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ントピアタイ~忘れ去られたもの~

作者: 黒主零

2010年10月31日執筆。

当時まだ高校生だったので拙い文章ですがご容赦ください。

「第3番惑星の奇跡」の二番煎じのようなものです。

・人間はどんな正義をかざしても戦いを忘れられない生き物である。

たとえ自分たちの崩壊しか招かない場合でも。

弱い者は強いものに虐げられ、つらく悲しく生きていく世界だ。

「これが新しい兵器・エプシロンか。」

軍の長官がとある施設に感嘆の声を上げる。

「はい。このエプシロンには威力を調整する機能が付いていて

一定範囲内だけを撃滅することもできます。」

整備士が報告をする。二人の前には大型の装置があった。

名はエプシロン。広範囲大量殺戮兵器だ。

地球の核に直結していて範囲としては地表全土に、

威力としては核爆弾の50万倍もの爆発を起こせる兵器だ。

それも一撃限りではなく、エネルギーがたまり次第いくらでも放てるという。

「しかし、こんなものを秘密裏に作ってどうなさるおつもりで?」

整備士が恐る恐る尋ねる。

「一介の整備士に教える必要はない。」

そう言って長官は暗い扉を開けて去って行った。


・ここは南風が気持ちいい港町だ。

青空には海猫が飛び、海には子供たちが楽しく水遊びをしているのどかな街。

その一角。太陽の遮られている建物の陰。一人の少女がフルートを吹いていた。

美しい音色が南風に乗って辺り一面に広がっていく。

だが、そのメロディーを聴く者は誰もいなかった。

「・・・誰もいない・・・」

少女がつぶやき、フルートを下す。

この少女、南羽観月は、生まれつき目が見えない。

おまけに両親を失い、悲しい人生を送っている。

そんな観月は両親が残したフルートを持って街で演奏をしているのだが、

観月が目が見えないことを知る無心な連中は見ようともしない。

「・・ただいま。」

観月が白い杖を片手に道を歩き家に入る。

「おかえりなさい。」

家には両親が最後の財産を使って雇った使用人の比嘉がいて出迎えてくれる。

この比嘉は観月より4つ年上の女性だが、比嘉自身も何か事情があって家族を失っているらしい。

「比嘉さん、何か変わったことはありましたか?」

「いえ、何もありませんよ。夕食の買い物に行ってきましただけです。」

「いつもありがとうございます。」

「いいえ、お嬢様の為ならなんなりと。」

この二人はもう長い。

観月の両親が死んだのは今から6年前。死因は軍の兵器実験だ。

母は即死だった。

父はさほど傷は大きくなかったが放射能に感染していて長くないと悟って比嘉を雇ったのだ。

その三日後に父は息を引き取った。

比嘉自身もその数日前に家族を失い、生きていくために何でもいいから仕事を探していたらしい。

そうして二人は出会った。

「ふう、」

観月が自室に戻る。フルートをケースに入れて机に置き縁側に座る。

屋根の上に座るシーサーが美月を見下ろしているが観月と視線を合わせることは一度もない。

「・・・この島は嫌な音しかしませんね。」

観月がつぶやく。目が見えない観月は音とにおいを頼りにしている。

そのため空気を漂う火薬のにおいや、

空気を揺るがす爆撃音がよく聞こえるのだ。

「・・・ん?」

観月が何かを感じ、足元に手をやる。

と、卵のようなものがあった。

「何だろう?」

観月はそれを拾い、比嘉のところに行く。

「比嘉さん、これってなんでしょう?」

「はい?・・・・なんでしょうね?」比嘉が手に取ってみる。

目が見える比嘉がじっくりと見る。

卵はピンポン玉くらいの大きさだが、鉛玉のように思い。

「ウミネコの卵でしょうか?」

そう言って比嘉は観月に返す。

観月はなぜかその卵が気になり、両手で優しく包んで部屋に戻って行った。


・夜。軍隊がパトロールに回る。

「やれやれ、もう戦争はとっくに終わってるって言うのに・・・。」

町の老人たちがぼそっとつぶやく。

「ふん、戦争など人間が生きている間は終わらんよ。」

兵士は愚痴を言うかのようにつぶやく。

5人の部下とで組んだ小隊が見回っていく。

「おい!開けろ!軍隊だ!」

小隊が観月の家に来る。

「はい、なんでしょう?」

比嘉がドアを開ける。

「見回りだ。このあたりで不審な電波を受信した。変わったことはなかったか?」

「いえ、ありませんが?」

