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あの娘(こ)は電波か本物か  作者: 沙φ亜竜
第1話 わらわは、卑弥呼(ひみこ)の生まれ変わりじゃ!
6/31

-6-

 さて、再び話を現在に戻すとしよう。


 三沢原山第二中学校の二年二組の教室で、いつものように怒鳴っている女子の声と、聞いた人が若干バカにされているのかもと誤解してしまいそうにも思える男子の笑い声が響いていた。

 当然のことながら、真綿ちゃんと勇授くんの声だ。


 ふたりはもう、クラス中の誰もが認める仲、ということになる。

 もちろん真綿ちゃんは、「わらわと勇授は、主人と下僕の関係じゃと、何度言えばわかるのじゃ! き~~~~っ!」と、金切り声を上げながら否定するだろうけど。


 ま、笑い声が絶えないクラスというのは、今どきとしては非常に珍しいかもしれない。

 そういった意味では、とてもいい雰囲気だと言えるだろう。

 ……それが授業中でなければ、だけど。


「ちょっと、みなさん、静かにしてください~!」


 教壇に立った女性が、必死になって生徒たちに呼びかけている。

 このクラスの担任である、比奈鏡(ひなかがみ)みつき先生だ。

 ともあれ、生徒たちに呼びかけながらも、少々涙目になっているように見える。

 真綿ちゃんと勇授くんがいるクラスの担任なのだ、そりゃあ大変だろう。


 この先生は二十七歳の国語教師。

 今は勇授くんたちのクラスで授業の真っ最中だった。

 本を読まない子供たちが増えている昨今、国語の授業にもなかなか興味を持ってもらえないのだろう。

 活字離れと言われ続けてはいるけど、ここ最近はメールやケータイ小説なんかで、活字自体には慣れているような気がしなくもない。

 もっとも、メールだと絵文字などの比率も高く、純粋に活字という扱いに括られるかは微妙なのかもしれないけど。


 と、そんなことを考えているあいだも、生徒たちの騒がしい私語は続いていた。


「あう~。みなさん、静かにしてくださいよぉ~。ぐすっ」


 どうにか静めようと声を張り上げるものの、声よりも涙が先に出てしまう、といった感じ。

 この先生の場合、威厳が足りないというか、教師らしさが足りないと言わざるを得ない。


 自分たちのクラスの担任だから、というのもあるだろうけど、なかなかみんな、言うことを聞いてくれなかった。

 ただ、こうして涙を流し始め、めそめそしているみつき先生の姿を見ると、さすがに生徒たちも罪悪感にさいなまれるらしい。

 徐々に口をつぐんでいき、やがて教室内は静寂を取り戻す。


「ぐす、みなさん、静かにしてくれて、ありがとう~」


 みつき先生は涙声ながらも、クラスのみんなにお礼の言葉を述べていた。

 いやいやいや、そこはお礼を言うべき場面じゃないのでは?

 なんてツッコミは、この先生には無駄というものだろうから、やめておいてあげよう。


 ちなみに。


 このクラスには、スローガンがある。

 スローガン、という言葉自体が、若干死語っぽい雰囲気をかもし出していなくもないけど。

 ともかく、そのスローガン。

 教室の前、黒板の上のスペースに横長の模造紙を貼りつけ、でかでかとした文字で書かれてあった。


「いつもにこにこ、よりよいクラス」


 ……なんというか、小学校ですかここは、と疑いたくなる。

 みつき先生らしいといえば、らしいのだけど。


 この微妙なスローガンには、先生いわく、このクラスを示す数字が隠されているのだという。

 二年二組の生徒は全部で四十四人。


 少子化が叫ばれている昨今の学校にしては、結構多めの人数かもしれない。

 だけど、空き教室が増えるからといって、それじゃあ少人数制のクラスにしよう、という流れになるとは限らない。

 その分、教師の人数も増やす必要があるからだ。


 それはともかく、このクラスのスローガン。


 二年二組、四十四人のクラス。

 いつもにこにこ、よりよいクラス。


 つまり、


 いつもに(2)こに(2)こ、よ(4)りよ(4)いクラス。


 ということらしい。


 なんだか、余計に小学校っぽい雰囲気になってしまった気もするけど。

 そんな担任のみつき先生のもと、勇授くんと真綿ちゃんたちクラスメイト一同は、充実した学校生活を送っていた。

 ……たぶん、ね。


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