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蛍の光を

作者: たちばな

蛍の光を追っていたら小さな池に着いた。




日中の忙しい蝉の鳴き声も、夕凪と共に落ち着きを取り戻し、葉虫の羽音が涼しい夏の夜を少しの肌寒さと一緒に連れてきてくれる。


私はこのゴールデンウィークでお父さんの実家おじいちゃんの家に来ていた。

田舎道には街灯も疎ら、人気もない農村。

携帯も圏外なものだから高校生の私にはあまりにも退屈すぎる空間。

父と母はおじいちゃんや親戚の人と一緒にお酒を酌み交わしている。顔が真っ赤でこうなったら両親に何を言っても一緒だろう。


だから暇つぶしに外に出てみた。

辺りは夜はふけたばかりだというのに既に暗く、しんと静まり返り、車の走行音もなければ踏切の警報音もない。あるのは風と葉虫の羽音ばかり。正直同じ日本とは思えない。

だが、そんな場所でも小学校入りたての頃はよく遊びにきたことはよく覚えている。今でもここらは変わりなく、大体わからない場所はないし、一本伸びた道を下れば川が見えてきて地元の友達とよく泳いだものだ。

そんなことを不意に思い出すと、途端に懐かしくなりその道に足を向けてみた。



懐かしい思い出に浸りながら足取りも軽い。

だが、どうだろうか、もう着きそうなものだが川は一向に見えてこない。なぜだろう、道を間違えたのだろうか。

昼と夜では違うところにきたような景色に一変するとはよくゆうけれど、まさしくその通りで、私は迷ってしまったようだ。

引き返せば大丈夫なんて自分で自分に言い聞かせ、早速来た道を背にして戻る。

焦りからか早歩きになりながら、握り拳に汗を湿らせながら今度は帰路を猛進と進む。

戻ってる筈。戻ってる筈だが、そんなに長くも歩いていない筈なのに知らない場所が続く、見覚えがない景色ばかり。自然と息があがる。

どこで鳴いたか、犬の遠吠えにビクッと背筋が寒くなる。たまたま最近やってたテレビ番組での自然界の掟とかいうので、オオカミが獲物を集団で襲いかかるシーンが脳裏に鮮明に思い出され恐怖が一段と増す。



どこまで行っても辺りは木々と田畑ばかり、持ってきた携帯も役立たずの圏外。

どのくらい歩いただろうか、携帯を光らせればかれこれ一時間はさまよっている。そこに、目の前の茂みにガサゴソと動く気配。

私はそのまま恐怖に身がすくみ動けずピタリと止まる。今にも悲鳴が飛びでそうだ。

汗か冷や汗が喉をつたう瞬間、茂みから裂くように出てきたのはウサギだった。ウサギはそのまま私に逃げるように全力疾走で逃げていった。


緊張の糸が切れたように、私はその場膝を落とし座りこんだ。

茂みは小さく大きな動物は隠れてないだろうと、頭ではわかっていても、恐怖は凄まじい。

腰を抜かしたわけではないが、心臓の鼓動を落ち着かせながら暫くそのまま座っていた。

陸上部で足には誰にも負けない自信はあるのだが、砂利道をビーチサンダルで歩いていたものだから足がむくんで痛い。


こわい。もう帰えれないのかなと泣き出したくなってくる。


そこに光が見えた。

ライトのような強い光じゃなく、か細い光は体育座りになっていた私の手の甲に降りてきた。

それは蛍だった。

よく、おばあちゃんが言っていた。

蛍は人の死んだ魂を光らせるんよ、だけん、捕まえたり取ったりしちゃいかんよ。


フラッシュバックを終えた途端に蛍は羽を広げるとゆっくり飛び始めた。ゆっくり飛ぶ蛍は人が歩く程度の速度で、人の目線の高さで飛翔をはじめる。

まるで私を導くかのように。

私は不思議な力で導かれているのがこれまた不思議と感じながら抵抗することもせず、身体が勝手に蛍の光を追っていた。



どのくらい歩いたろうか、不思議な力につき動かされ、歩き疲れなんて感じなかった。

蛍の止まった先、着いたすぐはわからなかったが気がつけば私は小さな池に着いていた。

小さな池、ここは見覚えがあった。

ここは水神様が祀られていて、夏休みにはおばあちゃんとよくお墓参りのついでにお参りにきたところだ。

もちろんここにくれば帰り道もすぐにわかる。

だが、だいぶ自宅からこの場所までは遠いのに、こんなところまで迷ってしまっていたのかと私は内心絶句していた。

蛍は姿を消していて、それがおばあちゃんの魂だったんだと今更になってわかった。



今日はおばあちゃんのお葬式。

私はおじいちゃん宅に着くと、心配してるだろうなと思っていたがゆっくり玄関を開くと中は静かにだった。それもその筈、私の心配心とは裏腹に、酔い潰れた大人達を見てひとまず安堵した。

そしておばあちゃんお仏壇にお線香を立てた。

そこではじめて私はおばあちゃんとの別れを受け入れることができ、泣いた。





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― 新着の感想 ―
[一言] ひっそりとした、不思議な夜の物語に感じられました。いい雰囲気でした。
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