記憶
1
おかしいのは僕であの子もおかしくてその子もおかしくてこの子もおかしくて。
結局悪いのは誰だったんだろう。
2
あの時は比較的幸せで、
あの時よりは比較的楽しくて、
あの時より良かったな。
「あの時」って、なんだったっけ。
第四話
「記憶」
静まり返った教室。
ひそひそと誰かが僕のことを言っている。
「おはよう。」
「……。」
それの名を、いじめと言った。
ただ無視されるだけの、幼稚ないじめ。
誰が始めたのかはわからない。
ただ、たまたま僕がターゲットになっただけ。
「おはよう。」
「……。」
誰も目を合わせてくれない。
誰も僕を見てくれない。
ただ、それだけ。
優しい。
こんなもの、辛いなんてものじゃない。
あの時に比べたら。
「おはよう。」
「……。」
誰も答えてくれないけど、
誰も僕を殴らないから。
誰も僕を蹴らないから。
こんなもの、どうってことない。
「おはようございます。」
「おー、おはよう」
大人は優しかった。
たとえ嘘をついていたとしても、僕を蔑ろにしなかった。
あの時の大人は、違ったけど。
「……?」
あの時って、なんだ。
あの時って、なんなんだ。
時々僕は身に覚えのないことを言った。
あの時よりは、
あいつらよりは、
母さんを奪うな。
なんなんだ。
あの時って、
あいつらって、
母さんって、
…なんなんだ。
「僕は誰ですか?」
記憶がないわけではない。
僕は普通の子供だ。
母さんだっているし、
あの時なんて知らない。
気にすることなんて、何も無い。
「…ま、いっか」
今日午後三時頃、路上で下校中の男子生徒(7)が暴走した車に数m引き摺られ、搬送された病院で死亡が確認されました。
なお、犯人は未だ逃走中。目撃者はおらず、通報者も忽然と姿を消していた模様。────…
永遠に終わらない