「少し入るぞ。」

そう言って許可も取らずに兵士がぞろぞろと中に入っていく。

「…確かにこのあたりから不審な電波が発信されている。」

兵士が電波計を見る。

「ここか?」

小隊長の犬養が容赦なく観月の部屋に入る。

「きゃ、な、なんですか?」

「夜分済まないが、ここから不審な電波をキャッチした。調査させてもらう。」

犬養が言うと、ほかの兵士たちが部屋に入り、物色していく。

「…なぜこの部屋には蛍光灯がないんだ?」

「それは、私が盲目だからです。」

「・・なるほど。」

「犬養軍曹!」

部下の二等兵が声を上げる。

「どうした二等兵。」

「この物体からです。」

二等兵が例の卵を指差す。

「何だこの卵は?」

「卵?・・・そ、それは私のです!」

観月が立ち上がろうとするが転んでしまう。

「・・・確かに。この物体から不審な電波が発信されている。君、これをどこで入手した?」

「昼間に縁側に落ちていたんです。返してください!」

「・・・いいだろう。ただし調査が終わって無害なものとわかったらだ。」

そう言って犬養は卵を持って部下達とともに去って行った。

「・・・・うう、」

観月が悲しむ。

なぜ私ばかりが悲しい目に逢わねばならないのかと小さな心が折れながら叫んでいるようだった。


・地下にある軍の基地。

軍はエプシロンの警備をしていた。が、

「犬養入ります。」

犬養と部下達が例の卵を持ってきた。

「それは?」

長官が見る。

「はっ!民家で発生していた不審な電波の発信源です。」

犬養が敬礼しながらも説明する。

エプシロンが設置されている部屋は、地殻のマグマと直結しているため非常に熱い。

ただでさえこの島は暑いのだ。東北育ちの犬養は袖をまくる。

「で、この物体は何なんだ?」

「はっ、これから技術部に渡すところです。」

「うむ。下がれ。」

「はっ!失礼します。」

犬養が退室する。

「・・・地表全土が範囲の兵器か・・・。

地球が戦争の舞台なのは映画だけでいいと言うのに。」

犬養が誰にも聞こえないほどの小さな声でつぶやく。

そのまま技術部に行き、卵を渡す。


・夜明け前。軍の技術部が例の卵を調べる。

「・・・わからんな、生物でも機械でもない。」

部長の鮫島が椅子を引いて頭を抱える。

鮫島は細い腕でもう一度卵を持ってみる。

「・・・強度はどれくらいなんだ?」

鮫島が卵をつかんで思いっきり地面に叩きつける。

「軍の馬鹿野郎!」

ストレスがたまっているのか勢いよく愚痴をこぼしながら卵をコンクリートでできた床に叩きつける。

と、卵は亀裂が走る。

「あ!しまった!」

鮫島がしまったという気持ちで見る。

卵は直撃面を中心に亀裂が走っていた。

次第に卵から鼓動のようなものが聴こえてくる。

「なんだなんだ!?まさかこいつは生き物だって言うのか!?

しかし最初に生物でないことはレントゲン写真で調べたはず!」

鮫島があわてる。やがて卵はピンポン玉サイズからバスケットボールサイズに大きくなっていく。

そして1対の腕が生えてくる。

「おいおい・・・・!」驚く鮫島を背にして物体は器用に1対の腕で床を這っていく。

壁の前に来ると、右腕を勢いよく壁に叩きつける。

するとまるでグレネード弾の直撃を受けたかのように壁に穴が開き物体はそこから外に出て行った。

「大変だ・・・!」

鮫島はすぐに指令室に連絡する。


・南羽家。「眠れないのですか?」

「・・はい。」

観月が縁側に座っている。

比嘉が気を使って毛布を持ってくる。

すると、

「あ!」

観月が足元に手をやる。

比嘉が目をやると、そこには例の卵があった。

ただしバスケットボールサイズに大きくなり左右からは1対に腕が生えた姿で。

「お嬢様、これは昨日のじゃありません!」

「え?確かに大きくなってるね。」

観月が物体をなでる。

するとさっきまで暴れていたであろう物体は

おとなしくなってまるで子犬のようにその手にじゃれついてきた。

「ほら、かわいくなってる。」

「・・・・・・」

比嘉は唖然としていた。

観月はその物体を持ち上げて部屋に戻る。比嘉も中に入る。

その数秒後に縁側の前を傷だらけの小隊が通り過ぎて行った。


・昼下がり。

観月はその物体を床に寝かせてフルートを吹いていた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「はい。この子、おとなしいですよ?可愛いですし。」

