第二部 NO.1
暗い、長廊下を音もなく駆けて行く少年と一人の少女、そして熊のようにでかい男。
先頭に少女。それに続く少年。そして背後を護る大男。
どこから見ても可笑しな組み合わせだったが、今は関係なかった。戦争の真っ最中だからだ。
ギルドと言う同業者同士の組合。そのギルド同士の消しかけ合いだ。
リズム良く聞こえる三人の呼吸の音。足音はしない。
―――カッ――カッ―――
だが、時々テンポよく繰り返されるこの音。これは敵である傭兵達の革靴の足音だ。
この音が聞こえると、少女は音もなく闇に紛れる。また、大男もその巨体からは想像もできない身のこなしで、少年を抱きかかえながら天井に貼りつく。
そして、音もなく少女が近づき、首に短剣を突き刺す。
声もなく傭兵が倒れ込む。刺した瞬間、朱色の液体が飛び散った。
これは殺人だ。人に刃物を刺して殺した。世間一般から見たらそうなるであろうことだ。
レン自身もそう思っていた。だが、これは戦争なのだ。
全てが今みたいな一方的ではなかった。つい先ほども20人程度傭兵を相手にした。そのときに悟ったのだ。・・・こちらがやらなきゃ自分たちが殺されると。
もしかしたら俺みたいに巻き込まれた冒険者がいるかもしれない。そう思うとやりきれない。
第一にハルカやロンがいてくれなかったら真っ先に死んでいたと思う。
「おい、レン。顔が青ざめてるが、大丈夫か?」
ロンに声をかけられる。
この質問はこれで10回目だろうか?
彼なりに心配してくれているらしい。
「あ、あぁ。大丈夫だ。」
「こんな辛いことは早く終わらせちまおうぜ。今までの最速記録だと思うぜ?」
速いと言っても開戦から一週間は立っていた。
ギルド戦と言うのは、ユメノクニとは別の特別な世界でやるらしい。
今回の攻城戦のMAPも昔から使われてきたものを具現化したものだ。
「あとどのくらい?」
「ハルカ、地図だ。」
今まで無言で進んできた少女に聞く。
ハルカは、無言でウエストホルダーからこの城の地図を取り出す。
始まる前にロンから聞いたが彼女はこういう仕事中は無言になるらしい。
なんでも性格が・・・いや、口調が変わるそうだ。
だけど滅多に話さないから誰もわからないらしい。
確かに今のハルカにはいつもの笑顔なかった。むしろ怖いくらい真顔だ。いつどこから敵が来てもいいように目をギラギラ光らせている。
「ありゃ?道を間違ったか?今の現在地はここだよな?」
「俺に聞かれても困りますよ。」
「ハルカ、わかるか?」
しばらく沈黙する。
だがすぐにハルカの指がロンの指している場所と同じ場所を指した。
「今はここ。」
「そうか。ここまでくりゃ、二日もありゃ落ちるな。」
「まだ二日もあるのか!?」
まぁ、確かにこの一週間は時間の感覚が狂しくなりそうなくらい早かったけどさ。
それでも二日と言うのは長く聞こえる。
「まぁ、そう言うな。さっさと行動開始す・・・」
ロンが不自然に言葉を切った。
「どうした?」
「レン黙って。敵来る。」
ハルカは、その二言だけ言うと再び闇に紛れ、俺はロンに背負われた。
しばらく息を潜めていると何人かの声が聞こえてきた。
「ふふふ。こりゃ、楽勝だな。」
「ああ。あんなに簡単に倒せるとは思ってなかったぜ。」
二人の男組が真下を通り過ぎていく。
ふと、ハルカがまた背後に忍び寄るのかと思ったが。全くとして動かなかった。
どうしたのか?とロンに聞こうとしたが、口を押さえつけられた。
だが、もう一人足音と共にやってきた人がいた。
「おいお前ら。調子に乗って油断するんじゃねえぞ。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
それを聞いた二人組はビクッと反応した。
恐る恐る振り返る。
レンも声のした方を見る。
そこには黒い鎧に身を包み、長剣を携えた青年剣士がいた。
他の人とは違う気を身にまとい、相変わらずの笑顔で立っていた。
あの人は、そう・・・レンに剣技を教えてくれた彼だ。
その姿を見た二人組が頭を下げる。
「す、すいません。・・・・リョウタ副隊長。」
「あーあ。お前ら、こんなわかりやすい猫の侵入にも気付かねえのか?」
「は?」
リョウタが二人組に叱咤する。
「猫がいるだろうが。何故殺さない。」
・・・嫌な予感がする。
そう思った。だが、遅かった。
気付けばリョウタがこちらに向かって懐に隠し持っていたマインゴーシュを投げつけてきていた。
思わず目をつむったが、急に体が浮く感覚が起きた。
瞬間、腰に強い衝撃が走った。
周りを見渡すと、腕から血を流したロンとハルカが二人組に剣を着きたてられていた。
「ほ~ら。三匹いたじゃないか。こりゃ罰則ものだな。」
「す、すいませんでした。」
「良いからさっさとそのもう一人を捕まえてこい。」
どうやら俺たちのことには気付かないらしい。
いや、覆面をしているから当然か?
「おい、いつまでも寝てんじゃねえぞ!」
思いっきり脇腹を蹴られる。
「っぐ・・・」
自然とうめき声が出る。
「リョウタさん。こいつらどうしましょうか?」
「そうだなぁ~・・・。とりあえずこいつらの無様な顔を見せろ。」
「はい。」
三人の覆面が勢いよく取られた。
「っ・・・!?」
思った通りだったが、リョウタは驚愕の表情を見せた。
まぁ、確かに子供二人が盗賊ギルドに入ってるなんてことは思っちゃいなかったことだろうけどな。
「レン君とハルカ君・・・?なんでここにいるんだ。今頃は・・・宿でへらへら笑顔でぬくぬくやってると思ったのによ。」
「リョウタ・・・。俺はハルカの為にこっち側で戦ってる。あんたに言われたとおり誓ったことを守ってるんだ。」
「意味分かんねえんだよ・・・。いつも俺から剣を学んでいく奴は・・・。」
悲しそうにリョウタが呟く。
「どういう意味だ?」
「どういう意味もねえよ・・・。悪いがお前らはこちらの捕虜となってもらう。レン君とハルカ君ともう一人は・・・砂漠支部の支部長ロナルド。おい・・・つれてこい。」
「はい?」
「つれてこいってんだよ!!」
リョウタが呆然としている二人に向かって怒鳴った。
二人ともいきなり怒られたので驚いたらしかったがすぐに俺たちに剣を突き付けながら歩かせた。
さすがのハルカも驚いた顔つきをしている。が、ロンの方も相当わけがわからなかったらしく、呆然としている。
レンにとっては、何よりも捕まってこれから殺されると言うことに実感がなかった。