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第3話  ドエスとメス豚

このお話でやっとヒロイン登場です。


クリストール歴2019年2月17日<トライデン騎士領 首都グレース郊外の牧草地帯>


昨日の早朝に首都グレースを出発した俺達は、途中何度か休憩を挟みながら進み、夜は野営をすることとなった為、馬車の中で眠った。朝も午前五時に起きて、朝食を取ったあとすぐに出発し、昼過ぎにはグレース郊外の牧草地帯まで到達していた。


「昨日はグレースを出てからも家とか店がポツポツでもあったけど、今日はずーっと牧草と牛しか見てないね。景色を見るのも飽きたし、どんどん道も悪くなってお尻も痛いし、兄さん何とかしてよ。」

「はぁ?俺だってそんなもん一緒だから。景色はまだ良いとしても尻が痛くて痔になりそうだわ。さっきから定期的に尻を浮かして耐えてるくらいだから。」

「これだったら馬車より馬に乗ってる方がマシなんじゃない?」


確かに、馬の方ななんだか乗り心地が良さそうに見えてきた。俺達が乗った馬車に並走しながら馬車を護衛している騎馬兵士に窓から顔を出して聞いてみる。確か、名前はノーマンだったかな。


「ノーマン、ちょっといい?」


ノーマンは馬を窓の近くまで寄せて、笑顔でこちらを見る。


「はい、ギルフォード様。どうしました?」

「別に大したことじゃないんだけどさ、ずっと馬に乗っててお尻痛くないの?」

「あぁ、普通に痛いですよ。騎士に成り立ての頃は特に痛くて、遠征なんかに行くのが嫌でしたけど、慣れました。こんなもんなんだなーって。」

「そうか、そっちも痛いのか。馬車の方が痛いと思ったけど、なんかそっちの方が痛そうだな。」

ノーマンは馬の上で腹を抱えて笑う。

「ハハハハハハ!そうでしたか、なんなら交代しましょうか?」

「いや、俺は遠慮しておこう、ラルフはどうする?」

「じゃあ、僕は交代しても(ry」

「いけません!」


オズワルドがラルフの言葉を遮って、話に入ってくる。


「尻が痛いのは分かりますが、ラルフ様は護衛されている身分です!それを、交代するなどあり得ません!少し気が弛みすぎでございます!ここはまだ首都から遠くない場所だから良いようなものの、アルゴ自由都市同盟の国境付近では盗賊が出るという話もありますし、内陸部までウェストハネス共和国の斥候が国内に侵入していることもあります。そもそもラルフ様は聖騎士のご子息であるという自覚が・・・。」


あ~ぁ、始まっちゃったよ。ノーマンもオズワルドの声を聞いて、気まずそうな顔をしながら、本来の護衛ポジションに戻っていった。俺も今回は悪かったし助けてやろうかな。

兄ちゃんに感謝しろよ、弟。


「なぁ、オズワルド。今夜も野営するのか?」

「あ、いえ、今夜はもう25㎞程先にある宿場街に泊まる予定です。」


ラルフはオズワルドから見えないように俺の方を向いて、「助かった」って顔をする。


「じゃあ、今夜はベッドで寝られそうだな。」

「ええ。護衛の兵士達も休めますし、馬も休ませることができますので。それと、この宿場街にはイノシシ料理が有名な食堂がありますので、楽しみにしていてください。」

「おお、イノシシ料理を食べるのは初めてだな。美味しいのか?」

「はい、中でもイノシシ肉の赤ワイン煮込みが特に美味しいと評判です。私もローワン様の御用で前に国境の街キルデアに行く途中で寄って食べましたが、とても美味しゅうございました。もちろん帰りも寄って食べたくらい美味しかったです。実はこの旅で楽しみにしていたことの1つでもあります。」


そこで、チャンスを伺っていたラルフが入ってくる。


「ねぇ、オズワルド。さっき気が弛んでるとかって僕に怒ってたけどさー、自分だって浮かれてるじゃないかー!」

「あっ!」


それから一度休憩を入れて、宿場街に着いた頃にはもう日も落ちかけていた。

街と言っていたのである程度の規模のものを想像していたが、予想より大幅に小さい。宿屋が2件と食堂が1件、それに道具屋が1件とそこの従業員の家が数件あるだけの小さな宿場街だった。


