甘美な熱 (静音部)
ぱたりと何とも間の抜けた音を立てて閉まるドアをしばらく見つめて、蛇口を捻った。
「つめたっ」
思わず声を上げるが、外の高宮には聞こえなかったようでほっとする。温度が上がり切る前の冷たいシャワーは身体はともかく、逆上せた頭を冷やすのにはちょうど良かったようだ。
さっきの夢のような時間の細部が鮮明に思い出される。
「うわあ……」
今更になって妙な不安が頭を駆け巡った。
変な声とかしてなかったかな。
ちゃんと気持ちよかったかな。
うざくなかったかな。
不細工な顔、してなかったかな。
それにしても、幸せだったな。
白い腕を滑っていく水流を見るでもなく眺める。細く頼りなげな指は僅かに震えている。その指で、高宮が触れてくれたところを順になぞっていく。そのどこもが、高宮の愛を受けたのだと思うと、気恥ずかしさと幸福感で私の心はお腹いっぱいだ。
しかし、同時に不安と寂しさも込み上げてくる。
「好きなんだ……私のこと」
じゃなかったら、こんな危険なことしないもんね。
でも、その先はあるのかな。
冷たいシャワーが運んできたのは、そんな確証も何もない未来のこと。高宮は何も言わなかった。これからのことは何も言っていない。
これから高宮が一緒にいてくれるなんて、私にはわからない。
もしかしたら、最初で最後のつもりで私を愛してくれたのかもしれない。幼い私を満足させるために、こんな危ない橋を渡ってくれたのかもしれない。
そんな考えが私の脳裏を過った時、何とも言えない気持ちが胸をぎりぎりと締めつけ始めた。
なんだろう。
一番近いのは罪悪感、かも知れない。
でも、その中には嬉しさもある。
何に対しての?
高宮がそこまで私を愛していてくれたことに対して?
「はあ、何でこんな子供なんだろう」
あまりに幼稚な感情に、我ながら嫌気が差す。
高宮を嗾けたのは私だ。彼の気持ちをただ、私に向けさせるために毎日毎日おしゃれをして、彼の好みを調べ、そして、あの短い登下校の時間で距離を縮めようと尽力した。
ただ、自分のため。ただそれだけのために。
高宮はどうだろう。私は考えたことがあっただろうか。雇い主の娘に、決して手を出し手はいけないはずの女に言い寄られる彼の気持ちを。私は今まで考えたことあった?
「……っ」
喉の奥が熱い。鼻の奥がつんとしてくる。シャワーヘッドを顔に向けると、温水が私の顔を打った。流れてしまえ。私の、彼を思う気持ちごと、この涙を流して。
初めはこの気持ちが届けばいいと思っていた。彼がこの気持ちに気づけばいいと。ただ、それが達成された時、今度は気持ちが返ってきてほしいと望んでしまった。
そして、今。それが達成されてしまった今、私は彼との永遠を望んでしまっている。そして、今さらながら彼の心のうちを考えると、自分のことしか考えられなかった自分が本当に憎い。
彼は言うと思う。私の気持ちは本物だと。だから大丈夫と。
私のこの一時的な舞い上がりとも取れる恋を、彼は否定しない。
でも、怒ってほしい。
この人は私のことが嫌いなんだって思わせてほしい。
首を力なく横に振る。思考をリセットだ。人任せでは、自分の思い通りに事態は動かない。
自分でやるしかない。
そう自分に言い聞かせて、私はシャワーを止めた。重い浴室の扉を開けて、バスタオルを取ってもう一度浴室に戻り身体を拭く。光沢のあるプラスチックの脱衣かごに、私の服が畳んで入れられている。高宮がしてくれたのか。そう思いながら、それを摘み上げて袖を通す。
部屋に戻ると、喫煙者特有の、気の抜けた顔の高宮がソファに深く腰掛けていた。指に挟まれたタバコからは真っ直ぐに煙が伸びていた。初めて見る表情に、一瞬動けなくなる。その疲れたように濁った瞳が私を見据えた。
どもども〜。はいっ!まさかの……。
まさかの私が静音ちゃんを書いていたのですよ、ふふふふふふふふふふふふ。
何やらざわついておりますが(そんなことはない)事実であります、はい。
静音目線で書いてましたよ、私。
静音ちゃん、どうでした? 可愛かったですか?笑
可愛いってなってくれてたら嬉しいなあ。静音のなんともいじらしい感じが伝わればいいなあ。ふふ。
自分、書くときいろいろ動いてみて文章に起こすんですけど
もう身悶えしまくりっすよ。側から見たら軟体生物X。地球防衛軍出動不可避な様相を呈していましてですね、へえ。
そんなこんなでここも書いておりました。
子供っぽさが存分に出ております。
たぶん。
というわけで引き続きくろあげはをお楽しみください。




