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第5話  エディン平野の宴

クリストール歴2019年2月21日<トライデン騎士領 エディン平野>


メアリーの実家の宿を出発してから4日目、尻の下に枕を敷いたことによって、尻の痛みは大分良くなったが、馬車の窓からの景色は牧草地から原野に変わっただけで、ほとんど変わらない。メアリーも最初は初めて乗った馬車に大喜びだったが、既に飽きてしまったらしく、今日は退屈そうに外の景色を眺めている。

昨日、一昨日と野営をして馬車の中で眠ったので、風呂にも入っていないから、髪はベタベタだし、きっと体も臭いだろう。とりあえず風呂に入るか水浴びをしたいが、一昨日から宿屋もなければ川も湖もない。

ラルフとメアリーは相変わらず仲良くはなっていないが、あれから特に喧嘩はしていない。


「ねぇ、オズワルド。あとどれくらいでクラテスに着くのかな?僕、そろそろ馬車も飽きてきたよ。」

「そうですねー、ここから国境の街キルデアまで約1日、キルデアからトライデンまでは7日程度ですので、あと8日くらいかかる予定です。」

「え~、まだ8日もあるのか~。さすがに飽きてきたよね、兄さん。」

「ああ、馬車の旅がこんなに退屈だとは思わなかったな。本を読んでたら酔うし、寝るのも飽きたし、カードゲームやボードゲームは揺れでカードや駒がバラバラになるしな~。」

「メアリー、なんか面白いことない?」

「そうだ、メス豚、なんか面白いことしろよ。」


メアリーは一瞬ラルフを睨んでから、すぐに俺に視線を向けてニコッと微笑む。


「そうですねー。それでじゃあ、ゲームをしましょうか。今から私が物の名前とか、誰でも知っているような人の名前を思い浮かべて紙に書きます。そして、私に対して皆さんが一人ずつ質問をして、私は[はい]か[いいえ]で答えます。その質問の答えをヒントにこの紙に書かれている言葉を最初に当てた人が勝ちです。」

「それなら馬車の中でも手軽にできる遊びだな。」

「じゃあ、今から準備するので少し待っていてください。」


メアリーは紙とペンを鞄から取り出して後ろ向きになり、こそこそと答えが見えないように紙に書いている。


「はい!できました!それじゃあ、ギル様から時計周りで、オズワルドさん、ラルフ様の順番で私に質問をしてください。」

「えっと、それは人ですか?」

「いいえ。」

「そうですな…。それは生きてますか?」

「はい。」

「それは動物ですかクソヤロー。」

「はい…。」

「その動物には毛が生えてますか?」

「はい。」

「その動物は白いですか?」

「いいえ。」

「その動物は茶色いですかコノヤロー。」

「いいえ…。」

「その動物は黒いですか?」

「はい。」

「その動物は熊ですか?」

「いいえ。」

「その動物は空を飛びますかバカヤロー」

「はい…。」

「わかった!その動物はコウモリですか?」

「正解でーす!さすがギル様です!優勝賞品は私です!ということなので、ギル様が私にしたいこと、何でもして良いですよ。」


メアリーは顔を赤らめながら俺の腕に抱きついてくる。自然と腕が胸の谷間に収まり、両側から胸で挟まれる。

あれっ、意外と胸があるんだな。実際、顔の輪郭は丸型だが作りは小さく、鼻筋が通り、目はぱっちりとしていて、かなり整った顔をしているし、15歳にしては胸も大きく、スタイルは良い方だ。髪型は腰くらいまで伸ばした美しい黒髪のロングヘアーで、メイド服がよく似合っている。う~ん、あっちからガツガツこられるから反射的に引いていたけど、全然ありでしょ!