俺達は事前にオズワルドが予約していた1件の宿屋を貸し切り、騎馬兵達が馬を小屋に繋ぎ、入口と裏口に歩哨を一人ずつと馬車の見張りを1名配置した。歩哨と見張りは交代制で昨夜の野営で見張りをしなかったもの達で交代することになっている。もちろん、俺とラルフ、オズワルドは見張りをしない。


俺とラルフは警備がしやすいからという理由で二人部屋にされた。しかし、宿屋の部屋は実家の俺達の部屋よりも広く、ベッドも大きい。

宿屋に初めて泊まることになった俺達はタンスの引き出しを開けてみたり、クロークの中を覗いてみたり、枕の硬さを確かめたりと、大はしゃぎであった。


そうしているうちにドアをノックしてオズワルドが部屋に入ってきた。


「お二人ともあまりはしゃぎ過ぎないようにしてくださいね。ところで、今日の予定ですが、18時にこの部屋でお食事、20時にお湯の張った桶を持って来ます。そして22時消灯でランプを取りにきます。翌朝は5時起床、5時半に1階の食堂にて朝食、6時半出発の予定でございます。」

「夕飯って隣の食堂で食べるんじゃないの?」

「うん、僕もさっき馬車で聞いたイノシシ料理が食べたいんだけど。」


俺達がそう言うとオズワルドは得意げな顔なってチッチッチッとか言いながら人差し指を前に出し左右に振る。


「そう言われると思っていましたよ。この宿場街で一番美味しいのは、この宿屋のイノシシ料理なのです!」

「うぜー!ドヤ顔うぜー!」

「兄さん、やっていい?このおじさんやっていい?」

「それでは楽しみに待っていてください。」


俺達の反応を見てオズワルドは嬉しそうに部屋から出て行った。


「兄さん、夕飯まであと1時間くらいあるけど、どうしよっか?」

「向かえにある道具屋でも覗いてみないか?」

「あぁ、僕はパス。どうせこんな田舎だし大したものは置いてないでしょ。」

「おまえ馬鹿だな、こんな田舎だからこそ、掘り出し物があるかもしれないんだろ。」

「行ってらっしゃ~い。」


あーうぜー、弟ってのは何でこうウザいのかね。

部屋から出て、部屋の前に立っている兵士に声をかける。


「あっ、ノーマンでしょ。ここで何してるんだ?」

「はい!オズワルド様の命令で、ここで警備をしておりました!」

「出入り口に歩哨が付いてるんだから、ここで警備しても意味ないだろ。まぁ、それは良いとして、これから向かえの道具屋に行くから一緒に来い。」

「えっ、勝手に出たらオズワルド様に怒られますよ。」

「だから、おまえが一緒に行くんだろ。護衛が足りないなら、他に二人位呼んでこい」

「はい!了解しました!」


ノーマンが兵士を二人連れてきてから、4人で正面入り口から宿屋の外に出て、歩哨に声をかけてから通りの向かえにある道具屋に向かう。


「ところで、グレースにいる時は特に護衛もなくラルフと二人で出歩くことが多かったのだが、ここにきて異常にうるさくなったな。」

「はい。グレースでは常に騎士団が街を巡回し、治安が維持されておりましたので、護衛がなくても問題ありませんでした。」

「なるほどな。まぁ、これもクラテスに着くまでの間だけと考えれば仕方ないか。」

「いえ、私どもは師団長から直々の命令により、クラテス滞在期間中は常にお二人の護衛をするように言われております。」

「おいおい、それはいくらなんでも過保護過ぎるだろ。」

「そんなことはありません。スペンサー家は聖騎士家の中でも唯一800年間血筋を絶やすことなく、直系のみで続いておりますので、もしスペンサー家の子息に何かあれば国家的な一大事であります!」

