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「ふう、これで終了じゃな。いやはや、勇授とやらが鈍感なせいで、えらく時間がかかってしまったのぉ」
わらわはそうつぶやき、凝った肩をぐるぐると回す。
いやまぁ、わらわの肩が凝ったりするはずもないのじゃが。
なんというか、気分の問題じゃな。
わらわは女王卑弥呼じゃ。
正確に言えば、その幽霊、ということになるがの。
わらわがあの真綿という女の子に乗り移り、同調してから三年以上が経ってしもうた。
時間はいくらでもあるわけじゃから、三年くらい、さほど長い年月ではないのじゃが。
それでも、少々長くかかりすぎたのぉ。反省せねばなるまい。
三年ほど前、わらわは真綿の切ない想いを感じて、彼女に乗り移った。
それによって、真綿は自分のことをわらわと言い、あんな態度を取るようになった。
性格に関しては、もともと素質があったと思うのじゃがの。
本人は自分で考えて、わらわの生まれ変わりだと言うようになったと思っておったみたいじゃが、実際にはわらわがそう思い込ませておったのじゃ。
真綿の願いを叶えるため、わらわはずっと彼女と同調しておった。
わらわにとって、人の願いを叶えるのは、楽しいゲームなのじゃ。
勇授が鈍感じゃから、なかなか成功にたどり着けずにおったが、ようやくクリアできた。
やはり目的を達成したあとは、清々しい気分になるのぉ。
と、そんなわらわのもとに、ひとりの男が飛び寄ってきた。
「卑弥呼様ぁ~~~、遅くなってすみません~~~!」
ペコペコと頭を下げながら、わらわが浮いているこの上空まで飛んできたのは、わらわの忠実なしもべ、優雨矢じゃ。
わらわが邪馬台国で女王をしていた頃、そばに仕えてずっと力になってくれておった。
五歳ほど歳下だったじゃろうか、若干頼りなさはあったものの、わらわのすぐそばにいてよいのは、この優雨矢だけと決めておる。
もちろん今ここにいる優雨矢も、わらわと同様、とっくに幽霊になっているのじゃが。
「これ、優雨矢! 遅かったではないか!」
「すみません。ボクの場合、すぐ近くにいないと彼らの様子を見ることができないもので。……有能な卑弥呼様と違って」
おっと、そうじゃった。
わらわのゲームは、真綿と勇授がお互いの想いを確かめ合った時点で終りを告げた。
そこから先は、わらわは真綿の中から飛び出し、ゲームの余韻に浸りながらふたりの様子を観察しておった。
わらわの力を持ってすれば、清々しい青空に包まれた上空からふたりの様子を観察することもできる。
じゃが、優雨矢にはそこまでの力はなかったのじゃったな。
「ふふふふ、そうであったの! ま、わらわが有能すぎるのが悪いのじゃな! すまなかったのぉ!」
「ほっ。おだてに乗りやすい人でよかった……」(ぼそっ)
「ん? なにか言うたかや?」
「いえ、べつに」
ふむ……。
少々気にはなったが、ま、今日のわらわは機嫌がよいし、不問としておこうかの。
それにしても、「れんあい」というものは実に面白いものじゃ。
真綿と勇授のふたりにも、存分に楽しませてもろうた。
純粋で温かく、時に激しく、時に淡く切なくて、なんとも飽きさせない感覚じゃ。
わらわの時代の男どもときたら、国を支配することしか頭にない、つまらん奴らばかりじゃったしのぉ。
……おっ、またどこかで、切なくすすり泣くおなごがおるようじゃ。
どれ、わらわが乗り移って、「れんあい」を成就させてやるとするかの♪
ふふふふふ、また新しいゲームの始まりじゃ。
楽しみじゃのぉ。今度はどんな展開を見せてくれるのか。
わらわは自然とこぼれる含み笑いを止めることも忘れ、意気揚々と飛び立つ。
そして、次なる楽しい「れんあい」ゲームの舞台へと向かうのじゃった。
「ちょ……ちょっと、待ってくださいよぉ~! 卑弥呼様ぁ~!」
慌てた様子で必死についてくる優雨矢の、若干呆れを含んだような叫び声を背後に受けながら――。
以上で終了です。お疲れ様でした。
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