「わかった。じゃあ、次から宿屋に泊るときは俺の部屋で一緒に寝ろ。」

「「「えっ!!!」」」


一瞬馬車の中が完全に凍りつく。しまったぁぁぁぁ!こういうのってこっそりメアリーに言えば良かったのか!しかし、言ってしまったものは仕方ない。

普通に、お前ら何変な顔してんの?くらいの感じで話し続けるしかないだろう。


「クラテスに付いてからも俺と同じ部屋にしようかな。」


メアリーは顔真っ赤にして、椅子から立ち上がり、直立不動の姿勢になる。


「あ、はっ、はいっ!宜しくお願いします!」

「兄さん、ホントにこんなメス豚とやるの?絶対病気持ってるよコイツ。」

「ちょっ!失礼な!なんてこと言うんですか!私はまだ処女です!」

「ギルフォード様、避妊だけはお願いしますよ。私が旦那様に怒られますから。」

「じゃあ、オズワルド。そういうことだから今後は俺とメアリーの二人部屋にしてくれ。」

「はい。承知致しました。」

「えーっ、じゃあ次は僕一人部屋?」

「そういうことになるな。でも、問題はないだろ?」

「まぁ、問題はないけどさ。兄さんはホントにいいの?」

「専属メイドって言うくらいだから、常に一緒にいた方が都合が良いだろ。」

「私はギル様のお役に立てて光栄です!」


その後は会話が途切れて若干気まずい雰囲気になったが、気にしないことにしよう。

それからしばらく沈黙は続いていたが、突然馬車が止まった。

俺達が乗っている馬車を護衛していたノーマンが馬車のドアを開ける。


「報告です!近くの集落の方向から複数の煙が上がっております!」

「オズワルド、これは盗賊の襲撃の可能性が高いな?」

「はい。おそらくギルフォード様の言う通り盗賊でしょう。如何しますか?」

「まずは、斥候を出す。騎馬兵士2騎で、集落の様子を見て来い。その際相手に見つかって逃げられないように戦闘は絶対に避けろ。残りの兵士は馬車をここから見える丘の裏に隠し、馬車の周囲に展開し警戒態勢で待機。」

「了解!」


ノーマンが先頭を警護していた騎馬兵2騎を斥候に出して、俺達は馬車を道から見えないように近くの丘の裏側に隠し、残っていた兵士は馬車の周りに展開させ警戒態勢に入った。


「オズワルド、俺とラルフとオズワルドの馬を用意してくれ。」

「承知しました。」


俺とラルフは防具と武器を取りに、後方の荷馬車に向かった。


「兄さん、これで退屈から逃れられたね。」

「おう、やっぱり聖騎士の息子としては、こういうのは血が騒ぐな。」

「父上からもらった剣がこんなに早く使えるなんて、思わなかったよ。」

「おまえ、それは使ったらだめだろ、盗賊なんか切って刃こぼれでもしたら勿体ない。騎士用のロングソードで行くぞ。」

「あっ、そうだよね!」


俺達は左胸の部分にスペンサー家の紋章が入った鎧を装着して、騎士用のロングソートを振って軽く体を動かしていた。


約10分後、斥候の兵士達が戻ってきた。


「報告します!この先の集落が盗賊の襲撃を受けております。盗賊の数25名、装備は片手剣とバックラーです。現在、集落の男達が応戦しておりますが、落ちるのは時間の問題でしょう。」


「よし!これより、盗賊の討伐作戦を決行する!俺、ラルフ、オズワルドと騎馬兵士7名の計10名で分隊を編成し、集落へ突入する。残りの兵士は馬車と積み荷の警護し、こちらに逃げてくる盗賊がいたら排除しろ!」

