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You.Me.NOKUNI  作者: MURASHIGE
~長谷川 煉 編(1)~ 第一章
5/8

NO.4

ベッドが離れているとはいえ、やはり女の子と一緒の部屋はなにか緊張した。

当然のことながらなんにも起こらず(期待もしてないが)次の日の朝を迎えた。


「ふあ~。ほあようごあいまふ~(おはようございます~)」

あいかわらず寝起きの言葉は変になるらしい。

「おはよう、ハルカ。今日は西口でリョウタさんと修行だよ。」

「ヘンはんいふひにらったんでふか?(レンさん行く気になったんですか?)」

「まだ眠いのか?ほら、顔洗ってきな。」

「ふぁい・・・」

ふらふらとおぼつかない足で外の井戸へ向かって行った。

・・・寂しそうに見えるのは気のせいだろうか?

「って言うかあんなんで階段大丈夫か?」

危なっかしすぎるので着いていくことにした。


ハルカが階段にさしかかっていたところで見つけたが、声をかける前にふらふらと降りはじめてしまった。

・・・・・・・・結果は言うまでもなく、悲鳴と共にハルカの小さな体は見事に転がり落ちて行った。


「・・・大丈夫か?」

「ぅぅぅぅぅ・・・・。痛いですー、レンさああああああああん」

ハルカが泣きながら抱きついてくる。

実はお前大丈夫だろ!と突っ込みたかったが、人間として・・・男としてそれはできなかった。

「よしよし。大丈夫か?今度からは階段降りるときくらいはシャキッとしてるんだ」

「はいです・・・。以後気をつけます・・・。」

だんだんいつもの笑顔に戻ってきた。

「んで、目が覚めたか?」

「あれだけ派手に転がってまだ眠いって人がいると思いますか?」

ハルカから笑顔が消え、鋭い眼光で睨みつけてきた。

「あ、あれ?どうしたの?」

「何で止めてくれなかったんです?あれを見てられたってことは止めなかったってことじゃないですか?」

う・・・鋭い・・。

確かに止めようとダッシュしていたら止められない距離ではなかった。・・が俺は止めなかった。

何故なら・・さっきの状況になることを予想していたからだ。俺としてはさっきの状況を作りたかった。

それに、昨日の争いを止めた瞬間の運動神経があるならあれくらいで怪我はしないはずだと。

何より、まだ誰かが眠っているかもしれないこの早朝から叫びながら走って止めるのが恥ずかしかったからだ。

「・・・しょうがないですね。許しましょう。」

「・・・ごめんな。」

「いいですよ、レンはボクより子供ですからね。年下をいじめるのは好きじゃありません。」

許してもらったてまえ、お前俺より年下だろ!なんてとてもじゃないが言えるわけもなく、その後も頭を下げ続けた。

「そういえば、リョウタさんとの約束はどうなったです?」

「ああ!忘れてた・・・。」

「人を待たせるのは良くないですよ。早く行ってきてください。」

「え・・でも、ハルカ歩ける?」

「大丈夫です。あとから駆けつけますから先に行っててください。」

わかった、と言いのこし、リョウタの待つ西口まで走って行った。


西口では、リョウタが待っていた。

昨日と同じ黒い鎧に身を包んでいる。

改めて外見を確認すると、何かレンにはない雰囲気が漂っていた。

これが戦場を生き抜いてきたものの威厳なのか?


