表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

1-2 『悲鳴』


…………何が、どうなったんだ?


後ろをみると今座っていた便座が無くなり、大きな木が立っていた。


デカイ。こんな大きな木……いや、樹は初めてみた。 幹の太さがビルくらいの大きさを誇り、その大樹の天辺は霧がかっていて見えやしない。


明らかに日本じゃない。


いや、こんな樹地球にあるわけない。


山より大きな大樹なんて、地球にあるはずないのだ。



しばしば、その大樹のあまりの大きさに呆気に取られていたが、総一は辺りを見回しつつも散策を始める事にした。近くに町か何か、人が住む集落がないかを探すためだ。


ここは地球ではないことは確か。では、人間が居ない場所なのだろう?


昔テレビで放送された映画のように、猿が支配していたりすると、面白いのだが。


総一は地球へ帰る事も考えず、この世界の事を考え始めていた。





ガッ


「よし」


割った石で森の木に目立つ傷を付けながら歩く。


何故傷を付けているかと言うと、この森の木の高さと生い茂った葉が上への視界を遮るからだ。

少なくともこれで最悪あの大樹の元へ帰ることが出来る。


片手に持った割れた石を弄びながら歩き続けると、不意に、



バキリッ


と、何かが折れるような鈍い音が耳に入った。



何かを踏んだのだろうか?。


足元を見るが何か踏んだ様子はない。


何だったのだろう、と顔を上げた時だった。


「いやあぁぁっ!誰かっ誰か助けてっ!」


「!?」


絹を裂くような、女性の声が森に響いた。




「誰かっ誰かぁっ!!」


「おいおい、暴れんなって」


「おい、そっち押さえてろ」


「へへっ久しぶりの上玉の女だぜっ」


「いやああぁっ!」


女性が、五人盗賊らしき男達に囲まれ身体を押さえられている。


「…………っ」


僕の心に怒りが溢れる。


一人の女性に、寄って集ってっ…!


しかし、一歩踏み出すと義憤に震えた心が萎縮した。



行ってどうなる?


相手は悪い奴等。多分、人殺しもした事があるんじゃないだろうか。

腰に携えた大きめのナイフが目に写る。


助けに行ったって、助けられっこない。

それどころか、僕が殺されてしまう。


途端、踏み出した一歩は下がり、また一歩、



下がる。




…………僕は、見てない。何も、見ていない…っ



もう思考は一つの事に染まってしまった。



知らない振りして、逃げる……逃げなきゃ、見つかっちゃうかもしれないっ!…


僕は踵を返そうとし、



ビリビリッ!!


「っ!!助けてっ!誰かあぁぁっ!!」


男達が女性の服を破り、恐怖に染まった女性の顔を見て、――――全力で駆け出した。





「やっ、やめろおおおぉぉっっ!!」



「あ?…ぐっ!?」


手近にあった太めの木の棒を女性に覆い被さっていた男に叩きつける。


「なんだ?このガキィ……っ!」


俺に気づいた回りの奴等が大振りのナイフを抜き取った。


「っ、う、うわああああぁっっ!!!」


凶器が目の前に出され焦った僕は半ば恐慌状態だったのだろう。


無我夢中に木の棒を振り回す。


「ちっ…クソガキがぁっ!」


一人の男が僕の攻撃…とも呼べぬ攻撃を掻い潜り肉薄。



ザシュッ!……



「……あ?」



刺さった。



大きめのナイフが、僕の腹に刺さった。



痛いっ、痛いィッ………痛いッッ!!!


「ぐうぅっ……!」


咄嗟に木の棒を男の頭に振るう。



バキリ


木の棒が折れ、半分位の長さになった。


僕の腹にナイフを突き立てた男は気絶した。これで、二人目。



しかし、僕のなけなしの戦意は、砕け散っていた。


痛い。


すごく、痛い。


ナイフが刺さった場所が、すごく熱く感じる。


抜こうとすると、痛みが三倍四倍…いや、もっと酷く痛み、目がチカチカする。


し……――――――しぬ?………死ぬ?………死ぬの?……………僕は、死ぬ?


頭の中に死の文字が浮かび上がり、思考を奪って行く。


死ぬ………こんな、人を助けようとしたせいで………僕は、死ぬのか?


頭の中が死に埋め尽くされたその次の瞬間、あの記憶が浮かび上がった。



ぼくだけがたすかった、あのじこを。


ぼくだけがいきのこった、あのじこを。


あのとき、おじいちゃんとおばあちゃんにたすけられてなかったら………ぼくは、もう死んでいた。



いや、ちがう。ぼくは、……僕は、あの運命の日に、死んだ。だから、死ぬのなんて怖くない。


なら…………僕はようやく逝けるのか。幽霊みたいにさ迷っていた僕は、ようやく皆の元へ逝けるのか………


父と、母と、祖父と祖母に、ようやく………会える。




極限状態の僕が行き着いた答えは………酷い、自殺願望だった。いや、殺害願望、だな。



間違った答えを持った僕の思考がガラスのようにクリアになった。


死の恐怖は乗り越えた。いや、押さえ込んだ。痛みも、死ぬためになら我慢できる。



酷く歪な思考は、自身の死よりも、他者の死を考える。



あの女の人は………殺されちゃうのか?


僕は……もう、あの運命の日に死んだ。僕は家族に会うために、殺される。


だけど、あの女の人は…まだ家族が居るかもしれない。


あの女の人が死ねば、彼女の家族は悲しむだろう。



総一は自身の答えの矛盾と間違えに気づかず、思考を続ける。



なら、せめて…――――彼女だけは助けないと、ね。



ズブリ。


「はぁ………はぁ…っ」


ナイフを腹から抜き取る。


折れた木の棒と、自身の血に濡れたナイフ。


それを『彼』を真似るように持つ。



少しだけ、『彼』の背に近づけた気がした。

ようやく主人公らしくなってきたっ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