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あの娘(こ)は電波か本物か  作者: 沙φ亜竜
第1話 わらわは、卑弥呼(ひみこ)の生まれ変わりじゃ!
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 女王卑弥呼の生まれ変わりだなどと言い張り、あんな高圧的な喋り方をする真綿ちゃんだというのに、勇授くんは小さい頃からずっと一緒にいる。

 小学校三、四年の頃だけは離れてしまっていた感じだけど、中学二年生になった今でも文句のひとつも言わずに、真綿ちゃんのわがままにつき合ってあげている。


 なんというか、凄まじい我慢強さだよね。

 ま、真綿ちゃんの陰に隠れて目立たないけど、勇授くん自身もかなりの変わり者だったりするわけだから、とってもお似合いのカップルだと言えるのかもしれないけど。


 小学校五年生で真綿ちゃんが「覚醒」してから丸三年以上、わがままに振り回され続けている勇授くん。

 ふたりは家がお隣同士の幼馴染みだというのは、前にも言ったとおり。

 それじゃあ真綿ちゃんが覚醒する前、クラスも一緒だった小学校二年生までは、いったいどうだったのだろう?

 ……なんて疑問を浮かべていたりはしないかな?


 興味ないなんて、つれないこと言わないでほしい。

 ま、ふたりの関係に興味がなくても、ふたりの可愛らしい姿くらいは、見ても損はないんじゃないかな?

 というわけで、ちょっとだけ、ふたりが幼稚園の頃の思い出ものぞいてみることにしよう。



 八年前のある日、勇授くんは隣の真綿ちゃんの家に遊びに来ていた。

 どこまで広がっているのか目を疑いたくなるほどの、広い敷地がある豪邸。

 そこが、真綿ちゃんの家だった。

 家、というより、お屋敷と呼ばなければ失礼な気さえする。


 そのお屋敷の庭で今、真綿ちゃんと一緒になって、さらにはペットであるフサフサの白い毛をなびかせる大型犬――アフガンハウンドという種類の犬――とも一緒になって、幼い勇授くんが楽しそうにはしゃぎ回っていた。


「勇授くんは、いつも元気ね~。おばさんにも分けてほしいわ~」


 ガーデンチェアーに座って子供たちの様子を眺めていた真綿ちゃんのお母さんが、とても優しそうな微笑みをたたえながらそう声をかける。


「だめよ、ママ! ゆうじゅは、あたしのなんだから!」


 眉をつり上げた表情も可愛らしく、腰に両手を当てながら、真綿ちゃんはぷんぷんと怒りの言葉を返す。

 覚醒していない真綿ちゃんは、こんな感じの喋り方だった。ごく普通の女の子、といった印象だろうか。

 今では聞き慣れてしまった感のある「わらわ」という言い方もせず、自分のことを「あたし」と言っていた。

 もっともその言葉の内容から考えるに、勇授くんが自分の下僕だと言ってのける現在の真綿ちゃんと、根本的にはなにも変わっていないのかもしれないけど。


 一方、真綿ちゃんから「あたしの」と所有物扱いされた勇授くんのほうはというと、


「あはははは」


 やっぱり、お馴染みの笑い声を上げていた。

 この頃から、勇授くんはこうだったようだ。


 もっとも、こうやって笑ってばかりいる原因は、真綿ちゃんのお母さんにもあるのだけど。

 遊びに来るたび、いつまでも真綿のそばで笑っていてあげてね、と真綿ちゃんのお母さんからお願いされていた勇授くん。

 それを言葉どおりの意味で解釈し、いつでもどんなときでも、真綿ちゃんに微笑みかけるようになっていったようだ。


「ワンワンワン!」


 勇授くんや真綿ちゃんよりも大きな白い毛の犬が、はしゃいだ鳴き声を響かせながら子供たちに抱きつく。

 交互に抱きついていき、飼い主にほうがいいと判断したのか、それとも女の子が好きなだけなのか、犬は真綿ちゃんの頬の辺りをペロペロと舐め始めた。

 ……ちなみに、この犬はメスなのだけど。


「きゃっ! こら、クロったら、やめなさい! くすぐったいよ、きゃはははは!」


 この白い毛の犬の名前は、クロ。

 名づけ親はもちろん、真綿ちゃんだ。


「白いわんちゃんだから、シロがいいかしら~」


 真綿ちゃんが欲しいというので飼うことにした大型犬。

 どんな名前がいいかを考える家族会議――とはいっても、お父さんは忙しい身の上だから、真綿ちゃんとお母さんのふたりだけだったのだけど――を始めたところ、第一声でのほほんとした感じの声を響かせたのはお母さんのほうだった。


「しろいからシロだなんて、つまらない~。この子はクロできまりっ!」


 第二声は真綿ちゃん。

 そしてそれは、家族会議の終了宣言でもあった。

 小さくても真綿ちゃんは真綿ちゃんと言うべきか、この頃からすでにわがままな女の子だったのだ。

 それにしても、メスの犬にクロという名前は、正直どうかと思うのだけど。


「あはははは、まわたは、クロちゃんにすかれてるよね~」

「すかれるのはいいけど~。なめすぎだよ~。きゃはははっ!」


 笑いすぎて涙を浮かべ始めている真綿ちゃん。


「うふふふ、反対側のほっぺは、勇授くんに舐めてもらったら? なんてね!」


 そんな様子をほのぼのとした気持ちで眺めていた真綿ちゃんのお母さんが、ちょっぴり茶目っ気を出したのか、そんなことを言った。

 なんてね! という言い方からもわかる通り、冗談だったのだろう。

 でも、相手は幼い勇授くん。冗談なんて通じるはずもなく。


「あはははは、それじゃあ」


 ペロッ。

 勇授くんは真綿ちゃんの柔らかいほっぺたを、思いっきりべっちょりと舐めた。


「きゃうっ!? いやぁ~ん、ゆうじゅってば、ほんとになめたぁ~! き……きたない~!」

「あはははは」


 汚い、なんて言われても、勇授くんはやっぱり笑っている。

 そう言った真綿ちゃんのほうも、真っ赤になって恥ずかしがりながらポカポカと勇授くんの肩口の辺りを叩いている様子を見る限り、本気で汚いなんて思っていないことは一目瞭然だけど。


「うふふふふ」


 こんな感じでじゃれ合っている仲むつまじいふたりの様子を、真綿ちゃんのお母さんはたおやかな笑顔を浮かべつつ、楽しそうに見守っているのだった。

 というわけで、幼稚園の頃から、お母さん公認で仲のよかったふたりだった、というのがわかっていただけただろう。


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