第62話 星の牙が卒業した日
月日は流れ、今日の天気は快晴。雲一つない青空の下。
校舎の前にルイ達冒険者パーティ「星の牙」は並んで立っていた。
全員が初めて会った時とは全く違う顔つきを見せていて、それに相応しいだけの実力を兼ね備えている。
「アンナ、ミルキー、ユウリィ……三人はよく頑張りました。今回はさまざまなことを教えましたが、これらはあくまでも第一歩。それを生かし、より高みへ登れるかは今後の貴方たち次第です。これから先の冒険者活動の中で、多くの魔物を倒し、多くの依頼をこなし、この教室にまで貴方たちの名声が届く日を、楽しみにしています」
最後ということもあってか、イヴはあえて敬語を使用してアンナ達に言葉を送っていた。
アンナ達はイヴの言葉に感動しているようで、特にミルキーは目が少し潤んでいるくらいだ。
「はいっ……頑張ります」
「頑張って、三人とも」
「はいっ! ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!」
最後の最後だけ普段の口調に戻しての激励。
イヴもなかなか粋なことをする、と小さく笑い、俺は残った最後の一人に向き合う。
「ルイ、ステータスプレートを見せろ」
「? はい、どうぞ」
俺の言葉にルイは一瞬きょとんとした表情を浮かべたものの、すぐに懐から半透明のプレートを取り出して差し出す。
それを受け取り、弓の熟練度、『E』の文字を見つめた。
「初めてお前のプレートを見たとき、剣のところのEの文字を見て、俺はどこか嫌な予感がしていた。その時には、お前が成長限界を迎えているんじゃないかとなんとなく気づいていたんだ。それが勘違いであればいいと思っていたんだがな……」
「そう……だったんですね……」
少しだけ寂しそうな目をするルイだが、そこに未練のようなものはほとんど感じられない。
だから、頷いて俺も最後の言葉をルイにかけた。
「だが、今のこの文字からは何も感じねえ。むしろこれから先、この文字がどんどん変わっていく気すらする。剣では限界だった今のEを越えて、さらにその先へ……まあ、イヴのように世界屈指のってのは難しいかもしれねえが、それでも続けていれば多少は名を馳せられるはずだ」
「先生……ありがとうございました。僕、先生に教えてもらって本当に良かった。先生が道の先を照らしてくれたこと、僕の人生の中で一番の幸運でした。……この校舎の名前も広めておきます。先生に、少しでも恩が返せるように」
「おう、頼むぜ。なぜかイヴは広めてくれなかったからなぁ……」
ちらりとイヴの方を見ると、彼女はどきりとした表情をして俺から顔をそむけた。
以前聞いたことがあったが、どうやらしばらくは俺の教え子が自分だけという状況を作りたかったらしい。
どういうことだよ、と思ったが、それはルイ達を教え子として連れてきてくれたことで帳消しにしてやった。
「……仕方ないわね、私も気が乗ったら宣伝するわよ」
「お? まさかお前が素直になるとはな」
そっぽを向きつつも、教室の宣伝を受け入れてくれたのはミルキーだった。
俺の言葉にミルキーは視線を意図的に外した。
「べ、別にあんたのためじゃなくて、イヴ様のためよ」
「結果は同じだろ」
「うるさいわね!」
声を荒げたミルキーが言葉を止めて数拍。
そして息を整えて、俺と再び向き直る。
「……その」
「あ?」
「……ごめんなさい。以前、『あんたはイヴ様が言うほどすごい教師だとは思えない』なんて言って」
「事実だろ。イヴが持ち上げすぎなだけだ」
実際、イヴは俺のことを持ち上げすぎである。
だがミルキーは首を横に振った。
「でも今は違うわ。私はあんたを、すごい先生だと思ってる」
「……そうか。まあそう言うなら教室に金を入れてくれや」
「あんたね……でもルイを教えてくれて、そしてルイを変えてくれたことは感謝してるわ」
「あらあら、ミルキーは天邪鬼ですね。本当はエンディさんに心から感謝している癖に」
「うるさい! ユウリィは黙ってて!」
急にパーティで漫才を始めるミルキーとユウリィ。
その二人を見ながら、こいつらはなんなんだと呆れた目で見ていた。
つーかイヴ、なんでお前後ろでうんうん、って頷いているんだよ。
呆れていると、アンナと目が合った。
彼女は俺の目をしっかりと見た後に、深くお辞儀をする。
「ありがとうございました、エンディさん」
「ああ、お前も負担が増えるとは思うが、頑張れよ」
言葉をかけると、アンナは首を横に振った。
「エンディさんのおかげでルイは前を向いて、晴れやかな顔で弓の道を進んでいます。だから、私の負担はきっと増えません。それに……例え増えても大丈夫です。私たちは私達四人で『星の牙』ですから。それが変わらない限り、大丈夫です」
「……そうか」
少しだけ羨ましいと感じた。
俺はパーティを組むこともあまりなかったし、組んだ奴らも多くがもうこの世にはいない。
けれど『星の牙』のように絆で繋がるパーティも、悪くないと思った。
アンナにも言葉をかけたところでルイが俺に近づいてきた。
「先生! もしある程度名を馳せて、この教室も宣伝できたら、ここに戻ってきて教師をやってもいいですか?」
「……はぁ? 何言ってやがる。冒険者として名を馳せたんなら、そのまま行けよ」
「いえ、先生と同じように苦難を経験した僕だからこそ、ここで教師ができると思うんです。もちろん、イヴ先生のように高い実力を持った教師も必要でしょう。ですが、先生と同じような経験をした教師がもう一人いても良いと思いませんか?」
「んー……まあ……そうか?」
確かにルイの言うことにも一理ある。
っていうかこいつ、さっきからやけに「先生と同じ」ってのを強調するが、どうやらかなり好かれたようだ。
まあ、教師の影響を受けて先生っていう職業を目指す生徒が多いってのはよくある話だし、結局は先生にならないっていうケースも同じくらい多い。
ルイもそんな感じだろうと考えて、軽く返事をした。
「分かった分かった。まあ、その時にやりたくなったらな」
「はいっ! ありがとうございます!」
元気な返事をしたルイはちらりとイヴの方を見て、少しだけ笑う。
同じ教師であるイヴの顔を見たかっただけだと、そう思ったが。
「……男だからと安心して先生に担当してもらいましたが……間違いだったようですね」
なぜかイヴはとても低い声でそう呟いていて、笑顔を浮かべつつも笑っていない目でじっとルイを見つめていた。
え、なに? お前ら実は不仲なの?
そう思ったものの、二人が会話しているところはそんなに見たことがないし、仲が悪くなる原因についても思い至るところは無かった。
星の牙、卒業




