の前の者が気になって仕方がないようで、その後ろ姿を凝視していた。
(何かしら?この感じ。会った事も無いはずなのに、ずっと前から知ってる様な不思議な感じだわ。男の人みたいだけど・・・)
ソラは先程まで危機的な状況だったにも関わらず、そんな事はすっかり忘れてしまったようだ。
ぼーっとした顔で目の前の人物を見つめていたのだった。
そこへミヅキが駆け寄り、声を掛けた。
「ん・・・無事・・・良かった・・・」
「えっ?そ、そうね。もう駄目かと思ってたけど・・・あっ。」
ソラがヘナヘナと崩れ落ち、尻餅を付いた。
先程までの状況を思いだし、生きていたという安堵感が、緊張の糸を解きほぐしたのだろう。
「ん・・・遅い・・・ソラ・・・危なかった・・・」
ミヅキが目の前の人物に文句を言った。
すると、その人物が振り返り、二人を見つめた。
「遅くなってすまなかったね。まさか、ハイオークが居たなんて思わなかったよ。まあ、ソラさんが無事で良かったよ。」
金髪で銀眼のスラリと背の高い美男子が、ニコリと爽やかな笑顔で答えた。
ソラと同じ位の年格好に見える青年だった。
ソラの心の中で何かがピンときた。
確かに物凄いイケメンであり、女性なら一目惚れしてしまう程なのだが、ソラはそういう訳では無く、彼が醸し出す雰囲気がソラを惹き付けるのだった。
まるで、出逢う事が必然だったかのように・・・
(ソラさんって?もしかして私の事を知ってるの?この感じってまさか・・・運命の人とか?)
ソラは元の世界で美月がしていた話を思い出していた。
【もしかしたら、運命の人が宇宙には居たりしてね。未だ出逢っていないとかねー。】
ソラは見つけたのかもしれない。
未だ出逢っていなかった、運命の人を・・・
「あ、あの、私の事を知ってるのですか?」
ソラがヨロヨロと立ち上がり、彼に質問した。
そして、ソラの疑問に青年が答える。
「ん?そうだねぇ、知ってるといえば知ってるのかもしれないけれど、今の君とは初対面だねぇ。っと、その前に、あのオーク達を何とかしないとね。」
彼がソラにパチリとウィンクをして、オーク達の方へ向き直り、右の掌をオーク達の方へ向けながら右腕をゆっくりと突き出した。
(あの数のオーク達を何とかするって、一体何をするの?)
ソラが疑問に思っていると、彼の全身が金色に輝き出し、その周りに無数の光の粒子を作り出していた。
(うわぁ、綺麗ー。)
ソラがその光景を眺めていると、彼が声を発した。
「千撃剣。」
声と同時にシャキーンと音が鳴り響き、彼の周りの光の粒子が剣の形状へと変化し、無数の光の剣が出現した。
そして、無数の光の剣が彼の周りからオーク達に向けて放たれたのだった・・・
圧倒的だった・・・
飛び出していった無数の光の剣に、成す術もなく倒されていくオーク達・・・
光の剣が放たれてから数秒で、約50体のオーク達は全滅したのだった・・・
ソラを襲ったハイオークも彼によって倒されたのだろう。
「おし、終了ーっと。取り敢えず街へ戻ろう。」
再びソラ達の方に振り返った彼は、何事も無かったかのように普通に話し出し、パチンと右手の指を鳴らした。
「えっ?」
ソラの視界がグラリと歪んだと思ったら、いつの間にかソラ達は森へ行く時に使用する施設の壁の扉の前に立っていたのだった。
「あれっ?ここって、施設なの?」
訳が分からずキョトンとするソラ。
ミヅキや彼は何事も無かったかの様に平然としていた。
「さてと・・・先ずは彼等の手当てだね。ちょっと治療院に行ってくるよ。」
そう言うと、彼は再びパチンと右手の指を鳴らして、森で逃げ遅れた3人の青年達と共にソラ達の目の前から消えたのだった。
「消えたの?あれって何をしたの?」
ソラは隣に居たミヅキに聞いたのだった。
「ん・・・転移魔法・・・私達も帰る・・・」
ミヅキは答え、歩き出した。
ソラもミヅキに付いて行く。
(転移魔法って、テレポーテーションだよね。実際に出来る人が居たなんてビックリだよー。まっ、異世界だし、私の常識は通じないのは、今に始まった事じゃないものねー。気にしない、気にしないっと。)
ソラは、こちらの世界で自分の常識は通じないという事を自分に言い聞かせながら、ミヅキの後を付いて行くのだった・・・
「ただいまー、ミヅキ、何か飲み物無いかなー。」
家に戻ったソラとミヅキの元に、彼が訪れた。
