NO.5
翌朝、レンはハルカとともにシーフギルドの集会場に向かった。
冒険者同士の消しかけ合いは珍しくはないらしいが、ギルド同士の場合は凄く稀有なパターンらしい。
もっともこれは殺し合いだ。殺すか殺されないかの世界。
もちろん、人を殺すと言うのは初めてだった・・・。
いくら自分のためだとはいえ、同じ死の体験をしている仲間を殺すのは気が引ける。
死ぬ、と言うのは辛い。一瞬何が起きたかさえも考えられない。寒い、寂しい。
レンの場合はそれさえも一瞬だったが、その一瞬でさえ永遠に感じられた。
そう思うとつい、蘇ることを諦めてしまう。この世界で生きて行くのもありかな?と思える。
だけど・・・俺は誓った。絶対に蘇る・・・と。
昨日知ったが、ハルカも冒険者だった。つまり、俺と同じく蘇る権利があると言うことだ。
だからこそ、俺はこの戦いから目を背けず、これから幾度となく繰り返すだろう消しかけ合いに向かう。
絶対に生き残ると言う保証はない。だが、ハルカと共に誓ったのだ。今度こそ旅にでよう、と。
今回の争いも思わぬ事件だった。
こればかりは巻き込まれたとも言えるかもしれない。なにせ俺はシーフGの人間でもマーセナリーGの人間でもないからだ。
だが、ハルカはシーフGの人間だった。対するマーセナリーGには俺に剣技を教えてくれたリョウタがいる。
この街に来て、これに巻き込まれると言うことも運命だったのかもしれない。
気がついたらハルカがこちらを覗きこんでいる。
「・・・レン?大丈夫ですか?」
「ん。ああ・・・大丈夫だ。」
「やっぱり、怖い・・・ですか?」
図星だったため、顔をしかめてしまう。
あまり説得力はなさそうだったが、俺はこう言っておく。
「大丈夫だ。ハルカ・・・絶対に勝とうな。」
「今更何言ってるんですか。当たり前ですよ。」
笑顔で抱きついてくる。
ハルカが微笑むと俺もついつられて笑ってしまう。
悲しんでいてもこいつの笑顔を見るとこちらまで笑ってしまう。周りの人全員を幸せにしてしまう、そんな笑顔だ。
集会場に入ると怖い顔の人がたくさん座っていた。
いかにも「おい、てめえ。その面が気に入らねえ殴らせろ。」とでも言ってそうな顔だ。
だが、そんな顔の人たちが笑顔で話しかけてくる。
「いらっしゃい。ハルカ、お前の友達か?」
「うん、そうだよ。」
「どうも!うちのハルカがお世話になってます。」
などとカタコトな敬語で、なおかつフレンドリーに話しかけてくるもんだからたまったもんじゃない。レンは思いっきり吹きだしてしまった。
しかし、おもいっきり場違いな目で睨まれたので、「ご、ごめんなさい。」と思わず謝った。
だが、それも一瞬で周りの人まで大きな声で思いっきり笑い始めた。
「わっはっは。お前も笑ったな。俺の勝ちだな。ここに初めてくるやつにゃ、このネタが一番受けるのよ。」
でかい図体でどう見ても盗賊と言うよりは、工事現場で働いている感じのおっさんが話しかけてきた。
適度に顎ヒゲを生やしたその顔と信じられないくらいの巨体は、熊にさえ見えた。
「よう、坊主。シーフGにようこそ。俺は、ロナルド。みんな俺のことはロンって呼んでるぜ。ちなみに役職は、ここの支部長を務めてる。」
「お、俺はレンと言います。よろしくお願いします。」
急に自己紹介に持ち込まれたので、声がうわずってしまった。
「お前もハルカと一緒の冒険者だよな?どうだい?これを機にこのGにはいっちまえ。」
「生きてたらそのつもりです。」
ほとんど本音を言った。他の人たちなら盗賊だぜ?って思う人もいるかもしれないが。
こんな気持ちの良い人たちがいるんだったらできれば入りたい。
盗賊って言ってたからどんな悪人が待ち受けてるのかと思ったら全然良い人たちだった。
ハルカが好きだって言っていたのもわかる気がする。
が、ロンは生きていたらと言うのが気に入らなかったらしく、少々顔をしかめながら続けた。
「生きていたらってどういうことだ?俺たちは勝つんだよ。勝つしかないだよ。だから入るってことは決定だ。それで良いんだよな?」
「は、はい。」
ロンさん、顔・・・怖いよ。そんな高いところから見降ろさないで下さいよ・・・。
「ロンさん、その辺で許してあげてです。レンは恥ずかしがり屋なのです。」
「おう、いじめるつもりはねえよ。」
わっはっは、と威勢のいい声で笑う。
だが急に顔を歪ませ、しみじみと語りだした。
「そうか~・・・あのハルカについにボーイフレンドができたのか。人は成長するもんだなぁ・・。」
少し涙ぐんでる。ロンとハルカってどんな関係なんだ?