「そういうものかね。でも、姉上が家を継ぐから俺らはあんまり関係ないと思うんだけどな。」

「いえ、ご兄弟のどなたかが結婚して、子どもができるまでは安心できません。」

「姉上もまだ騎士になったばかりだし、ずっと戦場にいるから当分先になりそうだな。」

「それまでは私共が責任を持ってお守り致しますのでご安心ください!」

「そうか、長い付き合いになるなら、宜しく頼むよ。」

「はい!お任せください!」


店の前に着くと、すぐに店の中から店主らしき男が出てきて挨拶をする。


「これはこれは、スペンサー家のご子息様にこんな田舎の道具屋にご来店頂けるとは、光栄の極みでございます。さっ、皆さまどうぞお上がりください。」


中に上がると応接室に通されて、応接用のソファーに座ると使用人がハーブティーを運んでくる。グレース達は3人とも直立不動で俺の後ろに控えている。


「ただ店を覗きに来ただけなんだが、気を遣わせてしまってすまんな。」

「滅相もございません。聖騎士様のご子息の方にお立ち寄り頂けたことだけでも、地元では評判になりますので、本当に有難いことです。」

「それなら良いのだが。ところで、この店にはどんな商品があるんだ?」


「はい、普段お店に並べている商品は日用雑貨や、調味料、保存の効く食料品です。あと、地元の方々から必要に応じて注文を受けて、仕入れるようになっております。」

「何か、この地方の特産品みたいなものはないか?」

「そうですね、ここであるものでグレースで手に入らないようなものといえば・・・。ローヤルゼリー等はグレースでも珍しいのではないでしょうか。」

「ローヤルゼリーは働き蜂が、女王蜂の為に作る餌で、それを食べ続けた女王蜂は普通の蜂よりも30倍~40倍も長生きします。人間がこれを食べると疲労回復の効果があると言われております。」

「ハチミツならグレースでも買えるが、ローヤルゼリーというのは初めて聞くな。なんで、あまり流通してないんだ?」

「ハチミツに比べて少量しか採れないのと、ローヤルゼリーの効果は一般的にあまり知られておりませんので、グレースではあまり売れないのです。ですから、養蜂農家が自分達で消費したり、近所の人に配ったりするのが一般的ですね。」

「なるほど。それはここで買えるのか?」

「はい、今すぐですと、小瓶で2瓶だけ在庫があります。1瓶6,000カロスですが、2瓶で10,000カロスでお譲り致しますよ。」

「じゃあ、2瓶もらおうかな。」

「ありがとうございます、すぐにお持ち致しますので少しお待ちください。瓶に入れて密封しておけば保存も効きますので、お土産にも良いですよ。」


店主が使用人に商品を持ってこさせて、布の袋に入れて商品を渡してくれたので、俺は袋代は良いのか聞いたが、将来の取引のこともあるからサービスしてくれるとのことだ。

そのあとも、軽く雑談をして、食事の時間が近くなったので俺たちは宿屋に戻った。

自室の部屋に入ると、すぐに違和感に気づいた。


「あっ、兄さんお帰り!」

「おい、ラルフ。その人はなんだ?」

「これ良いでしょ!さっきここの主人にもらったんだよね。」

「ちょっと意味がわからん。ちゃんと説明しろ。」


床には首輪に鎖で繋がれた少女が座っていて、その鎖をラルフが持っていた。


「さっき、部屋にこの宿屋の主人が訪ねてきて、どんな条件でも良いから娘を連れてってくれって言うから、有難くもらったんだよ。」


少女は会話をしている俺とラルフを交互に見ながら不安そうな顔をしている。


「いいから、返してこい!おまえ、領民を奴隷なんかにして、スペンサー家の評判が悪くなったらどうするんだよ!」

「くれるって言うんだから良いじゃん。それにこの娘だって、喜んでるみたいだよ?」


ラルフが少女の方を見ると、少女は慌てて立ち上がる。


「えっ、あっ、はい。あの、聖騎士様のご子息にどんな形であれお仕えできて幸せです。」

「いや、ちょっと待って。奴隷って意味わかってんの?」

「あっ、はい!大丈夫です!」

「ほら、兄さん、この娘もこう言ってるんだから良いでしょ?」


コンコン

「あー、ちょっと今忙しいんで、あとからにして下さい。」


しかし、ノックした主はドア越しにそのまま話しかけてくる。


「すいません、この宿屋の主人でございます。」

「そうか、丁度良いところに来た、入ってくれ。」


宿屋の主人は奥さんと二人で頭を下げながら部屋に入ってきた。


「すいません、先程はギルフォード様がご不在のようでしたので、後ほどギルフォード様にもご挨拶をするつもりでしたが、娘のことで何やら揉めている様子でしたので、お話の途中に失礼させて頂きました。」

