"生存契約"
「───それで」
「皮膚の大半を、陶器と交換したの?」
君は恥ずかしげに頷くと、僕から視線を逸らす
君の皮膚の陶製部分と、そうでない部分を視覚的に視比べる
僕は『実のところ君の皮膚組織は、陶器に劣るものでは全く無い』という事に気付き始めて居た
二人で向かい合って椅子に掛けて居るが、カーテンの隙間からの陽光が、さっきから君をきらきらと光らせ続けて居る
その煌めく反射もまた、肌と陶器の両方から遜色無く行われて居るように、僕には視えた
「貴方は」
「いいですよね」
「ボクと違って、綺麗な肌をして居ますから………」
絞り出すようにそう言うと、君は俯いて何も言わなくなる
僕は短く嘆息すると意を決して、まるで手袋を脱ぐように左手の皮膚を外して視せた
「僕の皮膚も、大半が造り物だよ」
君が、弾かれた様に顔を上げる
僕を視る瞳に、熱が籠ったような気さえした
「…………あまり視るな」
恥じらいながら、左手にまた皮膚を着せる
「綺麗なものじゃない」
君を視る
さっきまでの怯えたような少年は既にそこに居らず、君は僕と同じような───何かしらの技術的熱意、或いはフェティシズムを持った眼で僕を視るようになって居た
「───綺麗ですよ」
僕を視る君の、瞳が揺れて居る
「隠さないで下さい」
「先程の筋繊維、永遠にでも視て居たい程と感じました」
「───肌は綺麗になれなかったからな」
今度は、僕が伏し眼になる番のようだった
「躰のシルエットだけでも、綺麗にしたかったんだ」
君が傍らのテーブルに、バッグから出したクロッキーを拡げる
その上を優美なスケートの演技の様に、鉛筆が通り過ぎていく
一瞥しただけでも解った
君は何かしらの人躰に関わる設計を行い、それを僕に説明しようとして居た
「その筋繊維を使用した、『新しい人躰』の設計図です」
こんな物を読んで瞬時に内容が理解出来るのは、僕だけに違いない
躰の大部分は僕の筋繊維を切除、加工したものを使用し、皮膚は君の得意分野である陶器で制作、骨格は完全に一から制作───
彼の『設計』には、機能や倫理の一切を切り捨てた『美』が、造形というレンズを通して断固として顕現して居た
「この設計の場合」
「僕に言わせれば、『皮膚に拠る美』が不足するように視える」
君が、鉛筆を走らせる手を止める
そして次の言葉を促すように、こっちを視た
「僕ならば、この部分を陶器で無く皮膚にする」
指、
肩、
脇、
爪先……
『模造品ではなく、人間器官にしか美を表現出来ない部分』に、僕は順番に鉛筆で印を付けた
君は腕を組み顎に手を当て、視界を一歩引いたりなどして、真剣な面持ちで設計図を俯瞰し始める
………そして最終的に僕を視て、握手を差し出した
「自分では気付いてるか解らないが、君の皮膚は宝石のようだ」
部分麻酔を、自分の躰の数箇所に突き刺す
特有の酩酊が意識をとろけさせる
「接合を始めよう」
君の肩にも注射器を刺す
「僕たちは肉躰的に、今から『一つのもの』になるんだ」