兵士達が一斉に俺に向かって敬礼する。

「了解!」


兵士達はすぐに出撃の準備に取り掛かかる。さすがに実戦経験の多いトライデン騎士団は手際が良い。俺も馬に乗る準備をしていると、メアリーが後ろから俺の手を引っ張る。

「あの、ギル様。絶対無理はしないでくださいね。」

「ああ、大丈夫だ。それよりメアリーも気を付けろよ。馬車の中に隠れていろ。護衛の兵士は精鋭揃いだから、万が一はないだろうけど、最悪の場合はこれで自害しろ。」


俺は持っていたダガーナイフをメアリーに渡す。

メアリーはダガーナイフを受け取ると、俺に抱きつき、唇が一瞬触れただけの軽いキスをしてきた。生まれて初めてのキスだった。

なんだこれ、メアリーの唇やわらけー!そして、フワッとした感覚になり脚から力がぬけていく。


「私のファーストキスです。これで、もうギル様は無敵です!」


やばい!これは惚れる!これはマジで好きになりそうだ!戻ったら絶対もう一回してもらおう。


「ははは!ありがとう!俺も今のがファーストキスだ。じゃあ、そろそろ行ってくる。」

「はい。本当に無理はしないでくださいね。」

「盗賊くらい騎士団の相手じゃないよ。それと、戻ってきたらさっきのもう一回してくれないか?」

「はい!喜んで!だから、絶対に無事に戻ってきてくださいね!」


俺とラルフとオズワルドは騎馬兵士から借りた馬に乗り、兵士に指示を出す。


「よーし、俺とラルフを先頭に2列縦隊を作れ!」


俺の後ろにノーマン、ラルフの後ろにはオズワルドが並び、その後ろに騎馬兵士達が次々と整列していく。


「ねぇ、兄さん。あの女に惚れたんでしょ?」

「そんなんじゃねーよ。」

「ふ~ん。まぁ、これからは邪魔しないであげるから、僕にも早く奴隷買ってよね。」

「おまえってやつは…。」

「それは良いとして、これって一応、僕達の初陣になるのかな?」

「ん~、盗賊相手なら初陣にはならないだろ。気楽に行こう。」

「そっか。それと今回の作戦は?」

「盗賊の25人くらいなら、力で押し潰す。目標が見えたら、二手に分かれて挟撃だな。」

「りょーかい!」

「じゃあ、そろそろ行くか。今度はおまえが兵士に指示出していいぞ。」

「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて…。」

ラルフは兵士達が整列しているのを確認し、大きく息を吸い込む。

「全体進め!!」


馬を10分程走らせると、集落がはっきりと見える位置まで到着した。数件の家から火が上がり、既に十数人、農夫らしき男達が血を流して地面に倒れていた。他の家より少し立派な家の前で、女性と子供、老人を庇うようにして、8人の農夫達が農機具や棍棒を持って、盗賊と対峙しているのが見える。

盗賊の数は斥候の報告通り25人。中には数名の女盗賊の姿も混じっている。これなら問題なくやれるだろう。


「よし、俺の隊は集落の住人と盗賊が対峙している間に割り込む。ラルフ隊は少し遅れて突入し、盗賊の背後から挟みこむように攻撃しろ。一人も逃がすなよ。」

「りょーかい!それじゃあ、みんな行くよ!突撃!!」


俺達はラルフの合図で一斉に二手に分かれて、突撃を開始する。


「騎士団だー!騎士団が来たぞー!皆逃げろー!」


俺達に気づいた盗賊が慌てて逃げ出そうとするが、時既に遅し。

俺は盗賊と集落の人達の間に割り込み、馬上からロングソードで盗賊の首元を突き刺し、盗賊は血を噴き出しながら絶命した。

俺の後ろに続くノーマン達も一斉に盗賊達に切りかかり、前列にいた盗賊は一瞬にして排除した。


ラルフ隊は少し遅れて到着し、逃げよとする盗賊達を次々と切り伏せていく。

ラルフは鬼神の如く剣を振り、5名の盗賊の首をはね落としていた。


残った盗賊達は武器を捨て、地面に跪く。

最初は人数が倍以上いた盗賊達も次々と仲間が切られている姿を見て、一瞬にして戦意を失ったようだ。一人一人が精鋭のトライデン騎士と田舎の盗賊では格が違い過ぎたのだ。


「よーし、攻撃やめー!投降した奴らを縛りあげろ!」


兵士達が馬から降りて、手際良く盗賊達を拘束していく。

盗賊と対峙していた男達の一人が前に出てきて、俺の前で跪く。


「騎士様!ありがとうございました!あのままでは私達は全滅するとろこでした。本当にありがとうございます!」

「もう、大丈夫だ。おまえがこの集落の代表者か?跪かなくて良い。立ちあがってくれ。」

「はい!ありがとうございます!私はこの集落の代表マイケル・ギャラガーです。」

「私はギルフォード・スペンサー。あそこにいるのが弟のラルフだ。」

「スペンサーってもしかして、聖騎士様のお子さんですか?」

「そうだ。別に畏まらなくていい。」

「こんな田舎の集落に聖騎士様のお子さんが助けに来てくれるなんて、本当にありがとうございます!もうなんとお礼を言ったら良いかわかりません!」

「聖騎士家の人間として領民を守るのは当然の務めだ。礼には及ばない。それより、大分被害が出ているようだな。」

「はい。幸い、スペンサー様が助けてくれたので、女子どもは助かりましたが、男集は半数以上殺されました。」

「旅の途中で何も力になれないが、ギルデアに着いたらここに管轄の騎士団を派遣するように伝えておこう。」

「ありがとうございます。それまでは私達だけで何とかします。」

「すまない。」


ラルフが捕らえられた盗賊達の顔を一人一人覗き込んでニヤニヤしているのが視界に入った。

生き残った盗賊は8名で、うち男が5人で女は3人。女の盗賊を見ると3人とも汚い格好をしているが、まだ20代の半ばだろう。盗賊だから高額にはならないが奴隷商に売れそうだ。一人80万カロス位にはなるだろう。


