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あの娘(こ)は電波か本物か  作者: 沙φ亜竜
第3話 わらわをおびやかすのは、どこの誰じゃ!?
15/31

-3-

 真綿ちゃんを家まで送る帰り道。

 四人の学生が横に並んで歩いていた。

 と、その目の前に立ち塞がる人影……。


「……出おったな、蘇我春歌!」

「おーっほっほっほ! 人をバケモノかなにかみたいに、言わないでくださいますか?」


 それは言うまでもなく、三年生の春歌ちゃんだ。

 春歌ちゃんはいつもどおりのおほほ笑いを披露すると、すかさず不満を唱えていた。


「……似たようなものじゃろう」


 ぼそっとつぶやく真綿ちゃん。


「なにか言いまして?」

「いや、なにも言ってないぞよ」

「そうですか。それにしても、今日はあまりにも遅いので、待ちくたびれてしまいましたわ」

「おぬしはずっと待ち伏せしておったのか? 暇な奴じゃのぉ」

「う……うるさいですわ! あたしには崇高な目的があるのですから、そのためならたとえ何時間でも待つのですわ!」


 顔を合わせて早々、言い争いに発展するこのふたり。

 仲が悪いというか、馬が合わないということになるだろうけど、頭の作りは同レベルだと言わざるを得ない。


 そんなふたりの様子を、黙って観察していた残りの三人。

 勇授くんは以前にも春歌ちゃんと会っているけど、孝徳くんと紗月ちゃんは初顔合わせだ。

 話には聞いていたわけだけど、かなり不穏なイメージしか持っていなかったはずだから、慎重に様子を見ていたのだろう。


「あなたが春歌さんですか。話には聞いています。ですが、どの時代のことを言っているにしろ、過去の記憶――過去に死んだ人の記憶に引きずられて真綿ちゃんを恨むなんて、筋違いだと思うのですが」


 慎重に言葉を選び、紗月ちゃんがふたりの言い争いに割って入る。

 仮にも同じ中学の先輩だから、敬語を使って余計な波風を立てないようにしているのも、冷静な紗月ちゃんならではと言える。

 同じ中二の女の子でも、やっぱり真綿ちゃんとは大違いだ。


「おほほほほ、真綿さんのお友達に、こんなまともなかたがいるなんて、驚きですわね~。それで、そちらのかた――え~っと……」

「山本紗月です」

「そう、紗月さん、あなたの質問に、お答えいたしますわね。こんなおバカさんと言い争いをしていても、埒が明きませんし」

「おバカさんとはなんじゃ! わらわは頭脳明晰、容姿端麗なパーフェクトな女じゃ!」

「にゃははっ! そう言いきれる真綿ちゃんはすごいなぁ、その頭と見た目で!」

「ちょっと待て! 孝徳、どういうことじゃ、それは!?」


 春歌ちゃんが話し始めようとしているのに、周りではいつものバカ騒ぎが展開されていた。

 真綿ちゃんがいたら、それも当然なのかもしれないけど。


 でも、そんなバカ騒ぎをしていたら、人も集まってきてしまうというもので。

 辺りにはちらほらと人が集まり、なにを騒いでるんだ? と心配そうな視線を向けられ始めていた。


「おほほほほ、これでは落ち着いてお話もできませんわね。場所を変えましょう」

「……そうですね。ほらみんな、行くわよ」


 提案に頷くと、紗月ちゃんは他の三人を引き連れ、春歌ちゃんともに歩いていった。



 ☆☆☆☆☆



「……それで、わたしの質問に答えてくれるんですよね?」


 いつものメンバーに春歌ちゃんを加えた五人は、近くの公園に入っていた。

 これといってなにもない、桜も散り終えたあとの公園ということで、人の姿はほとんど見られない。


「そうですわね」


 春歌ちゃんはある程度の間合いを取り、紗月ちゃんの正面に立っている。

 鋭い目つきで睨まれながらも、まったく怯む様子はない。


 紗月ちゃんの背後には真綿ちゃんが守られるように立っている。

 その真綿ちゃんの左右には、勇授くんと孝徳くんが控える。

 そんな中、春歌ちゃんは語り始めた。


「あなたは真綿さんを恨むのは筋違いだと言いました。ですが、いったいどうしてそう言えるのですか?」

「え?」


 紗月ちゃんを睨み返しながら、春歌ちゃんは若干怒りを含んだような声をぶつける。

 その、静かながらも強烈な威圧感に、さすがの紗月ちゃんでさえも戸惑いを隠せない。


「当事者でもないあなたが、どうしてそんなことを言えるのかと、訊いているのです。この心の奥底から湧き上がってくる積年の恨みは、たとえ輪廻転生を繰り返したとしても消えはしないのですよ」

「それじゃあやっぱり、真綿ちゃんを恨んでるのは確かなんですね?」

「そうですわ。あたしにとって、真綿さんは長年恨み続けてきた対象。つい先日まではその記憶もぼやけたものでしたが、今は完全に思い出しました。もうあと戻りはできないのですわ!」


 大声を張り上げる春歌ちゃんに、真綿ちゃんを取り囲む三人は身構える。


「どうしてじゃ!? もともとわらわを――女王卑弥呼を殺したのはおぬしじゃろう!? その時点で、恨みは晴らしたということになるのではないか!?」


 ここで、これまで黙っていた真綿ちゃんが、春歌ちゃんに負けないほどの大声で怒鳴り返した。


「おーっほっほっほ。確かにその時点ではそうかもしれませんね。でも、そのあとはどうですか?」

「ど……どういうことじゃ!?」

「もう調べてわかっているんじゃありませんこと? まぁ、いいでしょう。お話致します。あたしは卑弥呼を殺した家臣の子孫でもありますが、大化の改新で暗殺された蘇我入鹿の子孫でもあるのです。そして蘇我入鹿を殺したのが、あなたの祖先、中大兄皇子なのですわ! あたしはその恨みを晴らすべく、こうしてここに来ておりますの!」


 ザッ!

 足を踏みしめ、構えを取る春歌ちゃん。

 それは素人目にも、戦い慣れした隙のない構えのように思えた。


「じゃが、それよりも前に卑弥呼を殺したのは、そちらのほうじゃろう!?」

「問答無用です!」


 叫び声とともに、春歌ちゃんは地面を蹴った。


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