第8話 奴隷商人
クリストール歴2019年2月22日<トライデン騎士領 ギルデア>
宿に着いた俺達はジョン・ベーコン中隊長に挨拶に行ったときとのメンバー6人にメアリーを加え、女盗賊3人を連れて奴隷商に向かうことにした。
「ねぇ、兄さん!僕、奴隷商に行くの初めてで興奮が収まらいよ!」
「グレースには奴隷商はないもんな。良いのが見つかればここで買おうぜ。」
「え!ここで買っても良いの!?やった!最近は兄さんがそのメス豚にばっかり構ってる
から、そろそろ殺害の計画を立てなきゃって思ってたんだ。」
メアリーは一瞬怖い顔をしてラルフを睨みつけるが、ラルフは気にしていないようだ。
「お、おう。」
それにしても、あぶねー!!コイツが我慢の限界超えたら何するかわからないからな。本当にメアリーを殺害しかねない。危ないところだった。多少高くても今日中にラルフに奴隷を買い与えなければいけない。
「ところで、おまえはどんな奴隷が欲しいの?」
「そうだなー、やっぱりドMの女っていうのは普通過ぎるから、逆にプライドの高そうな女がいいな。ホントはさっきから僕にガン付けてるそこのメス豚を廃人にしてやりたいところだけど、兄さんが飽きるまで我慢するよ。」
「ギル様は私を飽きたりしません!」
「どうだろうな~。兄さんは結構飽きっぽいからな~。昔兄さんと二人で捨て犬を見つけて、兄さんがどうしても飼いたいって父上にお願いして、なんとか許してもらって飼うことになったんだけど、1週間くらいで飽きて結局使用人が全部世話してたもんな。それに、メアリーはドブスだしすぐ飽きると思うんだよな~。」
「ギル様は私のこと可愛いって言ってくれました!」
「ふ~ん。なに?女の武器でも使ったの?さすがメス豚だね。兄さんはその場のテンションに流されるとろこがあるからね~。そういうこともあるんじゃない?良かったね、今は可愛いって言ってくれてて。」
うん、そろそろ止めないとマズイよな。メアリーも拳を握りしめてプルプル震えながら、唇を噛んでるし。
「まぁ、なんだ。二人ともその辺にしとけよ。そろそろ着くぞ。」
奴隷商は街の中心部の大手商会の支店が集まっている通りにあった。
外観は普通のレンガ造りの3階建ての店舗で、看板には「クーロン商会 ギルテア支店」と書かれている。
「こちらがギルテア唯一の奴隷商でございます。」
オズワルドが店の扉をノックすると、中からシルク生地の異国の服を着た目の細い男が出てきた。
「どんな御用アルか?」
「奴隷を売りに来た。」
「おお!それは良く来たアル!中に入るヨロシ!」
この話し方と、着ている衣装からしてワンタイ国の人間だろう。
俺達は商会の応接室に通された。俺とラルフがソファーに座ると、ワンタイ人の商人もオズワルドとメアリーはソファーの両側に立つ。ソファーの後ろにはノーマン達が女盗賊を連れて立っている。
「ワタシはここの支店長のワン・チェンというアル。」
「ギルフォード・スペンサーと隣が弟のラルフだ。」
「おお!聖騎士家の息子アルね。よく来たアル!売りに来たのはそこの3人アルか?」
「そうだ、こいつらは盗賊で、ここに来る途中で集落を襲っていたところを捕らえた。」
「若い女は買い手に困ることは少ないアルが、盗賊というのが残念アルね。よく見させてもらって良いアルか?」
「構わん。自由に見てくれ。」
ワン・チェンが女盗賊達を見ている間に、ワン・チェンと似たような服を着た使用人がウーロン茶を二人分運んできた。ウーロン茶はトライデン騎士領では珍しい。ラルフとウーロン茶を飲みながら値付けが終わるのを待っていた。
「なかなかアルね。右の女が90万カロス、真中の女が顔に少し傷があるから70万カロス、左の女は胸が大きいから110万カロス。それと、今後も聖騎士家の人とは仲良くしたいアルから、おまけして3人で300万カロスで良いアル。」
「わかった。それで頼む。」
「商談成立アルね。お金用意するからちょっと待ってるアル」
ワン・チェンとその使用人が女盗賊3人を連れて、部屋から出ていき、数分後に金貨の入った袋を持って戻ってきた。
「待たせたアル。ここに1オンス金貨が20枚入ってるから数えるアル」
俺はワン・チェンから金貨の入った袋を受け取り、そのままオズワルドに渡す。
「確かに、1オンス金貨20枚あります。」
「うん、じゃあそのまま預かっててくれ。」
「承知しました。」
「ところで、俺達は良い奴隷がいたら買おうと思っているんだが、これから奴隷を見られるか?」
「もちろんアル!どんな奴隷を探してるアルか?」
俺はラルフに視線を送る。
「女の奴隷が良いんだけど、全員見せてもらえる?」
「良い奴隷たくさんいるアルよ。奴隷部屋に案内するから、付いてくるアル。」
俺達はワン・チェンの後を付いて、3階の奴隷部屋に行く。
奴隷部屋は男と女でフロアが分かれていて、2階は男部屋、3階は女部屋で、3階の女部屋には30人程の奴隷達がいた。ワン・チェンの指示でそこにいた奴隷達を全員俺達の前に整列させた。
「全部で32人いるアル、ゆっくり見ると良いアル。」
奴隷達は皆同じサテンの白いワンピースを着ていて、俯いたままもものや、こちらを睨みつけているもの、無表情で宙を見ているものと様々だ。年齢は13~35歳までいるらしい。奴隷達は商品なので、風呂にも入れるし、食事もきちんと3食与え、髪も毎日梳かしているとのことだ。