ハルカの方はと言うと手を振り回しながら、レンとはそんなに深い関係はないよと訂正している。
ちょっとだけだががっかりだ・・・。
そんな目で二人の姿を見ていたら、ロンの部下らしい人が耳打ちした。
「ああ、冗談はおいといてだな、そろそろ本題に入らせてもらうぜ。」
「はい!」
ハルカも真剣な顔に戻った。
俺も急いでハルカの隣に移動して、話しを聞く態勢に入った。
「今回は攻城戦方式で戦争するんだ。もちろん実戦でな。二人には、俺と共に城に攻めてもらう。」
「え?・・・レンもですか?」
「そうだ。なあに、ハルカの大切なボーイフレンドだ、俺が殺させねえよ。だから、お前は安心して背中を預けな。」
「もとから信頼してるです。」
「わっはっはっは。そいつはありがてえや。」
二人で笑いあう。
この風景どこかで見たことが・・・。
あぁ、そうか親父と姉貴もよくこうして笑っていたっけ?
懐かしいな・・・ってか、俺だけ疎外感を感じるのは気のせいだろうか・・・。
攻城戦?なんだそりゃ。
「攻城戦ってのはな、昔この世界が統一される前にあった、戦争形式だよ。そのまんまの意味で、城に攻め込む側は城を落とすのさ。逆に守る側は相手が降伏するまで守り続ける。最近はあまり見かけない戦いだが、向こうのマスターがどうせなら古来からの方法でって言うんでな。」
俺は勉強になる、とうなずく。
だがハルカは納得いかないらしく、つっこんだ。
「それ、はめられてません?相手はそっちのほうが有利じゃないですか?」
「ん~?そうだったな。わっはっは、こりゃ一本取られたな。」
ロンにとっては何でも笑えるらしい。
本来は笑いごとじゃないだろうに・・・。
「まったく、気をつけなきゃ駄目じゃないですか。」
「悪い悪い。今度から気をつけるぜ。」
ロンとは、30分後に戦闘を開始するらしいのでその時詳しく話すと言われ、別れた。
ふと俺は気になっていたことを質問した。
「ハルカ、ロンさんとはどんな関係なの?」
「はい?えっとですね・・・かれこれ8年はかかわってますね。彼がボクをここに誘ったんですよ。当時からあんなでしたね。」
「そんなに!?ってかお前何歳なんだ?」
「ボクはですね・・・」
しばらく考え込む。
「死んだ時は10歳でここにきて9年ですから、19歳ですかね?まぁ、年齢はストップしてますから10歳のままです。」
「俺より年上じゃん!?気付かなかったぜ。」
「そうですよ~。レンはまだまだ子供です~。」
どうだと言わんばかりに、ない胸を懸命に張っている。
この身長で19歳と思えと言う方が不可能だな・・・。
「あと、ここでのお前の役職って何?」
「え?ここではなんでもないですよ?ただ本部の方で副マスターを務めてますけど。それが?」
・・・・。
質問するたびにハルカが俺よりかなり格上だと言うことを思い知らされる・・・。
それに比べたら俺なんてなんのとりえもない貧乏冒険者じゃん・・・。
金に心配いらないって言ったのもそれか?
その後も聞くたびに格差がついたところで、戦闘開始の時間になろうとしていた。
「レン、気負う必要はありません。ボクの後ろを着いてくればいいですよ。」
「・・・わかった。」
いくら側に凄い人がいるとはいえ、これから殺し合いをすると思うと緊張する。
あまりにも緊張していたためか、顔が青ざめていたらしい。
ふと、手に暖かいものが触れる。ハルカの手だった。
「大丈夫ですよ。心配いりません。」
「あぁ、ありがとう。」
俺も手を握り返す。温かく、柔らかい女の子の手。
遠い過去にも誰かにこうしてもらった記憶があった。
姉貴・・・。
不安だった時、親が仕事でいない時に寂しいと泣いた時・・・。
いつも俺の手を握ってくれた・・・。
姉貴はやはりあそこで死ぬ運命だったのか?
だからここにも・・・いないのか?
「レン?どうしました?」
気がついたら泣いていた。
涙が、頬を伝う。
「大丈夫・・・。少し大切な人のこと・・・思い出しただけだ。」
「そうですか・・・。」
ハルカは気を使ってくれたらしく、さっきより強く握ってくれた。
俺たちはロンに声を掛けられるまでのしばらくの間そうしていた。