観月は笑っていた。

観月がこうして幸せそうに笑うのはあまりないことだった。

そう思い、比嘉はその背中を笑顔で見届けて退室した。

「・・・さて、洗濯をしましょうか。」

比嘉が洗濯物を持って外に出る。

と、

「おい!そこの女!」

「はい?」

比嘉が振り向く。

そこには傷だらけで左足を失いながらも一人の兵士が歩いてきていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

「いい!それより昨日のあの卵を見かけなかったか!?」

「え?」

「あの卵は化け物だ・・・!俺の小隊は全滅した。奴は変形してる・・・ぐ!」

その兵士はそう言って倒れた。

「・・・急いで手当てを・・・!」

比嘉はその兵士を居間まで運ぶ。

「どうかしたんですか比嘉さん?」

観月が例の物体とともに来る。

「お嬢様・・・」

比嘉が振り向く。

「・・・ううっ、・・・!そ、そいつだ・・・!」

兵士は例の物体を見ると拳銃を取り出して狙いをつける。

「え?」

「お嬢様!伏せて!」

比嘉が叫び、観月は条件反射でしゃがむ。

兵士の放った銃弾が物体に命中する。

物体が後方に吹き飛ぶ。

「え?え?な、何が起こったんですか?」

観月が顔を上げる。

「お嬢様、こちらへ!」

比嘉が観月の手をつかんで引き寄せる。

その時だった。物体から鼓動が聞こえる。

「この音、あの子から?」

観月が振り向く。

目は見えなくとも確かに観月には例の物体がそこにいることを捕えていた。

その物体はバスケットボールサイズから2回りほど大きくなり、

底面から1対の脚が生えてきた。

「このっ!」

兵士がもう一発銃弾を放つ。

それを受けた物体はさらに大きくなり卵が割れる。

卵の下はトカゲのような肌をした怪生物だった。

「きぃぃぃぃ・・・・・・!」

イグアナのような顔に付いた口からは恐竜のような咆哮がする。

大きさはもう1メートルを超えていた。

「な、なんだこの怪物は!?」

兵士が恐怖のあまり拳銃を落とす。

怪物はゆっくりと兵士のほうをむき、

次の瞬間目にもとまらぬ速さで兵士の目前にいてその首をつかんでいた。

そしてあっけなくその首を引きちぎった。

「ば、化けもの・・・!」

比嘉がおびえる。

と、怪物はその比嘉に向かっていく。

しかし衝撃は襲ってこなかった。

その後ろ、観月がフルートを吹いていた。

怪物はその音色を聞くとおとなしくなり、観月に近づき頬ずりをする。

「もう、暴れないでね?」

観月がそう呟く。


・「・・・怪物か。」

犬養が軍でつぶやく。

「状況はどうなっている!?」

「はっ!今私の部下の小隊を調査に送っています。」

犬養が長官に報告する。

しかしすでに半日以上が過ぎていた。

「・・・こうなったら仕方ない。私が行こう。」

犬養が武装して町へ行く。

「部下は皆長年のベテラン。私から見ても優秀に見える。

万全とはいえないが、多少の障害ではくじけないはず・・。」

犬養が推理する。

そしてとある家に着いた。

南羽家だ。

最初は通り過ぎるはずだったが家の前に水溜り跡のような血痕があり車を止めた。

「まさかここに・・・?」

犬養がインターホンを押す。

「はい・・・」

インターホンからは元気のない声がする。

「軍の犬養軍曹だ。あけてくれ。」

犬養がいい、比嘉がドアを開ける。

「何か?」

「いや、家の前に血痕があったから気になった。ここに例の卵は来てないか?」

「・・・・・・」

「?おい、聞いているのか?」

犬養が比嘉の方に手を触れようとした時、フルートの音色が聴こえる。

「・・・この音は・・・」

犬養が音色の方へ向かう。

縁側、そこに観月がいた。

だが、同時にその横には例の怪物が横になっていた。

「あいつは!?」

「え!?」

観月が驚きフルートを止める。

怪物も反応して起き上がる。

「・・・お嬢さん、どきなさい。そいつは怪物だ。」

「違います!この子は負の感情に反応するだけです!

