ある日のこと
…こんなお父さんは、嫌ですか?
「娘さんを僕に下さい!!」
――やれるか。
死ね。
今すぐ、死ね。
ある日、愛娘が男を連れて来た。
「お義父さん!!」
――誰だ、誰がテメェの『お義父さん』なんだ?
頭湧いてんじゃねぇのか。
それかよっぽど頭悪ぃかだな。
よし、行ってこい。
今すぐ逝ってこい、あの世に。
「楓……楓さんとは高校2年の夏、甲子園会場で逢ったんです」
――聞いてないし。
言い直すな。
名前を呼ぶな穢れる。
俺以外の男が名前を呼ぶだけで酷く、殺意がうまれる。
――……あれか。
なんとなく蘇ってきた思い出に眉をしかめる。
だから男がやるスポーツはやることは勿論、観ても駄目だとあれ程言い聞かせていたのに。
原因を作った奴を抹殺してやりたい。
いや、してやる。
と密かに暗殺計画を立てていると、空気が読めないカスが話を続けている。
……おい、もういいから還れよ、土に。
「俺……僕は観客席で歓声を上げている彼女に一目惚れしたんです」
――知るか。
てか、当たり前だろ。
うちの娘が可愛いことなんざ生まれた時から決まってんだから。
「それで、彼女の為に優勝をと思い……完全試合を成し遂げることが出来たんです!!」
――……テメェの眼球抉るぞ。
お前はどこの達●君だよ。
そしてうちの娘は南ちゃんか!
否、うちの娘はそれよか可愛いがな!!
……ん?完全試合?
そこをこの目の前に居る男に目線だけで問うと恥ずかしげに、でもどこか誇らしげに「投手だったんです」と言った。
――だからどこの……もういい。
目眩がする感覚。
てかおかしいだろ、普通凹まねぇ?
家来てから一回も喋ろうとしない父親に睨まれてんのに、何でそんな笑顔?
「…だから娘さんを僕に下さい!!」
――「……だから」じゃねーよ!
何にも筋道立ってねーよ!
ただテメェがうちの可愛い娘にストーカー紛いの心理的状況ってことしか分かんなかったわ!!
……ひょっとして、否ずっと思っていたが、凄く……物凄く馬鹿なんだな!!
よし、これでこいつを追い出すことが出来る!
と考えていたら、慌てた様子で「聖斗学園の首席です!!」と言われた。
聖斗と言えば、県トップクラスの学校じゃねーか。
……てか何で考えてること解ったんだ。
野生の勘とか云うやつか?
怖えーよ!!鳥肌立ったわ!!
そのまま睨み合いが続く。
先に折れたのは奴の方で、「何が……どうしたら娘さん……楓さんとの交際を認めてくれるんですか」と呟いた。
――分かれよ、テメェにあげる気なんかこれっぽっちも無いってこと。
……それとも、口で直接いってやった方が良かったか?
意地悪く唇を歪めて嗤う――。
俺がしたいのは、娘に合う婿を探すことではないんだ。
ただ―周りの男(♂)を排除すること……ただそれだけだ。
17歳の時に一歳年下の妻との間に出来た娘が連れて来た男はこいつが初めてだが、これまで言い寄ってきた男は数知れず。
まぁ、全部排除したんだが。
それ程愛しい娘を他の男にくれてやるなんざ真っ平御免被るね。妻と娘だけは誰にも触れさせん。
――俺のだ。
それに……こいつに俺の娘が釣り合うとは思えないしな。
まさに月とすっぽん、雲泥の差、豚に真珠だな!
うん……? 一つ意味が違うって?
同じだ!! 気にすんな!
……正直、頭の造りは俺と一緒じゃなくてよかったと何度安堵したことか分からない。
怪訝そうな瞳を向けられてハッとする。
いかん、考え事が……。
まぁ、答えは始めから決まっている。
口を開いた―丁度その時。
「パパー。あ~ん」
男同士で話がしたいからと妻のところへ行っていなさいと外させた娘が指でつまんでクッキーを俺の口に入れる。ほろりとした食感、程よい甘さ。
「……美味い」
拗ねたように「俺は~??」と聞いている男に向かって申し訳なさそうに娘は、言う。
「パパに一番に食べさせてあげたかったの……」
ほんのりと頬を染める姿にどうしようもない愛しさが込み上げて来て。
――……やっぱ決めた。
もし、娘の“一番”が俺でなくなったとしたならば、その時は……。
あ。と言って考えを打ち消す。
もしそんなことが起こったなら、そいつはタダでは返さないが。
――いつまでも君を、君の幸せを、祈っているよ。
…愛しい、君。
取り敢えず、父親目線終了です。
今度は多分、小話か彼目線になります。
3.3 修正致しました。