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1-4 『少女』


「夢か」


寝ていたのかすら怪しく思ったが、この倦怠感に包まれた感覚は、目覚めた時のそれと、よく似ていた。



「ははっ、にしても僕が人を助けるとか…夢ながら傑作だね」


先程まで見ていた夢が朧気に思い出される。


夢の向こうにいた彼のように武器を構え、まるで正義のヒーローのように女の人を助けた僕。


全く、人を信じられない僕が命を掛けて人を助けるわけないじゃないか。


そしてふと思い出す。 それもそうだ。夢の僕は死ぬ前にちょっとした心変わりと言うか、どうせ死ぬのだからせめて……と言う気概で助けたのだった。


そして、夢だった。


「……ま、死ななくてよかったかな…」


今にして思えば夢の中の僕は少しおかしかった。


異世界に来たのに帰りたいと思わず、盗賊に切りかかったり………


まあ夢で良かった。


そう思い起き上がろうとすると、腹に……夢でナイフが刺さった腹に、激痛が走った。


「ふぅっ!?……ぐっ、い、たいっ」


痛い。この痛みは、なんだ。


布団を退かすと、そこには包帯に包まれた腹が見えた。


「夢じゃ…なかった?……こ、ここ……部屋じゃない………どこだ?」


痛みを堪えながらゆっくり起き上がると、部屋の全貌が見えた。 木で作られた壁に木で作られた小さな円卓。現代日本ではあり得ない部屋だ。


明らかに僕の部屋じゃない……いや、僕の家じゃない。


ガチャッ……


部屋を見ましているとその部屋の扉が開いた。


「あっ……起きたんですね!」


その扉から現れたのは、あの時盗賊に襲われていた女の人。……よく見ると、僕と年齢が近そうな少女だった。


栗色の髪と鮮やかな緑色の瞳の少女は、その表情を明るくし、パタパタと足音を立てて駆け寄って来た。


「お腹の痛みはどうですか?。治癒術師の方に見ていただいた所、凄く痛むだろうけど、二、三日で治るとのことですが……」


包帯に巻かれた僕の腹を憂いの込められた目で見られた。


「だ、大丈夫です。それより、僕どれくらい寝てましたか?」


僕の目を見て話しかけてくる少女の視線に耐えきれず、視線を逸らしながら聞く。


傷の痛みだけでなく、食べ物を欲しがった腹の痛みも感じたからだ。


「二日です。何か食べますか?治癒術師の方に、起きたらご飯と水を、と言われたのですが」


「あ、ん、……ほ、欲しいです」


僕の今の状態を予言したその治癒術師なる相手に軽く感謝しながら僕は頷き、チラと少女に視線を向けた。


「はい!直ぐに用意しますね!」


ペカー、と後光を光らせながら微笑んだ少女は踵を返すとパタパタと足音を立てて部屋の外へ出ていった。




「…………う、うわぁ…」


触れた頬が熱くなってるのに、僕は胸を高鳴らしながら声を漏らし。


あの笑顔は卑怯だ。あんな笑顔されたら好きになっちゃうよ。


手で軽く扇ぎながら苦笑した僕の表情は、久方ぶりに向けられた純粋な好意ににやけていたことだろう。






僕が目覚めてから二日。


彼女……いや、メリルさん(自己紹介と助けたお礼を言われた)から聞いた治癒術師って人の言う通り、僕の腹の傷と痛みは綺麗さっぱり無くなっていた。


怪我が完治した事を告げると、メリルさんはここの家の主であり村の村長だと言う白髪のおじいさんを連れて来た。


「わしはこのコルシンの村の村長で、イヴォルと申しますじゃ。この度は孫のメリルを助けて頂き、誠に、ありがとうございました」


「あ、あの!そこまでしなくても!」


おじいさんは床に膝をつき平伏してきた。所謂土下座である。

確かに僕が助けたのだろう。しかしここまでして礼を言われる程の事をしたとは思わなかったのだ。


「お、お礼を貰うために助けた訳では、ないので」


「おぉっ…なんとお優しいお方じゃ………メリルや、茶を用意しておいで。戸棚の上のをね」


僕の言葉に感激したとばかりに両手を合わせたおじいさん。


メリルさんははーいと答え台所へパタパタと足音を立てて向かって行った。


パタン。


部屋の扉が閉まる。


途端に静まり返った部屋の中、おじいさんはただただ僕の目を見ていた。


なんとなく、メリルさんの人の目を見て喋る癖…と言うより仕種はこのおじいさんの遺伝か何かだろうと思った。


そして、静寂を破ったのは、おじいさんだった。


「単刀直入に聞きますじゃ。……ソーイチ様、貴方様は………どちら(・・・)より来たのですじゃ?…」



「!?」



おじいさんは、僕の目を見て、そう言った。

バレテーラ

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