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あとニ十ニ本... 「謎」

 小学生の頃の話だ。

 当時は怪談ブームの真っただ中で、学校の怪談や都市伝説を由来にした映画が何本か流行り、有名なホラーゲームを映画化した作品も幾つかあった。

 その頃は単純にスゴイなあと思って面白がっていたのだが、あとになってみると評判の方はあまり芳しくなかったりして、鼻白んだものである。


 そういうわけで、御多分にもれずある程度話題に上がることがあった。

 学校の図書館に置いてある子供向けのホラー本の中には、全国から投稿された体験談や怖い話が載っていた。

 そういった本の中でやはり全国から寄せられてきたのは、トイレの花子さんだった。それだけでページが埋まってしまうほど多かった。よくよく考えてみれば、ありとあらゆる学校のトイレに花子さんという名前の幽霊が出る偶然などあるわけないと思うのだが、そこはそれである。


 今となっては、トイレの花子さんとは厠神、つまりはトイレを守護する女神なのではないか、という説がある。昔は、女神に供えらるために花や子供の人形が置いてあったというので、その風習を知らぬ現代の子供らが「霊がいる」「誰かが死んだのだ」と噂したのではないか、というものだ。

 私はこの説にひどく納得してしまった。


 話を戻すと、小学校の時、一度だけこういったトイレの怪談に向かいあった事がある。

 私の学校には七不思議などというこじゃれたものはなかった。学校に二宮金次郎像もなかったので、動きだすはずもなかった。

 しかし、ある時どういう因果か、女子トイレに花子さんを呼びに行こうという事になった。いったいなぜそんなことになったのかわからない。とにかく気が付いた時にはクラスの女子がほぼ全員でトイレの入口から覗きこんだ。


「はーなこさーん」


 誰かが言った。


 しんとしている。


 誰かがごくりと唾をのむ。


 しいんとした中で、コン、コン――とノックの音がした。


「はい」


 誰かがキャアっと声をあげ、全員が全力で教室まで戻った。


 それだけの話だ。

 たったそれだけの話。


 それだけの話なのだが、この話はただの怖い話では終わらない。

 私の立ち位置からはっきりと見えていたのだ。一番後ろにいたアキちゃんが、扉のすぐ横にあった壁――個室の壁を叩いていたようなのだ。というか、私も一瞬見ただけだったからはっきりとはわからないが、アキちゃんは一番後ろにいたにも関わらず、みんなが飛びだしてくるのを見送っていた。

 私は時間を見てアキちゃんの所へと向かった。


「あの時さあ、扉鳴らしたの、アキちゃんでしょ」

「うん。そうだけど」


 あまりにあっさりと答えられて、私はあっけに取られた。


 詳しく聞くと、要はアキちゃんはみんなを脅かそうなどというつもりはまったくなく、単純に呼びだすつもりで叩いたらしい。だからアキちゃんはあの時、一体みんなが何を怯えているのかわからずに最後にゆったりと歩いてやってきたのか。

 私は安心するやらがっかりするやらで何とも言えなくなった。


 それだけの話、なのだが――。


「じゃあ、あの時、はいって言ったのも、アキちゃんでしょ」

「はあ?」


 アキちゃんは眉を寄せてよくわからないといった顔をした。

 せめて、「ああ、それも私」と言ってほしかったのだし、脅かすつもりもなくノックだけをしたのなら、返事をする必要もない。


 私はあの時トイレに集まっていた全員に聞いたのだが、誰もその声を聴いていなかった。

 それどころか、「怖がらせないでよ」とまで言われてしまった。私はそれ以来その話題を出すのをやめてしまった。


 あの時トイレの個室は全部開いていて、誰も使用していなかった。


 それなら――あの時「はい」と言ったのは誰なのだろう?

 アキちゃんのノックに答えたのは誰だったのか。


 私はそれ以来、考えないようにしている。

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