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第2話  ドミトリー・スモレンスキー

本日はドミトリーのお話です。


西暦2019年2月16日<ロシア モスクワ郊外>


菊池と契約してから3日後の朝。

昨日から俺は目が冴えていて一睡もしていない。こんなに緊張したのは何年振りだろうか。

菊池との会話が終わって電話を切ったあと、これは夢だったのじゃないかと何度も考えたが、サイドテーブルに置いたままのコーヒーカップと名刺を見て、現実だと確認する。

それにしても、35歳にもなってこんなに胸を騒がせるようなことがあるとは思ってもいなかった。そして、こんなに不確定要素が多く、リスクの高い仕事を受けたことに若干の後悔もしている。武器商人として独立してから約5年、危ない場面もたくさんあったが、事前に危険を察知し、なんとか生き抜いてこられたのはリスクを可能な限り把握し、検証を怠らなかったからだろうと思う。しかし、今回は実際に奇跡のようなことを目の当たりにし、自分の好奇心を抑えることができなかった。


プルルルルルルル!プルルルルルル!

転送機能付きのスマホの着信音が鳴る。ディスプレイには非通知着信と表示されている。

「はい、もしもし。」

「もしもし、スモレンスキー様ですか?」

「はい。」

「私はドリームクリエーションの菊池です。先日はご契約頂きまして、誠にありがとうございました。」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」

「さて、先日お話した研修についての日程が決まりましたのでご連絡でした。今からご案内の書類等を送りますので、その電話の画面をどこか平らなところに向けてください。」

サイドテーブルの上に向かって、画面を向けると、「研修のご案内」と書かれた用紙と、航空券が現れた。


「届きましたか?」

「はい。研修のご案内と書かれた書類が1枚と、航空券が1枚届きました。」

「ありがとうございます。研修についてはご案内に書いてある通り行いますので、宜しくお願い致します。なお、この電話を最後に私の担当業務は終了でございます。短いお付き合いでございましたが、どうもありがとうございました。今後のことについては全て研修で説明がありますので、ご安心ください。」

「そうなのですね。こちらこそ短い間でしたが、ありがとうございました。それと、菊池さんの淹れたコーヒーは本当に美味しかったです。」

「ありがとうございます。スモレンスキー様の今後の活躍をお祈りしております。それでは、失礼致します。」


社員のクラスごとに、限られた情報しか与えず、情報が外部に漏えいした場合でも、一部の情報しか漏れないようにしているのだろうか。きっとプロジェクトの全貌を知っている人間はごく一部の経営幹部だけなのだろう。

とりあえずこの「研修の案内」を読まないことには始まらない。


ドミトリー・スモレンスキー 様

「研修のご案内」

拝啓

この度は、弊社と加盟店契約を締結して頂き、誠にありがとうございます。

また、研修への参加にご協力誠にありがとうございます。

さて、下記日程で研修を行いますので、ご確認ください。

敬具

日 時 2024年2月18日 午前11時

期 間 2024年2月18日~2024年3月3日

場 所 東京都品川区東品川○-○ ドリームホテル B会議室

以上


次に航空券を見ると今日の13時05分発の便になっていた。腕時計を見ると午前9時を少し

過ぎた辺りだ。俺はすぐに部下に電話でこれから日本に出張に行くことと、俺を空港まで車で送るように伝えた。

ベッドを整え、カーテンを閉じ、ガスと水道の元栓を閉め、予め準備をしていた出張用の荷物を持ってマンションから出ると、既に部下が俺のBMWをマンションの前の道路に停めて車から降りて待機していた。

「社長、おはようございます!」

「おう、急な呼び出しで悪いな、ニコライ。」

「いえいえ、同じマンションに住んでるから、すぐですよ。」

そう言ってニコライはいつものように後部座席のドアを開けて、俺が完全に乗りこんだことを確認してからドアを閉め、自分は運転席に乗る。

「シェレメーチエヴォ国際空港まで頼む。」

「了解です。何時の便ですか?」

「13時05分だ。」

「だったら、まだ余裕ですね。安全運転で行きますわ。」

ニコライは車を発進させて、鼻歌を歌いながら楽しそうに運転している。

「今回は日本人との取引ですか?」

「相手は日本人ではないが、今回は日本に用事があってな。」

「へぇ~、日本って柔道のイメージくらいしかないんですけど、どんなとこなんですかね?」

「とにかく治安が良くて、何でもある国だな。俺は12歳まで親父の仕事での都合で日本で育ったんだが、モスクワに帰ってきてすぐに日本が恋しくなったよ。今でもたまに日本の映画とかドラマを見たり、マンガなんかも読んでるから、日本語は話せるし、読み書きもある程度はできるぞ。」

「ええええっ!社長って日本出身だったんですね!初耳でしたよ!」

「そんなに驚くことかよ。良くSUSHI BARにお前らと一緒に行くだろ。それに、特に仕事では日本語を使う機会もなかったし、敢えて言うことでもないからな。」

「だから、毎回SUSHI BARんですか!確かに日本語を使う機会はないですけど・・・。今度は俺も日本に連れてってくださいよ。」

「おう、今回の仕事が上手くいけば相当儲かる仕事だからな、ある程度落ち着いたら全員で日本に観光に連れてってやるよ。」

「やった!ところで、今回はどんな仕事なんですか?」

「実は俺もまだ詳しいことは聞いてないんだけど、安全で大金が手に入る取引をできるようになるかもしれない。だから、戻ってきたたら全部説明する。」

「わかりました、お土産期待してます!」


俺は胸ポケットから日本産の「メビウス」というタバコを取り出し、火を付ける。

ロシア産のタバコは日本産のタバコの10分の1以下で買えるが、俺にはキツイのと不味過ぎて吸えないから、わざわざ高くて手に入りずらい日本産のタバコをもう10年以上吸っている。

俺の親父はロシアの貿易会社の役員だった。ヘビースモーカーだった親父は俺が22歳のときに肺癌で死んだ。その姿を見てからは、禁煙しようとしたが、結局は禁煙には失敗して、気休めではあるが日本産のタバコを吸うことにした。


機内ではタバコを吸えないので、立て続けにタバコを3本吸って、ニコライと仕事の話やニコライの彼女の話等をしている間にシェレメーチエヴォ国際空港に到着した。

ニコライは車を降りて、トランクから俺の荷物を取り出してから、俺が乗っている席のドアを開け、俺が完全に降りたのを確認してからドアを閉める。

「忘れるところだった、さすがに機内には持ち込めないから、預かっててくれ。」

そう言って俺はスーツのジャケットを脱ぎ、拳銃(MP-443)を入れたままのショルダーホルスターを外してニコライに渡した。

「了解です。帰りも迎えに来るんで、飛行機の時間がわかったら教えてください。」

「おう、それじゃあ留守は頼んだぞ。」

「任せてください!」

「じゃあ、行ってくるわ。」

「お気を付けて!そしてお土産を忘れずに!」

俺は振り返ることなく、右手を上にあげてニコライに返事して、空港に入る。


雑誌を1冊とサンドウィッチとミネラルウォーターを買ってから搭乗手続きを済ませて機内に入った。お腹が空いていた俺は席に着いてからすぐにサンドウィッチを食べ、離陸を確認してから軽く雑誌を読んでいたが、昨日から一睡もしていなかった俺は、成田までの約10時間を寝て過ごすことにした。


ここまで読んで頂いた方、ありがとうございます!

明日も21時の投稿を予定しております。


次話はとうとうヒロインの登場です。

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