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学校の七不思議


この学校の七不思議

1 学長室には学長の幽霊がいる

2 飼育小屋には死んだ鸚哥の霊がいる

3 職員室から見える桜の樹は人を食う

4 学校中の鏡に実在しない女子が映る

5 この学校で一番大きな銀杏の樹は首吊りの樹

6 図書室には女の子の地縛霊がいる

7 (この話を知ったら貴方は呪われる)


 *


 図書館に天使が集まるなんて――そもそも天使の存在自体――まっぴら嘘だ。図書館には天使も悪魔も集まらない。もっとタチの悪い得体の知れないモノしか集まりやしない。音楽室?私が住んでるが何か。

 こんな奴らの名前は知らない。知ってる奴もいないだろう。

 ぶよぶよした青白い骨の無い肉片のようでゴムみたいでたまに硫酸を浴びたみたいに泡立ったり渦を巻いたり腕と手しか無いくせにやたら人ぶって死んだ人間に吸い付いてその姿を奪おうとしたりそれでどこに口があるのか死体に喰らい付いて血肉をやたら飛ばしたりするそんな奇形のおぞましいセイブツなんかの名前など誰も知らないだろう。


 始.給水室


「…………」

 私は今日も暇さのあまり校舎をさ迷っていた。給水室にくるまで幾つかの“デキソコナイ”とすれ違った。“犠成損い”の彼奴等よりも私の方が地位は上だが、たまに襲ってくる莫迦な輩もいて、そいつは杖で貫いてやる。特に“デキソコナイ”達の手のひらのような部分は貫き易く、効果もある。