「え?この娘は主人の娘さん?弟が大変申し訳ないことをしました!おい!ラルフ!すぐに首輪を外せ!」

「いえいえ!そのままで結構でございます!私がラルフ様に無理を言って娘を連れて行ってくださるようにお願いしたのでございます。」

「は?ちょっとあんた一体何考えてるんだ?自分の娘が奴隷になってもいいのか?」

「はい。その子は7人兄弟の長女でございまして、私達が宿屋の仕事が忙しく、下の兄弟達の面倒をずっと見せておりましたが、頭の良い子なんですが学校にも行かせてあげられず、不憫な思いをさせておりました。また、学校にも行っていないので、将来も貧乏農家くらいしか嫁ぎ先はなく、何かその子の為にしてあげられることはないかとずっと妻と考えておりました。そんな時に聖騎士様のご子息のお二人がこちらに宿泊して頂けると聞いて、娘とも相談した結果、例え奴隷としてでも聖騎士様のご子息にお仕えできればということで、ラルフ様にお願いしたところ快く引き受けて頂くこととなりました。」


今度は奥さんが俺の足元に膝をついて目には涙を浮かべて懇願してくる。


「この子は読み書きや計算等も出来ませんが、身の回りのお世話と、我娘ながら器量もそこそこですので夜のお伴もできます。なんとかお願いします。」


なんなんだこの状況は!くそめんどくせー!こんなこと承諾したら確実にオズワルドにキレられるだろ!それに、実の母親が娘に夜のお伴までさせようとするもんなのか普通!なんかイライラしてきた!


「とりあえず、落ち着け!!さすがにトライデン騎士領の領民を奴隷として引き取るわけにはいかない。」


少女とその両親は落胆の表情を浮かべる。ラルフも明らかに不満そうな顔をするが無視することにする。


「しかし、食事付きの住み込みメイドとしてなら雇ってやる。俺らは男所帯だから食事の支度や洗濯、掃除も相当キツイだろう。そして、給金は月に5万カロスしか出さない。それでも良いなら付いてこい。」


それまで黙って下を向いていた少女が、大喜びで俺の手を握ってくる。


「ありがとうございます!本当にありがとうございます!私なんでもやります!一生懸命働きますから、よろしくお願いします!あっ!ごめんなさい!勝手に手を握ってしまって!」


少女はそう言って慌てて謝るが、握られた手は一向に放してはくれない。そして、お礼の言葉を連発しまくっている。両親も安堵の表情を浮かべ、夫婦で良かったなと頷きあっている。


あ~、やっちまったな~。まぁ、どうせメイドは向こうに着いたら雇うつもりだったから良いか。それに相場の半額で雇えるなら儲けもんだな。


「そう言えば自己紹介がまだでした。私の名前はメアリー・オルセン、15歳です!特技は裁縫です!一生懸命頑張りますので宜しくお願いします!」

「おう。じゃあ、メアリー宜しく頼むわ。俺はギルフォード・スペンサー、15歳。」

「僕は弟のラルフ・スペンサー、14歳だよ。奴隷にできなかったのは少し残念だけど、宜しくね。」

「はい!頑張って立派なギルフォード様の子どもを産みます!」

「!!!!!!!!!!!!!!!!」

何言っちゃってんのーこの娘!なにサラッと凄いこと言ってるよー!完全に勘違いしちゃってるよ!そして、両親!ニコニコしてんじゃねー!!!

「あっ、あのなメアリー、そういうのじゃないから。メイドの仕事だけしてくれれば良いから。」

「そうなのですか・・・。」

こいつ何がっかりしてんだよ!見かけによらず腹黒いのねこの娘!