「ん・・・水・・・」
「お、有り難う。」
ミヅキが彼に水を差し出した。
彼は水を一気に飲み干し、グラスを片付けてから、ミヅキの元へ戻ってきた。
「ミヅキ、ソラさんの事しっかり守ってくれて有り難うな。」
そう言いながら、ミヅキの頭を撫でた。
「ん・・・と、当然・・・ん・・・」
頭を撫でられているミヅキが、頬を真っ赤にしてニヤニヤと嬉しそうにしていた。
照れているミヅキが新鮮で可愛い。
そんな二人を見ていたソラが疑問に思い、二人に問い掛けた。
「あ、あの、二人は恋人同士なの?」
「ん・・・そう・・・ミリアも・・・他にも居る・・・」
「えっ?ミリア?他にも?それって問題じゃないの?」
「ん・・・問題無い・・・皆一緒・・・幸せ・・・」
ソラは目の前の彼にミヅキとミリア、更に他にも付き合っている恋人が居るという事実と、それを問題と思わず、皆で一緒に居る方が幸せだと言い切るミヅキに驚いたのだった。
「参ったねぇ、何か誤解されてそうな気がするよ。まあ、恋人というよりは強い信頼で結ばれている仲間って思ってもらえればいいかな?今この世界で生きていくには、信頼出来る仲間は必要不可欠だからね。でも、彼女達は僕以外の男の仲間は信用出来ないと言って認めてくれないんだよ。」
彼が困った顔をしながら、話を続けた。
「ただ、彼女達には気兼ねなく過ごして欲しいから、彼女達が信用出来ない者は仲間にしないというのは、仕方がないとは思うけどね。でもね、もし、この世界に平和が訪れた時、僕はどうすればいいのかな?信頼している仲間の誰か一人だけ選んで、他の娘達には『幸せにねっ』って放り出すのが正しいかい?僕にはそれこそ最低な行為に思えてしまうんだよね。だからその時、彼女達が望むなら、僕は信頼の証として彼女達全てを受け入れるだろうね。」
彼は真剣な眼差しでソラに自分の覚悟を語ったのだった。
ソラは、日本人であり、ハーレムなんて最低だと思っているだけでなく、恋人なら自分だけを見て欲しいと思っていた。
しかし、そんなソラだったが、平和になったならば、彼女達の全てを受け入れる覚悟をソラに語った彼に共感してしまったのであった。
と、同時に、そんな彼を見ていたソラの胸の鼓動が激しく高鳴るのであった。
「確かにそうね。何となくだけど、ミヅキやミリアが貴方に惹かれたのが分かるような気がするわー。」
ソラは感じたままを語った。
「ん・・・ソラなら・・・皆・・・歓迎・・・」
「えっ?私?えーと・・・」
ミヅキの言葉に戸惑うソラであったが、そんな様子を見ていた彼が話し出した。
「その前にソラさんに話が有るんだけど、いいかな?」
「はっ、はいっ。どうぞ。さん付け無しのソラで構いませんよー。」
ソラが答えると、彼はニッコリと笑い、話し出したのだった。
「ソラ、この世界は厳しく残酷だけど、これからもこの世界で暮らしたいかい?それとも、元の世界に戻れるのなら戻りたいかい?」
「えっ?元の世界に戻る方法があるの?」
ソラは驚きの表情で彼を見つめた。
「ソラ限定だけどね。その代わりにもう二度とこちらの世界には来られなくなるけどね。」
そう言いながら、彼は虹色に輝く綺麗な宝玉をソラに見せる。
「この宝玉は、元々こちらの世界に居たソラの物なんだ。これを使えば元の世界に戻ることも可能だし、こちらの世界で生き残る為の力を得る事も可能になるよ。どちらを選択するのかは自由だよ。ソラが決めるんだ。」
「ミヅキも言ってたけど、こちらの世界に居たソラさん?生き残る為の力?それってどういう事なの?」
「それは、こちらに残る選択をしたら判るさ。元の世界に戻る場合は知らない方が良い事だからね。今、ソラは元の世界で人生を送るか、こちらで人生を送るかという分かれ道に立っているんだよ。ソラの人生の中で最大のスプリットポイントだね。」
スプリットポイント・・・ソラが自分の意思で初めてする大きな選択をする重要な分岐点である。
(今の私なら、元の世界でも、流されるままの人生にはならないでしょうし、魔物に怯える事の無い安全な世界で、自分の意思で選択し、満足出来る人生を歩めるはずよね。でも、こちらの世界では命を掛けて共に生きていく仲間達が居るわ。あの乱暴な勇者達もこのままにしていて良い訳がが無いし。もう一人のソラさんの事や、力の事も気になるし。あーん、私どうしたら良いのー?)
