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あの娘(こ)は電波か本物か  作者: 沙φ亜竜
第2話 わらわはようやく、思い出したぞよ!
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-4-

「む~……」

「真綿、どうしたの? もとから変な顔が余計に歪んでるよ?」

「お……おぬし、ケンカを売っておるのかや!?」


 朝っぱらから元気なふたり。

 教室のいつもの席に座り、隣同士の真綿ちゃんと勇授くんがいつものごとく騒ぎ出す。


「にゃはははっ! 今日も元気に夫婦漫才開始だねっ!」

「ふふっ、さすがだわ」


 そしていつもどおり、会話に加わってくる孝徳くんと紗月ちゃん。


「ちょ……、夫婦とか言うでない! というか、なにがさすがなのじゃっ!?」

「あはははは。いつもの真綿に戻ったね」

「にゃはははっ! 相方が悩んでるみたいだと知って、勇授はわざと怒らせるようなことを言ったんだねっ!」

「ふふっ、さすがだわ」

「相方とか言うでない! というか、勇授は普段からわらわが怒るようなことを平気で言っておるではないか!」


 こんな感じでいつもどおりのバカ騒ぎを展開してはいるけど、孝徳くんが言ったように、今日の真綿ちゃんは明らかになにか思い悩んでいるみたいだった。

 きっと、昨日の春歌ちゃんという三年生のことが、気になっていたのだろう。


 だけど、みんなのおかげで、こうして元気な姿に戻れた。

 持つべきものは友達ということか。

 若干、というかかなり、バカにされている感じではあったけど。


「あはははは。でも、やっぱり真綿は、そうやって元気にしてるほうがいいな」


 にこっ。

 ぱーっと周囲に薔薇の花でも咲きそうな笑顔で、勇授くんが言う。

 ……なんというか、鈍感な勇授くんに他意はないのだろうけど、それにしたってその言い方は……。


 ぼっ!

 瞬間的に顔を真っ赤にさせる真綿ちゃん。


「なななななななに言っておるのじゃ、勇授は! げげげげげげ元気なわらわが、すすすす好きだなんてっ!」

「にゃはははっ! そこまで言ってなかったけどね!」

「ふふっ、さすがだわ」

「あはははは」


 今日も平和な四人であった。


「ところで、真綿ちゃんは、なにを悩んでいるのかしら?」


 不意に紗月ちゃんが真顔になって尋ねる。

 バカ騒ぎしてはいても、真綿ちゃんの心配はしていたみたいだね。

 他の三人も、ピタリとはしゃぎ声を止め、真顔に変わっていた。


「……ちょっと、昨日気になることがあったのじゃ」

「あはははは。やっぱり気にしてたんだね」


 ためらいがちに話し始めた真綿ちゃんに、笑い声をまじえてはいるけど真顔で言葉を添える勇授くん。


「ほほ~ぅ! して、いったいなにがあったんだい?」


 残りのふたりも身を乗り出し、真剣に聞く体勢を整える。

 親身になってくれている友人たちの様子に、真綿ちゃんは昨日あった出来事を話して聞かせた。


「そんなことがあったのかぁ~。でも、三年生の先輩が真綿ちゃんに、いったいなんの用があるっていうんだろう?」

「さあ? それはわからぬ。じゃが、向こうはわらわを知っているようじゃった。それに、なにやらとても心に引っかかる感じとでも言えばいいのじゃろうか、どうも気になって仕方がないのじゃ……」


 う~ん、と頭を悩ませる一同。


「それは……恋?」


 ポツリと、紗月ちゃんがつぶやく。


「な……っ!? バ……バカ、そういうのではない! なにを言うのじゃ! だいたい相手はおなごじゃぞ? 紗月はやっぱり、そっちの趣味が……」

「あはははは。そっちの趣味って、なんだろう?」


 真綿ちゃんは真っ赤になって慌てた声を上げていた。

 その様子を見て、いまいちよくわかっていない勇授くんがいつもの笑い声を重ねる。


「ふふっ、冗談よ。それで、引っかかるって、どういう感じなの?」


 ともかく、紗月ちゃんは話の流れを戻す。もっとも、話の流れを逸らしたのも、紗月ちゃん自身だったわけだけど。


「うむ、なんというかじゃな、こう、ずっと昔――そう、わらわが生まれるよりもずっと昔に、会っていたような気さえする、といった感じじゃろうか……」


 一度冗談をまじえた会話を挟んだからか、真綿ちゃんは素直に胸のうちを語る。


「にゃはははっ! 真綿ちゃんは卑弥呼様の生まれ変わりだもんね~! 自称だけど」

「ふふっ。だからこそ、そんなふうに思い込んでいる、ということも考えられるかしら」

「じ……自称ではない! 本当に、わらわは女王卑弥呼の生まれ変わりなのじゃ! それに、思い込みなどではない! そりゃあ、なんとなくでしかないわけじゃが……。でも本当に、なんだかこう、胸の辺りがもやもやする感じなのじゃ!」


 素直に語ったというのに、あまりまともに取り合ってくれていない返事を受け、真綿ちゃんは憤慨する。


「あはははは。真綿の真っ平らな胸が大きくなる前兆なのかな? なんてこと、あるわけないね。あはははは」


 ドゲシッ! ガシッ! バキッ! メキョッ!


 勇授くんはやっぱり、学習能力ゼロのようだ。

 むこうずねへのつま先蹴り、顔面へのひじ打ち、みぞおちへのひざ蹴り、脳天へのチョップ。

 最後のは若干、クリーンヒットを通り越しているような音だったけど。……大丈夫だろうか?


「にゃはははっ! 相変わらずふたりは仲がいいな~!」


 それを見て、孝徳くんが笑いながら茶化す。

 足もとに勇授くんがうずくまって転がっている状況のまま。


「ふふっ。でも、心配ごとがあるのは、よくわかったわ。なにかあったら、いつでも相談に乗るからね?」

「……うむ、よろしく頼むのじゃ」


 といったところでチャイムが鳴り、担任のみつき先生が教室に入ってくる。


「きり~つ、きをつけ~、礼~……」


 日直の声でクラスのみんなが立って、礼をする中、唯一勇授くんだけが、まだ立ち上がれないままうずくまっていた。

 ま、勇授くんのことだから、すぐに復活するだろうけど。


「……おい、大丈夫かや?」


 さすがに床にうずくまったままの勇授くんが心配になったのか、椅子に座った真綿ちゃんが声をかける。


「うん、なんとか……」


 顔を上げた勇授くんは、チラリと視線をある一点に向け、


「あはははは」


 いつもの笑い声を上げた。


「なにを笑っておるのじゃ、気持ち悪い」

「だってこの位置からだと、真綿のパンツ丸見えだから」


 ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ! ゲシッ!


 ……あ、勇授くん、今度こそ再起不能になるかも……。くわばらくわばら。


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