「とりあえず、仕事のことは執事のオズワルドに聞いてくれ。おーい!誰かオズワルドを呼んでくれ!」


完全に見計らったようなタイミングで、入口の外で全てを聞いていたオズワルドが部屋の中に入ってくる。


「お呼びですか、ギルフォード様。」

「おまっ!外で全部聞いてたなら、俺を援護しろよ!」

「私はギルフォード様がどのような裁定を下すか、見守らせて頂いておりました。さすがわ、聖騎士家の長男でいらっしゃいますな。なかなかの裁定でしたよ。」


こいつ・・・。絶対俺が困っているのを見て楽しんでやがった・・・。


「じゃあ、そういうことだから後は頼むわ。」

「はい、ギルフォード様。」

「とりあえず俺は腹が空いているんだが、いつになったら食事を食べられるんだ?」

そう言うとメアリーの両親が「すいませんっ!」と言いながら慌てて、厨房に向かって走っていく。オズワルドもその後に続く。

「それと、メアリー!」

「はいっ!」

「明日は5時半に俺達と一緒に朝食、6時半に出発だ。今からおまえは俺の部下だ、寝坊は許さないからな、荷造りを済ませて今日は早めに寝ろ。いいな?」

「はいっ!ご主人様!」


メアリーは満面な笑みのまま、大急ぎで自分の部屋に戻っていった。

あっ、あいつ首輪付けたままだな。まぁ、気づいたらさすがに自分で外すよな。


「ところで、兄さん。せっかくタダで奴隷が手に入ったのに、なんてことしてくれるんだよ。クラテスに着いたら代わりの奴隷一人買ってよね。」

「今回は仕方ないだろ、それにトライデン人を奴隷にするのは禁止されているのはおまえだって知っているだろ。」

「それはそうだけど、あの娘は絶対兄さんに気があるし、僕も何でも言うこと聞いてくれる人が一人欲しいんだけど。兄さんだけズルイ!」

「うるせーなー、わかったよ。じゃあ、クラテスに着いたら一人奴隷買おうぜ。けど、金はおまえも半分出せ。そしてあの娘は奴隷じゃなくメイドだからな。別に何でも言うこと聞かせられるわけじゃないから、ズルくはないだろ。」

「やったー!僕ずっと奴隷欲しかったんだよねー。」

「買うのは良いが、殺すなよ。いくら奴隷だって罪人以外を殺したら、評判が悪くなるからな」

「さすがに殺さないって。それに、ちゃんと面倒も見るから大丈夫!」

「まぁ、わかったよ。クラテスに着いたら最初に奴隷商に行ってみようか。」

「うん!早くクラテス行きたいなー。待ち遠しいなー!」


コンコン


「お食事をお持ちしましたー!」


メアリーの両親が、食事を持って入ってくる。


「ギルフォード様、ラルフ様。大変お待たせ致しました。本日は私と家内が腕によりをかけて名物のイノシシ料理を作りました。」


部屋のテーブルには次々と料理が並べられていく。


「こちらが、イノシシのロースト。そしてこちらがイノシシの赤ワイン煮、季節のハーブサラダ、ジャガイモの冷静スープ、デザートは野イチゴのタルトでございます。」

「おー!これは凄い!」

「いただきまーす!」


確かにここの宿の料理は美味しかった。

テーブルいっぱいに所狭しと広げられた料理を、ラルフと二人で全て平らげてしまった。

特にオズワルドがゴリ押しのイノシシ料理は絶品で、もしグレースで店を出したら間違いなく大繁盛するだろう。でも、ここの地元の食材で作ったものだから、グレースで同じ味で出すのは難しいのかな。


その後、店の主人が持って来た桶のお湯で体を拭いてから、灯りを消してベッドに入った。


「ねぇ、兄さん起きてる?」

「ああ、どした?眠れないのか?」

「うん。生まれてからほとんどグレースから出たことないのに、昨日は野営で馬車の中で寝て、今日は田舎の宿屋で寝るって何か不思議だなーって思って。」

「そうだなー、屋敷以外で寝ることってなかったもんな。」

「でも、僕は兄さんが一緒に来てくれて良かったよ、さすがに一人だと少し不安だったからさ。」

「なに、おまえ死ぬの?」

「いや、普通にそう思っただけ。明日からもまた楽しみだな~。」

「馬車だと尻が痛くなるのが俺は嫌だけどな。」

「この枕をお尻の下に敷いたらどうだろ?」

「あっ、それいいかも!これ結構ふかふかだからな。明日店主に頼んで譲ってもらおうか。」

「これで少しは旅も楽になりそうだね。」

「だといいな。んじゃ、そろそろ寝ようぜ。」

「うん。おやすみなさい。」

「おやすみ。」


翌朝


「おはよーございまーす!ギールーさーまー!起きてくださーい!」


んっ、体が妙に重たい・・・・。何かが上に乗っているようだ。恐る恐る目を開けると…。メイド服姿のメアリーが俺の上に馬乗りになって、俺の顔を覗き込んでいた


「うわっ!なにしてんだメアリー!てか、おまえそんなキャラだったの?」

「はい!昨日は少し緊張してましたけど、ギル様はお優しい方なので、もう大丈夫です。今日から毎日私がギル様を起こしに来ますねっ!」


すると突然、枕が飛んできて、メアリーの顔にめり込む。


「おい、そこのメス豚!兄さんの上で何してんだコラ!早くどけろコノヤロー!」

「あら、ラルフ様、起きてたんですね。」

「テメェがうるさいから起きたんだろーが!いいから早く兄さんから降りろ!」


ラルフは剣の柄に手を添えてメアリーを睨みつける。そしてメアリーも負けじとラルフを睨み返す。


「おい、二人ともいい加減にしろ!とりあえずメアリーは降りろ、そしてラルフは剣を置け!」


渋々とメアリーがベッドから降りるのを確認すると、ラルフは剣を自分のベッドに置いた。


「おい、メス豚。どういうつもりか僕に説明してもらおうか」

「私はギル様のメイドですから、ご主人様を起こしに来るのは当然です。」


なに朝からこの殺伐とした空気は!こいつら、いきなり何でこんなに仲悪くなってんだよ!まぁ、確かにラルフはメアリーを奴隷にしようとして首輪まで付けてたから、仕方ないような気もするけど…。


