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唯夢ちゃんを預かっているという内容の手紙を見て、真綿ちゃんを初めとしたいつもの四人が、呼び出し場所である三丁目の廃ビルへと向かっていた。
最初こそ走って現場まで行こうという勢いだったけど、廃ビルまでは結構な距離がある。
というわけで、今は疲れて歩き始めた真綿ちゃんに合わせ、残りの三人も一緒に歩いていた。
それにしても、呼び出しの手紙は真綿ちゃん宛てだったにもかかわらず、四人で行ってしまって大丈夫なのだろうか?
そんな疑問を口にする勇授くんだったけど、真綿ちゃんは澄ました顔で、
「べつにひとりで来いなどとは、どこにも書いてなかったのじゃ」
と言いきっていた。
それならそれで、もっと人を増やしてもよさそうなものだけど。
再び疑問の言葉をこぼした勇授くんに、
「あまり大勢だと廃ビルに入る前に気づかれて、追い詰められたと思った犯人が強硬手段に打って出る可能性もあるわ」
紗月ちゃんが答える。
「四人くらいなら、きっと想定内の範囲だから問題ないはずよ」
どこからそう考えるに至ったのかはわからないけど、紗月ちゃんは自信満々に言い放っていた。
四人はそんなことを喋りながらも、早足で歩いていく。
と、ここでその勢いを削ぐ言葉が投げかけられた。
「だけどさ、このままなにも考えずに廃ビルまで行って、本当に大丈夫なのかな? 真綿ちゃんをおびき出すのが目的なら、危険な罠が仕掛けられてる可能性だってあるんじゃない?」
孝徳くんが、そう言ったのだ。
珍しくまともな意見だ。孝徳くんにしては。
「うん、そうだね。いくら唯夢を助けるためといっても、そのせいで真綿や他のみんなが危険な目に遭うのは避けないと」
孝徳くんの意見を受けて、勇授くんも意見を重ねる。
はっきりとした声で言ってはいるものの、その表情は沈みきっている。
それはそうだろう。
実の妹が、さらわれたのだから。
「勇授……」
そんな勇授くんに、真綿ちゃんが遠慮がちに声をかける。
こちらも、いつもの真綿ちゃんとは思えない、暗い雰囲気に包まれていた。
勇授くんは沈んだ顔のまま、真綿ちゃんに視線を向ける。
「すまないな……。わらわのせいで、こんなことになってしまって」
「……真綿のせいじゃないよ。というか、ぼくもまさか、唯夢にまで手を出してくるなんて思ってもいなかったし。完全に油断してたよね。遊園地になんて、連れていくべきじゃなかった……」
ふたりとも、マイナス方向の思念に囚われていく。
「ちょっと、真綿ちゃんも勇授くんも。そんなに沈んでたってしょうがないわ」
「にゃははっ! そうだよ! 今はおいらたちがしっかりしないと! ねっ?」
ふたりを励ますように、紗月ちゃんと孝徳くんが努めて明るく振舞う。
その思いはしっかりと伝わったのだろう、真綿ちゃんと勇授くんは、声を揃えて答えた。
「そうだね」「そうじゃの」
それほど力強い声ではなかったけど、決意が込められたふたりの答えに、紗月ちゃんと孝徳くんも目を細める。
「よし、それじゃあ、行こう!」
「ふふっ、わたしたちの恐ろしさ、思い知らせてあげましょう」
心をひとつにして頷き合い、四人は寂れた廃ビルの敷地内へと突入していった。