「やあ、来たね。」

「すいません、待たせてしまいましたか?」

「いいよ、僕も今来たばかりだから。」


「これからどうするんですか?」

「そうだね、いきなり僕と組むのは無理だと思うから・・・基本からだね。まずは素振り300回ずつだ。」

そう言うと実際にリョウタが、縦切り、横切り、突きの順番で剣をふるって見せた

「この動作を300回ずつね。」

レンは生前、剣道部に所属していた。基本の動作くらい覚えてるはずだ。

必要ない・・と言いたいが、教えてもらう手前言えなかった。

縦切りが20回終わったところに、いきなりリョウタが声を掛けてきた。

「・・・不服そうだね?力が入ってないよ。実際に一度組んでみようか?そうしたらいかに自分が無力で弱いのかわかるよ。」

リョウタは挑発的に嘲笑ってきたので、つい「やりましょう。勝つ自信ありますので。」と言ってしまった。

いざ向き合ってみると、言ってしまった自分に後悔したが、そこまで言われて黙ってはいられない。


「レン君。君の場合は自信とは言わない。過信だよ。いいよ打ってきな。」

・・・ムカついた。

俺は、力の限り思いっきりリョウタの頭に向かって斬りこんだ。

―――グオンッ――――

練習用の銅剣なので鈍い音が鳴った。

完全にリョウタの面を捉えたと思った瞬間、俺の剣は宙に舞っていた。

「レン君、君の負けだね。黙って練習するんだ。」

俺は思わず反論しそうになったが、リョウタの言葉に遮られた。

「どうせ、生前に剣道とか習ってたって類だろ?あんなの実戦じゃ役に立たないさ。僕が昨日やっていたのは試合じゃない。死合だ。命のやり取りやってるんだ。そんな甘い剣じゃ生き残れない。」

「でも、俺は・・・」

「他の冒険者だけじゃない、今の君じゃその辺にいる怪物どもにも敵わない。そんなんで良くハルカ君を護りたいだなんて言えたね。」

悔しいが、言われたとおりだった。リョウタは本当に強かった。別に剣で世界一になりたいわけじゃないが、生き残るために必要なんだ。

俺が甘かったのだ。ここはゲームでも漫画でもない。現実なんだ。一度死んでるんだ。蘇るために必要なことなんだ。

「ちゃんと練習します。ごめんなさい。」

「ああ。そこまで改まる必要ないけど、強くなりたいんだったらきちんと練習頼むよ。」


その後、ときどきリョウタにコツを教えてもらいながら黙々と剣の素振りした。

今わかったが素振りの300回(合計900回だが)ってえらいことだ・・・。思ったが野球部の連中ってこんなに辛いことしてたんだな。どうりで努力がどうとかの話で野球部の話が多いと思ったよ。作り話じゃなかったんだな。

終わった所にちょうど良くハルカが来た。まさかとは思うがこいつタイミング測ってたんじゃないよな?

手を振ってきたが、腕が重くてとてもじゃないが振り返せなかった。

「にゃふ~、レンさん!元気そうでなによりです。」

「お前の目には俺が元気そうに見えるらしいな。目、正常か?」

「正常です。そんなに疲れるまでやるってことは元気じゃないですか」

「そうだな、そう言う捉え方もあるな・・・」

ハルカの表情は疑問でいっぱいだ。いまにも「?」と言う字が見えそうだ。

「リョウタさんもどうもです。」

「ああ。ハルカ君、おはよう。」

「おはようですー。」

「これからレン君には実戦形式で木人形に打ち込んでもらうんだけど、ちょっと見ててくれないかな?」

「いいですけど、どこかいくのですか?」

「ああ、ちょっと野暮用でね・・・。」


なにやら急いでいるらしく、「頼んだよ。」と言い残し、裏路地に入りこんでしまった。


「さて、レン・・・今すぐ始めますよ。」

「えぇ?もうちょっと休ませろよ。」

「レン・・・始めますよ?」

ちょっと、ハルカさん?怖い顔してますよ・・・?

何やら殺気が感じたので、渋々立ちあがった。


「この木人形は、正しく斬り込むと力なく斬れます。」

ハルカは、この通り。と実際にダガーで斬り込んで見せた。

木人形の首と胴体が綺麗に二つに分かれた。

「じゃあ、俺もだ。」

木人形と向き合う。そこから、横から斬り込んだ。

「うりゃあ!」

先ほどの練習の成果がでたと思えるほど鋭く剣が振れた。

・・・が予想に反し、胸のあたりに少し食い込んだだけで剣が止まってしまった。

「ありゃ?斬れないぜ?」

「レン、相手は鎧着てるんですよ?斬れなくて当たり前です。急所を斬るんです。胸を斬るなら突きです!」

またもハルカがダガーで突き込んだ。

今度も力を入れたようには見えないぐらい自然に突き刺さった。

「さぁ、レン。斬るです。」

「わ、わかった。」

今度は頭を目掛けて縦に斬り込んだ。

途中までは順調に斬れたが、途中から動かなくなった。

「あ、あれ?動かないぞ?」

「レン、良いんですよ。そこから先は上にあげることも下げることもできません。今ので敵は即死です、次に考えることは他の刃から逃げることです。早くそれを抜いて避けるんです。」

顔を上げると、目の前から斬りこんでくる木人形(剣も木だが)がいた。

あれはどういう仕組みになってんだ?


「っく、抜けねえ・・・」

上にあげようとしても、上げられなかった。

どうすればこの人形から剣を抜くことができるんだ?

などと考えていたら、斬られた(いや、叩かれたの方が正しいか?)

