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1-1 『異邦人』

僕が天涯孤独の身となったのは中学二年の、夏の事だった。


両親に祖父と祖母、そして僕を含めた五人が、僕ら星野家の家族だった。


僕ら星野家は、とても仲の良い家族だった。


両親は少し目を離すとイチャイチャし始めるくらい仲睦まじく、祖父は頑固だが僕が何かで良い成績をあげるとカッカッカッ流石俺の孫だ、と笑い自分の事のように喜んでくれた。

そして祖母はそんな頑固な祖父と似合いな優しさだけで出来たような人だった。

両親におばあちゃん子だと冷やかされていた僕は当然、おばあちゃんが大好きだった。(今にして思い出したが、両親が『誰が一番好き?』と言う質問に、おばあちゃん!と即答した時両親は残念そうな、だけど楽しげな笑みを見せてくれた)



そんな大人四人に囲まれ、愛され、不良になったり反抗期に入れるはずもなく、僕はその運命の日まで、一度もグレる事なく育って行った。




それは不慮の事故だった。


夏休みと言う長期休暇を使い家族五人で泊まり掛けのお出掛けに行っていた時だった。


五人で乗っていた車に、タンクローリーが衝突して来たのだ。

更に衝突した衝撃でタンクローリーは横転、ガソリンをばら蒔きながら壁に激突した。


…………後は言わなくても何となく解るのではないだろうか?。そう、ガソリンに引火し、大火災とも呼べる事故へと発展した。



酷い事故だった。


タンクローリーの運転手も、僕を抜いた家族も纏めて死んだ。後部座席に居た僕は咄嗟に庇うように伸ばされた祖母と祖父の腕に守られ、無事に生き延びた。



生き延びて、しまった。



僕は、そう思った。


生き延びれた、ではない。何故、生き延びてしまったのか、だ。


今にしてみれば、祖父と祖母に命を救われ生かされた事は嬉しいと思う。大好きな家族に大切にされた事を実感出来るからだ。


だが、その当時の僕にとっては、その行為は、余計なお世話だ…ったのだろう。


大好きな家族の居ない家に初めて帰った時は特にそう思った。


僕を置いて死ぬなんて、酷いと。


そう泣いた。



両親は結構な資産家だったらしい。


名も、顔も知らない親戚がバカ見たいに増えた。


それからはもう、誰も信じられなかった。


両親の遺したものを食い潰そうとする奴等から、家を、金を、両親が遺した全てを守るために、僕は懐疑心の塊になり、誰も信用できなくなって行った。



学校へ行けば腫れ物のような扱いを受けた。

当然だ。当時奇跡的に生き残った少年とニュースで報道されまくり、僕が両親を失ったと知ってるのに明るく接せれるわけがない。

同情にまみれた視線が、いつも僕に付きまとった。


高校に入ってからも、それは変わる事はなかった。

いや、これまたニュースで僕が相続税を抜いても多額と思われる大金を持っていると報道されまくったせいか、僕から金を取ろうとする奴等が増えた。


殴られ、蹴られ……最早イジメの枠を越えた暴行を受けても、僕は一円たりとも恵んでやらなかった。 家族の物を、渡したくなかった。


が、僕は唐突に思ったのだ。


何で学校に行かなければならないのか?と。


ふと、思った。


それからの行動は速かった。


僕は、引きこもりになった。










僕の名前は星野総一。


二十歳になろうかと言う歳で、僕は真っ昼間から家のソファでだらけていた。


学校は高校を中退してから行っておらず、毎日をコンビニ弁当を食って生き延びていた。



最近、僕は変な夢を見るようになった。


僕のようで、僕とは全く違う男が、何故か両手に剣を持って背中を向けているのだ。


近づこうと近づけず、いつしか僕は、その背中に憧れるようになった。


その背中は多くを語らず、しかし多くの事を考えさせられた。


その背中は何かを守るように在り、その背中は何かを越えるように在る。



僕も、あんな、背中で語るような男になりたい。


そう、総一は少なからず思うようになった。



だが、すぐにそんな思いは霧のように散る。


なれっこない。


そう、なれっこない。


他人を信用できない自分が、まるで後ろに居る相手に全幅の信頼を寄せるような、あの背を持つ男になれっこない。


そうやって、思いを切って捨てた。





また、夢を見た。


今度もまた、あの背中を見た。


僕のようで、僕とは全く違うその男は、今までと同じく、変わらずそこに立っていた。



「……どうしたら、なれるんだ?」


その男の背を見ながら、呟いた。


違い過ぎる。こんな人に、なれるわけがない。


こんな、強く、光輝くような人に、なれっこない。


そんなことは既に承知。だが、今日は、彼の口が止まらなかった。


「なんで、そんな風に居られるんだよ!」


あんな風になりたい。 自身が守ると決めた者を命を掛けて守るような、誰もが絶望するような艱難辛苦を乗り越えて行けるような、そんな、頼もしい背中に。


「無理だよ!俺には無理だよっ!!なれっこない!だから、もうやめてくれよ!!これ以上、みたくない!!」


我が儘を言う子供のような言葉を叫び僕頭を振る。


答えの出ないはずの言葉は、もちろん、誰が答えるはずもなかった。ただ、頬に触れられたような感触を覚えた。



「!………また、夢か」


ソファの上で跳ね起きた。息が荒く、全身は汗でびしょびしょに濡れている。どうやら僕はソファの上で寝てしまい、あんな夢を見てしまったのだろう。


「……汗、流そ」


僕は、シャワーを浴びることにした。



シャワーを浴びて出て来た僕は服を着ながらあの夢へ想いを馳せる。


何故、『彼』は立ち続けているのだろうか?。


不思議と毎回全く同じ夢を見ているのではないかと言う考えは浮かばなかった。


何故、剣なんて持っているのだろうか。


今にして思えば、その夢の『彼』が身に纏っているのは、鎧と呼ばれるものではなかったか?。

まるでゲームのキャラクターのようではないか。


トイレのドアを明け、便座に腰を下ろした僕は考える。


『彼』は、剣士か何かなのだろうか?。


これまた不思議と、夢でありながら僕は現実の者として『彼』を見ていた。


まるで物語の主人公みたいだ。



そう思い、僕は自分自身で笑った。


僕は物語の主人公なんてできない。出来て名のある脇役だ。


やはり、『彼』のようにはなれっこない。





用を足し、紙で拭き便座から立ち上がった僕の視界を覆ったのは、青々と茂った新緑の森だった。




「…………は?」


一拍置いて、どこかすっとんきょうな声を上げる。



「ここ、どこだ?」


僕は真上に広がる青空とその青空を突き抜ける巨大な樹に向けて質問した。


もちろん、答えてくれる人は、いなかった。

やっぱり異世界物には世界樹ですよねっ!

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