ソラは激しく迷っていた。
元の世界には両親や美月が居る。
皆と楽しく過ごせる安全な世界に帰りたいとは思っている。
しかし、こちらの世界にはミヅキやミリアが居るし、懸命に生きている子供達の力にもなってあげたいという自分も居るのであった。
「迷っているようだね。ソラ。1つ良いことを教えようか。この宝玉を使用すると、行き来は出来ないけど、少しの間ソラの世界、多分両親の所と繋がるはずだよ。そこで話してみてから選択する事は出来るはずだから、それで決めたらどうだい?」
彼がソラに助言した。
ソラにとって魅力的な提案であった。
「有り難う御座います。それで決めさせて下さい。」
ソラが提案に乗り、宝玉を受け取った。
「そこの部屋を使うといいよ。宝玉に力を込めれば宝玉が輝き出して、向こうの世界に一時的に繋がるはずだよ。宝玉の光が点滅を始めたらタイムリミットだよ。元の世界に帰るなら宝玉を持ったまま、そのまま向こうの世界へ飛び込むんだ。こちらの世界に残るなら宝玉を床に叩き付けて壊せばいいよ。」
「分かりました。一度両親と会ってみます。どちらを選択するか、今は決まって無いけど、悔いが残らない様に選択してきます。」
ソラの瞳の奥に力強い光が宿っていた。
ソラにとって満足の行く結果は出そうであった。
そんなソラに二人が声を掛けた。
「次があったなら、その時は僕の事も話そう。また会える事を願っているよ。」
「ん・・・待ってる・・・仲間・・・紹介する・・・」
「有り難う。それじゃあ、行ってきます。」
ソラが挨拶をして別の部屋へ向かって行ったのであった・・・
「お父さん、お母さん、美月と美月のお父さん、お母さん・・・」
「「「「「そ、宇宙。」」」」」
部屋の中でソラが向こうの世界の両親と美月、美月の両親と話をしていた・・・
「ん・・・ソラ・・・残る?・・・」
ミヅキが心配そうにしていた。
「うーん、どうかな?でも、戻って来たなら僕達の目指す世界をソラと一緒に作っていきたいね。」
「ん・・・ソラも仲間・・・楽しみ・・・」
「まあ、もう少し待つとしよう。」
二人は暫くの間、無言でソラを待つのであった・・・
『カシャーーン』
ソラの居た部屋の中から、何かが割れる様な音が響いた。
そして、部屋の扉が開かれたのだった。
「ただいまー。」
ソラが元気に飛び出し、ミヅキに抱きついた。
ソラが満面の笑顔を浮かべていた。
もう、迷いは無いのだろう。
「ん・・・おかえり・・・ソラ・・・」
ニッコリと笑うミヅキ。
本当に嬉しそうだった。
そして、ソラはミヅキから離れると、今度は彼に抱きついたのだった。
「随分と隠し事してたじゃないのー?私の事知ってたじゃないのー?もう全部判ったんだからねー。もう一人のソラから聞いたんだからー。今度は私が可愛がってもらうんだからねー。」
ソラが彼に甘えていた。
彼の方は、美少女でプロポーション抜群のソラに迫られ、たじたじになっていた。
「ん・・・ソラ・・・仲間・・・歓迎・・・」
ミヅキまで彼に抱きついた。
「ちょっ、ちょっと流石に僕には刺激が強過ぎだよ。」
「そろそろ許してあげるわー。早く世界を平和にして私も受け入れてもらうんだからね。」
ソラが悪戯な微笑みを浮かべ、彼を下から上目遣いで覗き込んだのだった。
「は、はい、頑張ります。もう一人のソラの力も手に入れたんだね。おめでとう。これで、ソラは聖女の力、いや、それ以上だから、【真・聖女】の力を手に入れたんだよ。召喚された勇者達よりも遥かに強い力だからね。これから宜しくね。」
「えっ?私って【真・聖女】だったの?」
「ソラの潜在的な力と、もう一人のソラの力が融合したからね。ミヅキや僕と変わらない力だよ。」
こうしてソラは遂にこの世界を生き残る為の力、【真・聖女】の力を手に入れたのだった・・・
正に、【真・聖女】の誕生であった・・・
「ん・・・私も・・・宜しく・・・」
「私こそ、宜しくねー。色々と聞きたい事も有るしー、真・聖女の事とか、お父さん、お母さんの事とかもね。」
「それなら、シーズン村で話そう。あそこが僕達の始まりでもあるからね。仲間にも紹介したいしね。」
「私も会いたいわー。村も見たかったし。早速行きましょう。」
「ん・・・」
彼がパチンと右手の指を鳴らした。
そして3人は転移魔法でシーズン村へ向かったのであった・・・
そして、ソラ達と歴代魔王達、暴走する勇者達と???との世界を巻き込んだ戦いの幕が切って落とされたのであった・・・
ソラ達の物語はこれから始まる・・・
最後までお読み頂き有り難う御座いました。
今後も他の作品共々宜しくお願い致します。
評価も感想も常時受け付けていますので是非ともお願い致します。
それでは、次回作でお会いしましょう。