 しかし、今日はデキソコナイ達がやたらと少ない。図書室で何かあったのだろうか。

 私は音楽室へ帰る序でにデキソコナイ達の魔窟、図書室にいくことにした。いや……序でに、ではないな。音楽室と真逆だし。


 聿.学長室


「学長」

「……なんだい。またアンタかい……」

 白髪頭の女性――彼女がこの学校の学長だ。煙草を旨そうに吹かしている。

 下駄を履き、表の飼育小屋を開けて来た所らしい。

「おいで、インネ」

 学長は飼育小屋の方(つまり、出口の方)に腕を差し出す。そして飼育小屋から飛び出した緑とも青とも黄色ともつかぬ火の玉が彼女の腕に飛び付いた。

「よーし、よーし」

 学長は熱くないのか、インネを撫で回す。毎回思うが、熱くないのか?私は暑さが解らないから熱さも解らないだろうが。

「アンタも死神なら死神らしい仕事でもしたらどうだい。死神なんて言ったら骸骨に黒い布被せて鎌持ってるイメージしかないけどねぇ……」

「悪かったな、肉のそこそこ付いてる人間のシャツを来て鎌の変わりに杖を持っててな」

「あと、黒いもじゃ髪でしょう」

「そーですね」

 私も思うが、それが実際の死神なのだから仕方ない。鎌もないし黒い布を被ってもいない。実際に私が人を殺したこともまだない。

「まぁ、いいじゃないか。ところでアンタは一体どこに行く積もりなんだい?」

「そうだ、その事で来たんだ」

 本来の目的をすっかり忘れていた。「今日は異常にデキソコナイ達が少ない。何でだ?」

「どれくらい?」

 眉を潜める。

「平均1542.7匹に対して654匹程少ない」

「なんで平均とか出てるのさ……。……でも確かに異常だねぇ」

 インネを右手で擽りながら全く意に介さず言う。

「私は知らないよ。アンタの出番なんじゃないのかい?」

「また馬鹿が紛れ込んだのか?」

「かもしれないねぇ」

 全く、年寄りは悠長だな。



 爾.職員室前


 その後、学長とは「あんたが事故死した時はびっくりだったよ」とか「死んでなきゃ今の私はない」とか「お茶が切れて困ってる」とか、そんな他愛の無い話をしていた。


「桜鬼」

 私は職員玄関から中庭へとそいつを探しに出た。

「なんすか旦那」

 桜鬼はこの人喰い桜そのものだ。私の腰くらいの慎重でサイズに合わない巫女服のような服を着ている。赤鬼で、チビなのにちゃんと立派な一対の角と牙も持っている鬼だ。

「校舎内からデキソコナイ達がやたらと減ったんだ」

「……?平和でいいじゃないっすか」

 赤い小さな目に疑問が浮く。

「人喰いが平和とか言うな」

「なら死神も言えないじゃないっすか」

「そうなんだがな」

 そう言うと桜鬼は何故か泣くまで爆笑し始めた。

「ぎゃはははは!」

「おい桜鬼」

「わーってまひゅ、ひゃんな」

「いーや。ばっちり滑舌に反映されてるぞ」

 桜鬼はそこでやっと笑うのを止め、「ひゃひ……ふぅ」と深呼吸をした。

「図書室で何かあったんじゃないんっすかね?あ、デキソコナイ達をバッタバッタ倒す強者が現れてとかっすかねぇ?」

「彼奴らは撃退できても消すことは出来ないだろう?」

「そうでやした。……誰か迷い込んできた……とか?」

「やっぱりか?私の仕事か……」

 私が職員玄関に向かおうとし、桜鬼は一言だけ言った。


「死体、おねがいしやすっ!」

「敬礼じゃねーよ!ダイエットしろ桜鬼!」



 参.廊下


 ここ数十年、死体っつー死体が沸いてないから腹が減ってるのは解るが態々敬礼までするな。


「鏡」

「鏡って呼ぶな。なんだ」

 私は廊下の大鏡に、正確には大鏡の向こうの少女に話しかけていた。

「図書室で何かあったか?やけに――」

 私は襲ってきたデキソコナイを杖で突き刺した。「こいつらが少ないんだ」

「さぁ?こっちにゃ一匹も居ないからねぇ」

「…………平和だな」

「今はね」

 鏡向こうで彼女は何とも言えぬ、しかしなんとか言うならば、自虐的な笑みとも今にも泣きそうな顔ともつかぬ表情をした。

「私さぁ……何時になったら鏡から出られるのかな?」

「さぁな」

 私は何故彼女が鏡向こうに居るのか知らないし、知らない以上、何時どうやって出るのかも解らない。まぁ、噂なら……の情報はあるが。



 肆.渡り廊下


「……で、儂の所に来たんでっか?」

「あぁ」

 私は頷く。杏鬼は白い顎髭を撫で暫く考え込んだ。

 この小さな身体の更に小さな脳味噌に一体何れだけの密度で情報が詰まってるのだろう。

「一つ。図書室で何かあった。二つ。部外の人間が紛れ込んだ――くらいかの」

「……やっぱり図書室か」

「彼処が神隠しの住まいじゃろ」

「そりゃ解ってるさ。ただ、誰が何で紛れ込んで来たんだ?」

 この学校の回りは金網処か電気が通った線が張り巡らされていて入ることは不可能の筈だ。

「解らん」

 銀杏の鬼は首を傾げた。

「さっぱりだ」



 伍.図書室前廊下


 鏡の前通る度に風景が揺れて何か気になってた。

「おい」

「……」

 黙りを決め込みやがった。バレてるぞ。

「おい鏡」

「鏡と呼ぶなって二回目だぞ」

 その後鏡は「あぅ……」と小さく言い、素直に出てきた。

「何で来た」

「べつに死神には関係ないし」

 また出た。『死神だから』。

「あのな、私も一応この学校の生徒だったんだ。プレハブ時代からの」