「レン・・・ダメダメですね。」

「だって、これ抜けな・・・」

言おうとしたらハルカが俺の剣を木人形から抜いて見せた。

「抜けましたよ?」

「・・・どうして?」

「真っ直ぐ後ろに引っ張っても上にあげても抜けませんでしたね?当然です。これを避けるためには、斜め下に向かって斬り捨てるんです。」

「そ、そうなのか?」

「はい。では、今度こそ二体連続で斬り倒してください。」

ハルカがそう言うと、生きているかのように木人形が立ち、襲いかかってきた。


まず、最初に頭から斬り下げる。そして、斜め下に斬り捨てる・・・。

先ほどのようには力もいらず、剣を斬り下げられた。

次は・・・頭に向かって打ちこまれてくる木剣を避け、その勢いで首に向かって横切りを放った。


おぉ?これ、上手く行ったんじゃないか?


「レン、ぐれーとです!かっこよかったです!上達が早いんですね?」

「そ、そうか?」

「はい、とっても!」

ハルカは笑顔で、腕を振り回しながら近づいてくる。

こういう所が子供っぽいが、今は何も言わず見ておこうと思った。

ハルカの頭を撫でに近づこうかと思ったら、リョウタが息を切らしながら帰ってきた。

「レ、レン君。上達したね。君は呑み込みが早いんだね。次のステップに行ってもよさそうだ。」

「いえ・・・。次はなんですか?」

「次は・・・実戦練習だ・・。まだ早いかもしれないが、冒険者なんだから早い方がいいだろう。」

「じ、実戦です?まだ早いですよ!リョウタさん、レンを殺す気です?」

俺が驚く前にハルカが反論してくれた。

全く・・・この人は何を考えてるんだ。

なんてな。俺が言うことじゃないか・・・。きっと必要なことなんだろ。

「危なくなったら僕とハルカが助ければいい。」

「で、でも、実戦って・・・なにをするんですか?」

「これから、この街の盗賊ギルドシーフジーの連中と俺たち傭兵ギルドマーセナリージーが戦争するんだ。発端は盗賊ギルドの連中が<なんでも屋>を名乗り俺たちの仕事を取り上げて行ったらしく、うちのマスターが怒ってお互いにギルドジー戦を称しての消しかけ合いに持ち込んだんだ。」

「ジー?」

「ああ、ギルドの略だ。もしかしてレン君はギルドに所属してないのかい?」

「そうです。ギルドって何ですか?」

「ギルドってのは同業者同士の集まりさ。通称<ジー>、ギルドに所属すると、その仕事を請けられるんだ。内容はギルド次第だけどね。冒険者の人間も大抵はどこかのギルドに所属しているんだ。そっちの方がお金を稼ぎながらの冒険ができるからね。ここの街のギルドは何時も抗争を繰り広げていたけど、今回のようなお互いの消しかけるようなのは初めてなのさ。この街に残ってるマーセナリージーは人数が少なくて、困っていたのさ。そこで、君たちにも手伝ってもらいたくて・・・」

「今回教えると言ってくれたのも善意ではなく・・・それのせい・・ですか?」

ハルカが真顔で聞く。一つも笑ってない。

こういうときハルカは怒ってる。

「頼む、ハルカ君、レン君。僕たちのためにこの仕事を請け負ってくれ。今回の件が良く済めば君達もマーセナリージーに加入することくらいできるはずだから・・・。」

「リョウタさん。困ってるときはお互い様です!俺で良ければ手伝います。だよな、ハルカ?」

ハルカの顔は真っ青だった。

そのあと、リョウタはまたどこかに消えてしまったが、ハルカの顔は真っ青のままだった。


レン・・・、と弱々しい声で呼ばれる。

「本当に手伝うんですか?」

「そのつもりだけど?」

「・・・たとえボクがシーフギルドの人間だったとしても・・・ですか?」

「え?」

「ボクは一応シーフギルドの人間です。まぁ、この街の所属ではないですけど・・・。レンがあっちについたとしても、たぶんボクはシーフギルドにつきます。」

「・・・・・」

「・・・・・」

沈黙が続く。

一瞬それがなにを意味するのか分からなかった。

俺としてはギルドの存在については今知ったが、今までハルカが教えてくれなかった理由は単にハルカの仕事が盗賊、と言う仕事だったからだろうか?