ラルフが盗賊達の品定めを終えて、ノーマンに指示を出している。


「ノーマン、男は両足の腱を切断して放置、ここの人達になぶり殺しにしてもらおう。女は3人とも連れてくから、傷つけたらダメだよ。」

「はい!」


そして、ラルフは満面の笑みで俺に視線を向け、手招きをしている。

俺はあまり行きたくなかったが、仕方なく盗賊達の前まで行く。


「どうした?」

「こいつらの足の腱をこれから切断していくんだけど、兄さんもやる?」

「いや、俺はいいわ。」

「そっかー、じゃあ僕が一人でやっちゃうよ?いいの?」

「ああ、好きにしてくれ。」


ラルフはまるで、新しいおもちゃを買ってもらった子供のような表情で、嬉しそうに次々と男の盗賊達の足の腱をダガーナイフで切断していく。足の腱を切られた盗賊は泣き叫びながら失禁したり、苦痛のあまり泡を噴いて気を失ったりしている。それを見た女盗賊達は皆泣き叫んで、命乞いをはじめた。


「兄さん、こっちはもういいよ。」

「わかった、ちょっと挨拶してくるから待ってろ」


俺は遠巻きに見ていたマイケルに声をかける。


「それでは、私達はそろそろ行くが、男の盗賊はここに置いていく。動けないようにしてあるから、あとのことは任せる。所持品は集落の復興の足しにでもしてくれ。」

「はい。この度は本当にありがとうございました。私達はこのご恩を一生忘れないでしょう。また近くまで来たときは、何かお礼をしたいのでこの集落にお立ち寄りください。」

「あまり気を遣わなくて良い。だが、ここの近くを通る際は立ち寄らせてもらうよ。じゃあ、これから色々と大変だと思うが、頑張ってくれ。」


こうして俺達は全員無傷で集落を盗賊から救い、3人の女盗賊を連れて馬車のある丘に戻った頃には既に陽も落ちかけていたので、そこで野営をすることにした。


馬車のある丘に戻り、馬から降りるとメアリーが目にいっぱい涙を溜めながら駆け寄ってきて、そのまま抱きついてきた。あまりにその姿が可愛かったから俺もメアリーの腰に手を回し、強く抱きしめる。

「ギル様!無事で良かったです!私はギル様が本当に心配で、生きた心地がしませんでした。どこもお怪我はありませんか?」

「ああ、大丈夫だ。こっちは大丈夫だったか?」

「はい。こちらは何にもありませんでしたよ。」

「そっか、良かった。」

「ギル様、さっきの約束覚えてますか?」

「もちろん。」


メアリーはニコッと微笑み、俺の首の後ろに手を回し、唇を重ねてきた。

唇を重ねるだけの軽いキスだったが、メアリーの涙で少しだけしょっぱかった。そして、最初のときよりも足に力が入らなくなったので、しばらくメアリーの唇の弾力を楽しむことにした…。




~その夜~


「なぁ、ラルフ。今日は兵士のテントが騒がしいみたいだけど、どうしたんだ?」


少し前から兵士のテントからは女の悲鳴と兵士達の歓声や笑い声が聞こえてきていた。


「あれはね、連れてきた女盗賊を渡してきたんだよ。みんな旅の間は色々と溜まるからさ、これは丁度良いと思って連れて来たんだよね。そして、ギルデアに着いたら奴隷商に売り飛ばして、売れたお金で兵士達に特別手当を出そうと思ってるんだよね。」

「納得した。まぁ、たまにはガス抜きも必要だよな。折角だから今日は酒も振舞ってやろうか。」

「あるの?」

「オズワルド、確か酒も持ってきてたよな?」

「ええ、ございますよ。」

「今日は盗賊の討伐で皆疲れただろうから、兵士達に配ってきてくれ」

「承知しました。」


数分後、兵士達のテントからは大歓声が聞こえ、その後もエディン平野のど真ん中での宴は夜遅くまで続いていたようだ。


ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

明日も21時に投稿予定ですので、宜しくお願いします。



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