 何故か私だけ部外者扱いを受けるが一番馴染み深いのは私だぞ。

「へぇ……」

 鏡は素直に驚いていた。そんなに学生に見えないのか。

「で?何で来たんだ」

「…………」

 おい、視線反らすな。

「お前噂だとデキソコナイにやられたんだろ?」

「――――ッ!」

 脈あり、だな。

「……な、な、何で知ってるの……?」

「マジなのか」

 じゃあ尚更何故あんな奴等のところに行こうとしてるのかがさっぱりだ。

「次こそ消されるかもしれないぞ?」

「…………いいんじゃないの?」

 鏡は呆け顔で事も無げに言い放った。

「…………」

 私は暫く放心状態になり、口をぱっくり開けていた。

 鏡は私の間抜け面以外映していなかった。



 陸.図書室


 やはり、おかしい。

 普段ならこの辺りはデキソコナイ達で溢れ返ってる筈だ。

「おい神隠し」

「いっ――――ッッ!」

 私のノックに神隠しは悲鳴で答えた。

「…………やっぱりか」

 扉を開けるとまず、真っ昼間なのに真っ暗だった。何故か。デキソコナイ達が窓にびっしりと張り付いて光を遮ってるからだ。

 次にあったのは

「う――――ッ!?」

 足元に転がる何処からか転がってきた血を撒き散らす生首と噎せ返すような血と脂と生肉の臭いだった。

「おい神隠し!」

 私の声は暗幕の張られた図書室に虚しく響いただけだった。

「ぃ…………」

「神隠し!」

 私はその小さな悲鳴の方へ手探りで向かった。本来死神は暗闇も見通せるのだが……私は先天性の死神でないためそんな機能はなかった。

「し……」

「おい、なんだこりゃ!」

 神隠しの向こうには血の海から上がってきたような様のデキソコナイ達が群がっていた。

「神隠し!お前何やった!」

 目の前のデキソコナイ達の“親”にあたる少女は完全に腰を抜かし、更にはまともに話せる状態ではなかった。

「……がう……!…うです……」

 そのまま神隠しは私の胸に倒れ泣き始めた。

「おい!」

「……いや……で…す…!…………も……ゃ………です…!」

「嫌なのは私もだから……」

「死神さん…………何時になったら私をあの世に連れてってくれるのですか…………」

「!」

 私は何故こんな所に居るのかすっかり忘れていた。

 そうだ、神隠しの彼女をあの世に送り届ける。それが私が任された仕事だった。

「こんなの…もう嫌ですよぉ…………」

「…………」

 眼を赤くはらしながら彼女は言う。「なんで私だけ…………」

 私は暫く黙っていた。しかし、漸く告げるべきことを言葉にする事ができ、デキソコナイ達のにちにちと蠢く音は私の声に掻き消された。

「神隠し」

「……」

「あいつらの動力源がお前の恐怖心であることは解ってるよな」

「……」無言のまま神隠しはうなずく。

「無心になれ。深呼吸するんだ」

 彼女は深く息を吸い、吐いた。そして段々と冷静さを取り戻していく。

「恐れるな」

 私は足元に這ってきたデキソコナイに杖を突き刺した。びしゃ、と血が私の靴とズボンの裾と愛用の杖にかかった。

「ひ――――」

「恐れるな!」

 デキソコナイ達は静かになりつつある。

「おら散れ!杖で刺すぞ!」

 そう叫ぶとデキソコナイ達はあちこちに消えていき――――

「見るな神隠しッッ!」

 後に残ったのは少年だったであろう文字通り『肉塊』だった。首が無いから私が来るときに蹴飛ばしたのが彼の首だったのだろう。

 本棚の間から眺めると他に2、3個の『肉塊』が転がっていた。

「あーあ……」

 此処まで酷いと桜鬼も喜ばないだろう。

 私は一旦図書室から出ると、鏡を呼んだ。



 質.音楽室


夏神(カガミ)

「なんだ、またあんたか」

「鏡の中の私の持ってるものを借りてきてくれないか」

「……雑用係じゃないんだけど」

 鏡はそう言うと縁の外に消え、戻ってきた時は大きな木の柄を握っていた。

「あんたさぁ……こんなんどうやって振り回してるの?」

「死神は体造りも大切なんだよ」

「ふーん……」

 四苦八苦しながら鏡からその木の柄を引きずり出すと、私は力一杯それを引いた。

「っしょぉぉっっ!」

 引きずり出てきたのは私の身長を凌駕する一振りの巨大な鎌。私が仕事の時だけ使う赤刃の鎌だ。柄の部分には昇り蛇の彫刻が刻まれている。

「軽量化すればいいのに」

「元は更に50キロ近くあったんだ。かなり軽くなったはず……」

 これがまた、重い。70キロ近くある。

「やっぱヒトが死神になるなんて不可能だったんだよ」

「いいや、可能だ!私がその証明をしてやる!」


 酷く重い鎌を担ぎ図書室に入り、片っ端から肉塊を刻む。神隠しは言い付けを守って目を瞑っていた。

 刻み終え、鎌を『ズドン』と落とす。重かった……。

 後は血が凄い所に鎌の破片を捨てて置けば血はなくなる。

「いいぞー」


 さて、とりあえず襲われてた男女4人はなんと肝試しでここに来た等と抜かした。電気の奴が効かなかったのか。

 全く、興味本位でこんな所に来るからだ。一度しかない人生を棒に振ったな。


「あー、暇だなー……」

 私は音楽室に戻り幾種類かあるミュージックのCDを取り出すとそれを大音量で流した。


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