表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/100

あと十七本... 「ゲーム」

 初めてゲームに触れたのは、幼稚園の頃だった。


 既に小学生だった従兄が新しい据え置きゲームを買ったらしく、その一つ前のハードをソフトごと譲ってもらったのだ。

 子供だった俺には、物珍しさもあってすぐにハマッた。

 こういう面白さというのは、映像の美麗さと比例しないのかもしれない。


 話がずれたが、従兄もかなりのゲーマーだったので、ソフトも結構な数あった。あまりに膨大すぎてどれから遊べばいいのかわからず、適当なソフトをちょっとやって、飽きたら別のゲームをする、という遊び方をしていた。

 そんな膨大なソフトの中に、それはあった。


 そのゲームはタイトルが白く不気味な文字で書かれていた。幼稚園児だった俺はなんと読むのか判断できなかった。従兄から貰ったゲームにはパッケージや取扱説明書が無いものもあり、小さな段ボールの箱の中に一緒くたに詰めてあったのだ。


「なんだこれ?」


 こんなソフト今まで見たことなかった。


 とはいえこの当時のソフトというのはゲーム中はたいていひらがなで表示されるもので、それでも興味をひかれてカセットを入れてみた。

 他のゲームもタイトルだけではよくわからないものも多かったので、そのうちの一つだろうと思ったのだ。


 カセットをデッキに入れる。


 だが、画面が起動しても真暗なまま動かない。

 カチカチとあらゆるボタンを押してみても反応しない。


 壊れてしまったのかと思い、一度カセットを外して端子に息を吹きかけてみたり、何度かスイッチを押したりする。

 何度目かのトライで、やがて画面には白い色が映った。


 ――なんだ、映るんじゃん。


 それからゲームのタイトルが映し出されたが、やっぱりバグったようにノイズが走っていた。

 だが、それからしばらくガチャガチャ触っていると、やがて画面が切り替わった。

 画面はアドベンチャーのようで、画面には台詞が表示されるのであろう下半分と、上半分の方は、左側に玄関らしき場所の絵、そして右側には「しらべる」「みる」「はなす」などのコマンドが並んでいた。十字キーを動かすことでコマンドの選択を変えられるようだ。


 玄関先はよくある家の玄関だった。強いていうならうちの玄関みたいな感じかな。

 まあ、日本を舞台にしたミステリーものとかたまにあるだろ?


 他のソフトもあったからそういう系統のゲームかと思ったんだ。まあそれでとにかくコマンドを選んで、玄関から中に入ってみたんだ。

 当時はドット絵っていうのか、そういうのもすげー細かくてさ。

 玄関先はやっぱり、うちと同じような感じ。靴を置く場所があって、右手に靴箱。左右を向いたりはできないみたいだったけど、一段のぼった先に廊下があって、小さいマットがあった。廊下はまっすぐ続いてて、玄関上がってすぐのところから右手側にも折れてる。右手側にはガラス戸があった。

 それからまっすぐな方の廊下なんだけど、左手側にも障子が見えてた。廊下の途中からは階段があって、二階に上がれるようになっていた。


 っていうか、超鮮明に覚えてるって思ったよな?


 そうだろう、まぁ聞いてくれ。


 とにかく俺はワクワクしながら主人公を進ませた。あちこち調べたりな。

 まずはまっすぐ進んで、右手のガラス戸の中に入った。そこは食堂とキッチンになってるみたいで、手前にテーブルとイスがあって、後ろの方に流し台とか冷蔵庫とかが壁沿いに並んでた。

 俺は面白くなって、冷蔵庫とか無意味に調べた。俺の好きなバニラアイスが一個入ってた。でも、見れるだけだったな。というか、たべるコマンドが見つからなくて。

 まあそういう風に色々と調べたりしてたわけ。

 とりあえず一階を重点的に見て回ったよ。


 でもさ、なんかおっかしいんだよな。


 ゲームに出て来る家、なんか見覚えがあるんだよ。

 障子の向こうには仏間があって……。そして、右手側の廊下の奥にはトイレがあって。だんだんそれは確信に近づいてきた。

 そうだよ。


 そのゲームに出てきてるの、明らかに俺んちなんだよ。


 じゃあ、もしかして二階にいれば俺がいるのかなって思ったんだ。

 俺は迷ったね。本当に俺がいるのか。じゃあ俺がいるとして、今プレイしてるのは誰なんだってね。


 そこで止まってるうちに、階段から、ぎし、ぎし、って音が聞こえてきた。

 俺は固まってしまった。


 でも、ゆっくりというでもなくて、普通に上がってくるんだよ。


 俺は怖くなって、そこで無理やりソフトを引っこ抜いた。

 それでも階段からの音は止まらなくて、思わず振り向いてしまった。


 ……母さんだった。


 俺の部屋、開いててさ。俺の部屋を覗きこんで、あれっ、て言ったんだ。

 俺の部屋って階段上がってすぐのところにあって、階段も狭くて急だったから、絶対に後ろから追い越すことなんて子供でもできないんだよ。

 どうしたの、って聞いたらさ。


「ずっとこの部屋にいた?」っていうんだ。


 俺はそうだよ、と答えた。

 すると母さんはこう答えた。


「さっきからずっと一階で誰かが歩き回ってる音がしたから……」


 ……。


 その後、俺も新しいハードを買って、新しいゲームに夢中になった俺は、段々と古いソフトでは遊ばなくなった。


 大量のソフトもある時、母さんに全部捨てられてしまった。実家に残してきたものだし、どうされようと良かったんだけどさ。


 でも、ひょっとしたら――あのゲームはまだどこかにあるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