3話 夢の異世界
その状況に気づくまでそれほど時間はかからなかった。何故だか、クラスメイトの視線は二手に分かれていた。そのうちの一つは、あの転校生に もう一つは 利晃の方に二人とも勢いよく椅子に座っていた姿勢から立ち上がっていたのだ。その理由は、言うまでもなくすぐにわかった。1番初めに発言したのは、あの転校生だった。
「あの、いい加減にして下さい。神坂さんが貴方たちに何か酷いことでもしたんですか?」
と、切れ気味に聖奈を貶していたクラスメイトに反論した。そして、シルーカーと同時に立った利晃が合間を見て発言した。
「お前らさ何で毎回何にも悪くない聖奈をグチグチ悪くいいやがるんだ!!?」
利晃がこんなに熱く話しているのを久しぶりに見た気がした。私は、何も出来ないで硬直したままであったがどんどん話が先に進んで行ってしまう。
そうすると、クラスメイトの一部の人間が冷たく突き放すように利晃に言った。一同の視線は、そのクラスメイトと利晃に釘ずけの状態になっている。
「利晃さ、前々から思ってたんだけど何様のつもり?いっつも神坂の話になるとこうなるよな。本当にお前さ一体何なの?神坂が好きなのか?」
と、最後は笑いながら利晃に言った。きっと、その発言が利晃にとって気に入らなかったのだろう。瞬時に利晃は、男子生徒に殴りかかった。
だが、その拳は男子生徒に当たる事は無かった。周りの生徒が利晃を抑え付けたからだ。それでもなお暴れる勇敢じみた英雄は教室全体に響き渡る声で叫んだ。
「そういう問題じゃねぇんだよ!?お前達には、あいつの苦しみが分かってねぇだろが!!!」
あまりの迫力にその場に立ち尽くしていた人間達は唖然とした。クラスでも人気者の利晃がまさかの発言に皆 理解出来ていないようであった。そして、さらに追い討ちをかけるようにシルーカーが発言した。
「何の噂かは知らないけど真実かどうかも分からないことを信じて、それを本当かのように振舞っている貴方達は最低極まりないと思うわ。恥さらしにも程がある」
そう彼女が発言すると、クラスの生徒達は確かに馬鹿だったかもしれないとか最低だな私などと言った後悔の色を滲ませていた。私は、なんて単純すぎる人達なんだと愕然とした。そうすると、1人の女子生徒がごめんなさいと頭をペコリと下げて謝罪して来た。他の生徒達も次々に謝ってくる。
当然 聖奈は、こんな日が来るとは考えてもみなかった。しかし、現実は何とも素直である。考えてもみなかった事が起こるのは何ら不思議では無い事だと思わされた。
そして、あっという間に6時間の授業が終わり放課後になった。私は、いつもと同じく下校の準備をしていると愛梨が話しかけてきた。
「今日は、災難だったね。あの後 利晃君は殴りかかりそうになっちゃったせいで先生に職員室まで呼ばれちゃったみたいだし、シルーカーちゃんは若干孤立気味になっちゃってるし何が何だか分からなくなりそうだよ…」
そう不安そうに愛梨は私に言った。
「うん、でも全部私が悪いんだよ。あの時に私が何にも言わなければ何の問題も無かったんだよ…」
うつむきながらそう言う私に彼女は、
「そんな事 絶対ない!!聖奈ちゃんは普通の事をしただけだよ!だから、そんなに自分を責めちゃダメだよ」
と、勢い付きながらうつむく私に言ってきた。
「そ、そうかな… また、皆を不幸にさせちゃっただけじゃない?」
「また、そうやって下を向く。そんな、暗い感じじゃ皆近づかないのも当然だよ!」
「うぅ…」
どもる私に仕方ないといった感じで愛梨は満面の笑みで励ましの言葉をくれた。その笑顔をは、昔から知っているような微笑みであった。
「大丈夫だよ。きっと全てが上手く行く日が来るって!明るく笑顔でいれば何でも幸せに感じてくるよ!だから、聖奈ちゃんも笑顔だよ」
そう言って愛梨は、私の頬っぺたをつねって笑顔に似た表情にさせる。そして、2人同時に笑い聖奈は久しぶりに心からの笑顔を見せたと思った。
このまま幸せでいれると 信じた一瞬であった。
