第7話 国境の街キルデア
今日のお話はギルフォード編です。
クリストール歴2019年2月22日<トライデン騎士領 ギルデア近郊>
昨日の宴から明けた翌朝。俺とラルフとメアリーが起きて馬車から起きると、既にに兵士達は馬車の前に整列していた。
「「「ギルフォード様!ラルフ様おはようございます!!!」」」
ノーマンが前に出てきて、兵士達に号令をかける。
「ギルフォード様とラルフ様に敬礼!」
兵士達は一糸乱れぬ動きで俺達に向かって敬礼している。
「昨夜は兵士達に素晴らしい差し入れを頂き、誠にありがとうございました!兵士達の士気も見ての通り最高潮です!」
「うん、昨日は皆楽しそうにしていたもんね。あの女達はどうしたの?」
「はい!食事を与え、鎖で繋いでから兵士用の馬車に監禁しております!」
「そう。キルデアに着いたら奴隷商に売るから、殺しちゃだめだよ。」
「了解しました!」
今までは普通に護衛されていただけだったが、昨日盗賊の討伐をしてからは兵士達の俺達への態度が明らかに変わっている。
「よし、じゃあ出発するぞ。おまえら持ち場に付け!」
「「「はい!」」」
兵士達は皆笑顔で持ち場に戻って行ったので、俺達も馬車に乗り込む。
「オズワルドは感動しましたぞ。ギルフォード様とラルフ様はもう兵士達の心を掴んだようで、いずれは立派に騎士団を指揮できると確信しました。ソフィ様も素晴らしい指揮官ですが、さすがはスペンサー家のご子息ですな。」
「まぁ、別に大したことはしてないけどな。ラルフの差し入れが良かったんだろ。」
「兄さんの差し入れも凄く喜んでいたみたいだよ。」
「それもありますが、兵士達は先頭に立って盗賊と戦うお二人の姿を見て、お二人を認めたのでしょう。お二人とも大変ご立派でございます。スペンサー家の未来は明るいですな。」
今日も相変わらず馬車に揺られているが、昨日とは状況が少しだけ違う。
「なぁ、メアリー。」
「はい、ギル様。」
「昨日からずっと俺の腕に抱きついてるけど、さすがにそろそろ離れてくれないか?」
「ギル様が嫌だというなら離れますけど、本当に嫌ですか?」
メアリーは俺の腕から離れて、子供が悪戯するときのような表情で、俺の顔を覗き込んでくる。
これは反則だ!可愛すぎるだろ!一昨日まではこんなに可愛いとは思ってなかったのに、なんだこれ?めちゃくちゃ意識しちゃうよ!
「あ、いや。別に嫌ってわけじゃないけど、そろそろ街に着く頃だし、人前で聖騎士家の息子がメイドと腕組んで歩くのはちょっとさ。」
「そうですか…。分かりました…。じゃあ、キルデアに着くまでは良いですか?」
メアリーは両手で俺の手を握り、少し悲しそうに上目使いで俺の顔を覗き込む。思わずそのまま抱きしめたくなる衝動を抑えて、なんとか平静を保つ。
「キルデアに着くまでならいいかな。」
「やった!ギル様大好きです!」
メアリーは再び顔に満面の笑みを浮かべて俺の腕に抱きついてくる。
ギルテアに着いたら、メイド服以外の普通の服を買ってやろう。
「ねぇ、オズワルド。」
「なんでしょうか、ラルフ様。」
「あとどれくらいでギルテア?」
「そうですな、先程から外の景色が畑ばかりになってきましたので、そろそろ着く頃だと思いますよ。」
「ギルテアってどんなところなの?オズワルドは行ったことあるんでしょ?」
「そうですな、ギルテアはグレースよりは人は多くないですが、アルゴ自由都市同盟の国境に面しているので貿易の中継都市として、栄えている街です。ですから、両国の行商人等が集まる場所でとても賑やかです。それと、大きな商会の支店等も多数ございますので、騎士団が駐屯して治安もグレースと同じくらい良い街です。」
「へぇ~、美味しいものは?」
「そうですね、私のおススメは屋台で売っている、鶏肉を串に刺して甘ダレを塗って焼いた、焼鳥ですね。あれとビールが本当に合うんですよ。」
「じゃあ、着いたらそれを食べてみようかな。」
それからしばらくオズワルドがビールに合う食べ物について熱く語っていると、馬車が止まった。
「おっ、到着したようですね。」
「おー、やっと着いたのかー!」
窓から外を見るとノーマンが街に入る手続きをしている姿が見えた。
ギルテアは国境に面した街であるが、アルゴ自由都市同盟の建国後にトライデン騎士領との交易で発展した街で、両国間は常に政治的にも経済的にも友好な関係が続いており、街を囲む高い壁等はなかった。一応、盗賊等が街に自由に入れないように、街に入る道には騎士が関所を作っており、積み荷や人のチェックはしている。
