あと十七本... 「ゲーム」
初めてゲームに触れたのは、幼稚園の頃だった。
既に小学生だった従兄が新しい据え置きゲームを買ったらしく、その一つ前のハードをソフトごと譲ってもらったのだ。
子供だった俺には、物珍しさもあってすぐにハマッた。
こういう面白さというのは、映像の美麗さと比例しないのかもしれない。
話がずれたが、従兄もかなりのゲーマーだったので、ソフトも結構な数あった。あまりに膨大すぎてどれから遊べばいいのかわからず、適当なソフトをちょっとやって、飽きたら別のゲームをする、という遊び方をしていた。
そんな膨大なソフトの中に、それはあった。
そのゲームはタイトルが白く不気味な文字で書かれていた。幼稚園児だった俺はなんと読むのか判断できなかった。従兄から貰ったゲームにはパッケージや取扱説明書が無いものもあり、小さな段ボールの箱の中に一緒くたに詰めてあったのだ。
「なんだこれ?」
こんなソフト今まで見たことなかった。
とはいえこの当時のソフトというのはゲーム中はたいていひらがなで表示されるもので、それでも興味をひかれてカセットを入れてみた。
他のゲームもタイトルだけではよくわからないものも多かったので、そのうちの一つだろうと思ったのだ。
カセットをデッキに入れる。
だが、画面が起動しても真暗なまま動かない。
カチカチとあらゆるボタンを押してみても反応しない。
壊れてしまったのかと思い、一度カセットを外して端子に息を吹きかけてみたり、何度かスイッチを押したりする。
何度目かのトライで、やがて画面には白い色が映った。
――なんだ、映るんじゃん。
それからゲームのタイトルが映し出されたが、やっぱりバグったようにノイズが走っていた。
だが、それからしばらくガチャガチャ触っていると、やがて画面が切り替わった。
画面はアドベンチャーのようで、画面には台詞が表示されるのであろう下半分と、上半分の方は、左側に玄関らしき場所の絵、そして右側には「しらべる」「みる」「はなす」などのコマンドが並んでいた。十字キーを動かすことでコマンドの選択を変えられるようだ。
玄関先はよくある家の玄関だった。強いていうならうちの玄関みたいな感じかな。
まあ、日本を舞台にしたミステリーものとかたまにあるだろ?
他のソフトもあったからそういう系統のゲームかと思ったんだ。まあそれでとにかくコマンドを選んで、玄関から中に入ってみたんだ。
当時はドット絵っていうのか、そういうのもすげー細かくてさ。
玄関先はやっぱり、うちと同じような感じ。靴を置く場所があって、右手に靴箱。左右を向いたりはできないみたいだったけど、一段のぼった先に廊下があって、小さいマットがあった。廊下はまっすぐ続いてて、玄関上がってすぐのところから右手側にも折れてる。右手側にはガラス戸があった。
それからまっすぐな方の廊下なんだけど、左手側にも障子が見えてた。廊下の途中からは階段があって、二階に上がれるようになっていた。
っていうか、超鮮明に覚えてるって思ったよな?
そうだろう、まぁ聞いてくれ。
とにかく俺はワクワクしながら主人公を進ませた。あちこち調べたりな。
まずはまっすぐ進んで、右手のガラス戸の中に入った。そこは食堂とキッチンになってるみたいで、手前にテーブルとイスがあって、後ろの方に流し台とか冷蔵庫とかが壁沿いに並んでた。
俺は面白くなって、冷蔵庫とか無意味に調べた。俺の好きなバニラアイスが一個入ってた。でも、見れるだけだったな。というか、たべるコマンドが見つからなくて。
まあそういう風に色々と調べたりしてたわけ。
とりあえず一階を重点的に見て回ったよ。
でもさ、なんかおっかしいんだよな。
ゲームに出て来る家、なんか見覚えがあるんだよ。
障子の向こうには仏間があって……。そして、右手側の廊下の奥にはトイレがあって。だんだんそれは確信に近づいてきた。
そうだよ。
そのゲームに出てきてるの、明らかに俺んちなんだよ。
じゃあ、もしかして二階にいれば俺がいるのかなって思ったんだ。
俺は迷ったね。本当に俺がいるのか。じゃあ俺がいるとして、今プレイしてるのは誰なんだってね。
そこで止まってるうちに、階段から、ぎし、ぎし、って音が聞こえてきた。
俺は固まってしまった。
でも、ゆっくりというでもなくて、普通に上がってくるんだよ。
俺は怖くなって、そこで無理やりソフトを引っこ抜いた。
それでも階段からの音は止まらなくて、思わず振り向いてしまった。
……母さんだった。
俺の部屋、開いててさ。俺の部屋を覗きこんで、あれっ、て言ったんだ。
俺の部屋って階段上がってすぐのところにあって、階段も狭くて急だったから、絶対に後ろから追い越すことなんて子供でもできないんだよ。
どうしたの、って聞いたらさ。
「ずっとこの部屋にいた?」っていうんだ。
俺はそうだよ、と答えた。
すると母さんはこう答えた。
「さっきからずっと一階で誰かが歩き回ってる音がしたから……」
……。
その後、俺も新しいハードを買って、新しいゲームに夢中になった俺は、段々と古いソフトでは遊ばなくなった。
大量のソフトもある時、母さんに全部捨てられてしまった。実家に残してきたものだし、どうされようと良かったんだけどさ。
でも、ひょっとしたら――あのゲームはまだどこかにあるかもしれない。