「兄さん、凄いね!どれでも良い?」
「あぁ。どれでも良いぞ。」
ラルフは一人一人の前で顔を覗き込んでいき、3人の奴隷を前に出させて、一人ずつ自己紹介をさせた。
「アンナ、19歳です。出身はノースグランデ王国で、トライデン騎士領との戦争で村が占領され奴隷になりました。家事等は一通りできます。宜しくお願いします。」
アンナは身長155㎝くらいの栗毛の白人。ワンピースの上からでも胸が目立つほどの巨乳。顔は中の中くらいで若干タレ目でぼんやりした雰囲気だ。
「うちはエリカ、17歳や。もともとはイスタニア共和国の商人の娘だったんやけど、オトンが死んでもうて、オトンが残した借金の方に親戚に売り飛ばされたんや。読み書きと計算ができるで。」
イスタニア訛りのレイは身長160㎝くらい、黒髪の黄色人。スタイルは可もなく不可もなく、顔は中の上くらいで、目が少しギラついている。
「エマ・フォン・ライナー。15歳。」
エマは俺達が部屋に入ってからずっと、こちらを睨み続けていた少女だ。身長は155㎝くらいで、胸の下くらいまである軽くウェーブのかかった金髪の白人。胸はおそらくBカップくらい。顔は中の上くらいでどこかしら気品のある顔立ちをしている。しかし、こっちを見る目つきが怖い。
ラルフはエマの前に立つと、エマの顎を持ち上げてまじまじと顔を見る。その間もエマはラルフを一段と強く睨みつけている。
「この女はいくら?」
「さすがは聖騎士家の方、お目が高いアル!その娘は先週入ったばかりで、お客さんに見せるのは初めてアル。性格はキツイが元サウスグランデ王国の没落貴族の娘で、まだ処女アル。この娘はすぐ買い手が付くアルが、お客さん運が良いアルよ。でも今日は奴隷を連れて来てくれたから600万カロスで良いアル。お買い得アルよ。テムリ大陸で売ったら1000万カロスはくだらないアル。」
「ふーん。気に入ったけどちょっと高いね。しかもさ、さっきからコイツ俺の足を思いっきり踏みつけてるんだよね。気が強いにも程があるね。痛いなー骨折したかも。」
ラルフの足元を見ると、確かにエマの片足は思いっきりラルフの足を踏み、つま先でぐりぐりと抉るように動いていた。
「チョット!せっかくのカモに何してるアル!」
ワン・チェンはエマの頬を強く叩いた。エマはよろめいて尻もちをつき、頬は真っ赤になっていたが、泣きもせずラルフを睨んだままだった。
「オズワルド、見てよ。僕の足骨折してるよね?」
「はい、見事に骨折しております。これはすぐに病院に行って、騎士団にも通報しなければなりませんな。」
「聖騎士の息子に怪我させたって聞いたらジョン・ベーコン隊長怒るだろうな~。」
「ちょっと待つアルよ。そんなことで骨折なんて…」
「ねえ、誰がカモだって?舐めるのも大概にしろよ。それにその奴隷、頬が真っ赤だよ?これはすごく腫れるね。傷物だよね。それ欲しいのに。」
「もう悪かったアル!半額でいいアルよ!」
「うん、ありがとう!それから病院代と慰謝料を引いて、150万カロスで決まりね。あー足痛い。これ歩けないわ。兄さん、肩貸して。」
ギルフォードは何とも言えない顔をして肩を貸した。
「盗賊より性質が悪いアル…。怖いアル…。」
ワン・チェンはボソッと呟いたが、誰も反応しなかった。
「とにかく、お買い上げありがとうございますアル。準備があるから応接室で待ってるアル。」
応接室ではウーロン茶が出され、一口飲んだギルフォードは苦い顔をして言った。
「ラルフ、あれはないんじゃないのスペンサー家の評判にも関わるし…。」
「なにが?ワンタイ人はぼったくりで有名だよ。賢く立ち回らないと、すぐにお金が底をついちゃうよ。」
「ラルフ様、さすがでした。私もあまりのふっかけに口を出そうか迷いましたが、余計なご心配だったようです。良い買い物ができましたね。相場よりかなり安いですよ。」
「しかし、あの子で大丈夫なのか?すごく気が強いみたいだけど…。奴隷どころか敵意むき出しだ。」
「うん、すごく好みの子なんだ!それに兄さんも僕の気に入らないメス豚を飼っているじゃないか。あいつの兄さんへの振る舞いを見てると、殺意を抑えるのに精一杯だったんだ。ストレスが尋常じゃなかったよ。兄さん、素敵な奴隷をありがとう!」
「…。」
ラルフがニコニコと上機嫌だったので、それ以上突っ込むのはやめた。
しばらくして、ワン・チェンは暗い顔でエマを連れて入ってきた。エマは着替えてきたらしく、メイド服を着ていた。
「お待たせしたアル。お金は用意できたアルか?」
俺達が応接室で待っている間にオズワルドが用意した金貨袋を渡す。
「1オンス金貨10枚だ。確認してくれ。」
ワン・チェンは金貨を受け取り、無表情で金貨を数えていた。
「確かに1オンス金貨10枚受け取ったアル。今日は取引ができて嬉しいアル。もう弟さんに奴隷を売るのはチョット嫌アルが、また連れて来てくれるのは大歓迎アル。男でも女でも買い取るアルよ。」
「残念だが、俺達はこれからクラテスに住む予定なんだ。」
「それだったら、クラテスにもワタシの弟がやっている支店があるから紹介状を書くアル。ちょっと待ってるアル。」
ワン・チェンから紹介状を受け取り、エマを連れて俺達はクーロン商会を後にする。エマを連れて歩くラルフの足取りは軽かった。
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