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蝶の翅 (高宮部)

ぱたり、とバスルームのドアが閉まる音を聞いてゆっくりとベッドから降りる。

外すことなく腕に巻いたままだった時計は、既に、普段ならば静音を送り届けている辺りを示しており、それだけでも胸の奥の部分が、ぐぐっと重くなった。

脱ぎかかった下着とパンツをきちんと直し、ぎしりと不快な音を立てる安物のマットレスを後にし、その脇にある見るからに合皮と分かる薄く茶色くヤニで染まったソファへと腰を下ろした。

ワイシャツの胸ポケットから歪んでしまっている、それを取り出し、ため息と共に蓋を押し開ければ、先ほどまで甘い声が響いていた室内に、くしゃりと、紙がこすれる音が響く。

中から真っ白な揃いも揃って同じ形をしている丸い一本を取り出し、ローテーブルの上の白く真四角の灰皿の中に入っているホテルの名前が書かれたライターで火を灯す。

ふわり、と、独特の香りが私の鼻腔や肺を一瞬で侵し、それがまるで、先ほど犯してしまった事を彷彿とさせた。


汚してしまったのだ。

私の肺や鼻腔が、茶色く臭い物で染められたように、私が静音をそうやって汚してしまった。


右手の人差指と中指で挟んだ煙草を鼻腔と肺に入れれば入れる程、額の縦筋が深くなっていくのを感じる。

普段と同じ銘柄のはずのそれは、いつもよりずっと苦く、まずく、そして苦しかった。


蝶は鱗粉を翅に纏っている。

細かく、けれど、その翅を守るために淡雪が積もるようにそこに宿している。

私は静音のそれを、軽々しく、乱暴に、そして、そうする事が当然かのように爪でこそげとったのだ。

鱗粉を失くした蝶は、水が掛かればあっという間に翅は濡れてしまうだろう。

泥が掛かれば、あっという間に、汚れ、こびりついたそれで飛べなくなってしまう。


大空を自由に、ひらり、ひらりと、優雅に舞う事が叶わなくなった蝶は……。



ぱたり、とドアの開く音で、気づかぬうちに手にしていた三本目を唇に咥え、大きく一吸いした。

左手で弄んでいたホテルの名前の入ったライターと、歪んだ煙草の箱を胸ポケットへとそっとしまい、鱗粉を失った私の蝶が舞い戻るのを、じっと、その方向だけを見つめて待つ。


せめて。


爪でこそげ落としてしまったのなら、これ以上、翅が汚されないように、と奥底で願いを強めながら。

はーい、どーもー。





高宮を書いていたのは、竹野でしたー。

え?予想通り?

ですよね、ですよね。

竹野は竹野らしさを全く隠せませんでした。

あえて言うならば、むっちゃんに合わせて少し長めに文章を書いていたくらいです。

あとは、あれですね。

むっちゃんと音声で会話しながら、高宮かっこよくね?よくね?って聞きまくっていたくらいです。


竹野的に高宮は、ものすごく書きやすいキャラでした。

自作品の井村に通じるイメージがあったのもあるかもしれません。

近所のおにーさん的な雰囲気で、でも、かっちょよさげに書いたつもりなのですが、どうでしたでしょうか。

竹野が高宮だったら(むっちゃんの素晴らしい力量で描く)静音に手を出さない自信はありません。


というわけで、静音目線で高宮にちょっとでもときめいて頂けたら竹野としては幸いでございます。


では、次がラストですー。

最後の最後は、発案者のむっちゃんが後書きなので、くろあげはの後書きでは竹野の出番はこれで最後になります。


アクセスして頂いた方、ブクマして下さった方、リツィートしてくださった方、皆様、本当にありがとうございました。

むっちゃん次第ですが、また今後も、二人で合作したいねー、なんて話してます。

それまで、どうぞ、皆様、竹野と無明の作品をよろしくお願いいたします。

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