NO.2
――ヒュウルルル――――
一筋の風が砂を悪戯に舞いあげる。
――ザクッ、ザクッ―――
これは、少年と少女が砂漠を歩く音。
二人はつい先ほど森を抜けだし、今晩の宿を探して町まで歩いていた。
町までの距離は休憩を入れて半日の距離。そう遠くはなかった。
「もう疲れた。休憩にしようぜ。」
と切りだしたのはレンの方だった。
もうかれこれ3時間は歩き続けている。
だが、ハルカの方はまだまだ元気だった。
「だらしないですね。ボクより凄い体つきしてるのに。ほらほら、急がないと日が暮れちゃうです。」
そしてまた、ピョン、ピョンと元気よく駆けだす。
あの小さな体のどこにこんな体力があるのだろうか。
砂の道と言うのは思っていたよりも大変だった。一歩一歩が砂に足を取られ、すぐ靴の中に砂がたまる。話そうと口をあけても、すぐ砂で口のなかがジャリジャリになる。
置いていかれても困るのでレンもすぐ後を追う。が、一瞬目を話した隙にどこかに消えてしまった。
「あれ?ハルカ?どこいった?」
「ここですぅ~~・・・。助けてくださいです~・・・。」
どこからか情けない泣き声が聞こえる。
360度見渡してみるが。どこにもいなかった。
「ハルカ?どこ?」
「ここです・・・。下です。」
「え?」、と下を見降ろしたら、見事に砂に飲み込まれそうになってるハルカの顔があった。
どうやったらこんな綺麗にハマれるのだろうか、などと考えつつ思いっきりひっぱりあげた。
「うえ~ん。助かりましたです」
「わかったわかったから、抱きつくな。ただでさえ暑いのにこれ以上暑くなっても困る。さっさと町に行こうぜ、ってあれ?」
あれ?って言うのはまたハルカが消えたからだ。
まさか、と思って下の方を見てみたら、再び穴にハマりながら泣いているハルカがいた。
その後、何度か穴にハマったハルカを助けつつ歩き続け、なんとか町にたどりつくことができた。
「ようやく着きましたね~。ここが、砂漠都市ラハナです。」
「町・・・じゃないだろ。今自分でも都市って言ったよな?」
町と聞いていた俺には、この栄えっぷりにはびっくりした。人がたくさんいるのはいいとして、色んなものが売っていたり、人間に見えない二足歩行の生き物もいた。
いわゆる交易の地、みたいだな。
世界史の授業で習った、古代エジプト文明の都もこんな感じなのだろうか?
きょろきょろしていたら、変な目で見られたが(当然か?)特に事件もなくなんとか宿に着くことができた。
「部屋代については今回だけボクが払っておきますので・・・。」
「あぁ、頼むよ・・・。俺はもう疲れたから、寝る。」
「ではご飯のときに起こしますね。」
レンは目の前のベッドに思いっきり倒れこみ、10秒も立たないうちに寝息を立てていた。
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気がつけば、いつぞやの真っ暗で黒の世界にいた。
以前と違うところは、目の前に小さな女の子がいたこと。
「いよ~う、少年。元気にやっとるかのぅ?」
「誰だ?お前」
「ん?わしじゃわし。んまぁ、信じてもらえんかの?」
「まさかとは思うがあんときのじじいか?」
「じじいと違うんじゃのう、これが。」
「どうでもいいからこの状況教えろよ。なんとなくハルカに流されてきたが・・・意味分かんないぜ。」
少女(いや、ババアか?)はやや面喰ったようで、少し引き気味で言った。
「まぁ、詳しいことはこれから説明するでのぅ。」
「早くしてくれ。じゃないとわけわかんねーよ。」
「これから主の頭の中にこの世界のことを簡単に流し込むからの。なに、怖がることない。こっちの方が早く終わるでの。」
もう一度疑問を浮かべようとした瞬間頭の中に誰かの言葉が流れ込んだ。
わしの名は引導者。神から今回のことを言い使ってるのでこれを主に話そう。
15歳以下の少年少女は、生きる権利がある。寿命が来ていないのに死んでしまった場合「ユメノクニ」にて、希望を与えよう。
ただし、条件が一つある。
それは、この世界、「ユメノクニ」の果てにあると言う銀龍楼に行かねばならん。
それまでの道のりは険しく、辛く、危険だ。
もし失敗して、この世界で死んでしまうと、永久に蘇る権利を失う。
しかし、たどりつけばもう一度生をやろう。
先ほども言ったが、道は険しい。冒険者となる気があるなら、力を与えよう。
この世界でもいきると言う道はある。中途半端な志なら、ここで暮らしているのが賢明だ。
ここに来た人数は1678人
今までの冒険者数は1567人
そのうち現在も生きている人数は157人だ。
半数以上が死んでいる。
もう一度言う。中途半端な気持ちなら思いとどまれ。
「どうかのう?」
レンは言葉を失っていた。もう一度あの世界で生きていけると言う希望と、生存確率が低いと言う絶望。
だが、死ぬ瞬間後悔していた。あのあと、母から祝福され、友達と一緒に泣き、笑うはずだった。
そして、これから幸せを目指して行くはずだ・・・。
「もうひとつ・・・聞いていいか?」
「心配いらん。もちろん死んだ瞬間の時間に戻る。そして死ぬのは取り消しになるのじゃ。」
「そうか・・・なら、俺は冒険者になる。俺に力をくれ。」
少女は待っていたとばかりに満面の笑みを浮かべた。
「わしに、任しておけぃ。主には、この冒険セット2-7型じゃな。なぁに、多少子供っぽい名前じゃが、主はまだまだ子供じゃからの。」
「にゃうをのいなおうhぐあbんばいgぼyばを」、と呪文を唱え始めた。まあ、何言ってるかさえわからんのだが。
しばらくすると少女が輝き始め、俺はその光を受ける感じになった。
「よし、完了じゃ。」
「・・・ってそれだけ!?」
「大丈夫じゃ、目が覚めたら変わってるからの。」
そして、少女は「またくるからのぅ~。」と手を振り消えた。
・・・かと思ったらまた出現した。
「なんだよ!?」
「言い忘れとったことがあってのう。」
爺さんが言うには、冒険者は争い蹴落とし合う必要があるそうだ。
なんでも、20人までしか蘇ることができないらしい。
現在、蘇りに成功した人数は4人。
生存率の低さはお互いの蹴落とし合いにあるそうだ。
その代わり、どんなチームを組んでもいいらしい。
「んじゃ、今度こそさらばじゃ。」
同時に、俺の意識がなくなって行った。
ふと思ったがハルカと引導者とか言う少女と言い・・・。どこかで見たことあるような気がしてならない・・・。
何かが違う・・・。
世の中こんなに調子がいいはずがない。
俺は死んだんだ。
それはどうしようもない。事実だったんだ。
信じるしかない・・・のか。