「ここから先は護衛の必要はありませんので、彼らは先に宿に向かっております。私達はこのまま近くにある第10騎士団の中隊詰所に挨拶に行きましょう。」
「そうだな。じゃあメアリーは兵士達と先に宿に行っていてくれ。」
「わかりました。」
俺とラルフ、オズワルドが馬車から降りると、ノーマンと兵士2名を残して馬車は先に宿に向かって動きだした。
詰所は関所すぐ裏手にある石造り2階建ての立派な建物だった。
ノーマンが入口の前で歩哨に立っている兵士に話しかける。
「私は第7騎士団所属のノーマン・バーグ上級騎士と申します。本日はローワン・スペンサー様のご長男、ギルフォード・スペンサー様と二男のラルフ・スペンサー様がこちらの責任者の方にご挨拶に参りましたので、お目通り願います。」
「ようこそお越し下さいました。どうぞ中にお入りください。」
俺達6人は詰所の応接室に通された。俺とラルフがソファーに座り、ソファーの横にはオズワルドが立ち、後ろにノーマン達3人が並んで立っている。
「今、中隊長を呼んでまいりますので、少しお待ちください。」
応接室はソファーとテーブルが置いてあるだけの簡素なものであった。基本的にはトライデン騎士は贅沢を好まず質素を好むのが美徳とされているので、応接室といえども装飾品等が無いのは普通である。
中隊長を呼びに行った兵士はすぐに一人の男を連れて戻ってきた。
「お待たせ致しました。私は第10騎士団所属第3歩兵中隊隊長のジョン・ベーコン上級騎士です。この度は、わざわざお立ち寄り頂きまして誠にありがとうござます。」
「私はローワン・スペンサーの息子、ギルフォード・スペンサーと申します。本日は突然の訪問にも関わらずご対応頂きましてありがとうございます。隣にいるのは私の弟で」
「ラルフ・スペンサーと申します。宜しくお願い致します。」
「お二人とも、お久し振りでございます。実はまだお二人が幼い頃にラッセル邸での晩餐会で一度お会いしたことがございます。お二人ともとてもヤンチャな子供でしたが、随分御立派になられましたね。」
俺はラルフの顔をチラッと見たが、ラルフも覚えていないよって顔をする。
「そうだったのですね、覚えていなくて申し訳ありませんでした。」
「いえいえ、お二人とも幼かったので仕方ありませんよ。」
「ありがとうございます。今日はお土産を持ってきております。どうぞ。」
俺は前に寄った宿場街の道具屋で買ったローヤルゼリーを一瓶出した。
「これは何ですか?」
「こちらはローヤルゼリーと言いまして、働き蜂が女王蜂の為に蜂蜜等で作った食べ物でございます。それを食べ続けた女王蜂は普通の蜂よりも30倍~40倍も長生きします。人間がこれを食べると疲労回復の効果があると言われております。」
「ほぉ、こんな貴重なものを頂いてもよろしいのですか?」
「もちろんでございます。」
「では、有難く頂いておきます。ところでお二人はクラテスに留学に行くそうですね。まだクラテスまでの道のりは長いので、どうかギルテアでゆっくりしていってください。」
「お気遣いありがとうございます。私もゆっくりしたいのですが、クラテスに到着してからも入学までに色々とやらなくてはいけないことがありますので、こちらには1泊だけの予定です。」
「それは誠に残念です。それでは、是非今夜は食事にお招きさせて下さい。それくらいはさせて貰わなければ私の顔が立ちません。」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます。」
「おお!良かった!では、私は今から支度を始めますので、それまで街の観光でもしてください。案内の兵士を一人付けましょうか?」
「せっかくですが、執事のオズワルドがこの街には何度も来ているようですので、御心配には及びません。」
「そうでしたか。それでは今夜七時にまたこちらにお越し下さい。」
「はい。それでは一度失礼致します。」
俺達は詰所を出て、宿への道の途中で焼鳥の屋台を見つけた。そこで、焼鳥を6本買って皆で焼鳥を食べながら宿に向かった。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。
明日も21時に投稿予定です。
今回のギルフォード編は少し短かったので、明日もギルフォード編の予定です。
第6話のドミトリー編を若干修正しました。