「まぁまぁ、二人とも落ちつけよ。とりあえず、メアリー。あの起こし方はもう今後やめてくれ。ラルフはそう殺気立つな、次から気を付けてくれればそれでいいから。」

「はいっ!さすがギル様は懐が深いです!」

「まぁ、僕は兄さんがそれで良いなら良いんだけど…。」


ラルフの表情は超不満そうだけど、口ではこう言っているし、面倒だからスルーしよう。


「じゃあ、着替えてから食堂に行くから、メアリーは先に行っていてくれ。それと、荷物に枕を忘れないようにな。」


メアリーは少し不思議そうな顔をしていたが、元気に返事をして部屋から出て行った。

俺達も身支度を終えて、1階の食堂で兵士達と一緒に食事を食べた。

そのときに、宿屋の主人に客室の枕を二つ売って欲しいとお願いしたら、お金はいらないと言って快く譲ってくれた。


食事を済ませた俺達は宿屋の前まで、お見送りに出てきた宿屋の主人と奥さんに礼を言って馬車に荷物を積み込んだ。その間にメアリーは両親や弟達に別れを告げて、俺の隣に走ってきた。

「ギル様!お待たせしました!」

「もう、別れの挨拶は良いのか?しばらくは会えなくなるぞ。」

「はい。一生戻れないならそれでも良いと思ってますから、大丈夫ですよ。それより、兵士の皆さんに自己紹介させてください。」

「そうだな、今のうちに紹介しておこうか。」


近くに立っていたノーマンに言って、兵士達を整列させると、メアリーが1歩前に出る。


「皆様、お時間を頂いてありがとうございます。私は本日より、ギルフォード様の専属メイドとなりました、メアリー・オルセンと申します。主にギルフォード様の身の回りのお世話等をさせて頂きます。」


ん?専属メイドって言った?屋敷のメイドとして雇ったんだけどな。

訂正しようとメアリーに声をかける直前にオズワルドが俺の袖を引っ張って、耳打ちする。

『すみません、ギルフォード様にお伝えする前でした。屋敷の使用人は既に用意してありますので、昨日私があの娘に、ギルフォード様の専属メイドとなるように言ったのです。もちろん給金はギルフォード様がお支払することになりますが。』

『おまっ!マジかよ!』

『申し訳ございません。そういうことですので、宜しくお願いします。』


オズワルドは言いたいことだけを伝えて、俺から遠ざかっていく。

俺が言いだしたことだから撤回するわけにもいかないか・・・。


「そういう訳だから、皆宜しく頼む。」

「「「はいっ!」」」

「それじゃあ、出発するか。よし!皆持ち場に戻ってくれ!」


兵士達が持ち場に戻り、俺とラルフとオズワルド、メアリーの4人で馬車に乗り込む。

「なぁ、ラルフ。あれ使ってみようぜ。」

「うん…。」

「ん?どうした?気分でも悪いのか?」

「いや、って言うか…。何でメス豚が兄さんの隣に座ってんだよ!」

「まぁ、専属メイドみたいだから。気にしないことにした。」

「駄目だよ!メイド風情が兄さんの隣に座るなんてずうずうしい!」


「だったら、ラルフ様。私はギル様の向かえの席に座って、旅の間ずーっとギル様と見つめ合っておりますわ。どうぞ、席を代わってください。」

「てめーっ!!!」

「ははははは!!!ラルフ様もメアリーも、ギルフォード様が大好きでございますな。それでしたら、休憩ごとに場所を交代してはいかがですか?」

「ああ、それでいいだろう。ラルフもメアリーもいいな?それと、おまえらあんまり小さいことで喧嘩すんなよ。」

「「はーい」」


こうして、新たに賑やかな旅の仲間を迎えて、俺達は次の目的地へと向かった。




ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。

明日も21時に投稿予定です。


次話はからドミトリーの日本での研修が始まります。

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