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秘めた想いと手を繋ぎ(竹野きひめ×無明) 共通部4

すっかりと部屋へ入った際と同じ格好へと戻った静音を見やり、小さな真四角の白い灰皿へ三本目の煙草を押し付けた。

その私の様子と部屋に漂う煙と匂いに静音は眉を寄せ、私を睨みつける。


「吸ってるのは知ったけど、今、吸わなくてもいいじゃない」


怒りの沸点はそこなのか、と笑みを漏らしそうになりながら、けれど、前のように親しくなどしてはいけないのだと頭を軽く下げる。


「申し訳ありません」


特段、普段と変えていないそれに、けれど、静音は気づいたようで小さく息を飲む音の後に深いため息が漏れる音がした。

それからゆっくりと歩み寄り、ベッドの下にあるだらしなく転がったままの小さな革靴を拾い上げながらマットレスへと腰を下ろす。

片足ずつゆっくりとストッキング越しの足をそこへ、入れながら静音は無表情のまま唇を薄く開いた。


「何か言われたらお前がドライブにでも連れていってくれた事にする。いいわね?」


左、右、と順に履きながら言われたそれに、畏まりましたと答えれば、首だけを私の方へと向け両手を伸ばす。

その意図と真意はよく分かっていて、けれど、それに応じてしまって良いのだろうかと立ち上がれずにいれば、静音は顔を小馬鹿にしたよう歪めた。


「部屋を出るまで。……痛いの」


痛いというそれに眉を寄せ立ち上がり、静音の側へ行き体を倒せば細い腕は確かに私の首の後ろに巻きつき、私は細い腰と小さな尻へ手をあてがって抱き上げる。

細く小さな体は楽々と私の体に、纏わりつき、そのまま何も言わずに方向を変え歩き出した。


部屋を出るまで。


その言葉通りに僅か十数歩の距離、離れたくないのだと言わんばかりに私の首を抱きしめるそれが、苦しくて切なくて、せめて、最後なのだからと普段よりずっと、ずっと、ゆっくりと歩きドアの前でおろした。

すんなりとそれに応じた静音にまた背広の上着をかけてやり、ドアを開ければ、一度、私を見上げた後、颯爽と歩き出しその後を追った。

エレベーターでロビーへと戻り、料金を支払う間中、静音は元気が無く鬱蒼と暗く見える観葉植物の大きな葉に付いた埃を手で払っており、私がそこへ行けば一言小さく呟く。


「いきましょう」


返事をする代わりに先導し、自動ドアを開ければ外はすっかりと夕暮れの匂いをさせており、前を歩く静音を追い抜き、高級外車の後部座席のドアをそっと開けた。

静音が乗り込み座ったのを見届けてから音を立てぬよう、なるべく静かにドアを閉め、運転席に乗り込んだ。

エンジンをかけながらシートベルトを締め、ハンドルに手を当ててから口を開く。


言わなければ、いけない。

それが、どんなに辛い現実であったとしても、私と静音のために、言わなくてはいけない。

そう強く想いながら、それでも、ミラー越しに静音の顔は見れず前を向いたままそっと口を開いた。


「夏ごろに結婚する事に……なりました」


自分が思っていたよりも、それは言い辛く、声音は濁り低くなってしまい、言い終えてからごくりと喉を動かし、視線を黒く見えるようになってきたアスファルトへと、窓越しにもっと低く落とさずには居られなかった。




 滑るように走り出した車の中を沈黙が支配する。しばらく走ってから私は口を開いた。


「あ、っそう」


 意外にあっさりした返事をした自分に、正直驚いてしまった。ルームミラーに視線を遣ると、高宮も驚いたらしく目を大きく見開き、こちらを一瞬だけ見た。


「赤信号」

「……!」


 急ブレーキに身体が強く前に引っ張られる。


「ちゃんと前見てよね」


 嫌味を口にすると、すいませんと小さな返事が返ってくる。


「なあんだ。最後に今までの憂さ晴らしに抱いてやろうとか、そう言う感じだったのね」

「違いますよ」


 慌てた口調で高宮が返す。


「結婚しても、この職はやめませんよ」

「それって、残酷だと思わない?」

「……」


 高宮は黙り込む。さすがに可哀そうだったかも。


「嘘よ。悪かった。……嬉しい、わ」


 残酷なのは私だろう。何が嬉しいだ。その一言が彼をどんな気持ちにさせるかなんて、ホテルの浴室で散々想像したのに。


「幸せにして差し上げなさい。その人のこと」


 車は信号に捕まり、いつものように僅かな慣性の力が私の身体に掛かる。ルームミラー越しに高宮の目を睨んでやる。その目が優しそうに笑む。


「ええ、もちろんですよ」


 ズキリ。


「ありがとうございます。静音様」


 ズキリ。


「幸せにします」


 ズキリ。


 高宮の一言一言が胸の奥で谺する。

 結局私は人に任せないと前に進めないのだろうか。こうして、高宮に残酷な役目を担わせて。私はただ事態が収まるのを待つだけ。愛する人のために何もできない。

 胸が痛んだのは、寂しさや悲しみのせいだけじゃない。高宮が言いたくないであろう言葉を吐かせていることへの罪悪感。

 結婚します。

 その一言を聞いて最初に感じたのは、安心感。

 彼を解放できるかもしれないという安心感だ。

 私がしてきたことに気づいてしまったから。彼を縛る苦悩の鎖が断ち切れるかもしれない。そう思ったら安心してしまった。

 最後の最後まで、かっこいいんだから。もう触れないね。


バカ。


 私の漏らした言葉に、高宮は優しく微笑んだ。彼はいつだって優しい。私の心をどこまでも運んでいってくれる。

 窓の外を見遣ると、黒アゲハが舞っていた。

 そうね。囚われの蝶ほど哀れなものもないわね。

 自由に舞ってこそ、美しく映えるのだもの。



 終

あいあいさー!

お待たせしやした、むみょうですよっと!


初の合作が終わりました〜。なんとも感慨深い笑


メッセージが盛り上がって合作しようぜ!となった時、わくわくとドキドキが入り混じった



なんというか



一言で言えば


やべーよ!!


って感じ。

とりあえずむみょうとしては違和感なく、かつ、自分らしさを出せるように書いてみたつもりです!


それと他の人のいろいろな表現が生まれてくる瞬間を垣間見れるのは感動しますね!いやあ〜。パソコンの前でワーワーはしゃいでしました笑


いやあ、きひめさんとこんなに仲良くなれてめちゃくちゃうれしいです!!!


これからもこのアカウントでも書いていこうと思うので、覗いてみてください!



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