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あの娘(こ)は電波か本物か  作者: 沙φ亜竜
第2話 わらわはようやく、思い出したぞよ!
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-2-

「ちょ……っ! 紗月っ! なななな、なにをしておるのじゃ!?」

「なにって、脱がしてるのよ? 脱がなきゃ、着替えられないでしょ?」

「それはそうじゃが、どうしておぬしが、わらわの体操着を脱がすのじゃ?」

「う~ん…………、趣味?」

「ぎゃあっ! 変態! 近寄るでない!」

「もう、つれないなぁ。女の子同士の脱がしっこなんて、なんでもないじゃない。真綿ちゃんは、勇授くんとだって脱がしっこしてるんでしょうに」

「そそそそそそそんなことするわけなかろう! あやつは下僕じゃと、どれほど言ったら……」

「はいはい。それはいいから、腕を上げてよ。脱がせられないじゃない」

「やめろと言うておるじゃろうが~!」


 女子更衣室から、なにやら怪しげな会話が聞こえてきていた。

 その前の廊下を通りかかる生徒は、またか、といった顔をして足早に去っていく。出てきた彼女たちと鉢合わせして、余計なことに巻き込まれるのを防ぐためだ。

 もちろん、当事者であるふたりを除く、更衣室の中で着替えている女子も、目を合わせないようにしながら静かに着替えていた。


 中学生ともなると、体育の授業は男子女子で別々となる。

 だから、いつでも一緒にいる真綿ちゃんと勇授くんであっても、体育の時間までは一緒にいられない。

 体育の他に、男子は技術科、女子は家庭科と、違う授業になっている時間も、ふたりは離ればなれになってしまう。

 それは学校という集団生活の中にいる以上、仕方がないことなのだけど。


 真綿ちゃんは今でこそさすがに諦めているものの、中学に上がったばかりの一年生の頃は、「わらわは勇授と一緒にいたいのじゃ!」とわめき散らし、男子と一緒に体育の授業を受けようとして、女性体育教師にズルズルと引きずられて戻っていく、といったことが何度もあった。

 とても真綿ちゃんらしいエピソードではあるけど、中学生になっても全然落ち着かない彼女は、ある意味貴重な存在なのかもしれない。


 それはさておき、疲れ果てたような顔で女子更衣室から出てくる真綿ちゃんと、なぜか鼻歌まじりのご機嫌な様子で出てくる紗月ちゃん。

 いったい中でなにがあったのか、興味はあるけど……ここは触れないでおこう。

 当然ながら、ふたりはしっかりと制服に着替え終えたあと。ふたりとも、体操着は布製の巾着袋に入れているようだ。


「……紗月、おぬしはほんとに、そっちの趣味があるのかや?」

「ふふっ、ご想像にお任せするわ」


 並んで廊下を歩いていくふたりの会話は、やっぱり怪しい様子だった。


「にゃははっ! 真綿ちゃん、紗月ちゃん、やっほぉ~!」


 と、廊下の向こうから歩いてくるのは、言うまでもないかもしれないけど、孝徳くんと、そして、


「もう着替え終わったんだね。ぼくたちは、これからなんだ。孝徳のせいで、先生にふざけすぎだって怒られててね」


 いつもながらのちょっとぼけ~っとしたような笑みを浮かべている勇授くんだった。


「むう、ひどいなあ、勇授! それじゃあ、おいらだけが悪いみたいじゃんか!」

「あはははは。実際そのとおりでしょ」

「む~……。でも、反論できないと自分でも思うおいらでした! にゃははははっ!」


 バカげた会話を交わしながら、廊下の角を曲がる。

 その先にあるのが、二年二組の教室だ。

 真綿ちゃんは彼らふたりと一緒に廊下の角を曲がり、はたと気づいた。


「ちょっと待つのじゃ! おぬしら、今から教室に戻って、着替えはどうするつもりじゃ!?」

「え? そりゃあ、教室で着替えるんだよ? いつもどおりにねっ!」


 そう、この中学校には、女子更衣室はあっても、男子更衣室はない。

 プールのある建物にはさすがにあるのだけど、プールの授業があるとき以外は、カギがかかっていて入れない。

 というわけで男子は、女子が更衣室に向かったあとの教室で着替え、体育が終わったら速やかに教室に戻って、女子が帰ってくるまでに着替える、というのが常だった。

 勇授くんと孝徳くん以外の男子は、すでに教室で着替え済みだろう。


「なにを言うておる! わらわたちも今、教室に帰るところじゃぞ!? それにもう、他の女子たちも半数以上が戻ったあとじゃ!」


 真綿ちゃんは微かに顔を赤らめながら、そんな怒鳴り声を上げる。

 つまり、今から教室に戻って着替えたら、ふたりの着替えシーンを拝見する羽目になる、ということだ。

 いやまぁ、目を逸らしていればいいだけなのだけど。

 そこはそれ、年頃の男女なわけだし、同じ教室内で着替えなんかしていたら、いやでも気になってしまうものだろう。


「え~? でも、ぼくたちだって、着替えなきゃダメじゃん」

「トイレとかで着替えればよかろう?」

「ええ~? でもさ、そろそろチャイムも鳴っちゃうよ~?」

「す……少しくらい遅れても、構わないじゃろう? 体育の後片づけで遅くなったとか言えばいいじゃろうが!」

「えええ~? 嘘をつくのはよくないよ~?」


 などと、真綿ちゃんVS孝徳くんの言い争いが繰り広げられる。

 と、勇授くんが果敢にもその戦いに乱入してくる。


「あははは。真綿はどうしてそんなことを気にするの? ぼくたちはべつに、着替えを見られたってあまり気にしないよ? 全部脱ぐわけでもないんだし」

「全部脱がれてたまるか!」

「ふふっ、真綿ちゃんは、勇授くんは自分だけのものだから、他の人に見られるのは嫌だ、って言ってるのよ」

「にゃははっ! なるほど、そうかそうかっ!」

「ち……違うと言うに!」

「あはははは。ぼく、物扱いだ」


 ……廊下でも騒がしい、いつものメンバーだった。

 そんな中、無情に響くチャイムの音。


「あ~……」

「あはははは、間に合わなかったみたいだね」


 どうやら勇授くんと孝徳くんは、体操着のまま授業を受けることになりそうだ。


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