それにこうやってフルートの音色を聞くいい子なんですよ!」

「しかし・・・!私の部下もそいつに殺されている!私には敵を討つ権利はある!」

犬養がライフルを両手に構える。

「どうして戦おうとするんですか!?」

「それは、我々が人間だからだ!」

犬養が引き金を引く。

二つのライフルが怪物に命中する。

と、怪物はさらに大きくなり、3メートルにまで大きくなった。

「な!?」

「きぃぃぃぃぃぃぃ・・・・!」

怪物が犬養に向かっていく。

「やめて!」

観月が声を上げた。

怪物は一瞬止まったが自分を止める観月の手を優しくほどき、犬養に向かっていく。

「ふっ、戦うものを襲うか、それでこそ生き物だ!」

犬養は手榴弾を投げてライフルを連射する。

怪物は全弾命中して手榴弾の爆発にも直撃する。

が、煙が晴れたそこにいたのはさらに変質した姿だった。

全身が鎧でもまとったかのように硬質化し、手には刃と見違うような禍々しい爪が生えている。

「なるほど、あらゆる攻撃に対して絶対的な耐性をつける性質か・・・!」

犬養は武装を解除する。

「それでいい、戦うものを殺せ、生きる者を殺せ。それが生きている証だ!」

犬養はナイフを出して向かっていく。

ナイフを怪物の胸に刺す。

直後犬養の体を怪物の爪が貫く。

そのまま怪物が犬養の頭を巨大な手で握りつぶそうとする。

が、フルートの音がする。

観月が吹いていた。怪物は一瞬手に力を込めるが、すぐに手を離し犬養の体は地面に落ちた。

「もうやめて・・・!戦うことが人間である証なら私は人間でなくていい!」

観月はそう嘆き、怪物の背中に寄る。

怪物はまるで観月を慰めるかのようにその頭を血塗られた手で撫でた。


・数日後。

軍の基地に治療を受けた犬養が戻ってくる。

「犬養軍曹、その傷はどうした?」

「・・・例の怪生物と戦ってきました。」

「ほう、奴はどこまで進化していた?」

「進化?長官、あなたは奴をご存じで?」

「さっき知った。鮫島技術部長に寄ってな。」

長官が言う。よく見れば奥に鮫島と思われる男性の死体があった。

「で、そいつは今どこにいる?」

「・・・わかりません。」

「そうか。なら仕方ない。」

「では、諦めてくれるのですか?」

「諦める?違うな。エプシロンでこの島を灰塵にするだけだ。」

「な・・・!?」「エプシロンは今朝本州に移動された。自身の兵器で破壊される心配はない。」

「・・・では、我々は!?」

「一緒に死ねばいい。」

そう言って長官は去っていく。

そしてエプシロンがその機能を起動させた。


・南羽家。観月は巨大化した怪物の傍らで眠っていた。怪物は毛布をかけてやる。

「あなた、本当にお嬢様が好きなのね。・・・この世界の誰よりも。」

比嘉が話しかける。

怪物は何も言わず安眠する観月の寝顔を楽しそうに見ていた。

が、急に立ち上がった。

「どうしたの?」

比嘉が聞くが、怪物は止まらず外へ走る。

見れば外には50人を超える兵士が並んでいた。

「怪物よ!お前が死なねばこの島は消える!」

犬養が叫ぶ。

直後、怪物が口から高熱火炎を吐き、10人の兵士を一瞬で炭にする。

「聞け!このままお前が暴れていればあの子も死ぬんだぞ!」

「!」

怪物はその言葉を聞き、行動をやめた。

「それでいい、あの子を救うために一緒に来い。」

犬養がいい、5人の兵士が怪物を包囲し、車に連行する。

5人と怪物が車に乗る。直後その車が大爆発した。

「これは・・・エプシロン!?」

犬養が気付く。車は粉みじんに消え去る。が、

「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・!」

その炎から巨大な怪物が姿を現した。

体が真紅に染まりその大きさは60メートルを超えていた。

怪物は全身から熱を発し、周囲の地面をとかしていく。

「あの狸長官め!エプシロンなぞこんな怪物に使えばこうなるとわかっているはずなのに!

