~周囲の変化と俺の体調変化~ part4
もう三連休も終わりか……なんだろうこの喪失感。
早すぎる、平日と比べて終わるのが早すぎるっ!!
もうすぐテストなので、勉強頑張りたい!!
雨沢は物凄いドヤ顔をしながら、
「これって凄いことだと思いませんか? 褒めてもいいんですよ先輩。いやむしろもう敬っちゃってください尊敬しちゃってください下僕になってくださいよ」
「いや、そんな突拍子もないことをいきなり言われても、信用度に欠けるんだよお前の発言。人の夢を体験? そりゃあ凄いことだと俺も思うが、なんでそんな話を俺にするんだ? その裏社会とやらの住人に売り込みに行けばいいだろうに。一般人の俺にはまったく関係がない話だと思うぞ?」
あえて下僕発言には突っ込まず、正当な意見をぶつけてやった。
というかそもそも、人の夢を見たり体験したり出来るという所も甚だ疑問だ。そんな話は聞いたことがないし、そもそもそんなものが開発されたんならもっと世界中が大騒ぎすると思うんだが。
「だから裏世界にしか広まってないって言ったじゃないですか。夢を見ることが出来るなんてこと、ほんとに一握りの闇組織しか知りませんよ。それに私が開発したこの『夢吸い取る君三号』だって、つい先日出来たばかりで、まだ誰にも知らせていませんですしね」
裏世界、闇組織……、なんかコイツとこのまま親しい関係になってしまうのは死亡フラグのような気がしてきた。クワバラ、クワバラ。
「あと一番の間違いは、先輩が無関係と言うところですよ」
「んぁ? 俺?」
「そうです。浦隼人という人物は、私の計算上この計画に欠かせない人物なんですよ」
「……へぇ」
「なんですか先輩その反応。こんな美少女発明家が、あなたが必要なんですと言っているのに、先輩は、変態は変態でもそっち方面の変態さんでしたか、このロリ野郎」
「俺に勝手な設定を付け加えるな! それと、お前は一応ロリに分類されるということだけ教えといてやる」
「まあ言葉だけじゃ信憑性に欠けますし、論より証拠。実際に先輩に体験してもらいましょうかね?」
コイツの会話の切り返し方は天然なんかじゃなく本心でやってやがるな……。沸々と悪意の念が感じられる。
「といっても、サンプルが先輩の夢しかありませんし、とりあえず先輩には先ほどまで見ていた夢を、また体験してもらいましょうか」
雨沢はそう言うと、近くにあったパソコンから、一本のUSBメモリみたいなものを抜き取り、先ほどまで俺が寝かされていたカプセルの一箇所に差し込んだ。
「この『夢吸い取る君三号』はですね、なんと、『夢体験君三号』とも兼用されているのです! 凄いでしょう? この機械一つで夢を吸い取ることも出来れば、体験することも出来る。まさにファンタスティックです」
置いてきぼり感が物凄いので、ここでちょっと整理しておきたいと思う。
こいつは今日入学してきたばかりの美少女高校一年生、雨沢夢美。
気がついたら俺の部屋に色々な機械類が置かれ、夢がなんだとか喚いている。
で、俺はその最初の実験材料になろうとしている。
ここまでの情報をふまえ、コイツの今までの発言を考慮した上でどうすればいいかを判断したところ……。
「逃げる!」
「もう遅いですよ?」
しまったああああ!! 既に俺の体はほんの数十分前の状況と変わらぬ姿をしていた。手を挙げることも許されないこの緊縛の状況!
「安心して下さい。安全は第一に保障します。ところで最後の質問ですが、先輩は先ほど見た夢がどんなものだったか、記憶がありますか?」
「え、記憶? そんなのないけど……、っていうか待て、早まるな。さっさと俺をここから出すんだ」
「良かったー。『夢吸い取る君』で吸い取ることで、その本人には夢の記憶がなくなる仕様になってるんです。あ、でもまだ先輩が夢を見ていなかったという可能性も無きにしろ在らずですが……、まぁ先
輩なら大丈夫でしょう」
それでは! と雨沢は満面の笑みを顔に浮かべると、
「文字通りの意味で、先輩を夢の世界へとお連れします。楽しんできてくださいねー」
「ちょっ! ま、待――っ!!」
カプセル式の扉が閉まり、再び光一つない暗黙の世界へと戻ってきてしまった。
動けないことを確かめ、もう一度助けを求めようとした――、
その瞬間。
「ぐっ、お、おう――っ! あ、あああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
頭に感じたもの凄い激痛。今まで体験したことのない種類の、想像を絶する痛みが沸き起こった。例えるなら頭から四トントラックへ突っ込むような……、いや、そんな痛みじゃない。締め付けられるような、いや、これも違う……、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
数秒だったのか数分だったのか、よく分からない。もしかしたら何日も経ったのかもしれないが、気づけば俺はコンクリートの上に倒れこんでいた。
体に浸透する、コンクリートの無機質な冷たさ。周りは若干の日の光は感じるものの薄暗く、夕方だということが分かった。
「ここは……」
ここはもう……雨沢の言う通り、夢の世界なのだろうか……?