「よし!帰ろっか!帰りのスクールバスまだ出発してないはずやだから早く行こう!」
と、愛梨にまた手を引かれたままスクールバスまでかけて行った。
ピピピッ
⁈ 何だこの不快な音は。意識がもうろうとしていた聖奈は、その音の根源へと手を伸ばした。そして、その音の正体が判明した。それは、人を叩き起こすために開発された時計式アラームであった。時間を見ると午後の8時。もお 既に夕食時間は過ぎていた。
思えば愛梨とスクールバスで帰った後 今度の中間テストの勉強をするため、自宅で彼女と一緒に勉強していた事を思い出した。確か、私が疲れたとか言ったせいもあって早めに女子好例の勉強会が終わったのだった。愛梨が帰った後すぐに眠りに入ってしまった。いまいち、何時頃に寝たか覚えていない。そして、気づけばこんな時間に起きてしまった。
うーん、と伸びをしていると突然 部屋のドアが開いた。そこには、聖奈の母親 神坂弓子が姿を見せていた。
「聖奈、早く起きてご飯食べちゃって!お母さん達 もお食べ終わったから後は貴女だけよ」
そう言い残して聖奈の母親は部屋を出ていった。
そして、聖奈は 意識がまだハッキリしない中 自室を後にした。
今晩の夕食は、聖奈の大好物のハンバーグであった。いつもだったらもう少し簡単なおかずだが今晩はちょっと豪華な献立になっていた。
「あ〜、満腹〜!」
「聖奈、食べ終わったなら食器運んで」
「はーい」
そう言って食器を流しまで運び、いつも座っている席に腰掛けた。そうすると、向かいに座っていた聖奈の父親 神坂博之が難しい表情をして質問を投げかけてきた。
「最近、学校はどうなんだ?」
「別に、普通だよ。心配する事なんて一つもない」
「そうか」
と、たわいもない会話する。聖奈の父はとても厳しい人柄であった。会社では、とても真面目で部下に的確な指示を与え尊敬されている人物だ。そして、家にいても滅多に笑わない。聖奈も父親に似てそのような所があるといつぞやか 母弓子に言われた。自分では自覚はないがそうみたいである。
お風呂に入った後 自室に戻った。時計を見ると午後23時を回っていてもうすぐ明日になる。学校からの課題は既に終わらせてあったので今日残す事は寝ることのみだ。聖奈は、布団に導かれるようにベットへ潜り込んだ。ぬくぬくとした毛布は肌にとても心地いい。このままだと、すぐにでも寝てしまいそうだ。
寝る前に聖奈はふと考えた。今日は、とても変な1日であったと。いつもの日常であれば凄くつまらなくてどうでもいい1日のはずなのに今日だけはそうは行かなかった。嫌な事もあったけど悪いことだけでは無かった、好物のハンバーグも久しぶりに食べることが出来たしイジメのような事もなくなった。
これは、いいのか悪いのか良くわからないがそこそこ充実した1日になったと思う。
そして、あれこれ考えているうちに意識が夢の世界へと引きずり込まれて行った。あ〜 何故この時間帯でこのタイミングなのだろうか。昔見ていたあの少女の楽しそうな笑顔がふと脳裏に浮かぶ。
どうしても忘れようとして忘れなれなかった笑顔。何故忘れようとしていたのかも現在の聖奈には分からなかった。
何だろう。ここは、きっと夢の中。でも、肌に当たる風の心地よさや温かさを感じる。まるで、本当にその場にいるかのようだ。でも、今立っている場所はとても現実の世界には見えなかった。毎日のように見ている車や気味が悪い程にいる人間達が全て否定された世界。そして、そこはまるで異世界感と普通ではない何かを感じさせる不完全な世界であった。
どうも! 今回は、色々忙しく出すのが遅くなってしまいました(^^; そして、やっと異世界に行ったのかな?どうだろう?というどこまで行きました。多分、次回当たりから異世界の話になると思いますのでどうか飽きないで付いてきてください!よろしくお願いします(〃・д・) -д-))ペコリン 良ければ感想などをもらえたらとっても嬉しいです!