人類を滅ぼす気か!?」

犬養がすぐに車に乗ってそこから離れていく。

怪物はすっかり理性を失い、町をとかしていく。

さらにその怒りの熱は海をも消していく。

そして消した海を歩いて本州へ向かっていく。


・「・・・う、」

観月が目を覚ます。

「比嘉さん?あの子は?」

「・・・それが、」

比嘉が事情を話す。

「そんな・・・私を守るために・・・・」

観月が膝まづく。彼女の透明な瞳から涙が落ちる。

「お嬢様、どうしますか?」

「・・・あの子を止められるのは私だけです。比嘉さんには申し訳ありませんが・・・」

「はい。今車を出します。」

比嘉が観月を車に乗せて怪物の後を追う。

道標は明白だ。怪物が通った後はすべてが溶けているからだ。

「・・・まだあの子は見えませんか?比嘉さん。」

「はい。たぶんもう本州の方へ行っているでしょう。」

「あのままあの子をほうっといたらあの子はまた戦いを起こしてしまう・・・」

観月がいう。と、

「おい、そこの!」

犬養の乗る戦車が近づいてきた。

「ここから先は危険だ。いくらあんたらとは言えな。」

「すみません、けど私じゃなきゃあの子は止められないんです!」

「・・・いや、もうだれにも止められない。

あいつは知っちまった。生物の存在意義が闘争本能のみだってな。」

「・・・それはあの子を襲った人がそれしか知らなかったからでは?」

「・・・大人って奴は一度染み付いちまった人生観を簡単には拭えないものなのさ。

それに今近づいても無駄だ。それどころかエプシロンによって吹き飛ぶぞ。」

「エプシロン?」

「軍の上層部の馬鹿どもが作った超広範囲大量殺戮兵器だ。あの怪物が暴れだしたのもそれが原因だ。」

「それでも私は・・・!」

「・・・どうしても行きたいならこの戦車に乗りな。こっちの方が民間車両より速い。」

「・・・・・・」

観月が比嘉のほうを見る。

「・・・どうぞ、お嬢様。ただし必ず帰ってきてくださいね?」

「はい。」

会話が成立すると2台の車はいったん止まり、観月が乗り移る。

こうして血塗られた鉄クズは透明な少女を乗せて消えた海を渡っていく。


・海の中央。海を消しながら80メートルの影は時速100キロで歩いて行く。

そこへ飛来する軍用ヘリ。

「作戦開始!」

ヘリに乗る上等兵が号令をかけると、4台のヘリから爆弾が投下された。

それは怪物にではなく、怪物の前方に投下された。

その爆撃により怪物の進路に大穴があいてしまう。

それによって進行が阻止された怪物は咆哮する。

「・・・そろそろか。」

犬養が車内でつぶやく。

「何がです?」

「私の部下に怪物の進行をふさぐように命じてある。

これが成功すればあいつは本州には上陸できない。」

「それじゃ・・・!」

「ああ、奴が止まっているうちにフルートを吹き、大人しくさせるんだ。そして、地底に幽閉する。」

「え・・・!?」

「仕方ないだろう?君でも奴が本気で暴れだして死んでいった人々の悲しみまで癒せるか?」

「・・・それは・・・」

「奴に対して正攻法は無理だ。地上に出して下手に刺激させるよりかは

静かな地底で暮らせた方がいいに決まってる。」

犬養がいい、戦車はついに怪物のいる場所に着く。

「ついたぞ、」

「・・・はい。」

観月が戦車から降りてフルートを吹く。

「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・」

怪物はまるで聞こえていないようだった。

「でかすぎて音が届かないのか・・・!」

犬養はそう考えてメガホンを出して観月のそばに寄る。

メガホンによって音が大きくなり、透明なメロディーは真紅の巨体に響く。

「・・・・」

怪物はそれにようやく気付き、観月を見下ろす。

「・・・今だ。やれ。」

犬養が指示し、軍用ヘリ4台が怪物の足元めがけて爆弾を投下する。

その衝撃で怪物の立っている地面が崩れて怪物は地底に落下していった。

「え?」

観月は突然の騒音に演奏を止める。

「もう大丈夫だ。奴は地底に落ちた。」

犬養が観月の頭をなでてやる。

「あの、」

「ん?」

「お見舞いに行ってもいいですか?あの子の。」

「・・・ああ。戦いしか知らない奴は孤独に心を食われやすい。」

犬養はそういい、観月を軍用ヘリに乗せて地底に連れていく。

幾時の暗闇を超えて透明な少女は暗闇の底に着いた。

「・・そこにいるのね?」

観月が声をかける。

怪物は一切の音を出さなかったが、観月にはそこにいると確信が持てた。

そして観月はフルートを吹き始める。

けがれのない透明なメロディー。

しかし、透明すぎてその音色は怪物の築いてきた闇の色を吸い取ってしまっていた。

「・・・・・・・・・」

透明な少女の色は闇の色に染まっていく。

争いを知らない少女にとって争いしか知らない生物の

住みいる星の重力は重すぎたのだ。

そのまま少女は闇となり、永劫の刻を奏でていった。

そう、ントピアタイ。

忘れ去られたもののメロディーを。

「ントピアタイ」は適当に作った言葉です。

けど作中では「失われたもの」と言う意味にしてあります。

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