「レンが、どちらにつくもレンの自由です。たぶんボクもこれから呼び出しがかかると思います。参加する気がないなら宿で黙っていても大丈夫ですよ?たぶん明日の早朝から始まると思います。」

ハルカの声が震えている。怖いのだろうか・・・?

いや、怖いわけがないな、あんなに強いのだから。

ハルカが恐れているものはなんだろうか?

「レン・・・大丈夫ですよね?戦いが終わってもまた一緒に旅ができますよね?」

「なんだ?お前、そんな事心配してんのか?」

「・・・・・」

「・・・・・」

再び沈黙した。

お前に着くよ、と言おうとしたが先に口を開いたのはまたもハルカだった。

目に涙を浮かべながら「だって・・・」と喘いでる。

「このままだと・・・レンと殺し合うかもしれないんですよ?」

「何を怖がってるんだ?君は強いだろ・・・。俺とだってまだ2日しか旅してないんだぜ?お前が生きるためなら・・・」

俺は何を言ってるのだろうか?お前に着くよ、と言ってあげればすむことじゃないか。

無駄にかっこつけてんなよ。

死ぬのはごめんだ・・・。

それでも、勝手にかっこつけて・・・、虚栄を張って・・・口が勝手に動き、続きを言ってしまう。

「俺は死んでもかまわない。」

「バカ・・・!なにかっこつけてるんです!どんなことがあっても、レンを殺すだなんてボクには無理です。大切な人を・・・好きな人を殺すのが平気なわけないじゃないですか!」

「え?」

「ボクはレンと会うのが初めてじゃない気がします。もしかしたら生前にあったことがあるのかもしれません。ボクはこの世界に来た時、全てに絶望してました。生前イジメを受け、目の前で大切な父親を失ったボクは自殺を図りました。そのうえでまた蘇る必要があるのだろうかと思いました。・・・それでもボクは冒険にでました。願いをかなえてくれると言う銀龍のもとに行くためです。本当は銀龍は蘇りの専門じゃありません。一つだけ願いをかなえてくれるんです。そのうえでみんなは蘇ることを望んでいました。ですが、この世界でも笑われたボクはいつか冒険をやめ、盗賊業につき、荒れました。基本盗賊業は一人ですし、ギルドのみんなはボクの姿を笑いませんでした。・・・生前は体が弱く、話し方が変だと笑われ、この世界ではこの耳と尻尾のせいで笑われました。」

「その耳が、どうして?そんなの個性じゃないか。確かに初めて見たときはびっくりしたけどな・・・」

「そこです。レンはボクのこと笑いませんでした・・・。ボクのことを笑わない人はレンだけでした。ボクは、そんなレンのことが好きになってしまいました。恥ずかしいですけど、一目惚れですね。ですから・・・ボクには無理です。黙って仕事をくれたシーフギルドの人のことを裏切ることも・・・。レンを殺すことも・・・」

ハルカは泣いていた。それでもいつもの笑顔は消えていなかった。

俺は嬉しかった。

それでも俺の口は素直に嬉しいと言ってくれなかった。ツンデレってやつか?いや、またかっこつけてひねって言葉を伝えるんだな。ネットで「なにかっこつけてんだよww」って言われそうな勢いで。

「なんで今それを言うんだよ・・・。別にリョウタさんの方につくなんて一言も言ってないだろ?」

「はい?」

ハルカの顔に疑問が浮かび上がる。

「・・・大丈夫。俺はシーフギルドに着くよ。リョウタさんには悪いけどな・・・。もともとリョウタさんに着く気はなかったよ。なのに勘違いしてなんで今言ってんだよ・・・。」

「・・・・・・・」

しばらく沈黙して、ハルカの顔は泣き笑顔から恥じらいの表情に顔を変えた。

そう言うところは可愛いんだがな・・・。

「もしかして・・・ボクの早とちりでしたか?」

「だな。」

「・・・・・・」

「はっはっは。ハルカの気持ちはわかったぜ。俺もお前の事は好きだ。だから、これからもよろしくな。」

そう言い頭を撫でてやった。

また沈黙になりそうだったし、途中で言葉止まったら余計言いづらくなるから、俺の方も無理やり笑いながら言ってやったよハハハ。


そしたらまたハルカの顔に火がついたように紅くなっていた。


「ずっと片思いかと思ってました・・・。」

「その話あとでたくさんしよう。周りの人が見てるし聞いてるから。」

「はい・・・。」


今日くらい・・・ハルカと話しこむ日があってもいいかな・・・。

そう思った。

これから、戦いと冒険の日々に飛び出すのだから・・・。

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